オタ福の語り部屋

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動物の腸管腫瘍について②~病因と挙動~

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【はじめに】

今回は前回に引き続き、『動物の腸管腫瘍』病因と挙動についてお話していこうと思います。腸管腫瘍の正体、いったい何が増えているのかを明らかにし、どのような増殖方式や転移を示すのかを解説していこうと思います。

 

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【目次】

 

 

【病因と挙動について】

『腸管で発生する腫瘍の種類』

腸管で発生する腫瘍は
・上皮系→腺癌など
・間葉系→平滑筋肉腫など
・神経内分泌系→カルチノイドなど
・独立円形→リンパ腫など
のどのタイプも発生します。

腸管で発生しやすい腫瘍(図解)

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猫の腸管リンパ腫はさらに分類できる
腸管腫瘍で犬猫共に発生率が一番高い腫瘍(2番目は腺癌)として有名なリンパ腫。猫の腸管型リンパ腫はさらに分類できます。


猫の腸管型リンパ腫の分類
・リンパ球性リンパ腫
・リンパ芽球性リンパ腫
・上皮親和性リンパ腫
・LGLリンパ腫
などがあります。詳しい分類については猫のリンパ腫という記事で詳しくお話ししたいと思います。

 

GISTはc-kitで見分ける!
GIST(ジスト)とは日本語では消化管間質腫瘍と呼ばれる腫瘍です。病理学的には平滑筋肉腫のような束状配列と紡錘形細胞が特徴的です。そして題名の通り、GISTはc-kitという抗体を免疫染色して同定できます。

 

「そのほかにどんな腫瘍があるのか?」
腸管腫瘍で稀に発生が認められている腫瘍として、
・髄外形質細胞腫
・骨外性骨肉腫
・血管肉腫
・ポリープ(直腸で多い)
などがあります。

 

『この腫瘍はここでよく発生する(好発部位)』

腫瘍の種類と動物種によって若干、好発部位が異なります。

腫瘍の好発部位
・腺癌(猫):小腸
・腺癌(犬):結腸や直腸
・平滑筋肉腫・GIST:盲腸 
・腺腫性ポリープ(犬):直腸
・腫瘍性ポリープ(猫):十二指腸
・非浸潤性腺癌:結腸や直腸

腫瘍の好発部位(図解)

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『カルチノイドについて』

カルチノイドという腫瘍は内分泌系細胞から由来する腫瘍です。

どのような内分泌系細胞かというと、腸クロム親和性細胞と呼ばれる腸管粘液と分泌顆粒を分泌する細胞です。
この腸管粘液と分泌顆粒にはセロトニンやセレクチン、ガストリンなど様々な物質が含まれています。

また、診断方法についてはあとで詳しくお話しますが、
免疫染色
サイトケラチンやセロトニンの抗体で陽性を指名します。
血清学的検査
カルチノイドを持つ犬ではセロトニンの濃度が基準値の10倍以上になったという報告があります。

Immunohistochemically, tumor cells stained positive for cytokeratin 13, synaptophysin, protein gene product 9.5, neuron-specific enolase, chromogranin A, calcitonin gene-related peptide, serotonin (5-HT), and Leu-7. Serum 5-HT concentrations for this dog were increased 10-fold compared with those of normal dogs. 引用文献:Immunohistochemical evaluation of a malignant intestinal carcinoid in a dog.

好発転移部位
カルチノイドの好発転移部位は肝臓です。

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『GIST(ジスト)について』

GISTは人と同様犬でも発生が認められている腫瘍です。この腫瘍は昔は平滑筋肉腫として診断されていましたが、今は独立して考えられています。

病理組織学的には、間葉系腫瘍細胞で微細構造は何ら平滑筋と区別はできません。GISTの腫瘍細胞はカハール細胞に類似した多分化能をもつ幹細胞が由来と考えられています。Kitの変異が腫瘍化の発端とされています。

※カハール細胞とは
胃や腸などの消化管に存在し、主に消化管の運動やそのリズムを調整する働きをもつ細胞のことを言います。

 

GISTの診断方法
免疫染色を行います。
腫瘍細胞はvimentinに高反応、α-SMA,CD117(Kit)に低反応を示します。
診断の決め手はCD117に陽性反応を示したかどうかです。これにより、形態学的に類似している平滑筋肉腫と鑑別することができます。

In dogs, many previously diagnosed GILMSs should be reclassified as GISTs on the basis of results of immunohistochemical staining.  引用文献:Clinical and immunohistochemical differentiation of gastrointestinal stromal tumors from leiomyosarcomas in dogs: 42 cases (1990-2003).

 

GISTと平滑筋肉腫の発生部位
あと統計学的には発生部位でもある程度予想することができます。先ほども発生部位についてお話しましたが、ここでもおさらいです。

GISTは大腸、特に盲腸での発生が多いです。
一方では、
平滑筋肉腫は胃や小腸での発生が多いです。

In dogs, GISTs developed more frequently in the cecum and large intestine and GILMSs developed more frequently in the stomach and small intestine. 引用文献:Clinical and immunohistochemical differentiation of gastrointestinal stromal tumors from leiomyosarcomas in dogs: 42 cases (1990-2003).

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『腸管型リンパ腫について』

「犬のリンパ腫」

犬の腸管型リンパ腫は小腸や胃での発生が多く、大腸は稀です。腫瘍細胞は粘膜下や粘膜固有層にまで浸潤し、他の臓器や全身へ波及していきます。

犬のリンパ腫についてはこちらをご参考ください↓↓

www.otahuku8.jp

 

「猫のリンパ腫」

猫の腸管型リンパ腫について
猫の腸管型リンパ腫はパイエル板や胚中心から発生すると考えられていて、B細胞性リンパ腫が素因にあるとされています。

しかし、一部の論文ではT細胞性がB細胞性を超えるという報告もあるので、一概に言い切ることはできないようです。

こういったT細胞性やB細胞性を区別する方法としては免疫組織化学染色やPARRというクローナリティ検査があります。

 

ここ20年での傾向
ここ20年で猫の腸管型リンパ腫は増加傾向にあります。それは猫の高齢化に起因されていると考えられています。

In spite of this decrease in FeLV infection, the incidence of lymphoma in cats treated at the VMTH actually increased from 1982 to 2003. This increase was due largely to a rise in the incidence of intestinal lymphoma, and to a lesser degree, of atypical lymphoma.  引用文献:Feline lymphoma in the post-feline leukemia virus era.

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予後について
プレドニゾロンとクロラムブシルを用いた化学療法の結果、
リンパ球性/小球性リンパ腫は69%で完全寛解し、生存期間中央値は約2年でした。
一方で
リンパ芽球性リンパ腫は18%で完全寛解し、生存期間中央値は3ヶ月未満でした。

 

『髄外性形質細胞腫について』

ある報告では髄外性形質細胞腫の1/4は消化管で発生しており、その多くは口腔内に発生しているとされています。

犬の結腸や直腸に発生する髄外性形質細胞腫はモノクローナルガンモパシーに関連しています。

モノクローナルガンモパシーとは形質細胞が産生する抗体のうち1つだけ(この場合IgGが)が異常な高値を示すことを言い、形質細胞腫での診断に用いられています。

Three primary tumors were located in the colon and rectum, with metastasis to local lymph nodes and the spleen. The disease was associated with a monoclonal serum protein spike identified as IgG. 引用文献:Metastatic extramedullary plasmacytoma of the colon and rectum in a dog.

 

『骨外性骨肉腫』

これも形質細胞腫と同様、腸管では稀な腫瘍ですが、猫の十二指腸では発生の報告があります。

 

『猫で3番目に多い肥満細胞腫』

「猫の肥満細胞腫」

肥満細胞腫は猫の腸管腫瘍ではリンパ腫、腺癌に続いて3番目に多い腸管腫瘍です。

この腫瘍は何かと間違えられることが多く、
例えば、
カルチノイドや好酸球性腸炎などと間違えられやすいです。
逆に好酸球性腸炎は肥満細胞腫と間違えられることがあります。

主な診断方法
免疫組織学的検査でトリプターゼc-kitを染めたり、超音波検査によって腸管(主に小腸)の5層構造の喪失を認めたりして診断します。
間質に好酸球が中〜重度に浸潤してくる像も特徴の1つです。

 

「犬の肥満細胞腫」 

胃や小腸で発生し、細胞質に含まれる顆粒は少なめなのが特徴。

診断方法としてはトルイジンブルー染色やc-kitの免疫染色を行います。

ちなみに、腸管粘膜に原発で発生する肥満細胞腫と皮膚にできる肥満細胞腫からの転移では構造的に異なると言われています。

Gastrointestinal MCTs have histologic and immunohistochemical features completely different from those of other primary or metastatic gastrointestinal tumors.  引用文献:Mast cell tumors of the gastrointestinal tract in 39 dogs.

 

皮膚にできる肥満細胞腫についてはこちらへ↓↓

www.otahuku8.jp

 

【転移について】

腸管で発生した腫瘍は他の臓器への転移を示すことがしばしばあります。

好発転移部位
・リンパ節
・肝臓
・腸間膜
・大網
・脾臓
・腎臓
・骨
・腹膜
・肺

リンパ腫の場合
リンパ腫は全身性の病気であることが知られています。腸管型のリンパ腫を持つ犬の1/4、猫の4/5で他臓器への浸潤・転移が認められています。

 

【最後に】

今回は腸管腫瘍の正体を中心に解説してみました。動物の腸管腫瘍で多いのはリンパ腫、腺癌、GIST、肥満細胞腫です。腫瘍の種類によって各々挙動が異なります。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 412-423p

 

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