オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態③』~治療法と予後~

スポンサーリンク

f:id:otahukutan:20190507222508p:plain

【はじめに】

 今回は『肺がんの治療法』についてです。
肺で発生した腫瘍は手術を行うことが難しく、抗がん剤が中心の治療となります。
今回は抗がん剤治療をはじめ、外科手術や分子標的薬、放射線治療などあらゆる治療法を書いています。

【肺がん記事はこちら】 

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態①』~概要・症状~ - オタ福の語り部屋

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態②』~診断方法~ - オタ福の語り部屋

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態③』~治療法と予後~ - オタ福の語り部屋

【目次】

 

 

【外科手術】

『適応となる症例』

肺の腫瘍で手術が適応となるのは『肺原発の腫瘍』です。外科手術は局所的な手術なので、全身転移により発生した肺腫瘍ではあまり有用性は高くないです。

 

『発生部位別の術式』

肺の片側に発生している場合
側方開胸術あるいは胸骨中央切開開胸術が選択されます。

 

肺の両側に多発性に発生している場合
胸骨中央切開開胸術が選択されます。

 

肺の辺縁に発生している場合
胸腔鏡を用いた肺葉切除が選択されます。

発生部位別の術式(図解)

f:id:otahukutan:20190507220213p:plain

肺のイラスト引用:ホルスト・エーリッヒ クーニッヒ著:カラーアトラス 獣医解剖学(増補改訂版)【下巻】, チクサン出版, 2012, 452p 図8-26

『肺葉切除で便利な器具とは』

肺葉の切除を行う時、基本的には肺葉の全切除が適応となります。しかし、肺の辺縁に腫瘍ができていて、小さい場合は部分切除で済む場合もあります。

これらの切除を行う時、サージカル・ステープラーと呼ばれる肺葉の切除と結紮を同時に行ってくれる器具を使用します。
ガッチャン!と肺を挟んで閉じれば、もう切除と縫合ができているというとても便利な器具です。

この器具によって行われる肺葉切除では術後の問題も少なく、手術自体の安全・迅速・効果的に行うことができます。←引用文献参照

肺葉切除を行う時は部分切除、全切除に関わらず、この器具を使用するのが良いです。

No operative, perioperative, or long-term deaths could be attributed to the use of staples: complications were minimal. Staple resection was believed to be safe, fast, and efficient for removal of various segments of canine and feline lung. 引用文献:Lung resection using surgical staples in dogs and cats.

 

『胸腔鏡を使用する』

胸腔鏡を使用して、肺葉の切除を行うことはとても有用性があると考えられています。そして、胸腔鏡は開胸手術に比べ、侵襲度が低く、視野も確保できるので安全だとも言われています。

 

【肺門リンパ節の生検】

ステージ分類の必要性
肺門リンパ節の生検はステージ分類を行う上で必要な処置となります。「ステージ分類を行う必要があるの?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、ステージ分類によって区分された病期ごとに予後が異なるため、ステージ分類はとても意味のある作業となります。

生検を行う術式
リンパ節の生検は側方開胸術を行うと容易に採取できます。胸骨中央切開開胸術の場合、若干難易度が上がると言われています。


【化学療法について】

『シスプラチンによる抗がん剤治療』

シスプラチンという白金錯体の抗がん剤を用いた化学療法は人の肺腫瘍ではスタンダードな治療法とされています。

使い方としては緩和療法であったり、術後のアジュバント療法(術後に抗がん剤でガンを追い討ちする方法)がよく行われます。

犬や猫といった動物でもこのシスプラチンが僅かながら有効的であると知られていますが、そこまで治療成績が良いものではなさそうです。

 

『一番良いのはシスプラチンかビノレルビン』

今回調べていてわかったのがビノレルビンという抗がん剤の存在です。ビノレルビンは聞いたことがなかったので、もしかすると日本での購入はできないのかもしれません。それかただ筆者が知らなかっただけなのか(笑)

ビノレルビンとは
ビノレルビンとは植物アルカロイドに分類される抗がん剤で、微小管やチューブリンを攻撃することで細胞分裂を防ぐ微小管重合阻害剤とされます。

ビノレルビンのココがいい
ビノレルビンの薬物動態を見てみると、ある実験では肺に高濃度で分布されることがわかっています。具体的には血液中のビノレルビン濃度の約300倍が肺に分布
肺に高濃度で分布させることができるので、肺腫瘍においては非常に効率が良い抗がん剤と言えます。
ビノレルビンの説明(図解)

f:id:otahukutan:20190507221826p:plain

現時点で最善の化学療法
現時点ではシスプラチン(シスプラメルク®️)ビノレルビン(ナベルビン®️)を使用した化学療法が最善であるとされています。

 

【分子標的薬】 

『分子標的薬とは』

分子標的薬とは腫瘍細胞がもつ特有の分子(構造)を直接攻撃する、副作用が少ない治療法です。
僕はいつも立て篭もり事件に例えていますが、抗がん剤が立て籠もる犯人(腫瘍)がいる家(身体)ごと爆破させる方法であるのに対し、分子標的薬はスナイパーで犯人だけを撃ち抜く方法だと勝手にイメージしています(笑)

 

『肺腫瘍で使われる分子標的薬』

主にチロシンキナーゼ阻害剤と呼ばれるトセラニブ(パラディア錠®️)マスチニブ(キナベット)が人の非小細胞肺がんで使用されています。
犬ではまだ実験段階であり、実際の臨床現場使用できるほどにまでは至っておりません。

 

【胸水の貯留を抑えるには】

肺腫瘍が発生している時、しばしば胸水の貯留が認められることがあります。胸水が貯まっていると、肺が十分に膨らむことができず、呼吸が苦しくなります。
そのため胸水の貯留を抑えることは重要なことなのです。

胸水を抑えるにはシスプラチン、カルボプラチン、ミトキサントロンなどの抗がん剤が使用されます。その他にもタルクの胸膜腔内注射などがあります。

 

【放射線治療】

かつて人の非小細胞肺がんでは放射線治療が勧められてきましたが、現在はその有効性に議論があります。

最新の放射線治療機器として知られるIMRTやガンマナイフ、トモセラピーは腫瘍以外の正常組織になるべく放射線が当たらないようになっています。
そして、呼吸ゲーティングシステムと呼ばれる呼吸で生じる微妙な動きにも合わせて放射線照射できるシステムを導入しており、自発呼吸を行なっている状態でもなるべく誤差を減らせるようになっています。

ただ、動物ではまだまだ研究段階であり、あまり使用されていないのが現状です。

 

【予後】

『犬と猫の予後に影響する因子』

予後に影響する因子(犬)
・大きさ>100cm3
・TNMステージ
・リンパ節転移の有無
・診断時の症状
・手術で肉眼的に完全に切除できたか

・腫瘍の組織型
・どこまで腫瘍が拡がっているか
・組織学的グレード

予後に関する因子(猫)
・組織学的グレード

 

『診断時の症状の有無』

肺腫瘍であると診断された際に、すでに臨床症状が出ている犬では術後無発病期間(DFI)と生存期間が有意に短くなるという報告があります。

症状の有無による生存期間中央値
・症状が見られた場合:240日
・症状がなかった場合:545日

 

『どこまで腫瘍が拡がっているか』

肺は肺葉といういくつかの領域に区分されています。肺腫瘍が孤立性に存在する場合(T1)と複数の肺葉に多発している場合(T2)と肺の他の近隣組織へ腫瘍が拡大している場合(T3)で予後が異なります。

生存期間中央値
・T1:26ヶ月
・T2:7ヶ月
・T3:3ヶ月

 

『組織学的グレード別の予後(犬)』

高分化型すなわち、腫瘍細胞の異型度が低いものの方が、未分化型に比べて予後が有意に良いという報告があります。

生存期間中央値
・高分化型:790日
・中分化型:251日
・低分化型:5日

術後無発病期間(DFI)
・高分化型:493日
・中分化型:191日
・低分化型:0日

 Dogs with well-differentiated tumors had significantly longer survival time and DFI (median DFI, 493 days) than dogs with moderately (median DFI, 191 days) or poorly (median DFI, 0 days) differentiated tumors. 引用文献:Evaluation of prognostic factors for dogs with primary lung tumors: 67 cases (1985-1992).

 

『組織学的グレード別の予後(猫)』

猫では組織学的グレードによって予後が異なるという報告があります。病理検査の結果で腫瘍の組織学的グレードは決定します。この研究のデータは21匹の肺腫瘍の猫を用いています。後ろ向き研究なのかな?

生存期間中央値
・未分化型:2.5ヶ月
・高分化型:23ヶ月

Only histological morphology of the primary lung tumor showed a significant association with survival time. Twelve cats with moderately differentiated tumors had a significantly longer survival time (median, 698 days; range, 19 to 1,526 days) than the nine cats with poorly differentiated tumors (median, 75 days; range, 13 to 634 days). 引用文献:Prognosis factors for survival in cats after removal of a primary lung tumor: 21 cases (1979-1994).

 

【最後に】

今回は肺腫瘍の治療法と予後について説明しました。肺腫瘍では現時点では手術と抗がん剤治療がメインとなっています。予後に関しては色々と書きましたが、基本的には『悪い腫瘍ほど予後が悪い』という当たり前の結果だという認識でいいと思います。

 

【関連記事はこちら】 

『前回の記事:症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態①』~概要・症状~』

www.otahuku8.jp

『前回の記事:症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態②』~診断方法~』

www.otahuku8.jp

『肺がんのまとめ』

www.otahuku8.jp

『実例!肺がん闘病記事はこちら』

www.withdog.site