オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

『犬のリンパ腫③』~診断方法~

スポンサーリンク

f:id:otahukutan:20190414133800p:plain

【はじめに】

今回は『犬のリンパ腫』第3回、リンパ腫の診断方法です。
リンパ腫は『血液の腫瘍』で、腫瘍とは『異形な細胞が無秩序にモノクローナル増殖していること』が定義です。

診断方法としては身体検査や血液検査、FNA、病理生検などがあります。今回はどのような検査でリンパ腫を診断していくのか見ていきたいと思います。

 

【目次】

 

 

【診断】

『身体検査』

身体検査で行うこと
・全身体表リンパ節の触診
・直腸検査
・可視粘膜のチェック:蒼白、黄疸、点状出血、潰瘍
(可視粘膜の異常は貧血や血小板減少症、骨髄癆、免疫介在性疾患、臓器障害、尿毒症などを知るのに役立ちます。)
・腹部の触診:臓器の腫大、腸管壁の肥厚、腸間膜リンパ節の腫脹
・胸部の聴診
・眼科検査:眼底検査、ぶどう膜炎、網膜出血、腫瘍の眼内浸潤
(リンパ腫の犬の1/3~1/2で眼球の異常が見られます。)

f:id:otahukutan:20190413103533p:plain

 In approximately 60% of dogs presenting for uveitis an underlying cause was not found, and a diagnosis of immune-mediated or idiopathic uveitis was made. However, approximately 25% of dogs had ocular and/or systemic neoplasia (with 17% of cases having lymphosarcoma) and 18% with an underlying infectious cause for uveitis. 引用文献:Causes of uveitis in dogs: 102 cases (1989-2000).

 

『血液検査:CBC』 

正球性正色素性貧血
リンパ腫に関連する血液系の異常では『貧血』が一番よく見られます。
正球性正色素性貧血は非再生性貧血で見られる所見です。 

再生性貧血の場合も
溶血や出血による貧血も見られることがあり、その場合は血液塗抹標本などで再生像が見られます。 

骨髄癆が見られたら…
もし骨髄癆が見られたら、血小板減少症やリンパ球減少症を伴った貧血が見られる場合があります。
血小板数、血液凝固能試験などをチェックします。

 

「血小板減少症」

リンパ腫の30~50%の症例で見られます。
しかし、血小板減少による出血は滅多に問題となりません。

 

「好中球減少症」

25~40%の症例で見られます。

 

「循環異形リンパ球」

循環血液中に異形リンパ球が見られた場合は、骨髄への浸潤あるいは白血病の可能性を考えなければなりません。こういった抹消血液中に異形なリンパ球(脳回様核を有するリンパ球)が見られる症状を『セザリー症候群』と言います。


リンパ腫の骨髄浸潤であった場合、ステージⅤの末期ガンです。
リンパ芽球性白血病であった場合、リンパ腫と予後が異なるため鑑別が大事。

 

セザリー症候群(写真)

セザリー症候群
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia):セザリー症候群』

 

「低タンパク血症」

腸管型リンパ腫の場合に最も多く見られます。
もし高タンパク血症があったならば、アルブミンとグロブリンを分けて考えた方がいいです。
リンパ腫の6%ではグロブリンガンモパシーが起きているという報告があります。 

高タンパク血症についてはこちらを参照してください↓

www.otahuku8.jp

 

『血液検査:生化学』

「高カルシウム血症」

リンパ腫では高カルシウム血症は多々見られます。
原因不明の高カルシウム血症が見られた場合は、有力候補?というか必ず疑わなければならない疾患としてリンパ腫が上がるほどです。
さらに、
リンパ腫における高カルシウム血症の可能性として、
高カルシウム血症は治療の効果や再発初期のバイオマーカーになります。

 

「BUNとCreの上昇」

・腎臓へのリンパ腫の浸潤
・高カルシウム血症による腎炎
・脱水による腎前性腎疾患
によって起こります。

 

「肝酵素の上昇」

肝実質へのリンパ腫の浸潤により、肝酵素やビリルビンの上昇が見られます。

 

「高グロブリン血症」

B細胞性リンパ腫によって産生される抗体がモノクローナル増殖をするために見られます。

 

『尿検査』

腎疾患を抱えている時、尿検査で等張尿やタンパク尿などの異常が見られます。

 

『リンパ腫のバイオマーカーになるもの』

・α-フェトプロテイン
・α1糖蛋白レベル
・亜鉛
・クロム
・鉄
・エンドスタチン:血管新生抑制作用のある蛋白
・VEGF(血管内皮成長因子)
・乳酸
・脱水素酵素
・CRPハプトグロビン
・抗酸化/酸化ストレスマーカー

 

【腫瘍細胞を調べる】

『リンパ節のFNA、病理生検』

リンパ腫の診断において、腫瘍細胞を生検し、調べることは必須の検査です。
そして、リンパ節の腫脹が見られる場合はリンパ節の細胞診あるいは病理組織学的検査を行うことは非常に有用性の高い検査となります。
特に体表リンパ節のFNAは侵襲度が低く、非常に便利な検査方法です。特に浅頚リンパ節や膝窩リンパ節では行いやすいです。

一方で、
体表リンパ節以外にも、肝臓や脾臓、腹腔内リンパ節のFNAは超音波ガイド下で行うことができます。
リンパ節以外での生検は後ほどご説明します。

 

「FNAでできること」

リンパ節の細胞診は侵襲性が低く、比較的容易にできる検査であるため、とても重宝されます。

リンパ節FNAの特徴
・異型なリンパ球を見つけることができる
・異型なリンパ球は通常のリンパ球に比べ、大きく未熟
・有糸分裂像が多見される
・低/中/高グレードでの細分類まで可能!
単なる細胞診であるにも関わらず、こんなにもたくさんの情報が得られます。
一方で、いいことだけではありません。FNAには弱点や注意点もあります。

 

リンパ節FNAの注意点
・細胞が脆いので、丁寧にFNAを行う必要がある
・リンパ濾胞の消失などがリンパ節の構造が評価できない
・小球性リンパ腫の場合、反応性過形成との鑑別が困難

 

「病理組織学的検査でできること」

病理生検を行う場合、ツルーカットのように中途半端にリンパ節の一部を生検するのではなく、腫大しているリンパ節の全摘出を行うべきです。
というのも、
ツルーカットの場合、組織が潰れてしまう可能性があるから
そして、これは病理医側の都合ですが
全摘出の方が、病理医が最大限の情報を得ることができるからです。
僕も大学で病理学教室の所属しているのですが、やはり生検サンプルはたくさんあった方がその分情報量も多く、正確な診断ができるのは確かです。

 

病理組織学的検査のメリット
・濾胞構造の消失があるかチェックできる
・被膜を超えて浸潤増殖しているか見れる
FNAに比べ侵襲度は上がってしまいますが、得られる情報はFNAの完全な上位互換です。

 

『リンパ節以外の生検、CSF』 

腫瘍の病変、内視鏡生検
腸管型リンパ腫の場合、内視鏡生検が行われることが多いです。
それはリンパ球性腸炎(LPE)と腸管型リンパ腫を鑑別するために行われます。
しかし、内視鏡生検は腸管の表層部分しか生検することができないので、診断精度はそこまで高くないです。

 

皮膚リンパ腫のパンチ生検
皮膚リンパ腫を疑う場合、4~8mmのパンチ生検を行います。
免疫表現型やクローナリティ検査もやっておくとより正確な診断ができます。

 

CSF(脳脊髄液)

中枢神経に影響が疑われる場合、CSFを採取するべきです。
中枢神経関与が疑われる犬8匹のCSFを用いた研究では
8匹中7匹で単核球の増加が認められ、その95~100%が異形なリンパ球でした。
蛋白濃度は5匹の犬で上昇を認めました。(基準値<25mg/dLに対して、34~310mg/dL) 

Central nervous system lymphosarcoma was diagnosed in 8 dogs with seizures and clinical signs compatible with multifocal central nervous system involvement. Cerebrospinal fluid analysis showed high white cell counts with abnormal lymphoid cells in all dogs, and high protein concentration in 5 dogs.  引用文献:Central nervous system lymphosarcoma in the dog.

 

『分子学的診断テクニック』

「分子学的診断テクニックとは」

分子学的診断テクニックとは具体的には
・免疫染色
・PCR
・フローサイトメトリー
などのことを言います。

 

「何のために行うのか、何がわかるのか」

前項で解説したFNAや生検で異形なリンパ球が見られた場合、リンパ腫の可能性が示唆されますが、それ以上のことが言えません。

 

この分子学的診断テクニックを用いると
・リンパ腫と反応性リンパ球症(非腫瘍性病変)
・B細胞性かT細胞性か
など
より細かい部分まで区分することができます。

 

リンパ腫はどのタイプかによって治療法や予後が微妙に異なるため、正確に区分できることでより確実な治療戦略を立てることに繋がります。

 

『免疫表現型の検査にも例外はある』

僕の経験上では多少の混在は見られるものの基本的には
T細胞性リンパ腫であればCD3,CD4,CD8抗体を用いた免疫組織染色で、
B細胞性リンパ腫であればCD79a,CD20,CD21抗体を用いた免疫組織染色
パキッと染め分けができ、判断は容易です。

 

一方で、59匹のリンパ腫の犬を用いた研究では6匹がT細胞の抗体、B細胞の抗体の両方に対し、陽性を示したという報告があります。
その場合はフローサイトメトリーなどの他の検査方法でも検査を行うなど、複合的な検査が必要になります。

引用文献:下記参照

Dual immunofluorescence staining confirmed co-expression of T-cell (CD3) and B-cell antigens (CD79a or CD21) on neoplastic lymphocytes of six mixed cell cases. In one mixed cell case, dual immunostaining identified lymphocyte populations that stained mutually exclusive for CD79a and CD3. Six mixed cell lymphomas tested by PCR showed clonality for rearranged antigen receptor. Four cases that were CD79a+CD3+ had TCRγ chain gene rearrangements, whereas two cases that were CD3+CD8+CD21+ had Ig heavy chain rearrangement. One case expressing multiple CD molecules (CD3+CD8+CD21+CD14+) was PCR negative for both Ig and TCRγ gene rearrangement and could not be classified into a B- or T-cell lineage.  引用文献:Lineage differentiation of canine lymphoma/leukemias and aberrant expression of CD molecules

 

『クローナリティアッセイ』

リンパ腫の診断や悪性・良性の鑑別を行う時、病理組織学的検査や細胞診では限界がある場合があります。
そんな時にクローナリティアッセイを利用します。
クローナリティアッセイとは簡単にいうと『一種類のリンパ球が増えている(モノクローナル性増殖)か、複数種のリンパ球が増えている(ポリクローナル)か』を調べる検査です。
 

腫瘍の場合
T細胞性やB細胞性の場合、同じ免疫表現形の腫瘍細胞がモノクローナルに増殖するため、クローナリティアッセイをかけると非常にわかりやすいです。
 

反応性リンパ球症の場合
T細胞、B細胞の両方が混在して増殖するので、ポリクローナルな増殖形態を示します。

 

「この検査の感度」

感度とは検査結果で陰性を示した場合に、実際の症例が陰性であった確率を言います。

この検査の感度は70~90%です。偽陽性は5%ほどとされています。

 

偽陰性を示す場合
・手技的な問題:DNAのクローナルセグメントをプライマーが検知できなかった
・NK細胞性リンパ腫(稀)
・サンプルが少なすぎた

 

偽陽性を示す場合
・何らかの感染症に感染している

 

「この検査の可能性」

クローナリティアッセイは再発の早期発見や、正確なステージングを行う上でもその正確性を寄与しています。

 

『プロテオミクス』←まだ実践的ではない

プロテオミクスとは細胞のタンパク質を分析する方法のことを言います。 

悪性腫瘍細胞特有の細胞内蛋白を同定することができれば、プロテオミクスによるリンパ腫の診断価値があると言えます。さらには治療を始めた際にも、腫瘍に治療が効いているかを判断するために使うこともできます。

ただし、この検査方法は獣医業界ではまだまだ未熟なものなので、実際の臨床現場で使うことはまだ難しいでしょう。

 

【最後に】

 今回は犬のリンパ腫の診断方法についてお話ししました。
リンパ腫は細胞診である程度診断可能です。そして、組織生検の免疫組織化学染色やフローサイトメトリー、PCRなどでモノクローナル性増殖の確認と免疫表現型の同定を行っていくという流れになっています。そのほか、臨床症状や血液検査などと合わせて多面的に病気を捉えていくことが大切になると思います。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 608-638p

 

【この記事を読んだ方にオススメの記事】

www.otahuku8.jp