オタ福の語り部屋

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地域猫では結構ある?猫白血病ウイルス(FeLV)感染症について② ~症状~

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【はじめに】

前回の『①(概要)』でFeLVとはどのようなものなのかについてざっくりとお話ました。今回はFeLVの臨床症状について解説します。FeLVは骨髄抑制や腫瘍、免疫抑制を中心にその他多くの症状を引き起こします。具体的な症状とどのようなトラブルが起きるのかについてお話ししていきます。

①はこちら↓↓
地域猫では結構ある?猫白血病ウイルス(FeLV)感染症について① ~概要と感染経路~ - オタ福の語り部屋

③はこちら↓↓
地域猫では結構ある?猫白血病ウイルス(FeLV)感染症について③ ~診断・予防・管理・治療~ - オタ福の語り部屋 

【目次】

 

 

【FeLVで見られる臨床症状】

FeLVに感染した猫はみんながみんな感染によって臨床症状を引き起こすわけではありません。進行性感染であっても、数年間症状が見られないという場合があります。
しかし、FeLVでは骨髄抑制による貧血やリンパ腫、免疫抑制による二次感染など様々な病気を引き起こすのも事実です。

 

FeLV感染症による大規模な研究調査は数多く報告されています。その1つとしてFeLV感染猫の生存期間中央値に関する報告があります。この研究ではFeLV感染猫823匹とコントロール猫7476匹を比較した研究で、その結果…

FeLV感染猫の生存期間中央値
FeLVと診断されてから2.4年
ということがわかりました。

そのほかにもFeLV感染猫がどのくらいの割合でどのような症状を見せるかを調査した研究もあります。

FeLVの臨床症状と割合
・体重減少(63%)
・発熱(42%)
・脱水(35%)
・鼻炎(18%)
・下痢(17%)
・結膜炎(17%)
・口内炎(15%)
・リンパ節の腫脹(13%)

別の研究では…
・貧血(18%)
・上部呼吸器感染症(11%)
・リンパ腫(10%)

・骨髄増殖性疾患(6%)
・胃炎(5%)
・白血球減少症(3%)
・ヘモプラズマ症(3%)
・リンパ節の腫脹(3%)
・ぶどう膜炎(2%)

今回はFeLVで起こる特徴的な症状を順番に紹介していきたいと思います。

 

【骨髄抑制(特に貧血)】

『なぜ貧血が起こるのか』

FeLV感染症による症状で一番多いのが骨髄抑制であり、特に貧血です。
なぜ貧血が起こるのでしょうか?

骨髄の役割
骨髄の役割としてとても大事なのが『血液を作る』という仕事です。

FeLVに感染すると…
FeLV感染症では骨髄内で造血幹細胞と骨髄間質細胞の両方がウイルスに感染してしまい、正常に血液を作ることができなくなってしまうのです。
こういうわけで、FeLV感染猫では貧血が多いのです。

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『FeLV誘発性の貧血の種類とは』

FeLV誘発性とは
FeLV誘発性とはFeLVに感染したことで起こる貧血のことを指します。

一番多い赤芽球癆とは
FeLVが引き起こす貧血でもっとも多い種類の貧血が赤芽球癆(ろう)と呼ばれるものです。
赤芽球癆(ろう)とは何らかの原因で赤血球が作れなくなってしまう病気で、今回の場合その原因はFeLV感染です。
骨髄内で網状赤血球(←将来的に赤血球になるもの)の枯渇MCV(平均赤血球体積)の上昇という非再生像がみられることで同定します。

 

貧血の流れをまとめると
普段、骨髄で血を作っている

FeLVに感染すると骨髄細胞が赤血球を作れなくなる


赤血球の前身である『網状赤血球』が見られない
赤血球が大きくなり、MCVが高いという検査結果

再生像(血が新たに作られている像)が認められない非再生像が見られる。

 

たまにみられる再生性貧血
非再生性貧血ではなく、多少なりとも赤血球を作ろうとする再生像が確認できる貧血が認められることがあります。再生性貧血はFeLVにおいて発症は稀です。

再生性、非再生性貧血についてはこちらへ↓

www.otahuku8.jp

 

免疫介在性溶血性貧血
FeLV感染猫は免疫介在性溶血性貧血(IMHA)が認められる場合があります。この場合、骨髄増殖性疾患やリンパ腫などの出現に先駆けて起こります。

IMHAに関して詳しくはこちらへ↓

www.otahuku8.jp

 

『血小板減少症と汎白血球減少症』

FeLV感染において、骨髄抑制により血小板が少なくなる血小板減少症はとても重要になります。というのも、血小板減少症を有する猫の約44%でFeLVや骨髄増殖性疾患を有していることがわかっています。

血球減少が起こる理由
これはFeLVが引き起こす骨髄形成異常や白血病により骨髄が障害を受ける

正常な増血を行うことができなくなってしまう

という流れが主な理由となります。
そのほかにリンパ腫の骨髄浸潤や骨髄線維症、骨硬化症などに続発して起こります。

 

【腫瘍性病変】

FeLV感染に関連する腫瘍性病変で最も発生率が高いのは造血器系の腫瘍です。
造血器系とはいわゆる『血液成分』のことで、血液中に含まれているリンパ球などを言います。
造血器系腫瘍で最も多いのはリンパ腫です。FeLV感染猫のリンパ腫の発生率はFeLV非感染猫と比較し、約60倍とも言われています。
進行性FeLV感染をもつ猫の25%が2年以内にリンパ腫を発症しています。

 

FeLV感染で典型的なリンパ腫のタイプ
典型的なのは若齢猫の前縦隔リンパ腫です。
その他にも脊髄や腎臓、眼球などのリンパ腫が報告されています。

 

『なぜ腫瘍ができるのか』←専門的なので飛ばし読みOK!

FeLVが感染した際、なぜ腫瘍化するリスクが60倍にも跳ね上がるのでしょうか?
それはFeLVのゲノムが感染猫の細胞内のゲノムに侵入し、がん遺伝子(主に『myc』)と呼ばれる細胞分裂に関与している遺伝子の変異を活発に行います。
そして、その変異により細胞増殖のストッパーが壊されてしまい、細胞が無秩序に増殖します。これが腫瘍化する原因です。

さらにFeLVは厄介なことにFeLVはこれらのがん遺伝子を自分の遺伝子内に組み込むことができ、新たに侵入した細胞内へその癌原遺伝子を持ち込むことができます。

FeLV感染から腫瘍化への流れ(図解)

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リンパ腫を自然発生した猫では
リンパ腫を自然発症している119匹の猫でmyc(←がん遺伝子の1つ)の変異を調べたところ、38匹(32%)の猫でこのmycの何らかの異常が認められました。
FeLVはmycを狙うウイルスであることからやはり、腫瘍を誘発するリスクをあげるのだとわかります。

The myc locus was most frequently affected in naturally occurring lymphomas (32%; n = 38) either by transduction (21%) or by proviral insertion (11%).  引用文献:Genetic determinants of feline leukemia virus-induced lymphoid tumors: patterns of proviral insertion and gene rearrangement.

 

FeLVが狙うリンパ腫に関する遺伝子領域とは
・c-myc
・flvi-1
・flv1-2
・fit-1
・pim-1
・flit-1
これらの他に6つの領域があるのですが、解明されているのは現時点で6つです。
でもこれ絶対いらない知識ですね(笑)

 

あともう1個ウンチクを(笑)
FeLVの感染によって腫瘍化が起こるかどうかを決定しているのはFeLVの細胞表面にある糖蛋白だと言われています。これも絶対いらないです笑

 

『退行性FeLV感染であればどうなのか?』

腫瘍性病変を示すのは進行性FeLV感染が中心になっています。しかし、退行性FeLV感染も発生自体はかなり稀ですが、関与が報告されています。

 

【免疫抑制】

進行性FeLVに感染すると免疫力が一気に低下し、それによって発症する病気は多くの猫で見られ、死因にもなっています。
胸腺の萎縮やリンパ節傍皮質領域の消失が一般的に起こっています。

具体的に体内ではどんなことが起きているのか
・T細胞の減少
・同種移植片拒否反応の延長
・免疫グロブリン産生の低下
・好中球の機能低下
・サイトカインの制御不能
・ワクチンの反応の低下
などです。多いし、ややこしいですね(笑

覚えておくことはつまり、『免疫力が下がる』ということです。

間違えないで欲しいのは
ただ、免疫力が低下しているからといって、必ずしも他の感染症(細菌、ウイルス、真菌(カビ))に感染しやすいかというとそうではないみたいです。実際、FeLV非感染猫と比較し、感染症の発生率が高いという報告はわずかしかありません。

 

【そのほかの症状とは】

その他の症状を順番に話していこうと思います。

全身リンパ節の腫脹
進行性FeLVに感染した若齢の猫で全身リンパ節の腫脹がよく見られる

流産
母体の子宮内膜炎や胎児への経胎盤感染によって流産が起こる。

汎白血球減少症様症候群
FeLV感染で白血球数の減少が認められます。白血球が減少するという点で猫パルボウイルス感染症に似ているとよく言われています。
本当にパルボウイルスと共感染している猫もいると報告されています。

リンパ球形質細胞性胃炎
リンパ球形質細胞性胃炎はFIV(猫免疫不全ウイルス)感染猫で多く報告がありますが、FeLVでも発症が認められています。

神経疾患
尿失禁や、瞳孔不同症などがあります。
神経と尿失禁って関係あるのかと思われる方はいらっしゃると思いますが、膀胱はどのくらい膨らんでいるかを神経を介して感知し、膀胱の筋肉を緩めたり締めたりして、おしっこをしています。
膀胱周囲を司る神経系が破綻すると、尿失禁が起こるのです。

脊髄症
脊髄症があると啼鳴(異常な声を発すること)、知覚過敏、進行性の運動麻痺へと繋がっていきます。
FeLVはチアミン受容体(THTR1)をブロックすることでチアミンの細胞内への取り込みを阻害すると言われています。チアミンとはエネルギーの代謝で必須のビタミンであり、チアミンの欠乏は神経障害を引き起こすことで有名です。
この結果として、脊髄症が悪化します。

 

【最後に】

今回はFeLV(猫伝染性白血病)の症状について説明しました。FeLVは骨髄の細胞に感染し、血液を作らせなくします。そのため、貧血や白血球減少症、免疫抑制などの症状が見られます。
そして、忘れてはいけないのが腫瘍性病変。
このFeLV関連の腫瘍性病変で有名なのがリンパ腫です。リンパ球のゲノム内に侵入し、mycなどの癌遺伝子をウイルスがいじることでがん化します。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 978-983p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 625-628p

見上彪 監修: 獣医微生物学 第3版, 文英堂出版, 2011, 274-280p

 

【FeLV感染症の連載はこちら】

www.otahuku8.jp