オタ福の語り部屋

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『肛門周囲腫瘍』3つの腫瘍を簡単にご紹介!!

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【はじめに】

今回は『肛門周囲腫瘍』の簡単解説編です。
肛門周囲に発生する腫瘍で多いのは3つ!
・肛門周囲腺腫
・肛門周囲腺癌
・肛門嚢アポクリン腺癌

これら3つの腫瘍について簡単に解説していきます。

 

【目次】

 

【肛門周囲腫瘍、3つの違い】

『由来細胞による違い』

冒頭にもお話しした肛門周囲に発生しやすい3つの腫瘍ですが、仲間外れが1つあります。それは肛門嚢アポクリン腺癌です。
肛門周囲腺腫、腺癌とどういった違いがあるかというと、由来する細胞が異なるのです。

肛門周囲腺腫と肛門周囲腺癌の由来細胞は皮脂腺細胞であるのに対し、肛門嚢アポクリン腺癌の由来細胞は名前のごとくアポクリン腺細胞です。

由来細胞の違い(図解)

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『肛門周囲腺腫、肛門周囲腺癌の違いは?』

病理組織学的な違い
これら2つの違いは複数あります。1つに病理組織学的な悪性度による違いです。
肛門周囲腺腫は比較的高分化な腫瘍細胞が増殖していて異型度は低いのに対し、肛門周囲腺癌は低分化な腫瘍細胞、特に未熟な腺細胞である補助細胞が多くみられる場合は分化度が低く、異型度が高いです。腺癌の方では分裂像なども盛んにみられる傾向があります。
こういった病理組織学的な悪性度の違いによって分類されます。

ホルモン依存性による違い
完璧な区分とは行きませんが、一般的に肛門周囲腺腫はアンドロジェン受容体依存性と言われています。したがって、未去勢雄での発生が多いのです。また、未去勢雄で肛門周囲腺腫が発見された場合、去勢手術を行うと縮小する症例があることも分かっています。
一方で
肛門周囲腺癌はホルモン非依存性であり、去勢雄や雌でも発生が認められる腫瘍となっています。とはいえ、ある論文では腺腫と同等程度のアンドロゲン受容体が発現していたという報告もあり、こちらも去勢による影響があることは否定できません。

In hepatoid carcinomas the percent of AR-positive cells was similar to that observed in benign tumours.  引用文献:Androgen receptor expression in normal, hyperplastic and neoplastic hepatoid glands in the dog.

 

【肛門周囲腺腫について】

肛門周囲腺腫は皮脂腺由来の腫瘍細胞で、肛門周囲の腫瘍の中で最も発生率が高い(約58~96%)です。

腫瘍細胞にてアンドロジェン受容体の発現が認められていることから、アンドロジェンの関与が示唆されています。
実際に発生率が高いの高齢の未去勢雄です。

そのほかのリスク因子としては
・避妊手術によるエンドロジェンレベルの低下
・クッシング症候群によるアンドロジェンの増加
・ライディッヒ細胞腫(精巣腫瘍の1つ)によるアンドロジェンレベルの増加
など、ホルモンによる影響でリスクが上がると言われています。

『肛門周囲腺腫の治療法は?』

肛門周囲腺腫は雄性ホルモン依存性であることが多いため、去勢を行うとある程度縮小していくことが多い(80~92%)という研究データがあります。
さらには、去勢を行っただけで、腺腫が縮小し切除手術が必要なくなったという例もいくつかあります。

The adenoma is hormone dependent; thus, castration without excision of the tumor has been successful in promoting regression without recurrence. 引用文献:Castration for treatment of perianal gland neoplasms in the dog.

手術が必要にならないこともありますが、去勢後退縮が認められない場合は外科的な切除を行います。
そのため、肛門周囲腺腫の主な治療法は『去勢+手術』となります。

【肛門周囲腺癌について】

肛門周囲腺癌の発生は非常に稀で、肛門周囲腫瘍の3~21%程度しかありません。
好発年齢は11歳でホルモン非依存性と言われています。
この腫瘍は発生が稀ですが、非常に悪性度が高く、急速に大きくなります。
大きくなると、排便困難や排便時に痛みを伴うなどQOLを著しく低下させます。
最終的にはリンパ節転移や遠隔転移なども見られる怖い病気です。

『肛門周囲腺癌の治療』

肛門周囲腺癌の治療法は去勢と切除手術です。

去勢について
腺癌の場合、ホルモン非依存性であり去勢が有効でないことが多いですが、アンドロジェン受容体の発現を認めたものもあったので、全身麻酔がかけられる状態であるならやっておくべきでしょう。

手術について
肛門周囲腺癌の切除を行います。切除はマージンをしっかりと確保して行う必要があるので、切除範囲が大きくなってしまいます。
切除が難しい場合、放射線治療によってある程度小さくしてから手術を行うことが推奨されています。
抗がん剤は効きが悪いことがわかっています。

肛門周囲腺癌の治療法(図解)

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【肛門嚢アポクリン腺癌について】

肛門嚢アポクリン腺癌はいわゆる"匂い袋"と呼ばれる肛門嚢の腫瘍です。4時と8時の方向にあるため、その辺りが腫れてきます。
肛門嚢アポクリン腺癌で最も特徴的なのは腫瘍随伴症候群の高カルシウム血症です。
腫瘍随伴症候群とは読んで字のごとく、腫瘍が出す物質によって起こる様々な症状の総称です。

高カルシウム血症による症状
・多飲多尿
・食欲不振
・沈うつ 
です。
お尻にデキモノを確認して、尿量や飲水量が増加している場合は肛門嚢アポクリン腺癌の可能性があります。

肛門嚢アポクリン腺癌の特徴(図解)

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『肛門嚢アポクリン腺癌の治療』

腫瘍へのアプローチ
転移がなければ、そのまま切除します。
しかし、転移が見られる場合は全身療法である抗がん剤治療になります。

高カルシウム血症へのアプローチ
肛門嚢アポクリン腺癌で大事なのは高カルシウム血症の治療です。
治療法としては生理食塩水で全身血液量を保ちつつ、利尿剤などでカルシウムの排出を促します。

肛門嚢アポクリン腺癌の治療法(図解)

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【最後に】

今回は肛門周囲に発生する腫瘍を簡単にご紹介しました。
一番発生が多いのは肛門周囲腺腫で去勢により場合によっては治療がうまくいくことがあります。
肛門周囲腺癌や肛門嚢アポクリン腺癌は悪性度が高く、浸潤性があり、転移も盛んです。

以下の表にまとめてみました。

肛門周囲腫瘍3つの違い(図解)

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【さらにもっと知りたい方】

肛門周囲腫瘍についてさらに知りたい方はこちらをご参考ください。

www.otahuku8.jp

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 561-566p, 423-431p