オタ福の語り部屋

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症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態②』~診断方法~

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【はじめに】

今回は『肺がんの診断方法』について解説します。
いつも思うのですが、診断方法ってシリーズとしてはインパクトが無くて、地味なんですよね笑

でも、とても重要であるのは間違いありません。ここでミスれば、その先の治療もなんの意味も為さないわけですから。

肺がんは①で説明した通り、特異的な症状が見られにくいです。そして肺野というのは空気を多く含んでいるため、エコーで描出しにくいという弱点もあります。今回は画像診断、細胞診、組織生検を中心にお話ししていきたいと思います。

【肺がん記事はこちら】 

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態①』~概要・症状~ - オタ福の語り部屋

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態②』~診断方法~ - オタ福の語り部屋

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態③』~治療法と予後~ - オタ福の語り部屋

【目次】

 

【臨床病理学的検査】

『血液検査』

肺腫瘍においてはCBC、生化学検査ともに異常値が見られることはあまりありません。

 

『胸水の検査』

肺腫瘍が発生している時、胸水が溜まっている場合があります。腫瘍発生時の胸水は犬よりも猫の方が見られやすいと言われています。

どうやって採取するの?
胸水の採取方法は胸腔に注射針を刺す胸腔穿刺を行います。
胸水が見られた場合、可能であれば胸腔穿刺を行い、胸水の性状を調べておく方が良いでしょう。

腫瘍時の胸水の性状
肺腫瘍で溜まった胸水の性状は無色透明あるいは血様の変性漏出液です。

体腔貯留液の分類(表)
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この検査は賛否両論
胸水の貯留とその性状を調べる検査は複数の研究で試されてはいるのですが、その結果にはバラツキがあります。両者の意見の論文も貼ろうかと思ったのですが、ややこしくなりそうなので、割愛します。

 

『気管支肺胞洗浄液(BAL)について』

気管支肺胞洗浄液(BAL)とは
気管支肺胞洗浄液とは全身麻酔下で気管支鏡を気管支内に挿入します。
そこで生理食塩水を少量流し込み、再度その生理食塩水を採取します。こうすることで、気管支内にある細胞や細菌などを採取することができます。

 

検査の成果
肺腫瘍の14症例を用いた実験では
BALによって
・確定診断に至ったのが8症例
・補助診断となったのが4症例
・役に立たなかったのが2症例
であったということでした。これらのことから、BALは肺腫瘍の診断において有用性があると考えられます。

 

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下記引用文献のTable3より抜粋

引用文献:Cytological analysis of bronchoalveolar lavage fluid in the diagnosis of spontaneous respiratory tract disease in dogs: a retrospective study.

 

【画像診断】

『レントゲン検査』

胸部レントゲンでの犬の肺腫瘍の診断精度は83%です。これはある2つの大規模な研究(210匹+67匹の計277匹を対象にした研究)によって出された数字で、信頼できると思います。

猫の肺腫瘍の場合は67~91%と多少バラツキがあります。

 

「レントゲン所見の特徴」

肺腫瘍がレントゲンで撮影された場合、どのように写って見えるのかについて調べている研究があります。この研究では猫41匹を使用しています。
この研究論文では見え方によって4つのパターンを設定しています。

肺腫瘍、4つのパターン
①focal:56%(23/41匹)
②localized:20%(8/41匹)
③diffuse:24%(10/41匹)
④normal:7%(3/41匹)

正しい日本語訳が思いつかなかったので、そのまま英語で記しました。ごめんなさい。いつもこういう単語を訳す時、正しい日本語がわからないんですよね笑。
イメージでは掴んでいるのですが…
正しい訳知っている方はコメント欄にでも教えていただければ助かります。

肺腫瘍のレントゲン検査(図解)

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『胸部超音波検査』

超音波検査を行う目的
超音波は空気を挟むと画像として綺麗に描出ができなくなる特徴があります。そのため、腹部の臓器(腸管、肝臓、脾臓、腎臓など)ではよく使われる超音波検査も肺などの空気をたくさん含む臓器を描出するには不向きなのです。

しかし、なぜそれでも肺腫瘍の場合胸部超音波検査を行うのでしょうか?
主に2つの理由があります。
理由①
肺腫瘍は空気を含んでおらず描出可能であり、肺腫瘍の評価を行うことができるから

理由②
超音波ガイド下でのFNA生検を行うため

の2つがあります。

肺腫瘍ではエコー検査が行われます(図解)

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腫瘍の時、どのように見えるのか
肺腫瘍は超音波検査では低エコーあるいは高エコーと低エコーが混在する像が見えます。そして、腫瘍内には正常な気管支の管状構造を確認することができません。

 

『胸部CT検査』

胸部CTは肺腫瘍を診断するのにとても有用性があります。術前の評価にも使えて、撮影できるならばぜひしておきたい検査の1つです。

「こんなところがCT検査の魅力」

魅力①
肺門リンパ節へのリンパ節転移の診断が正確にできる。レントゲン検査では57%しか見抜けなかったリンパ節転移がCT検査では93%まで精度をあげることができました。

Results of CT evaluation of TBLN status were in agreement with histopathologic findings and more accurate than use of thoracic radiography for evaluating TBLNs in dogs with primary lung tumors. 引用文献:Comparison of results of computed tomography and radiography with histopathologic findings in tracheobronchial lymph nodes in dogs with primary lung tumors: 14 cases (1999-2002).

魅力②
レントゲン検査と比較にし、肺転移の診断精度が高い
腫瘍の肺転移を診断するのもレントゲンでは検出できないレベルの小さな転移像を検出できます。
ある論文ではCTで見抜けた肺転移像がレントゲンでは9%しか見抜けなかったとのことです。
そして、レントゲンでは腫瘍の大きさが7~9mmになるまで転移病巣を視認できなかったのに対し、CTでは1mmの大きさから視認が可能であったということです。
CTは1mm単位にスライスして、画像を撮影するんですからすごいですよね。

Because CT is capable of detecting nodules as small as 1-mm in diameter and because the vast majority of small lung nodules are benign (11), investigators have sought to define a nodule diameter boundary below which lung nodules are clinically insignificant and can thus be ignored. 引用文献:Lung Nodule and Cancer Detection in CT Screening

CT検査の魅力を知ってほしい(図解)

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【細胞診、組織生検について】

『細胞診』

肺葉切除(外科的に肺を切除すること)を行う前に細胞診を行うことがあります。細胞診では画像診断などで確認された腫瘤(シコリ)を針で突き、その腫瘤の細胞を採取してきます。

細胞診の診断精度
犬では38~90%と微妙…
一方、猫では80~100%とまあまあ高い精度です。

この検査を行うためには正常部分を傷つけないためにも鎮静が必要になります。

 

『組織生検(手術前)』

組織生検とは細胞診よりも多くの腫瘤を採取し、細胞だけでなく腫瘤の構造についても評価する方法です。この検査では細胞診で得られる情報量を完全に上回っていますが、侵襲度が高いという欠点があります。

どんな時に適応か
細胞診の結果で、肺原発腫瘍ではないと疑われる時です。つまり、採取した細胞が転移を疑うものであったり、全身性の腫瘍(リンパ腫)であったりする場合です。そういった場合はより正確に知るために組織生検を行うべきでしょう。

とはいえ、肺腫瘍において、有用性はそれほど高くはないため、肺葉切除を行うことが目的であるならば、生検は必要ないでしょう。

 

『組織生検の方法』

肋骨に囲まれた胸腔内にある肺を狙って、生検を行うには複数の方法があります。

生検の方法
・コア生検←バチンッて音がなるアレです
・気管支鏡下生検
・胸腔鏡下生検
この3つがあります。順番にどのような特徴があるかを説明していきます。

犬の肺腺癌の病理組織像(図解)

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「コア生検」

生検の方法
正常部分を傷つけないように十分不動化させるために、鎮静下あるいは全身麻酔下で行います。基本は超音波を当てて肺を描出しながら、ニードルを刺し、バチンっと採取してきます。

診断精度
診断精度は92%と高く、感度は80%という報告があります。

採取による副作用
やはり胸腔内に針より太いものを刺すので、多少の副作用があります。
肺の出血が見られたのが30%、気胸が起きたのが27%とのことです。

 

「気管支鏡下生検」

生検の方法
気管支鏡で気管内を進んでいき、目的のところまで先端を持ってきたら、ブラシを用いて採取を行います。

診断精度
ある研究では7匹の肺腫瘍の猫のうち5匹はこの検査方法で診断できたとの報告があります。

 

「胸腔鏡下生検」

生検の方法
胸腔鏡を用いて肺を切除してくる方法です。この方法ではある程度の大きさの肺葉切除(3~7cm程度)なら行うことができる上、侵襲度も低いという画期的な生検方法です。さらに、胸水の採取もついでに行うことができるという優れものです。

診断精度
上記2つの生検とは異なり、ある程度まとまった量を採取することができるので診断精度の申し分ありません。

欠点
欠点を挙げるなら
・胸腔鏡を扱える施設が限られていること
・胸腔鏡を扱える熟練獣医師が必要であること
・肺葉を切除するステープラー(器具名)が高価であること
行えるのであれば、胸腔鏡下が良いと思いますが、実行するために必要な条件は多いです。

【最後に】

肺がんの診断方法について解説してみました。特徴的な症状が無いというわけですから、肺がんの診断を行う上で重要なのはレントゲン検査、そして細胞診や組織生検などの細胞学組織学的診断になります。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 453-462p 

【関連記事はこちら】 

『前回の記事:症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態①』~概要・症状~』

www.otahuku8.jp

『肺がんのまとめ』

www.otahuku8.jp

『実例!肺がん闘病記事はこちら』

www.withdog.site