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症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態①』~概要・症状~

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イラスト引用:ホルスト・エーリッヒ クーニッヒ著:カラーアトラス 獣医解剖学(増補改訂版)【下巻】, チクサン出版, 2012, 452p 図8-26

【はじめに】

今回は『肺がん』について説明します。肺がんと聞くと「〇〇の転移」などとよく耳にしますよね。そうなんです、肺は全ての臓器からの血流が通過する場所であり、毛細血管が張り巡らされていることから、他臓器由来の腫瘍の転移が非常に臓器です。

では、肺で原発の腫瘍とはどのようなものなのでしょうか?あまり聞き馴染みのない腫瘍ではありますが、特徴的な挙動を示します。題名の通り、症状が見られることも少なく、別の病気で来院しレントゲンを撮ると、肺に腫瘍があったなんてこともありえます。さてさて、これら肺腫瘍について概要と症状を中心にお話ししていきます。

【肺がん記事はこちら】 

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態①』~概要・症状~ - オタ福の語り部屋

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態②』~診断方法~ - オタ福の語り部屋

症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態③』~治療法と予後~ - オタ福の語り部屋

【目次】

 

 【発生とリスク因子】

肺に原発する腫瘍は動物では稀です。全体の1%にも満たないです。

『犬の肺がんに関する統計』

発生年齢(平均)
約11歳(未分化癌を除くと7.5歳)

好発品種
・ボクサー
・ドーベルマン
・オーストラリアン・シェパード
・アイリッシュ・セッター
・バーニーズ・マウンテン・ドッグ

『猫の肺がんに関する統計』

発生年齢(平均)
12~13歳

好発品種
・ペルシャ

 

『肺がんの発生リスクを上げるもの』

「受動喫煙」

人では皆さんご存知の通り、喫煙が肺がんのリスクを上げることがわかっています。
一方で動物では受動喫煙や都会の汚染ガスの吸入が肺がんのリスクを上げるのかははっきりと分かっていません。

ただ、肺がんのリスクを上げる要因として『炭粉症』があることが分かっています。炭粉症とは炭素物質が肺胞内や肺胞間質に蓄積している状態のことを言います。

そして、ここで興味深いことがあります。
受動喫煙をしている犬とそうでない犬の気管支肺胞洗浄液の細胞成分を調べたところ

その洗浄液には
・マクロファージやリンパ球の増加
・マクロファージの細胞質内に炭粉が含まれていること
が判明しました。
これら一連の研究から、肺がんのリスクとして受動喫煙はあるのではないでしょうか?

 In dogs exposed to cigarette smoke, macrophage and lymphocyte populations were significantly increased (p<.05) and anthracosis was present in the cytoplasm of macrophages.  引用文献:The dog as a passive smoker: effects of exposure to environmental cigarette smoke on domestic dogs.

 

「放射性物質:プルトニウム」

プルトニウムによって汚染された空気を吸入することが肺がんのリスクを上げることがに繋がります。

 

【肺にできる腫瘍とは】

肺にできる腫瘍は気管支上皮由来のもの肺胞実質由来のものが主となります。しかし、WHOガイドラインによると、肺腫瘍の分類は解剖学的な位置で分けるのではなく、組織学的な分類で行われるべきだということです。

 

『腫瘍の種類』

犬の場合
気管支肺胞腺癌が最も多く約85%の肺原発腫瘍を占めます。そのほかに腺癌や扁平上皮癌、腺扁平上皮癌などが残りの13~15%を占めます。

犬の肺腺癌の病理組織像

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猫の場合
腺癌が60~70%を占め、残りを気管支肺胞腺癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌などが見られます。

 

『どのように拡がっていくのか』

肺腫瘍はまず局所浸潤や血管新生、リンパ洞へと拡がっていきます。その結果、肺の別の葉へ転移したり、リンパ節や遠隔への転移を引き起こします。
肺で腫瘍の浸潤が拡大していく主な原因としては脈管浸潤や気管への播種です。この浸潤がきっかけとなって、やがて肺門リンパ節へ浸潤し、遠隔転移へと繋がるのです。

悪性の肺腫瘍をもつ犬の71.2%が腫瘍細胞の脈管浸潤(血管やリンパ管への浸潤)が認められており、そして23%は遠隔転移がありました。

肺腫瘍の浸潤・転移の流れ(図解)

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肺のイラスト引用:ホルスト・エーリッヒ クーニッヒ著:カラーアトラス 獣医解剖学(増補改訂版)【下巻】, チクサン出版, 2012, 452p 図8-26

Complete necropsies were done on 59 dogs. Excluding seven cases with adenomas, 28.8% of the dogs necropsied had no evidence of vascular/lymphatic invasion or metastasis, 34.6% had vascular/lymphatic or intrapulmonary spread, 13.5% had metastasis to local (mediastinal) lymph nodes and 23.1% had distant metastasis. 引用文献:Rapid detection of K-ras gene mutations in canine lung cancer using single-strand conformational polymorphism analysis

 

さらに、転移しやすい腫瘍もわかっています。
扁平上皮癌は50%
未分化癌は90%
の確率で転移しており、腺癌や気管支肺胞腺癌よりも転移しやすいです。

 

 

猫の転移
猫の肺腫瘍では転移がよく起こります。およそ76%の症例で転移が認められています。

転移の好発部位
・指
逆に転移が少ないのは
・骨や神経系

『転移と原発の肺腫瘍、鑑別方法は?』

肺は他臓器で発生した腫瘍の転移がよく見られます。こういった転移と原発肺腫瘍を見分けるにはどうしたらいいでしょう?特に未分化な肺原発腫瘍の場合、鑑別が難しくなります。

免疫組織化学染色を使う
・抗thyroid transcription factor 1(TTF-1)
・cytokeratin
・vimentin
などの抗体は肺腫瘍の鑑別に効果的です。

そのほかにCD18という抗体を用いると、組織球由来の腫瘍細胞との鑑別を行うことができます。

 

 【症状】

『犬の肺腫瘍での症状』

犬の肺腫瘍では発見されるまでに症状が見られることはあまりないと言われています。犬の肺腫瘍で診断されることが多いのは健康診断によって偶発的に発見される場合です。

この項では症状についてお話しするので、具体的な症状についてお話しします。

肺腫瘍で見られる具体的な症状(犬)
・咳(52~93%)
・呼吸困難(6~24%)
・元気消失(12~18%)
・食欲不振(13%)
・体重減少(7~12%)
・喀血(3~9%):肺から血を吐くこと
・跛行(4%)

 

『猫の肺腫瘍での症状』

猫も犬と同じような症状を示すのですが、異なる点として消化器症状を示すことがあるということです。

肺腫瘍で見られる具体的な症状(猫)

・呼吸困難(24~65%)
・咳(29~53%)
・呼吸促迫(14%):息が荒い
・喀血(10%)
・元気消失(24~43%)
・食欲不振(19~71%)
・消化器症状(19%):嘔吐、吐出、下痢

 

『身体検査で何が分かる?』

基本は何も見つからない
肺の腫瘍は肋骨に囲まれているので、触診は難しく身体検査で腫瘍を見つけるには難しいです。

聴診
肺に腫瘍ができるので、当然ながら聴診で肺野での気管支性雑音が聞こえます。

神経学的検査
あまり報告はないのですが、稀に神経系に腫瘍が浸潤するので、神経学的検査によって腫瘍があると分かることもあります。

 

『跛行について』

跛行とは片足を引きずるように歩いたり、歩様に何らかの異常が見られる状態を指します。サッカー選手がスライディングを受け、足を引きずりながら歩いているシーンが跛行の1つです。

肺の腫瘍と跛行は一見関係ないように思われますが、腫瘍随伴症候群として跛行が見られるのは肺腫瘍のときが最も多いのです。

跛行が見られる原因
跛行が見られる原因は腫瘍の転移先に骨膜に新たな骨形成が起こり、骨膜が圧迫されることで激痛が走るために、跛行が見られます。肺腫瘍の原発巣から離れた場所でこういった骨形成が起こるのも特徴の1つです。
これらの跛行は肺腫瘍を取り除くと軽減されます。

 

『指に転移巣ができる』

肺腫瘍、もっと言うならば肺原発の腺癌や扁平上皮癌では指への転移が多いという報告があります。

猫36匹を用いたある研究では、肺腫瘍の指への転移が見られた全症例では跛行が見られたが、呼吸器症状は見られなかったということです。
そして、この研究の筆者は開胸手術による肺葉切除や断指などの治療はオススメしていません。手術を行っても予後は改善されず、生存期間中央値も67日と短いからです。

 もう1つ、指間に腫瘍ができた猫64匹の腫瘍を調べた研究では64匹中56匹(87.%)の猫が肺原発腫瘍の遠隔転移であり、指原発の腫瘍は少なかったとのことです。

The conclusion of this study was that most carcinomas in the digits of cats were metastases of a primary pulmonary carcinoma (87.5%). Primary squamous cell carcinomas occurred infrequently.  引用文献:SPrimary and metastatic carcinomas in the digits of cats.

 

【最後に】

今回は肺腫瘍の概要と症状についてお話ししました。重要な点としては症状が咳や呼吸促迫など、特徴的な症状が見られないということ。そして、『指への転移』や『跛行』があるということです。症状が見られないということなので、ある程度年齢が進んでくると健康診断を受診しておくことが早期発見につながるかもしれません。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 453-462p

 

【関連記事はこちら】 

『続編:症状がほとんどない⁈『犬猫の肺がんの実態②』~診断方法~』

www.otahuku8.jp

『肺がんのまとめ』

www.otahuku8.jp

『実例!肺がん闘病記事はこちら』

www.withdog.site