【はじめに】
今回は『ノミアレルギー性皮膚炎』について説明します。ノミアレルギー性皮膚炎はノミが体表に寄生し、ノミの唾液に含まれる物質に反応して起こるアレルギー性皮膚炎です。 暖かくなるこの時期から徐々に増え始め、夏~秋にかけてピークを迎えます。
【目次】
- 【はじめに】
- 【ノミアレルギー性皮膚炎とは?】
- 【発生機序(アレルギーが起こる原因)】
- 【臨床症状(よく見られる症状)】
- 【鑑別疾患(似たような症状を示す病気)】
- 【診断方法】
- 【治療法:ノミのコントロール】
- 【治療法:痒みのコントロール】
- 【予後】
- 【最後に】
- 【本記事の参考書籍】
- 【この記事の読者にオススメの記事】
- 【オタ福のTwitterはこちら】
【ノミアレルギー性皮膚炎とは?】
ノミアレルギー性皮膚炎とは体表に付着したノミによって引き起こされるアレルギー性皮膚炎のことを言います。
【発生機序(アレルギーが起こる原因)】
宿主体表に寄生したノミは動物の血液を吸うために噛みつきます。成ノミは主にこの吸血行為によって栄養を得ています。
噛みつく際にノミの唾液中に含まれる蛋白(ヒスタミン様物質や各種酵素類)によって宿主ではアレルギー性反応を示します。
ノミアレルギー性皮膚炎の発症機序(図解)
ここでよく間違われるのが『ノミ刺咬性皮膚炎』です。
ノミ刺咬性皮膚炎はノミが体表に咬みつく際の物理的な刺激による炎症です。ノミアレルギー性皮膚炎はノミの唾液中に含まれる蛋白を宿主が異物と判断し、炎症を引き起こしているものなので注意しましょう。
【臨床症状(よく見られる症状)】
『季節性』
まずノミアレルギー性皮膚炎の最大の特徴は『季節性』であること。ノミの活動は暖かい時期に活発になります。
一年中痒がっているか、あるいは夏~秋にかけて特に痒がっているかを注目してみると良いかもしれません。
『犬のノミアレルギー性皮膚炎』
「痒みが出る部位」
犬では痒みが出る部位が特徴的です。
痒みが出る部位は犬では特徴的な部位があるのですが、猫ではあまりないという報告があります。
犬のノミアレルギー性皮膚炎で痒みが出る特徴的な部位として
・背中の腰周り
・尻尾の付け根
・内股
・横っ腹
などです。
繰り返しになりますが、これは犬の話です。
ノミアレルギー性皮膚炎で痒みが出る部位(図解)
「病変部」
病変部は痒みを伴い、丘疹性または潰瘍があります。
そのほか
・紅斑症
・脂漏症
・脱毛症
・掻きむしった傷
・膿皮症
・色素沈着症
・苔癬化
などを伴います。
『猫のノミアレルギー性皮膚炎』
話を猫に戻して、具体的な症状について見ていきましょう。
猫では特徴的な痒がる部位というものがありません。
猫のノミアレルギー性皮膚炎で一般的に見られるのは、掻きむしった後にできる脱毛と掻痒を伴う粟粒(ぞくりゅう)性皮膚炎です。
この病変がよく見られるのは首や腰、内股、腹部などですが、通常全身で見られます。
そのほかに見られる症状としては
・過剰なグルーミング(毛づくろい)による全身性の脱毛
・好酸球性肉芽腫などの病変
【鑑別疾患(似たような症状を示す病気)】
上述した症状と似たような症状を示す病気はたくさんあります。
鑑別疾患リスト
・アトピー性皮膚炎
・食物アレルギー
・他の外部寄生虫感染症(疥癬、爪ダニ、シラミ、毛包虫)
・表在性膿皮症
・皮膚糸状菌症
・マラセチア感染症
【診断方法】
①痒みの場所
犬では背中の腰回りに痒みがあると、かなり疑わしい。
猫では痒みがあれば取りあえず、疑いましょう。
②ノミがいる証拠を発見する
動物の体をよく観察し、ノミ本体を発見するのもいいですが、ノミがしたウンチを発見することでも十分です。猫みたいにすぐにグルーミングするような動物ではノミが取り除かれていて見つけにくい可能性があります。
③ノミ抗原に対する特異的IgE抗体の確認
手っ取り早いのが特異的IgE抗体検査です。これは血清でできますし、ステロイドなどの免疫抑制剤の影響を受けないので、とても便利な検査です。ただ、偽陰性の可能性があることも忘れずに。
④皮膚生検
程度によって異なりますが、好酸球を中心とする炎症性細胞が多数浸潤しています。
⑤治療的診断
駆虫薬を投与し、症状の改善が認められればノミによる可能性があったのかもと言えます。あまり科学的ではありませんが。
【治療法:ノミのコントロール】
その理由として、特定有効成分は慢性的な使用とノミの遺伝的浮動によって、その有効性を失っているからです。
とはいえ、駆虫薬を使用すればほとんどのノミは落ちていきます笑
以下色々と書いてますが、参考にする程度で結構です!
『昆虫成長制御薬とは』
昆虫成長制御薬(IGR)は昆虫の孵化や変態、蛹化を抑えて、ノミやダニの卵を死滅される薬です。成虫には効かないのですが、ノミやダニといった世代交代が早い虫では高い駆除効果を発揮します。
ルフェヌロン
経口投与または皮下注射によって投与し、血中濃度が上昇すると、その血液を吸血した雌ノミに取りこまれます。その後、卵内にも薬が移行し、孵化に関わるキチン質の合成が阻害されることで、ノミが死滅するという薬です。
メトプレン/ピリプロキシフェン
昆虫幼若ホルモン類似薬でノミやダニ、シラミなどの卵の孵化や幼虫の変態・蛹化を阻害する薬です。
『ノミ感染を疑う犬猫では』
2~4週間ごとにフィプロニルを経口投与すると効果的です。
そのほかのやり方では
・フララナー(ブラベクト®️)を30~60日ごとに経口投与
・アフォキソラネル(ネクスガード®️)
・サソラネル(シンパリカ®️)
・スピノサド(コンフォティス®️やトリフェクシス®️)
『重症例では』
重症例ではニテンピラムという薬をミニアムドーズ(最小用量:1mg/kgを1~2日おきに経口投与)を4週間続けます。
別の方法では水で0.2%に希釈したピレスリンスプレーを防虫剤として使用する方法があります。
『予防的な使い方』
ノミアレルギー性皮膚炎はノミによるアレルギー性皮膚炎です。そのため、ノミ感染が疑われるような犬と接触する予定がある場合は予防的にニテンピラムをミニマムドーズで使用しておくのもありでしょう。
ノミ感染が疑われる犬と接触する場所
・トリミング
・動物病院
・公園
などです。
ただ、動物病院で駆虫薬を使用していれば、心配する必要ないでしょう。
『駆虫薬を使う時期とは』
基本的には春先から初雪が見られるまでの季節で必要とされています。とはいえ、ノミはよっぽど寒い地域を除いては一年中いる可能性を捨ててはいけません。
【治療法:痒みのコントロール】
ノミのコントロールと痒みのコントロールは全くの別物なので、敢えて項を分けて記載しました。
『局所的な痒みを抑える』
抗生剤入りシャンプー
掻きむしることで、皮膚バリアがボロボロになっていることがあるので感染症を引き起こさないために抗生剤入りシャンプーを使用します。
痒み止めコンディショナー
シャンプーに加えて痒みを抑えるコンディショナーを使用します。
含まれている成分として、
・オートミール(オートミールコンディショナー)
・プラモキシン
・抗ヒスタミン剤
・グルココルチコイド製剤(ステロイド)
『全身に効く抗ヒスタミン剤を使用する』
抗ヒスタミン剤は痒み止めの1つとされています。多くの症例でこの抗ヒスタミン剤の使用が痒みの軽減に繋がったという報告があります。
抗ヒスタミン薬の種類と用量一覧表
『アポキル®️で有名のオクラシチニブは?』
もうすっかり有名になっているアポキル®️ことオクラシチニブはノミアレルギーでも有効です。というよりはオクラシチニブはJAK1キナーゼ阻害薬と言われる薬の1つで痒みを脳へ伝達するIL-31をブロックするので、痒みが治るのです。
ただ、動物の痒いという感覚のコントロールには使用できますが、皮膚で起きている根本的な炎症には関与しないためそこだけは注意が必要です。
オクラシチニブは1~2週間の服用で痒みを抑えることができます。しかし、副作用もあることが報告されています。
オクラシチニブ(アポキル®️)の副作用
以下の発生率をあげるという報告があります。
・腫瘍(18%)
・膿皮症(12%)
・耳炎(9.9%)
・嘔吐(9.2%)
・下痢(6%)
・膀胱炎(3.5%)
・食欲不振(3.2%)
・虚脱(2.8%)
・酵母菌感染(2.5%)
・足皮膚炎(2.5%)
こんな風にいっぱい副作用が書いてありますが、ステロイドを使うよりは断然アポキル®️の方が副作用はありません。断然マシです。
『グルココルチコイド製剤(ステロイド)の使用』
プレドニゾロンという薬がグルココルチコイド製剤として有名です。この薬を使用すると75%の犬で痒みがコントロールできたという報告があります。
ステロイドの良いところは3つ『早い』『安い』『よく効く』です。しかし、もちろん副作用が気になるところです。
プレドニゾロンの副作用
・メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
・多飲多尿
・免疫不全
・毛包虫症
・皮膚の石灰化
などです。
短期間での服用ならまだしも、長期間の服用は副作用の危険性を考えなければなりません。
【予後】
ノミの駆虫を徹底した場合、予後は良好です。
ノミは血液媒介性の病気を運んできたりするので、なるべく早く駆虫し、その後の様子を見ておく必要があります。
【最後に】
今回はノミアレルギーについて説明しました。暖かくなるこの時期からノミは増え、夏から秋にかけてピークを迎えます。特徴的なのは痒がる場所、そして、ノミやノミの糞をいかに早く見つけるかがポイントです。その後は駆虫薬と痒み止めでしっかり治療していけばそこまで恐れる病気ではないでしょう。
【本記事の参考書籍】
Keith A. Hnilica ; Adam P. Patterson : Small Animal Dermatology A Color Atlas and Therapeutic Guide. 4th ed., ELSEVIER, 2016, 212-217p
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 545p
【この記事の読者にオススメの記事】
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【オタ福の語り部屋】
— オタ福 (@OtaHuku8) 2019年3月18日
『犬猫のノミアレルギー性皮膚炎』についてです
久々に深いけど、サラッとした内容で書けました!
ノミによるアレルギー性皮膚炎を知っていますか?
暖かい時期にだけ、痒がっているなら、それはノミが原因かも?
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