オタ福の語り部屋

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犬猫の肝胆道系腫瘍③~治療法とその後~

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【はじめに】

今回は『犬猫の肝胆管系腫瘍~治療法とその後~』についてです。

肝胆管系腫瘍として主に
①肝細胞癌 ②胆管癌 ③カルチノイド ④肉腫
4つの腫瘍があり、

形態学的な分類として
①腫瘤型 ②結節型 ③びまん型
の3つがあります。

これらの分類によって治療法と予後が大きく異なります。
では早速、分類別の治療法について見ていきましょう。

【肝胆管系腫瘍はこちら】

犬猫の肝胆道系腫瘍①~概要と挙動~ - オタ福の語り部屋

犬猫の肝胆道系腫瘍②~症状と検査方法~ - オタ福の語り部屋

犬猫の肝胆道系腫瘍③~治療法とその後~ - オタ福の語り部屋

【目次】

 

 

【肝細胞癌の治療法と予後】

『腫瘤型肝細胞癌の治療法』

「肝細胞癌で腫瘤型」となれば、間違いなく外科的切除が推奨されます。腫瘍の切除方法は複数あり、それらの特徴について簡単に説明していきます。

腫瘍切除の方法
・フィンガー・フラクチャー(Finger Fracture)
・集束結紮(mass ligation)
・マットレス縫合
・血管シーリングデバイス
・サージカル・ステープラー
などがあります。

フィンガー・フラクチャー
この切除方法はイメージでいうと「腫瘍をちぎり取る」といった感じです。指で肝実質と腫瘍組織を切り離していき、血管や胆管は結紮して切るを繰り返していきます。

 

集束結紮
集束結紮とは糸を用いて切除部位をまとめて縛り、切除する方法です。大型犬や、複数の葉に腫瘍がまたがっている場合はオススメされていません。

 

オススメの方法
血管シーリングデバイスサージカル・ステープラーは手術時間を短縮されることができ、肝臓腫瘍切除においてオススメの方法とされています。

 

大きな腫瘍の場合は…
肝門部にまで拡がるほど、大きな腫瘍の場合は肝門部切除術が行われます。

腫瘤型肝細胞癌の治療法(図解)

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『手術の成績』

腫瘤型の肝細胞癌を切除する手術で42匹の犬を対象にしたある研究では周術期の死亡率が4.8%で、手術後に副作用が現れたのが28.6%でした。

具体的な副作用とは
・出血
・肝葉付近の血管障害
・一時的な低血糖
・肝機能の低下

In the surgery group, intraoperative mortality rate was 4.8% with no local recurrence, metastatic rate was 4.8%, and median survival time was > 1,460 days (range, 1 to 1,460 days). 引用文献:Massive hepatocellular carcinoma in dogs: 48 cases (1992-2002).

 

『腫瘤型肝細胞癌の予後』

「予後因子(良し悪しを左右するもの)」

犬の肝細胞癌の予後因子となりうるのは
・外科手術の有無:生存期間中央値が大きく異なる
・腫瘍の波及の程度:内側右葉、外側右葉、尾状葉尾状突起
・ALTとASTの上昇:腫瘍の侵襲性・悪性度の指標となる
・ALP/AST比
・ALT/AST比

 

「術後の生存期間は?」

42匹の腫瘤型肝細胞癌を有する犬の研究では術後の生存中央値は1460日以上と非常に良く、腫瘍とは関係ない病気でなくなる犬もいるとの報告です。

 

「術後の再発率と転移率は?」

術後の予後は生存期間だけでなく、再発率や転移率においても優秀な結果が見られます。
・再発率:0~13%
・転移率:0~37%(主に肺や肝臓)
ほとんどが腫瘍と関係ないもので亡くなっています。

 

「手術を受けなかった場合」

手術を受けなかった、受けられなかった犬の生存期間中央値は270日であり、腫瘍に関連した原因で亡くなった確率は手術した犬と比較し、15.4倍です。
手術は可能な限り受けさせるべきだと思います。

-Kaplan-Meier survival curve for dogs with massive HCC treated surgically (via liver lobectomy) or nonsurgically.  In the surgery group, intraoperative mortality rate was 4.8% with no local recurrence, metastatic rate was 4.8%, and median survival time was > 1,460 days (range, 1 to 1,460 days). High alanine aminotransferase and aspartate aminotransferase activities were associated with poor prognosis. Median survival time for the nonsurgery group was 270 days (range, 0 to 415 days), which was significantly less than that of surgically treated dogs. 引用文献:Massive hepatocellular carcinoma in dogs: 48 cases (1992-2002).

 

「手術が難しい部位」

腫瘤型と言えど、切除が難しい部位があります。それは内側右葉、外側右葉、尾状葉尾状突起です。これらの部位に発生した腫瘍は近隣に後大静脈が走行しているため、傷付けないように切除しなければなりません。

 

『結節型/びまん型肝細胞癌の予後』

「手術という選択肢は?」

腫瘤型とはうって変わって、結節型やびまん型の肝細胞癌は予後が悪いです。というのも、まず複数の葉にまたがって腫瘍が存在するため、手術を行うことができません。

人医療では…
・肝臓移植
・姑息的にできる限り切除
・ブランド塞栓療法(昔はこっち)
・化学塞栓療法(今はこっち)
などがあります。

獣医療でもブランド塞栓療法や化学塞栓療法の報告は一応あります。ただ、あんまり行なっていないのかな?ごめんなさい、僕自身この治療法を見たことがないもので…おそらくメジャーな治療法ではないと思います。
一時的な緩和に使う程度で治療という選択肢にはありません。

引用文献:Percutaneous arterial embolization and chemoembolization for treatment of benign and malignant tumors in three dogs and a goat.

 

「放射線治療は行えるのか?」

肝細胞癌に放射線は効きません。

 

「化学療法ならどうだ?」

化学療法すなわち、抗がん剤治療は肝細胞癌では効きが悪いです。抗がん剤に反応したのは20%以下という報告もあります。

なぜ、抗がん剤が効かないのか
それは肝臓の特徴的な機能によります。肝臓の機能として『解毒作用』というものがあります。肝細胞はすぐに抗がん剤を解毒してしまうということ、そして薬物排出機構の一つであるP糖蛋白を豊富に有することが挙げられます。

有効な抗がん剤
肝細胞癌に唯一有効だと考えられている抗がん剤は『ゲムシタビンの単剤療法』です。
方法は350-400mg/m2 を1週間ごとに5回投与する方法です。

ゲムシタビン単剤療法の治療成績(生存期間中央値)
・腫瘤型:1339日
・結節型:983日
・びまん型:113日
※腫瘤型は不完全切除の症例です。

The MST of the dogs diagnosed with massive HCC was 1339 days. The MST of dogs with nodular and diffuse disease was 983 and 113 days, respectively. Incompletely excised tumours (including both massive and nodular types) had an overall MST of 1339 days, whereas nonresectable tumours had an MST of 197 days. 引用文献:Single-agent gemcitabine chemotherapy in dogs with hepatocellular carcinomas.

 

結節型/びまん型肝細胞癌の治療法(図解) 

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【胆管腫瘍の治療法と予後】

『胆管腺腫について』

胆管腺腫は胆管の良性腫瘍です。
こちらも肝臓腫瘍同様に腫瘤型、結節型、びまん型があります。

治療法
外科的な切除手術が勧められています。

予後
術後の予後は非常によく、再発や局所浸潤、悪性への変換などの報告もありません。

 

『胆管腺癌について』

胆管腺癌は胆管の悪性腫瘍です。

腫瘤型胆管腺癌の治療法と予後
腫瘤型の胆管腺癌では肝葉切除が勧められています。ですが、治療成績としてはあまり良くはありません。多くの犬猫が術後の再発や転移によって6ヶ月以内に亡くなっています。

結節型/びまん型胆管腺癌の治療法と予後
残念ながら有効な治療法というものがありません。外科的に切除することができないのです。

胆管腫瘍の治療法(図解)

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【神経内分泌由来腫瘍の治療法と予後】

治療法
神経内分泌由来腫瘍すなわちカルチノイドには有効な治療法がありません。

カルチノイドは外科手術が有効な腫瘤型の発生が稀で、ほとんどが結節型/びまん型の発生です。
そして、放射線治療や化学療法の効果も知られていません。

予後
予後は不良で93%の犬で、領域リンパ節や腹膜、肺に転移が認められています。

 

【間葉系由来腫瘍の治療法と予後】

腫瘤型の場合は手術が試みられますが、手術時にはすでに転移巣が確認されていることが多く、予後は不良です。
化学療法も恐らく効きが悪いだろうとされています。一応、ドキソルビシンやイホスファミドなどの抗がん剤が使えるのではないかと言われています。

 

【猫にある骨髄脂肪腫の治療法と予後】

猫の原発性の骨髄脂肪腫は肝葉切除術で予後が良好という報告があります。

 

【最後に】

今回は肝胆管系腫瘍の治療法と予後について解説しました。肝胆管系腫瘍の治療法として、腫瘤型の腫瘍は切除する。そのほかの結節型/びまん型の腫瘍は化学療法や対症療法を行うという形で対処します。いずれにしても型の分類がキーになってくるようですね。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 405-413p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 265p