オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

『高脂血症:CholとTG』~血液検査を考える~

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【はじめに】

今回は『コレステロール値とトリグリセリド値』についてです。
高脂血症は人でも問題になっている病気です。
高脂血症はそれ自体が問題となることは少なく、高脂血症を引き起こしている原疾患を正しく見極め、治療することが大切になってきます。
高脂血症が見られる犬や猫ではどのような病気が隠れているのか、そしてそもそも高脂血症とは何なのか、その辺についてお話を広げていければと思います。
 

【目次】

 

 

【用語の定義】

血液検査の詳細を話す前に出てくる用語の説明をしておこうと思います。

高脂血症
高脂血症とはトリグリセリドやコレステロールの血中濃度が上昇している状態を指しています。
高脂血症の中でもコレステロールの値が高い場合は高コレステロール血症と呼び、トリグリセリドが高い場合を高トリグリセリド血症と呼びます。

ちなみに、コレステロールやトリグリセリドは血中ではアポプロテインやアポリポプロテインと呼ばれているリポタンパクの1つと合体して血液中を流れています。それ故に高脂血症のことを高リポプロテイン血症なんて呼ぶ場合もあります。
高脂血症とは(図解)

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脂肪血症
脂肪血症とは肉眼的にみて血清や血漿が乳白色に濁って見える状態を言います。
脂肪血症が見られるのは中〜重度の高トリグリセリド血症(>200-300mg/dL)であり、高コレステロール血症や軽度の高トリグリセリド血症では見られません。

低値を示す場合
血液中のコレステロール値が低いと低コレステロール血症と呼び、トリグリセリドが引く場合を低トリグリセリド血症と呼びます。

脂質異常
脂質異常とは血液中の脂肪やリポプロテインの質と量のバランスが崩れた場合を言います

リポプロテイン、5つの分類
犬猫のリポプロテインは遠心分離機にかけた後の水和物の密度(比重の違い)によって5つに分類されます。
①カイロミクロン
②VLDL(very low-density lipoproteins):超低密度リポタンパク質
③LDL(low-density lipoproteins):低密度リポタンパク質
④IDL(intermediate-density lipoproteins):中間密度リポタンパク質
⑤HDL(high-density lipoproteins):高密度リポタンパク質

リポタンパク、比重による違い(図解)

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【犬の高脂血症の主な原因ついて】

『食事後に測定した時』

高脂血症が認められる場合で多いのは食後に血液検査をした場合です。食後に血液検査をすると血液中のTGが上昇し、一時的な高脂血症を示します。これは健康的な犬であってもみられる生理現象です。
血液検査を行う予定がある場合は最後の食事から7~12時間はあけてから測定するようにしましょう。
特に血清トリグリセリドの測定を目的とする血液検査では12時間以上あけるべきだと言われています。

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『続発性高脂血症では』

ご飯を食べてから数時間も経っているにも関わらず、高脂血症が改善されない場合は原疾患や薬の影響などによる続発性高脂血症の可能性を考える必要があります。
実はこの続発性高脂血症っていうのが高脂血症の原因で最も多いとされています。

続発性高脂血症の原因として最も多いのは『内分泌疾患』です。
高脂血症を引き起こす内分泌疾患
・甲状腺機能低下症
・糖尿病
・副腎皮質機能亢進症
などです。

薬の服用による高脂血症
・グルココルチコイド (ステロイド)
・フェノバルビタール:てんかんの薬
・酢酸メゲストロール
などの薬を服用していると高脂血症になることがあります。

膵炎でも起こることがある
厳密にいうと、上述した内分泌疾患と薬物の服用の可能性を除外した膵炎のことを言います。この膵炎による高脂血症は軽度と言われています。
逆に膵炎の子で重度の高脂血症を示している場合は、内分泌疾患などの他の病気が隠れている可能性があります。十分に検査を行う必要があります。

その他の高脂血症になりうる疾患
・肥満
・蛋白漏出性腎症
・胆汁うっ滞
・肝機能障害
・リンパ腫
・小児リーシュマニア感染症(Leishmania infantum
・パルボウイルス性腸炎

続発性高脂血症を引き起こす主な原因(図解)

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『原発性高脂血症では』

原発性高脂血症は品種による影響が多いと言われています。ただ、犬種というのは国ごとによって、同じ犬種であっても違う病気になりやすいかったりします。
注意する犬種
・ミニチュア・シュナウザー
・シェットランド・シープドッグ
・ビーグル←イギリスの話
・ブリアード←イギリスの話
・ロットワイラー←イギリスの話
などなど。

特にミニチュア・シュナウザーとシェルティは日本でも高脂血症になりやすい犬種だという報告があります。
しかも、その報告によると
・ミニチュア・シュナウザー:高トリグリセリド血症
・シェットランド・シープドッグ:高コレステロール血症
になりやすいとのことです。

Our results indicated that both Miniature Schnauzers and Shetland sheepdogs in Japan exhibited remarkably high concentrations of plasma TG and total cholesterol, which are considered to be signs of hyperlipidemia, as compared to other purebred and mixed (Mongrel) canine breeds. Interestingly, the cause and conditions of primary hyperlipidemia in Miniature Schnauzers and Shetland sheepdogs might be different, with hypertriglyceridemia predominantly occurring with Miniature Schnauzers and hypercholesterolemia occurring in Shetland sheepdogs.  引用文献:Predisposition for primary hyperlipidemia in Miniature Schnauzers and Shetland sheepdogs as compared to other canine breeds.

 

【高脂血症と関連する病気】

『高TG血症は膵炎の予測になるかも』

犬の高脂血症では高脂血症そのものが臨床症状を引き起こすようなことは珍しいです。臨床症状がみられる場合は高脂血症の他に膵炎などの重篤な疾患が隠れている可能性があります。
とはいえ、膵炎が高脂血症(特に高トリグリセリド血症)を引き起こすかは証明されていないのですが…。

最近、パブリッシュされた論文にM・シュナウザーの高トリグリセリド症と膵炎の相関関係を示唆する文献があります。
その文献では膵炎を発症したM・シュナウザーと発症していないM・シュナウザーの膵炎発症前の血清トリグリセリド濃度を測定したところ、膵炎を発症した群の方が高かったと報告されています。

この結果は高TG血症がみられた場合に、膵炎が起こる可能性があること意味しており、より早期に膵炎の予防を可能性を示しています。

Miniature Schnauzers in group 1 were significantly more likely to have hypertriglyceridemia (>108 mg/dL) (71%) after resolution of pancreatitis than Miniature Schnauzers in group 2 (33%; odds ratio = 5.02; 95% confidence interval = 1.4-17.8; P = .0163). Serum triglyceride concentrations were significantly higher in dogs of group 1 (median: 605.0 mg/dL) after resolution of pancreatitis than in dogs of group 2 (median: 73.5 mg/dL; P = .002). 引用文献:Serum triglyceride concentrations in Miniature Schnauzers with and without a history of probable pancreatitis.

 高脂血症の好発犬種(図解)

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『肝疾患』

肝疾患を持っている動物では高トリグリセリド血症が起こりやすいとされています。その主な原因として肝機能低下によるトリグリセリドやグリコーゲンの蓄積が挙げられます。これらの肝臓での蓄積は肝リピドーシス脂肪肝などと呼ばれています。

『胆嚢粘液嚢腫』

M・シュナウザーやシェルティーなどの高脂血症の好発犬種では胆嚢粘液嚢腫になりやすいことがわかっています。

『その他で高TG血症の原疾患となるもの』

膵炎や肝疾患、胆嚢粘液嚢腫以外で、高TG血症を示した場合に考えておくべき疾患として、
・インスリン抵抗性の疾患:クッシング症候群など
・アテローム性動脈硬化症
・眼の病気:網膜脂血症、脂肪性角膜症、眼内黄色肉芽腫
など

【診断方法】

検査する意義
高脂血症の診断方法自体は単純に、血清トリグリセリド値やコレステロール値が上がっているかで行われるのですが、高脂血症はそれ自体が問題というよりも原疾患を見つけるヒントとしての役割の方が大きいです。

検査するタイミング
血液検査でトリグリセリドやコレステロールをルーチン検査として入れる獣医はあまりいません。
しかし、採取した血液の血清が乳白色に濁っていることが確認できた場合、高脂血症の可能性が高いので、コレステロールやトリグリセリドの値も測定しておくべきでしょう。

『検査の流れ』

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「流れ①:まずは血液検査」

血液検査を行いその結果を元に高脂血症かどうかを診断します。その時一番大切なのが、最後の食事から十分時間が空いているかということ。
食後の採血では生理的な高脂血症が見られるので注意しましょう。

「流れ②:原発性か続発性かを考える」

高脂血症が見られたら、その高脂血症が原発性(M・シュナウザーやシェルティ)なのか続発性なのかを考えます。そして、続発性だと分かったら、高脂血症を引き起こす原因となる疾患の調査を始めます。

原発性か続発性かは身体検査や症状、その他の血液検査結果からあらかた区分していきます。
原発性なら
・好発犬種
・検査で異常が見られない

続発性なら
・肥満
・多飲多尿→副腎皮質機能亢進症、糖尿病を疑う
・活動性の低下→甲状腺機能低下症を疑う 
・対称性の脱毛→副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症を疑う
・嘔吐と腹痛→膵炎を疑う
がある場合
続発性の高脂血症を疑う場合、疑わしい原因疾患の病変を探すべきです。

「流れ③:原因の精査を行う」

血液検査を行い、高脂血症が発見され、それが原発性なのか続発性なのかを鑑別する段階まできました。
次は原因を調べることです。

続発性高脂血症の場合
・内分泌疾患はないのか?
・膵炎は起こっていないか?
・糖尿病ではないか?
など、高脂血症以外に現れている症状と一致するような病気を探していくことで、治療ができます。

次に、
原発性高脂血症の場合
ここまでやる必要があるのかといえば、頭に?マークが浮かびますが、原発性疾患だと確認する方法はあります。
・カイロミクロンテスト
・リポタンパクの電気泳動
・特異的アポプロテインの測定
・遺伝子検査
などです。正直あんまり聞いたことないので使わないと思います笑

【猫の高脂血症について】

猫の高脂血症は犬のそれよりも発生率が低いです。一番多い原因としては続発性疾患であり、具体的には以下のような疾患が挙げられます。

高脂血症を引き起こす疾患
・糖尿病
・肥満
・ネフローゼ症候群
・重度の脂肪肝
など

そのほかの原因として薬物誘導性の高脂血症というのもあります。
高脂血症を引き起こす薬物
・コルチコステロイド←ステロイド剤
・酢酸メゲストロール←発情を抑制する薬。プロラクチンの一種
これらの薬物を使用している場合は高脂血症になるリスクが高いとされています。

診断方法
高脂血症の診断方法は犬のそれに準じて行います。

 

【最後に】

今回は血液検査を考えるということで、Chol(コレステロール)とTG(トリグリセリド)について解説しました。高脂血症はミニチュア・シュナウザーやシェットランド・シープドッグなどでよく見られる疾患で、主な原因は食後の測定と原発性、続発性の3つに分かれます。高脂血症が見られた際、その原因に何があるのかを正しく見極めていくことが大切です。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 252-256p

 

【他の血液検査項目の解説はこちら】

www.otahuku8.jp