オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

地域猫では結構ある?猫白血病ウイルス(FeLV)感染症について① ~概要と感染経路~

スポンサーリンク

f:id:otahukutan:20190407185844p:plain 

【はじめに】

皆さんは『FeLV』というウイルスをご存知でしょうか?FeLVとはFeline Leukemia Virusの略称で直訳すると『猫白血病ウイルス』と言います。今回はこのFeLVに感染した際に起こる『猫白血病ウイルス感染症』についてお話ししていきたいと思います。

②はこちら↓↓
地域猫では結構ある?猫白血病ウイルス(FeLV)感染症について② ~症状~ - オタ福の語り部屋

 

【目次】

 

 【背景:どんなウイルスなのか】

FeLVは世界中の猫で感染が認められています。
FeLVはレトロウイルス科と呼ばれる逆転写酵素をもつウイルス科に属しています。そんなFeLVのRNAは感染細胞内に侵入し、DNAを逆転写酵素を用いてコピーしていきます。このコピーされたDNAの中にはFeLVのウイルスDNAが組み込まれ、プロウイルス(provirus)として宿主細胞のゲノム内に存在します。

そして、
感染した宿主細胞の細胞分裂が行われると、プロウイルスが組み込まれた娘細胞が作られます。

プロウイルスDNAから設計されるウイルス蛋白がウイルスの元になります。

レトロウイルスの複製サイクル

f:id:otahukutan:20190228114837p:plain

イラスト出典:日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 627p, 図14-13

 

※逆転写酵素とは
通常、細胞の核内では『二本鎖DNA→開裂し、一本鎖DNAになる→一本鎖DNAに鋳型RNAが結合→DNAの複製を行う』という『DNA→RNA→DNA』という流れで行われますが、
逆転写酵素を有するレトロウイルス科では『一本鎖RNAから逆転写酵素を用いて→二本鎖DNAを作成→宿主DNAと混じり→ウイルスDNAを作成』という『RNA→DNA→DNA』という流れを作ります。

f:id:otahukutan:20190407180501p:plain

 

話を戻して、ウイルスに感染した宿主細胞内のウイルスゲノムではgag、pol、envといった主要な蛋白をエンコード(設計図として持っているということ)しています。

gagの一つ、p27とは
gagの一つであるp27は感染猫の血漿中にたくさん含まれており、最近の検査ではこのp27を検出することで診断を可能にしています。

エンベロープ蛋白、gp70
gp70はウイルスのサブタイプを定義しています。そしてこの蛋白は免疫を誘導するのに大切や役割を担っています。

 

【FeLVの感染状況とは】

FeLVの感染状況としては世界全体としてどこも似通った感染率です。健康的な猫では1%、ハイリスクな猫や病弱な猫では15%の感染が認められています。

ハイリスクな猫というのはFeLVに感染しやすい猫のことで、具体的には以下の特徴をもつ猫のことを言います。

FeLVのハイリスク因子
・病気を患っている
・雄
・成猫
・外飼いあるいは放し飼い
・多頭飼育
逆に完全室内飼育の猫や去勢した猫ではFeLV感染症は少ないという報告があります。

Multivariable analysis indicated that age, sex, health status, and cat lifestyle and source were significantly associated with risk of seropositivity, with adults more likely to be seropositive than juveniles (adjusted odds ratios [ORs], 2.5 and 2.05 for FeLV and FIV seropositivity, respectively), sexually intact adult males more likely to be seropositive than sexually intact adult females (adjusted ORs, 2.4 and 4.66), and outdoor cats that were sick at the time of testing more likely to be seropositive than healthy indoor cats (adjusted ORs, 8.89 and 11.3). 引用文献:Seroprevalence of feline leukemia virus and feline immunodeficiency virus infection among cats in North America and risk factors for seropositivity.

 

FeLV感染が疑わしい症状
リンパ腫(12.7%)や口内炎(7.3%)、膿瘍(膿が溜まった塊)、咬傷(9.9%)などがある猫ではFeLVに感染している可能性があります。発生リスクで雄があるのはこういった喧嘩が原因にあるのかもしれませんね。

下の引用文献はドイツでの1980~1994年(first)と1995~2009年(second)でのリンパ腫発生猫を調べたデータです。1995~2009年でリンパ腫を呈した猫の13%はFeLV感染猫だったと書いてました。

There was a significant decrease in the percentage of lymphoma cases associated with progressive FeLV infection from the first (59 per cent) to the second (13 per cent) observation period.  引用文献:Changes in prevalence of progressive feline leukaemia virus infection in cats with lymphoma in Germany.
The combined FeLV-FIV status of only 96 (9.9%) cats was known prior to wound treatment.  引用文献:Seroprevalences of feline leukemia virus and feline immunodeficiency virus in cats with abscesses or bite wounds and rate of veterinarian compliance with current guidelines for retrovirus testing.

現在の状況は
現在、ワクチンが普及したことにより、FeLVの感染数は減少傾向にあります。

 

【病原性】

『接種部位別、ウイルスの体内での動き方』

実験的にFeLVウイルスを様々な場所に直接接種すると以下のような動き方をすることがわかりました。

皮膚や粘膜に接種
体内に侵入したFeLVは一度リンパ器官に集結します。リンパ器官とは脾臓や胸腺、リンパ節などのことを言います。

唾液腺や胃粘液分泌腺に接種
ここからFeLVが大量に分泌されます。水平伝播の根源となります。

骨髄に接種
ウイルスに感染した好中球や血小板が末梢血液中に流れ出します。

 

『FeLV感染症には3つのタイプがある』

FeLV感染症は血液中の抗原、ウイルス、抗体のどれが検出されて、どれが検出されないかによって3つのタイプがあります。

FeLV、3つのタイプ
①進行性感染
②退行性感染
③不稔性感染

これらのタイプは猫の免疫機能や感染したウイルスの量によってタイプ分けがされると言われています。
まとめると以下の表のようになります。

f:id:otahukutan:20190228000656p:plain

では、別々に見ていきましょう。

 

『①進行性感染』

進行性感染とは上記の表にも記していますが、血液のPCR検査において抗原、プロウイルスが陽性を示しているものを言います。

この進行性感染を起こしている猫の体内ではリンパ器官や骨髄への感染によって、FeLVを攻撃するためのFeLV特異的免疫が不足していす。

進行性感染による免疫力の低下(図解)

f:id:otahukutan:20190407185844p:plain



どのくらいの猫が感染しているか?
全体の何%ぐらいがこの進行性感染を起こしているかというと、それは"infection pressure"すなわち"感染環境にどの程度いたか"によるということです。
ある報告ではこの感染を起こした猫と一回接触した猫では約3%であり、数週間生活を共にした猫では30%ほどの発生率を示すということがわかっています。

予後はどの程度なのか
一般的に進行性感染を起こした猫では生存期間が他のものと比べ、短いとされています。
具体的な生存期間中央値は3.1年(範囲:0.6~6.5年) 

A supplementary analysis of 20 experimentally infected cats with progressive infection revealed a median survival time of 3.1 years (range from 0.6 to 6.5 years) 引用文献:Long-term follow up of feline leukemia virus infection and characterization of viral RNA loads using molecular methods in tissues of cats with different infection outcomes.

 

『②退行性感染』

 退行性感染とは進行性感染と異なり、血液中にウイルス抗原は認められず、PCR検査にてプロウイルスが確認される場合を指します。

免疫反応によってある程度ウイルスの増殖を制限している状態です。
この退行性感染を示すFeLV感染猫は約2~10%の割合です。

ウイルスの動き方
退行性感染を起こす猫でも、感染から数週間は血液中にウイルス抗原が見られる場合がありますが、これは一時的なものです。
退行性感染を起こした猫は一生、プロウイルスが組み込まれた娘細胞を保持し続けるため、完全にウイルスが体内からいなくなることがありません。
データとしては12年前にFeLVに感染した猫でさえも、FeLVのRNAやプロウイルスの確認が報告されています。

退行性感染で続発する疾患
FeLVはリンパ腫や骨髄抑制(血液を作れなくなる)を引き起こすことで有名ですが、退行性感染の場合はそのような続発疾患の報告は稀です。


他の猫へ感染するの?
血液や臓器移植を介して、プロウイルスが移行すると感染が伝播するとされています。

進行性感染になることはある?
退行性感染から進行性感染に変換されることも報告例としてはあります。

 

『不稔性感染』

不稔性感染ではウイルスの増殖も、抗原も、ウイルスRNAも、プロウイルスも見られず、抗体のみが検出される状態をいいます。

この不稔性感染ではウイルス抗体があるので、FeLVの感染が成立せず、ワクチンが必要ありません。

 

【感染方法について】

ウイルスの感染が起こるのは進行性感染の猫が基本となります。

ウイルスを多く含んでいるもの
・唾液
・母乳
・鼻汁
・糞
・尿

これらにはFeLVウイルスがたくさん含まれているので、適切な取り扱いが必要になります。

感染経路(水平感染)
水平感染の感染経路は主に鼻や口からあるいはケンカなどによる咬傷からウイルスが侵入してきます。その他、グルーミングお皿の共有など感染猫との濃厚な接触もウイルス伝播の原因となります。
※水平感染:同居猫、仲間への感染のこと

 

感染経路(垂直感染)
垂直感染の感染経路は主に子宮内胎児や母乳、糞などから感染が起こります。
※垂直感染:母猫から子猫へといった、次世代への感染のこと

 

やはり、子猫は感染しやすい
FeLVは子猫の方が成猫よりも感染が成立しやすいようです。特に生後4ヶ月未満の猫(感染率ピークは2ヶ月齢)では進行性感染の発症率が有意に高いです。というのも、免疫系が発達していないためです。

 

【最後に(まとめ)】

今回、FeLVの概要と感染経路についてお話ししました。
FeLVで覚えておくことを箇条書きでまとめてみます。

FeLV(猫伝染性白血病)概要編のまとめ
・子猫で感染が多い
・外飼い猫、地域猫では保有のリスクあり
・進行性感染では他猫への感染が起こる
・感染猫との濃厚接触は避ける
以上の留意点に注意してもらえればと思います。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 978-983p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 625-628p

見上彪 監修: 獣医微生物学 第3版, 文英堂出版, 2011, 274-280p

 

【FeLV感染症の連載はこちら】

www.otahuku8.jp