【はじめに】
今回は『食物有害反応(AFR)』についてお話しします。食物有害反応とは食物アレルギーや食物不耐症をひっくるめて読んでいます。今回は主に食物アレルギーと食物不耐症のお話しが中心になります。
ある食べ物を食べた時、調子を崩すようでしたらそれは食物有害反応によるものなのかもしれません。
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【目次】
【食物有害反応とは?】
冒頭でもちょこっとだけお話ししましたが、食物有害反応とは食物アレルギーと食物不耐症をまとめて言う呼び名です。
特に食物アレルギーと食物不耐症はある特定の食べ物を摂食すると皮膚や消化管で炎症反応を示します。
食物不耐症
食物不耐症は薬理学的/代謝反応によるもの、食べ物の毒素/中毒によるもの、特異体質反応によるものの3つに分けられます。
食物不耐症は免疫反応が関与していないのが、食物アレルギーとの決定的な違いとなります。
食物不耐症3つの分類
①薬理学的/代謝反応によるもの
②食べ物の毒素/中毒によるもの
③特異体質反応によるもの
食物アレルギー
食物アレルギーは特定の食べ物に過剰に反応することで起こります。
こちらは免疫反応が関与して臨床症状を示します。
犬の食物有害反応の割合
年中痒みを伴う皮膚病の10~30%が食物有害反応であるとされています。
食物有害反応の分類(図解)
『食物アレルギーの統計』
アレルギー性皮膚炎における割合
犬のアレルギー性皮膚炎で食物アレルギーはノミアレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、に続いて3番目に多い(約10~15%)です。
猫の場合
猫の場合は皮膚疾患の1~6%が食物アレルギーであると報告されています。
【食物不耐症】
食物不耐症は免疫反応が関与しておらず、食物アレルギーのような免疫系の刺激や感作を必要としないのが特徴です。
そのため食物不耐症は食品中に含まれる食品添加物や物質そのものを摂取して初めて発症します。
『薬理学的/代謝反応によるもの』
「赤身魚」
注意すべき食材
サバやマグロ、トビウオなどではヒスタミンの存在が確認されており、このヒスタミンなどの血管作動性の生体アミンが薬理学的/代謝反応による食物不耐症に分類されます。
食物不耐症をもつ動物ではこれらの魚を摂取すると数分で、症状が出てきます。
赤身魚はなぜヒスタミンが多いのか?
マグロやサバなどの赤身魚にはヒスチジンという物質がたくさん含まれており、これをヒスタミン産生菌と呼ばれる細菌がヒスチジンをヒスタミンに変えてしまうのです。これにより、赤身魚を食べるとその体内にあるヒスタミンに体が反応してしまうというわけです。
ヒスタミン産生菌の存在(図解)
Fish with high levels of free histidine, the enzyme substrate converted to histamine by bacterial histidine decarboxylase, are those most often implicated in scombroid poisoning. 引用文献:Scombroid poisoning: a review.
市販のペットフードでは
市販のペットフードではヒスタミン産生菌がほとんどいないため、このような食物不耐症を引き起こすこと可能性は低いです。一方で、生魚や手作りのご飯を与えている場合は発症するケースがあります。
「乳糖不耐症」
吸収不良による消化不良
吸収不良に続発する消化不良で浸透圧性下痢を引き起こすとして有名なのが乳糖不耐症です。
十分に消化できなかった乳糖は小腸や大腸にいる細菌によって急速に発酵され、短鎖脂肪酸を産生します。
この過程を経ると、ガスが溜まり、グルグルグルとお腹がなり、下痢をしてしまうのです。
まとめると
乳糖を摂取
↓
消化できずに腸内細菌で発酵される
↓
ガスが溜まったり、お腹が鳴ったり
↓
下痢
という流れです。おそらく皆さんも一度は経験されたことあると思います。
離乳時の子犬では
生後直ぐの子犬と比較して、離乳時の子犬ではラクターゼ分解能が10%ほどに低下しています。これは母乳を飲む時期と他のものを食べ始める時期で、体質が変わっていく必要があるために起こるとされています。
『食べ物の毒素/中毒によるもの』
中毒は食物不耐症とは独立して分類される場合もありますが、今回は食物不耐症のサブカテゴリーとして配置しました。
「アフラトキシン中毒」
穀物などの食品によく含まれている毒素で、この毒素を摂取したことで起こる食物不耐症を指します。
このカテゴリーで有名なのが、アスペルギルス属真菌(カビの一種)が産生するアフラトキシン中毒です。
アフラトキシンについて
アフラトキシンはアスペルギルス属の真菌が産生する毒素の1つです。
アメリカのFDAはアフラトキシンの摂取を防ぐために、20ppbを上限に食品が流通しないように制限をかけています。
特に犬と猫では人間やラットよりもアフラトキシンの影響を強く受けやすいため、注意が必要です。
アフラトキシン中毒の症状
肝細胞壊死による肝障害が起こります。致死率も高い危険な毒素です。
「急性腸炎を引き起こす毒素」
当然ながら、食物中に含まれるの毒素は細菌が産生したものもあります。
毒素を産生する細菌
・サルモネラ
・カンピロバクター
・クロストリジウム
・大腸菌
『特異体質反応によるもの』
特異体質反応による食物不耐症は食物添加物や着色料、乳化剤、ゲル、保水剤などに反応しておきます。
【食物アレルギー】
『食物アレルギーとは』
摂食あるいは吸収した抗原(特にタンパク質)に反応し、起こる食物有害反応で、免疫反応が関与していることが特徴です。
『食物アレルギーの種類』
食物アレルギーには肥満細胞がIgEを分泌することで起こるⅠ型アレルギーとケモカインが皮膚にリンパ球を遊走することで起こるⅣ型アレルギーの2種類があります。さらに細かい分類があるのですが、ここでは割愛します。
『3つの防御機構とは』
通常、消化管ではアレルギー反応を抑えるために3つの防御機構を備えています。
この防御機構によって「これは食べ物なので、食べて大丈夫だよ!」と体に教えているのです。
「第一の防御は"消化酵素"」
タンパク質は消化されていく過程で様々な消化酵素に晒されます。
胃から出るペプシンや、膵臓から出るトリプシンなど、様々なタンパク分解酵素によってタンパク質中にある抗原因子が破壊されるのです。
「第二の防御は"消化管固有の機能的バリア"」
腸粘膜の上皮細胞はお互いが強固に結合していて、腸管内にある物質が容易に体内へ侵入することを許しません。
この細胞間の強固な結合をタイトジャンクションと言います。
タイトジャンクションのおかげで、取り込むべきタンパク質を取捨選択し、摂取したタンパク質の0.002%だけを体内に吸収しています。
吸収後は網内系細胞や肝臓のクッパー細胞と腸間膜リンパ節などで、さらに選別され、体にとって良いタンパク質のみを吸収しています。
そのほかにも、
・蠕動運動:腸が物を下へ送り込む動作のこと
・筋層:腸粘膜の外周には筋肉が囲っている
・粘膜固有層からのIgA分泌:IgAとは抗体のことで、抗原をやっつける
機能バリアの重要性(図解)
「第三の防御は"GALT"だ‼︎」
「GALT(ガルト)ってなに?」
日本語は腸管関連リンパ組織なんて呼んだりします。
GALTは消化管や気管など外界と直接接する器官にあって、異物の侵入がないように関所のような役割を担っています。
免疫学的な表現をすると『“自己”と“非自己”を識別している』とも言いますね。
このGALTを経由して摂取された食べ物は、なるべく栄養物として体が認識するようにされているので、食物アレルギーになるリスクを減らしてくれます。
GALTの役割(図解)
「三つの防御のどれかが破綻すると…」
先ほど説明した
①消化酵素
②機能的バリア
③GALT
の防御機構の破綻によって食物アレルギーへと発展していきます。
『M細胞の存在』
M細胞とは
M細胞とは腸管上皮に存在し、パイエル板の入り口を担っています。このM細胞は経口寛容を行う上で大切な細胞です。
M細胞がやっていること
M細胞は腸の内腔から微生物や抗原を取り込み、抗原提示細胞やそのほかの免疫細胞に「この食べ物は悪者ではないよ!」
ということを教えています。
これにより、経口寛容が完了します。逆に、食べ物に対して過剰に反応したり、刺激物だと判断した場合は免疫細胞が活性化され、免疫反応を起こします。
Hypothetical scheme for positive and negative immune regulation taking place in M‐cell area of gut‐associated lymphoid tissue. 引用文献:Nature and function of gastrointestinal antigen-presenting cells.
異物だと認定されたら
M細胞からの取り込みによって異物だと認定されてしまったら、その抗原に対して
炎症に伴い抗原特異的リンパ球とIgEを産生する肥満細胞が遊走して来て、抗原を退治します。
この時、経口寛容が失敗し食物アレルギーになってしまいます。
タイプとしてはⅠ型、Ⅲ型、Ⅳ型過敏症になります。
『食物アレルギーを示しやすい食べ物』
犬の場合
・牛肉
・小麦
・≧20 kDaのタンパク質
猫の場合
・牛肉
・魚
です。
【最後に】
今回は食物アレルギーと食物不耐症の違いを述べつつ、二つの違いについて生理学的な説明を踏まえつつ、解説してみました。やや専門的になってしまいましたが、これらの食物有害反応がどのような過程を経て、起こるものなのかを理解しておくと、獣医師の治療方針が手に取るようにわかるはずです!
具体的な症状や検査法、治療法については次回お話しすることにします。
【本記事の参考書籍】
Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 797-801p
Keith A. Hnilica ; Adam P. Patterson : Small Animal Dermatology A Color Atlas and Therapeutic Guide. 4th ed., ELSEVIER, 2016, 202-207, 222-225p
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 544-545p