【はじめに】
今回は『FeLV感染症~診断・予防・管理・治療~』についてです。
FeLVの感染が成立するのは約70%と言われています。裏を返せば一旦ウイルスが体内に侵入したとしても30%はウイルスの感染が成立しないのです。実はFeLVはウイルスが入ることよりも感染猫との接触頻度が重要だと言う意見もあります。
感染猫との接触を避け、ワクチンを接種しておくことが予防につながります。
では、早速詳しいお話をしていきましょう。
①はこちら↓↓
地域猫では結構ある?猫白血病ウイルス(FeLV)感染症について① ~概要と感染経路~ - オタ福の語り部屋
②はこちら↓↓
地域猫では結構ある?猫白血病ウイルス(FeLV)感染症について② ~症状~ - オタ福の語り部屋
【目次】
【診断方法】
FeLVに感染していると診断するにはいくつかの方法があります。FeLVの感染を拡げない為にもFeLV感染を疑う猫を早期に診断し、 隔離することが大切です。
『検査を行うべきタイミング』
AAFP(American Association of Feline Practitioners)で推奨されている、FeLVの検査を行うべきタイミングとして
①新しく猫を迎え入れる時
②猫の体調が崩れた時(未検査だった場合)
③感染を疑う猫と接触があった時
『簡易キットを用いた検査』
恐らくこれが一番行われている検査ではないでしょうか?
FeLVを検査する検査キットが普及しています。
採血を行い、全血あるいは血清、血漿をそのキットに一滴垂らすと、FeLV陽性か陰性かを表示してくれるキットです。
院内でできる簡単な検査なので、汎用性は高いです。
↓これですね!SNAP検査です。
感度:98.6%、特異度:98.2%の優等生!
「何を検出しているのか?」
これは記事①の概要でも軽くお話ししましたが、FeLV p27抗原というものを検出している検査です。
「検査結果をQ&A方式で解答します」
Q:検査結果が陽性なのですが…?
A:基本的に陽性を示せば、陽性と考えていいです。
たまに、全血は陽性なのに血清・血漿は陰性なんてことがありますが、その場合は血清で再び検査しなおすべきです。
Q:FeLVに感染した可能性があるのに陰性
A:FeLV感染猫と接触したなどの、明らかにFeLV感染が疑われる状況なのに検査結果は陰性…
もしかしたら、まだFeLVが検出できるほど増えていないのかもしれません。そういった場合は接触があった日から30日後にまた再検査を行うべきです。
Q:子猫なのですが免疫ができていないですか?
A:子猫でも検査できます。母親がFeLVに感染してたなら、もしかするとFeLVの抗体価が高いかもしれません。しかし、FeLV簡易検査キットで検出するのはFeLV p27"抗原"なので、しっかりと検査を行うことができます。
Q:ワクチンを接種してるのですが検査ってできますか?
A:これも子猫と同様です。ワクチンを接種している場合、抗体価の上昇が起きていますが、検出するのは抗原なので、必要ありません。
Q:さっきから言ってる抗原と抗体とかって何ですか?
A:ざっくりしたイメージですが、
・抗原はウイルス感染細胞が産生する蛋白=悪役
・抗体は抗原を倒すために免疫細胞が産生する蛋白=対悪役用の武器
悪役を見つけるレーダーとそれを倒すための武器を見つけるレーダーは同じではないですよね?
つまり、そういうことです笑
『院内でできる簡易検査、SNAP検査とは』
これは先ほど説明した簡易キットのことなのですが、SNAP検査を使用します。
FeLVの院内検査でよく使われるのがELISAや免疫クロマトグラフィー法で、これらは進行性FeLVの検出力に長けています。FeLVの感染が低リスクな猫や無症状の猫で陽性がみられると、説得力があります。もう一度リンクを貼っておきます。
『外注検査はプロウイルスPCR』
レトロウイルスは変異を起こしやすいので、変異を起こしたプロウイルスはウイルス蛋白を産生しなくなります。こうなるとSNAP検査でお馴染みのp27抗原を検出することができなくなります。
猫の末梢血液や骨髄から抽出したゲノムDNAを用いたPCR法によって、レトロウイルスによって宿主ゲノムに挿入されたプロウイルスDNAを検出します。
【感染拡大を防ぐには】
『感染猫との接触を避ける』
FeLVの感染は猫同士の直接的な接触で起こります。なので、感染猫を隔離し接触させないようにすることで、感染は防ぐことができます。
『ワクチン接種』
ワクチンの効果について
FeLVのワクチン接種はよく行われています。その効果は絶対とは言えないものの、進行性FeLVの発生リスクを有意に減少させます。一方で、退行性FeLVの感染は防ぐことができないです。
進行性FeLVの発生リスクを抑えるということは、それに続発するFeLV関連疾患(貧血、免疫不全、リンパ腫など)を防ぐことに繋がります。
『ワクチンを受けるべき状況は?』
FeLVワクチンはコアワクチンには含まれません。コアワクチンとは感染力が強く室内飼いの猫でも接種を勧められているワクチンです。
FeLVのワクチン接種を考慮すべき猫
・半外飼い猫(外出許可が出ている猫)
・FeLV感染猫と同居している猫
・多頭飼育されている猫
などです。
『ワクチン接種で起こる副作用』
猫のFeLVワクチンで特に注意が必要なのが、ワクチン接種部位肉腫と呼ばれるものです。ワクチンを打った部位に線維肉腫と呼ばれる腫瘍ができてしまう病気で、FeLVなどのウイルス抗原が原因なのではないかと言われています。
猫の注射は皮筋の厚い太もも〜お尻にしてもらいましょう。
【感染の猫を見つけた時】
『感染猫といた同居猫の管理方法』
感染猫が住んでいる部屋で一緒に同居していた場合、進行性あるいは退行性FeLVに感染している可能性が高いです。
全頭にFeLVワクチンの接種を行い、感染猫との隔離を行いましょう。
『感染猫自体の管理方法』
感染猫の管理方法
・他の猫と接触させない
・混合ワクチン接種をしておく
・半年に一回検診を受ける
・不妊手術を行う→発情期に外へ出たがるから
・続発疾患が起これば、正しく診断し、早期に治療する
・免疫力が低下しているので、抗生剤は強めに与える
・免疫抑制剤や骨髄抑制作用のある薬はなるべく避けるべき
【症状別の治療法】
無症状なら
外出禁止で、無治療で大丈夫です。
臨床症状があるなら
基礎疾患を見つけ、治療します。
リンパ腫を発症しているなら
抗がん剤治療を開始します。
貧血があるなら
深刻な場合は輸血を行い、基礎疾患を見つけ、治療を始めます。
もし溶血性貧血があるならマイコプラズマ感染の可能性を考慮し、ドキシサイクリン(抗生物質)を使用します。
基礎疾患が除外できたら、グルココルチコイドを使用します。これはFeLV感染猫の貧血が免疫介在性であるためです。
神経症状があるなら
中枢神経へのリンパ腫が無いかを確認し、基礎疾患があればその治療を行います。
もし基礎疾患が見つからなかった場合は、神経症状の原因はFeLVによるものだと考え、ジドブジン(5mg/kg PO q 12h)を使用します。
ジドブジンとは核酸系逆転写酵素阻害薬で、FeLVなどのレトロウイルス科がもつ逆転写酵素を阻害する薬です。
【最後に】
今回はFeLVの診断から予防管理、治療法について説明しました。全体的な流れとしてはまずは検査を行う
↓
感染していないなら、ワクチンを摂取し、感染予防に努める
感染しているなら、感染拡大を防ぎ、対症療法を行う
といった感じの流れになります。
FeLVは現代の獣医学では完治させることができません。いかに感染を防ぐかがポイントになります。
【本記事の参考書籍】
Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 978-983p
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 625-628p
見上彪 監修: 獣医微生物学 第3版, 文英堂出版, 2011, 274-280p