【はじめに】
前回『犬のリンパ腫①』統計、原因、分類を解説しました。
今回は犬のリンパ腫②と称して『リンパ腫の症状』について解説していきます。
犬のリンパ腫の症状は発生部位によって異なります。多中心型なのか、腸管型なのか、縦隔型なのかなど、それぞれの症状を発生部位別にお話ししていきたいと思います。
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【目次】
【症状】
リンパ腫による症状はその程度と発生場所によって異なります。
前回にお話しした分類を元にリンパ腫にお話ししていきます。
『多中心型リンパ腫』
「全身のリンパ節が…」
多中心型リンパ腫では全身のリンパ節が腫脹(腫れる)してきます。そして、大きな特徴として腫大したリンパ節は“硬く弾力”があり、“痛みを伴わない”ことです。
顕著に見られる場所としては
・下顎リンパ節
・浅頚リンパ節
です。
「全身症状としては…」
リンパ腫は基本的には全身症状を伴いません。
ですが、見られる場合もあります。
リンパ腫で見られる症状
・食欲不振
・体重減少
・嘔吐
・下痢
・憔悴(やつれる)
・腹水貯留
・多飲多尿:T細胞性リンパ腫では高Ca血症になりやすいため
・発熱
「重篤な症状では…」
骨髄に腫瘍が浸潤してしまう骨髄癆(ろう)や腫瘍随伴性の貧血、血小板減少症、好中球減少症などがあります。
『腸管型リンパ腫』
特異的な症状は見られません。
腸管型リンパ腫の症状
・嘔吐
・下痢
・体重減少
・吸収不全
・腸間膜リンパ節や肝臓、脾臓の腫脹
『縦隔型リンパ腫』
縦隔型リンパ腫では縦隔や胸腺の腫脹から、発覚することが多いです。
高カルシウム血症による症状
縦隔型リンパ腫はそのほとんどがT細胞性リンパ腫であり、高カルシウム血症になりやすいのが特徴です。
高カルシウム血症になると多飲多尿が起こります。
呼吸困難
腫脹した腫瘤が胸腔を占領してしまうことでおきます。
precaval症候群(前胸部症候群)
前大静脈に腫瘍栓(腫瘍の塊が血管を塞ぐこと)ができる症候群で、頭部、頚部、前肢の点状浮腫によって発覚することが多いです。
『皮膚型リンパ腫』
皮膚型リンパ腫は全身性かつ多発性の疾患です。
「肉眼的な見え方」
腫瘍によって様々な見え方があります。
・結節:数ミリ〜数センチのものまである
・プラーク:平らに盛り上がったもの
・潰瘍
・紅斑
・脱色素性皮膚炎
・脱毛
など、様々です。
Diffuse erythema (86.6%) with scaling (60%) and focal hypopigmentation (50%) were the most common lesions. 引用文献:Canine cutaneous epitheliotropic T-cell lymphoma: a review of 30 cases.
「表在向性リンパ腫(菌状息肉腫)」
表皮向性リンパ腫は症状の段階別で3つのステージに分類されます。
ステージ1:前息肉腫期(紅斑期)
・鱗屑:フケみたいにカサカサある
・脱毛
・掻痒感:痒みがある
・紅斑
・色素沈着
↓
ステージ2:息肉腫期(局面期)
ステージ1よりさらに進行すると
・紅斑性、肥厚性、隆起性の局面
・潰瘍
・滲出液出てくる
↓
ステージ3
・増殖性プラーク
・潰瘍
・結節
表皮向性リンパ腫(菌状息肉腫)
「非表皮向性リンパ腫」
孤立性あるいは多発性の皮下結節やプラークができます。
「口腔内リンパ腫」
歯肉や口唇で多中心性の紅斑性プラークや結節が見られます。
『中枢神経系リンパ腫』
痙攣や運動麻痺が見られます。
『眼球のリンパ腫』
・虹彩の肥厚
・ブドウ膜炎
・前房蓄膿
・前房出血
・虹彩後癒着
・緑内障
などの症状が見られます。
多中心型リンパ腫の37%の症例が眼球へのリンパ腫を続発しています。
そして、
ぶどう膜炎を示しているの犬の17%がリンパ腫を原疾患に持っているという報告もあります。
前部ブドウ膜炎はステージⅤのリンパ腫で多くみられます。
眼球のリンパ腫(図解)
In a prospective study of ocular involvement in canine multicentric lymphoma 37% of cases had ocular changes consistent with lymphoma: thus ocular involvement is second most consistent sign of the disease, only second in number to lymphadenopathy, occuring in 100% of cases. 引用文献:Prevalence of ocular involvement in dogs with multicentric lymphoma: Prospective evaluation of 94 cases
『血管内リンパ腫』
血管内リンパ腫は中枢神経系や末梢神経系、眼球のリンパ腫と関連して見られます。
具体的な症状
・運動麻痺
・運動失調
・知覚過敏
・発作
・視覚障害
・虚脱
・食欲不振
・体重減少
・下痢
・多飲多尿
・間欠性の発熱
『脾臓・肝臓のリンパ腫』
特異的な症状は見られないですが、虚脱や食欲の低下、元気消失などが見られます。
『鑑別すべき症状』
「リンパ節の腫大」
リンパ節の腫大はリンパ腫に限らずとも起こります。
その多くは感染症によるものです。
犬の渡航歴や大きさ、形状のいびつさ、腫脹しているリンパ節の場所などを注意して観察しなければなりません。
感染症
・細菌
・ウイルス
・寄生虫:トキソプラズマ、リーシュマニア
・リケッチア:サケ中毒
・真菌:ブラストミセス、ヒストプラズマ属
免疫疾患
・全身性エリテマトーデス
・天疱瘡
などでもリンパ節の軽度〜中等度の腫脹が見られます。
リンパ腫のリンパ節の特徴
・硬い
・周辺組織との固着が見られる
『リンパ腫の腫瘍随伴症候群』
「貧血」
貧血はリンパ腫の腫瘍随伴症候群の中でも最も多く見られます。
「高カルシウム血症」
高カルシウム血症も貧血と同様によくみられます。
高カルシウム血症で見られる症状
・食欲不振
・体重減少
・筋力低下
・虚脱
・多飲多尿
・中枢神経障害
・昏睡状態
などです。
高カルシウム血症を起こす原因
・PTHrP(パラソルモン関連タンパク)
・IL-1
・TNF-α
・TGF-β
・ビタミンD
など、腫瘍細胞が産生するホルモンが関与しています。
ちなみに
高カルシウム血症を起こしやすいのはT細胞性リンパ腫の方が多いと言われています。
「その他」
・モノクローナルガンモパシー
・神経障害
・悪液質
【最後に】
今回はリンパ腫が示す症状を発生部位別にご紹介しました。リンパ腫には腫瘍が引き起こす症状だけでなく、腫瘍随伴症候群という腫瘍細胞が産生する物質などによって、何らかの悪影響を受ける場合もあります。
【本記事の参考書籍】
Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwen’s SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed., ELSEVIER, 2013, 608-638p