オタ福の語り部屋

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動物の腸管腫瘍について①~発生とリスク~

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【はじめに】

今回は『動物の腸管腫瘍』発生とリスクとについてお話していきたいと思います。

どのような動物の腸で腫瘍は発生しやすいのかについて、腫瘍の種類、性別、品種別に展開していきます。

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【目次】

 

【発生とリスク因子】

『具体的な発生率』

犬猫における腸管腫瘍の発生率は論文によってバラバラですが、総じて言うと少ない方だとされています。

犬での発生率
イギリスのある研究機関で報告された犬10万匹を調べた結果、腸管腫瘍を示した犬は210匹でした。これは全腫瘍性疾患の8%に当たります。 

The skin and soft tissues were the most common sites for tumour development, with a standardised incidence rate of 1,437 per 100,000 dogs per year, followed by alimentary (210), mammary (205), urogenital (139), lymphoid (134), endocrine (113) and oropharyngeal (112). 引用文献:Canine neoplasia in the UK: estimates of incidence rates from a population of insured dogs.

猫での発生率
猫での消化管腫瘍の発生率は13.5%でした。ただこれは口腔内腫瘍も入っている可能性があるので、数字のまま発生率を見るのは愚直過ぎるかもしれません。

 

『腫瘍の種類別の発生頻度』

犬猫の腸管腫瘍で発生頻度別にランキングを作成しました。
犬の腸管腫瘍
1位:リンパ腫
2位:腺癌
3位:GISTか平滑筋肉腫

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猫の腸管腫瘍
1位:リンパ腫
2位:腺癌
3位:肥満細胞腫

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『好発年齢について』

犬の場合
犬の腸管腫瘍の好発年齢は6~9歳で、平滑筋肉腫は12歳以降で発生リスクが上昇します。

猫の場合
一般的には10~12歳で発生が認められますが、7歳以降からリスクは上がってきます。
また、FeLV陽性猫では若〜中年齢でも発生が認められるようになります。

 

『性別による発生率』

犬の場合
多くの論文では性差は無いとされていますが、オスの方が発生率が高いという報告もいくつかあります。
・腺癌の場合:76%がオス
・平滑筋肉腫の場合:78%がオス
・リンパ腫の場合:90%がオス
であるなど、オスの方が発生率が高いという報告があるのは事実です。

下記の引用文献では各腫瘍の発生率の裏付けとなる論文引用

The age of the 21 dogs ranged from 6 to 14 years with a median of 11 years (mean of 10 years). Sixteen dogs were male (9 of 16 neutered), and five were neutered females. 引用文献:Ultrasonographic and clinicopathologic findings in 21 dogs with intestinal adenocarcinoma.
The dogs included 6 neutered males, 5 intact males, and 3 spayed females. 引用文献:Gastrointestinal leiomyosarcoma in 14 dogs.
Eighteen dogs (90%) were males ( 13 intact, five castrated), and two (10%) were females (one intact, one spayed), compared with a hospital population from 1979 to 1984 of 48.8% males and 51.2% females. 引用文献:Gastrointestinal lymphoma in 20 dogs. A retrospective study.

 

猫の場合
猫の場合も犬同様、発生率はわずかながらオスの方が高いという報告が何個かあります。

Cats of Asian ancestry were over represented (8/18), and male castrated cats were common (15/18). 引用文献:Adenomatous polyps of the duodenum in cats: 18 cases (1985-1990).
Three were spayed females, and 7 were castrated males. 引用文献:Feline epitheliotropic intestinal malignant lymphoma: 10 cases (1997-2000).

 

『品種による発生率』

猫の場合
猫で腸管腫瘍が多いとされているのはシャム猫です。シャム猫は他の品種に比べて1.8倍発生率が高く、腺癌に関してはなんと8倍という報告があります。

犬の場合
・腺癌:コリーやジャーマン・シェパード
・平滑筋腫:大型犬で多い
・平滑筋肉腫:シェパード(軍用犬)
・肥満細胞腫:マルチーズ 

Mast cell tumors (MCTs) of gastrointestinal origin that had been surgically removed from 39 dogs were examined to evaluate their pathologic features. Miniature breeds, especially Maltese, were most frequently affected.  引用文献:Mast cell tumors of the gastrointestinal tract in 39 dogs.

腸管腫瘍の好発品種

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『FIVやFeLVによるリンパ腫の発生率』

猫ではFeLVやFIVの感染によってリンパ腫の発生率が有意に上昇することがわかっています。←最近は感染率自体下がってきているんですけどね。

これらの感染を疑う場合はPCRや免疫組織化学染色を行うことで同定していきます。

 

『ピロリ菌感染による発生率』

人間では胃癌のリスクをあげるということで有名なヘリコバクターピロリですが、どうやら動物特に犬猫ではそこまで関連性は無いようです。

猫ではリンパ腫とピロリ菌感染の同時発生が報告されていますが、これ自身がピロリ菌感染によってリンパ腫のリスクが上がったと証明するものではありません。

 

『シクロスポリンの使用とリンパ腫の発生率』

犬ではシクロスポリン(免疫抑制剤)とケトコナゾールの併用療法によって多中心型リンパ腫の発生率が上昇することが示唆されています。

シクロスポリンとは商品名で言うところのシクロキャップ®️やアトピカ®️などです。アトピーなどの自己免疫疾患を抑える時によく使用されるお薬です。

ケトコナゾールは抗真菌薬(カビを抑える薬)です。有名どころで言うとマラセチア感染症などの皮膚炎で使用されていますね。

人では移植後のシクロスポリンの使用がリンパ腫と関連性があるとされています。 

Cyclosporine administration is associated with an increased risk of development of lymphoma in humans and a similar increased risk might be expected in dogs. 引用文献:Multicentric lymphoma in a dog after cyclosporine therapy.

このことを報告している論文を読んでみた感じでは、シクロスポリンがリンパ腫のリスクをあげる原因として主に2つ挙げています。

リンパ腫の発生率を上げる主な原因①
シクロスポリンによる過度な免疫抑制によって、がん原遺伝子の排除を見逃してしまうから。

Immunodeficiency may lead to suboptimal oncogenic surveillance and increased likelihood of survival of a malignant clone. 引用文献:Multicentric lymphoma in a dog after cyclosporine therapy.

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リンパ腫の発生率を上げる主な原因②
シクロスポリンはT細胞性リンパ球の抑制を行うため、B細胞性リンパ球とのバランスが崩れてしまいます。バランスを補正しようと急速にリンパ球が増殖しますが、その急速な増殖によって、複製のエラーが生じるリスクが上がるから。

Rapid lymphocyte proliferation may also result in a higher frequency of the chance of mutational eventsleading to malignancy. 引用文献:Multicentric lymphoma in a dog after cyclosporine therapy. 

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【最後に】

今回は腸管腫瘍の発生率を中心にお話をしました。どういった犬や猫で腸管腫瘍が発生しやすいのかを知っておくことで、注意深く観察することができます。

犬では6~9歳、猫では10~12歳を過ぎたあたりから、腫瘍の発生は顕著になってくるのでちょっと気にかけるだけで早期発見につながります。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 412-423p

 

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