オタ福の語り部屋

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『ダリエ徴候とそのほかの症状』~腫瘍随伴症候群を考える~

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【はじめに】

今回は腫瘍随伴症候群を考えるシリーズとして『ダリエ徴候』についてご説明します。
ダリエ徴候が起こる腫瘍として『皮膚肥満細胞腫』が有名です。
肥満細胞腫の腫瘍細胞内には多くの炎症性物質が含有されています。皮膚にできた肥満細胞腫を「なんだこれ、ぶちゅ!」と潰してしまうと、細胞内の炎症物質が皮内に漏れ出し、ひどい皮膚炎が起きてしまう可能性があります。

【目次】

 

【ダリエ徴候】

『ダリエ徴候とは』

ダリエ徴候は人医療でも明確な定義はされていませんが、一応以下のように説明されているようです。

ダリエ徴候とは
患者の色素斑部を擦過すると、肥満細胞の脱顆粒を生じて、擦過部位に著しい膨疹を形成する現象

ん…??よくわかりません、笑

簡単に言っちゃえば、
肥満細胞を刺激すると、細胞内の炎症物質を含んだ顆粒がたくさん出て、その部分がめっちゃ腫れる現象です笑←うん、わかりやすい!

もう少し獣医学っぽく説明すると、
触診などで、肥満細胞腫を機械的に刺激することで、肥満細胞の脱顆粒が生じ、炎症(紅斑や膨疹)が起こる現象を言います。

肥満細胞腫を見つけたら触らないようにするというのはこのダリエ徴候を危険視してのお触書きなんです。
肥満細胞腫についてはこちら↓

www.otahuku8.jp

『なぜダリエ徴候が起こるのか』 

ではなぜ、ダリエ徴候と呼ばれるような現象が起こるのでしょうか?そこには肥満細胞腫から放出されるヒスタミンが大きく関わっています。
ヒスタミンの作用として大きく分けて2つの役割があります。

ヒスタミンがする2つの作用
・毛細血管の蛋白質透過性を上げる役割
・細動脈の平滑筋を弛緩させる役割
この2つの役割がダリエ徴候の根源となっています。

毛細血管の蛋白質透過性を上げる
毛細血管の蛋白質透過性を上昇させると、毛細血管内から蛋白質がたくさん流出してきます。すると、血管内の浸透圧が下がり、組織中に存在する間質液の浸透圧が上昇するので、水分が血液から間質液へと移行します。

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細動脈の平滑筋を弛緩させる
そして、細動脈の平滑筋が弛緩すると、毛細血管の動脈側は拡張します。すると、変化のない毛細血管の静脈側では圧力が上がり、間質液への水分の移動が始まります。

この2つの作用が浮腫を助長させ、ダリエ徴候が起こってしまうのです。 

【肥満細胞腫で見られる症状】

ダリエ徴候の他に肥満細胞腫が引き起こす腫瘍随伴症候群についてお話ししたいと思います。

肥満細胞腫による腫瘍随伴症候群は肥満細胞腫内に含まれる顆粒が原因で起こります。この顆粒の中には何が含まれているのでしょうか?
実は炎症を引き起こす危険な物質が多くあるのです。

顆粒に含まれる物質
・ヒスタミン
・ヘパリン
・血管作動性アミン
・プロスタグランジン
・タンパク分解酵素
これらの物質が触診などの刺激をきっかけに放出され、炎症が惹起されます。これらの炎症物質が体内に大量にばら撒かれることで、多様な場所で多様な症状を示します。

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『消化器症状』

ダリエ徴候における消化器症状はヒスタミンが悪さをします。
刺激により肥満細胞腫で脱顆粒が起こると、炎症物質が全身にばら撒かれます。ヒスタミンは胃に多く分布しているヒスタミン2受容体に結合し、胃酸の分泌を亢進します。
胃酸がたくさん出ると胃粘膜をはじめ消化管の粘膜は潰瘍ができたり、出血が続いたりします。

『低血圧』

これもヒスタミンが悪さをします。(←人ではプロスタグランジンDシリーズの関与が示唆されています。)
ヒスタミンは細動脈平滑筋に作動し、血管を弛緩させ拡張します。一般的に血管が拡張すると、血液量が変わらない限りは血圧は下がります。

低血圧が厄介な理由
血圧が下がるので何が一番厄介かというと、オペ中です。肥満細胞腫を切除しようと外科手術をしている時、全身麻酔がかかっています。基本的に麻酔をかけると血圧は覚醒時より低下しています。麻酔師は下がった血圧を維持できるように投薬しています。
術中にダリエ徴候による低血圧が起こってしまうと、非常に危険です。細心の注意を払いつつオペを進めていきます。

『止血異常』

これはヘパリンが悪さをします。
もともとヘパリンはアンチトロンビンと結合し、トロンビンの作用を阻害することで、抗凝固活性を示します。
ヘパリンが体内に漏れ出ることで、血が止まりにくくなります。

『癒合不全』

癒合不全とは手術後に皮膚と皮膚がくっつきにくくなることを言います。この癒合不全に関わっているのはヒスタミンタンパク分解酵素です。
これら2つは術後に傷を塞ぐのに必要な線維増生を邪魔します。そのため、癒合不全が見られます。
術後の癒合不全に陥る一番の要因は腫瘍細胞の取り残しです。腫瘍細胞が体に残っているとそこからヒスタミンやタンパク分解酵素が出てしまいます。

表にまとめてみた↓

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【ダリエ徴候を防ぐには】

何か肥満細胞腫に対して処置をしたり、外科手術を始める前に予防薬を投与しておく必要があります。
効果的な予防薬
・H1ブロッカー:ジフェンヒドラミン
・H2ブロッカー:ファモチジン
・プレドニゾロン

H1,H2ブロッカーはヒスタミンと拮抗する作用があります。プレドニゾロンは肥満細胞腫のアポトーシスを誘導したり、脱顆粒を減少させたりする作用があります。
これらの薬をうまく利用し、ダリエ徴候などが起きないように予防に努めます。

【最後に】

今回はダリエ徴候と肥満細胞腫による腫瘍随伴症候群について解説を進めてきました。肥満細胞には多くの炎症性物質が含まれており、機械的な刺激を受けると大量の放出されます。何かデキモノがあるからとむやみに触ることは避け、処置を行う前にはきちんと予防薬を投与しておくことが大切です。

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