オタ福の語り部屋

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犬猫の脾臓全摘出手術とは?注意すべきこととは?

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【はじめに】

今回は『脾臓全摘出手術とその注意点』について説明します。

脾臓の全摘出が行われるのは血管肉腫などの『脾臓の腫瘍』がほとんどです。
脾臓の腫瘍に関して詳しくは『オタ福の語り部屋』を参考にしてください。今回は脾臓の腫瘍で一般的に行われる脾臓全摘出が一体どのようなものなのか、簡単にお話しできたらと思います。

 

【関連記事はこちら】

発見時には一大事⁈『血管肉腫』って何?① ~概要・統計~

発見時には一大事⁈『血管肉腫』って何?② ~症状・検査法~

発見時には一大事⁈ 『血管肉腫』って何?③ ~治療法・予後~

 

【目次】

 

【脾臓全摘出手術について】

『手術の適応となる疾患は?』

脾臓の全摘出手術、すなわち脾臓を全て取ってしまう手術が必要な病気とはどのような病気なのでしょうか?具体的な病気を挙げたいと思います。

全摘出が必要な疾患
・脾臓の腫瘍
・脾捻転:脾臓がお腹の中で捻れてる
・重度の脾障害
・浸潤性の脾疾患:全体的に脾臓を蝕んでいくような病気
・免疫介在性疾患

 

『手術の大まかな流れと注意点』

腫瘍などで肥大した脾臓を取り出す必要があるので、十分な切開創が必要になります。そのため、剣状軟骨から恥骨あたりの正中線を切開します。

脾臓を取り出すときに注意しなければならないのは脾臓が脆くなっているということです。脆くなっている脾臓を破裂させないように慎重に取り出す必要があります。

とはいえ脾臓の腫瘍の場合、破裂してから症状が悪化し、病気が発覚することが多いので、すでに脾破裂は起きていることが多々あります。その場合、腹腔内に腫瘍細胞が散りばめられている可能性があるので、脾臓の摘出後はよく腹腔内を洗浄しなければなりません。

 

『画期的なシーリング技術を使う』

「シーリング技術がない場合」

昔から、脾臓の摘出手術を行うときは胃底部の虚血性壊死を避けるために左脾大網動脈と短胃動脈を温存しながら切除を行ってきました。温存というと分かり難かもしれませんが、つまり脾門に繋がる全ての血管を結紮して取り出していました。特に術後の出血のリスクを下げるために二重結紮を行っていました。
まぁこれがめんどくさいの、時間かかるので大変だというわけです(笑)

 

「シーリング技術が使用できる」

そこで開発されたのがバイポーラなどの血管を電気で止血しながら焼き切る器具です。これが使用できるようになってから、用手結びが要らなくなり、手術時間や麻酔時間の大幅な短縮が可能になりました。
これには教授が嬉しそうに話していたので、僕も印象に残っています。(笑)

 

「血管の太さで器具を使い分ける」

先ほど話したバイポーラは径7mm未満の血管で使用されます。
その他、止血クリップなどは径3mm未満の小さな血管で使用できます。

そして、脾臓に血液を送る大きな血管ではこれらのシーリング技術は適応されません。しっかりと注意深く、慎重に用手結びを行いながら血管を切除していきます。

 

「血管を切るときの注意点」

当たり前のことですが、全てちゃんと止血が完了しているか点検を行ってから切除していきます。術中の出血は命取りになり得ます。

 

 

『脾摘後にリスクが上がる⁈GDVとは』

大型犬では特に注意が必要とされている脾摘の続発性疾患にGDV(胃拡張・胃捻転症候群)というものがあります。

「GDVをざっと説明」

GDVとは胃が捻れ、拡張し、腹腔内臓器や後大静脈、門脈、横隔膜を圧迫します。そうすると心臓への血流還流が阻害され、閉塞性ショックを引き起こします。それと同時に胃の過伸展により、胃へ供給する血液もなくなり、胃が壊死します。胃が破裂してしまうと胃内にいる細菌が腹腔内にばら撒かれてしまうので、腹膜炎敗血症性ショックを引き起こします。
GDVは大型犬に多く、致死性・緊急性が高い疾患なのです。

 

「脾摘とGDVの関係性」

ある研究では脾摘がGDVのリスクをあげるという報告がある一方で、脾摘とGDVに関係はないとする報告もあります。

ただ、大型小型犬関係無しに脾臓摘出手術を行った患者には胃腹壁固定術を行うことが推奨されています。

6 (4%) dogs in the GDV group and 3 (1%) dogs in the control group had a history of previous splenectomy. The odds of GDV in dogs with a history of previous splenectomy in this population of dogs were 5.3 times those of dogs without a history of previous splenectomy (95% confidence interval, 1.1 to 26.8). 引用文献:Association between previous splenectomy and gastric dilatation-volvulus in dogs: 453 cases (2004–2009)
Reasons for splenectomy included splenic neoplasia, nonneoplastic masses, infarction, traumatic injury, and adhesions to a gossypiboma. Incidence of GDV following surgery was not significantly different between dogs of the splenectomy (14/172 [8.1 %]) and control (3/47 [6.4%]) groups. 引用文献:Evaluation of splenectomy as a risk factor for gastric dilatation-volvulus

 

『腹腔鏡を用いた脾臓摘出』

人医療で脾臓摘出を行うとなると緊急性を要する患者ではない限り腹腔鏡が適応されます。

ただし、腹腔鏡が使えない場合もあります。
非適応症例
・脾臓が脆くなっている
・脾臓が破裂している
・腹腔内出血が認められる
などの場合は開腹手術が適応されます。

さて、獣医療ではどうでしょうか?

動物で脾臓を摘出するとなると開腹手術がほとんどのような気がします。
一方で、腹腔鏡(MLS)を用いた脾臓摘出を行った10匹の犬についての報告があります。

その報告によると、腹腔鏡手術を行った犬の術後の負担は軽度であったと書かれています。そして、径2~6cmの脾臓の腫瘤が取れたそうです。そんなに大きい腫瘤も腹腔鏡で取れるんですね、驚きです。

Experimentally, MLS resulted in fewer wound‐related complications and lower pain scores compared with open splenectomy in dogs and similar observations have been made in people. 引用文献:Short‐Term Outcome of Multiple Port Laparoscopic Splenectomy in 10 Dogs

 

『脾臓の自家移植と脾症について』

「脾臓の自家移植」

脾臓の自家移植は人医療でしばしば行われる施術です。外傷性の脾損傷により、脾臓を摘出する際、正常脾臓の一部(< 3mm)を大網に巻きつけて設置することで、脾臓実質が徐々に大きくなってくるというものです。

しかし、獣医療ではほぼ行われません。その理由として脾臓の自家移植で得られる価値がないからです。

 

「脾症」

脾症とは原理自体は自家移植と同じなのですが、自家移植が『意図的に行ったもの』に対し、脾症は『偶発的に起きたもの』です。
脾臓が何らかの事故で破裂した際、腹腔内や大網、肝臓、胸腔内へと散りばめられます。それを十分除去できなかった場合に、徐々に大きくなって脾臓が異所性に出来上がってしまうのです。

この脾症は腫瘍の転移や播種とは区別されて考えられています。その理由としては脾症で見られた異所性の脾臓は組織学的には正常な脾臓と同じ構造をしており、腫瘍性疾患ではないからです。

【手術をする上でのリスクを知る】

『術前から注意が必要』

手術中、手術前後で急に状態が悪化し、亡くなってしまう可能性があることは常に頭に入れておかなければなりません。脾臓の腫瘍の場合、いつ破裂するか分からない状況で爆弾を抱えているようなものなので、早急に手術が行われるべきです。

引用文献の報告では脾臓腫瘍患者の7.6%が周術期(手術中とその前後のこと)で命を落としていると書かれています。

41 of 539 (7.6%) dogs died during the perioperative period. 引用文献:Risk factors for perioperative death in dogs undergoing splenectomy for splenic masses: 539 cases (2001–2012)

『脾臓摘出に伴う副作用』

まず、脾臓を摘出する手術中に見られるのが心室性不整脈です。これは術中に心電図をモニタリングしておくことで、早期発見ができます。

手術後に見られる副作用としては、血小板減少症貧血です。これらも術後に徹底したモニタリングが必要になります。

こういった副作用が周術期で亡くなるリスクをあげています。

周術期に亡くなる主な原因
・転移巣からの出血
・凝固不全によるコントロール不能な出血
です。

Marked preoperative thrombocytopenia or anemia and development of intraoperative ventricular arrhythmias were identified as risk factors for perioperative death in dogs with splenic masses.引用文献:Risk factors for perioperative death in dogs undergoing splenectomy for splenic masses: 539 cases (2001–2012)

 

【最後に】

今回は『脾臓全摘出手術』について解説しました。繰り返しになりますが、全摘出が適応されるのは腫瘍性疾患が多いです。特に血管肉腫では脾臓が脆くなっており、いつ破裂するか分からない状況です。手技的には比較的容易ですが、播種や破裂、腹腔内出血、転移の確認など、注意するべき点が多くあるため、術後の管理をしっかりと行うようにしていきましょう。

 

【本記事の参考書籍】

Spencer A. Johnston ; Karen M. Tobias : veterinary surgery small animal. 2nd ed., ELSEVIER, 2017, 1557-1561p

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 2091-2100p

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 679-684p

 

【血管肉腫についてはこちら】

徹底解説編はこちら↓

www.otahuku8.jp

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www.otahuku8.jp

簡単解説編はこちら↓

www.otahuku8.jp