オタ福の語り部屋

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動物の肝胆道系腫瘍①~概要と挙動~

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【はじめに】 

今回は『動物の肝胆道系腫瘍』について解説します。
肝胆道系?
あまり聞き馴染みのない言葉だと思います。肝胆道系とは肝臓と胆嚢、胆管のことを言います。つまり、肝胆道系腫瘍を言い換えるのであれば、肝臓や胆嚢、胆管の腫瘍ということです。

では早速どのような腫瘍があるのか見ていきましょう。

【肝胆管腫瘍はこちら】

動物の肝胆道系腫瘍①~概要と挙動~ - オタ福の語り部屋

動物の肝胆道系腫瘍②~症状と検査方法~ - オタ福の語り部屋

【目次】

 

肝臓、胆嚢、胆管の解剖学的位置

簡単に肝臓と胆嚢と胆管の位置関係をおさらいします。

肝臓、胆嚢、胆管の解剖学的位置

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【発生とリスク因子】

『発生率』

犬の場合
犬の肝胆道系腫瘍の発生率は腫瘍全体の1.5%と言われています。
そのほとんどは肝臓以外の腫瘍が転移してきたものであり、肝臓における転移性腫瘍は原発性腫瘍の約2.5倍発症率が高いです。

どの臓器の腫瘍が肝臓に転移してきやすいかというと、膵臓や脾臓、腸管などといった肝臓の近くにある臓器の腫瘍が転移しやすいとされています。

猫の場合
猫の肝胆管系腫瘍の発生率は腫瘍全体の1.0~2.9%と言われています。
猫の場合は犬の場合と異なり、原発性腫瘍の方が多いです。

 

『いろいろな分類』

肝臓の原発性腫瘍は発生由来細胞から4種類に分けることができます。

由来細胞別の分類
・肝細胞由来
・胆管由来
・カルチノイド由来(神経内分泌細胞)
・間葉系由来

 

そのほか形態学的な特徴から、3つに分類することができます。

形態学的な分類
①腫瘤型 (Massive type)
②結節型 (Nodular type)
③びまん型 (Diffuse type)
の3つに分類できます。

①腫瘤型
腫瘤型の定義は『1つの葉に限定された孤立性の大型な腫瘍』とされています。

②結節型
結節型の定義は『数葉に波及した多発性の結節性腫瘍』とされています。

③びまん型
びまん型の定義は『広範囲に腫瘍が波及し、全ての葉で結節性腫瘍の発生が認められる。びまん性に肝実質が消失している腫瘍』とされています。

いろいろな分類(まとめ)

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『分類別の発生率』

由来細胞と形態学的な分類によって発生率を以下の表に記します。

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『分類から見える予後』

腫瘍でよく分類が行われるのはなんのためにやっているかというと、腫瘍の進行度や悪性度、挙動を把握し、適切な治療と正確に予後を把握するためです。
今回の分類も同様で、予後の把握ができます。

予後が良いもの
・腫瘤型
・良性腫瘍
腫瘤型の場合、切除がしやすく術後の予後がいいものが多いです。

一方で、

予後が悪いもの
・結節型
・びまん型
これらのタイプの腫瘍は転移もしやすく、一般的に予後悪いとされています。

 

【病因と挙動】

『肝細胞由来の腫瘍』

どんな腫瘍があるのか
肝細胞由来の腫瘍には肝細胞癌の他に肝細胞腺腫肝細胞芽腫があります。

肝細胞芽腫
肝細胞芽腫は肝臓に分化する予定の幹細胞が由来となっている腫瘍で、ほとんど見られません。←1匹だけ報告あり

肝細胞腺腫
「-腺腫」という表現は病理学的な名称で、良性の上皮系腫瘍を意味しています。逆に「-癌」は悪性の上皮系腫瘍を意味しています。肝細胞腺腫は簡単にいうと良性の肝細胞由来腫瘍です。この腫瘍によって臨床症状が現れるのは稀です。猫では肝細胞癌よりこちらの発生が多いです。

肝細胞癌
悪性の肝細胞由来腫瘍で、犬では原発性肝臓腫瘍ではこの肝細胞癌が最も発生率が高いです。猫では肝細胞腺腫に続いて2番目に発生率が高いです。
このタイプの癌に発展する原因として人で挙げられているのが、B型肝炎やC型肝炎、肝硬変などです。このウイルスが原因による肝細胞癌は犬猫でも報告があります。
また、肝細胞癌をもつ犬の20%は他の腫瘍(良性腫瘍や神経内分泌腫瘍)も発生していると診断されています。

肝細胞癌の病理組織画像(HE)

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肝細胞癌、好発のあれこれ
・好発品種:ミニチュア・シュナウザー(←一部の報告では)
・性差:(←一部の報告では)
・形態学的特徴:腫瘤型53~83%、結節型16~25%、びまん型19%
・好発部位:内側左葉、外側左葉、乳頭突起

・好発転移部位:領域リンパ節、腹膜、肺
・その他の転移部位:心臓、腎臓、副腎、膵臓、腸管、脾臓、膀胱
・転移が起きやすい型:結節型とびまん型(93~100%)>腫瘤型(0~37%)

 

『胆管由来の腫瘍』

「胆管腺腫」

先ほども説明しましたが。「-腺腫」という表現は一般的に良性腫瘍を意味しています。胆管腺腫は猫での発生が多く、嚢胞を形成する様子から、『胆管嚢胞腺腫』あるいは『肝胆管嚢胞腺腫』として知られています。

症状
一般的に臨床症状はある程度の大きさになるまで見られません。胆管腺腫が大きくなると、隣接した臓器を圧迫することで症状が現れます。

悪性腫瘍への変換
人ではこの胆管腺腫が悪性腫瘍へと変化したという報告があります。そして、猫でも同様に悪性腫瘍への変換が報告されています。

there may be a biologic spectrum of cystic biliary neoplasia in cats that includes malignant transformation, as has been discussed for human beings. 引用文献:Biliary Cystadenoma of Cats

 

「胆管癌」

胆管癌は猫のでは最も多い肝胆道系の悪性腫瘍であり、犬では2番目に多い悪性腫瘍(約22~41%)です。

人間では胆管炎や吸虫感染、硬化性胆管炎などが胆管癌の発生リスクをあげると言われていますが、犬猫の場合は吸虫感染が関与している可能性は低いとされています。というのも、犬猫の場合、吸虫が生息していない地域においても胆管癌の発生率は差がないためです。

 

胆管癌、好発のあれこれ
・好発品種:ラブラドール・レトリバー
・性差:犬では雌で好発、猫では無し
・形態学的特徴:腫瘤型37~46%、結節型54%、びまん型17~54%

好発部位
胆管癌の発生部位は大きく分けて、『肝内胆管』、『胆嚢』、『肝外胆管』の3つに分けられます。
犬では肝内胆管から発生することが多く、猫では肝内胆管・肝外胆管のどちらも同じくらいの発生率を示します。
胆嚢から発生する場合は犬猫共に稀です。

 

胆管癌の種類と予後

胆管癌には胆管腺腫と同様、充実性に増殖する『固形型』と嚢胞を形成しながら増殖する『嚢胞型』の2種類があります。
これら2つには予後や治療法に大差がないため、臨床的にはあまり区別されません。

 

胆管癌の挙動について
犬の胆管癌は非常に悪性度が高く、転移は高確率で認められます。領域リンパ節や肺への転移が多く、88%以上の症例で転移が起きています。猫ではびまん型肝内胆管癌で67~80%の転移率です。
その他、転移の報告がある場所としては、心臓や脾臓、副腎、膵臓、腎臓、脊髄などがあります。

 

『神経内分泌由来の腫瘍』

神経内分泌腫瘍は別名カルチノイドと呼ばれる腫瘍です。神経内分泌細胞から発生するこの腫瘍は犬や猫では稀で、上皮系悪性腫瘍(カルシノーマ)とは組織学的に区別されます。

発生部位と好発年齢
カルチノイドは通常、肝臓内で発生します。そして、好発年齢は若齢の発生が多く、他の肝胆管系腫瘍と比較しても、若くに発生しています。

 

挙動
肝胆管原発性のカルチノイドは一般的に悪性度が高く、肝臓において多葉性病変を示し、領域リンパ節への転移腹膜や肺への遠隔転移も頻繁に引き起こします。その他、報告がある転移部位としては心臓、脾臓、腎臓、副腎、膵臓です。

 

『間葉系由来の腫瘍』

間葉系の肝臓原発腫瘍は犬猫では稀です。

どのような間葉系腫瘍ができるのか?
・血管肉腫
・平滑筋肉腫
・線維肉腫

肝臓原発で最も多い間葉系腫瘍
犬:平滑筋肉腫
猫:血管肉腫

 

挙動について
肝臓にできる腫瘍は悪性のものが多く、血管腫のような良性腫瘍の発生は稀であるとされています。
悪性腫瘍が多いため、肺や脾臓への転移も多く86~100%の犬で転移が報告されています。
好発品種などの報告がありませんが、雄では間葉系腫瘍の発生が多いとの報告があります。

 

『その他の原発腫瘍、骨髄脂肪腫』

骨髄脂肪腫とは猫で報告がある良性肝臓原発腫瘍です。組織学的にはよく分化した脂肪組織と血液成分が混合してみられます。

この腫瘍は横隔膜ヘルニアを誘発させ、太い血管を圧迫したり、肺の膨らみを邪魔したりして、低酸素血症を引き起こすことが多いです。

 

【最後に】

今回は肝胆管系に発生する腫瘍について概要と挙動を説明しました。肝臓で最も発生率が高いのは肝細胞癌であり、そのほかに胆管癌、カルチノイド、間葉系腫瘍などがあります。そして、大事なのは腫瘍の形態学的特徴です。腫瘍がどのような形態で増殖しているか、腫瘤型や結節型、びまん型かこれらによって転移率や生存期間も異なります。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 405-413p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 265p