今回は『膵外分泌腫瘍』について説明します。
アメリカでは1年間に2,7000人もの人が命を落としている腫瘍です。
診断時には多くが進行しており、手遅れなこともしばしば…
人間の場合、5年生存率5%以下の超極悪腫瘍です。
では動物の場合、どうなのかを見ていきましょう。
【目次】
【発生率とリスク因子】
犬や猫では膵外分泌腺の癌は極めて稀な腫瘍です。
『性差』
高齢の雌
『好発品種』
スパニエル系
【病因と挙動】
膵臓腫瘍のほとんどが上皮系腫瘍で、膵管由来のものや腺房の腺上皮細胞由来のものが大半を占めます。
良性の場合
偽嚢胞であったり、腺腫であったりで、手術によって取り除かれます。
悪性の場合
腺癌などは浸潤性が強く、診断時には他へ転移していることが多々あります。
【症状】
膵外分泌腫瘍にはこれと言った特異的な病変はみられません。
起こり得る症状としては
・体重減少
・食欲不振(特に猫)
・腫瘍随伴性脱毛(猫)
・元気消失
・嘔吐は稀
腫瘍による症状
・腫瘍増殖による腹部の膨満
・腹膜への播種
・胆管の閉塞による黄疸
・転移による症状
【診断方法】
『血液検査』
血液検査で膵臓腫瘍の存在を発見することは難しいです。
ただ、異常が全くみられないわけでもないので、考えられる異常所見を紹介します。
・軽度の貧血
・高血糖
・好中球増加症
・ビリルビン血症(←胆管の閉塞があれば)
は異常値を示す可能性があります。
ちなみに血清アミラーゼとリパーゼは当てになりません。
『腹部造影X線検査』
胃の運動性の低下がみられることがあります。
『細胞診』
膵臓を狙って細胞診することが恐らく難しいでしょう。←膵臓は超音波で描出しにくいかつ、小さいので(笑)
腹水の貯留が見られる場合は細胞診を行うことができます。細胞診の結果、悪性腫瘍を発見できる可能性はあります。
腫瘍細胞が見られないからと言って、腫瘍を否定することはできません。
『触診』
猫では大きな腫瘤であれば、触診が可能です。犬では触診は難しいです。
『超音波検査』
超音波検査は腫瘍の原発を特定する場合に役立ちます。
その他、細胞診を行なったり、肝臓やリンパ節への転移を確認することも可能です。
『CT/MRI検査』
CTやMRIは膵臓腫瘍がわかりにくく、あまり有効的ではないとされています。
『結局の確定診断は?』
結局、確定診断を行うためには外科的に摘出し、それを病理組織学的検査に出すしか現時点で方法は内容です。
【治療法】
膵島由来の膵臓腫瘍(インスリノーマやグルカゴノーマ)以外では、ほとんどの場合が診断時には転移が見られています。
「外科的切除」
転移が見られている場合、アグレッシブな外科的切除は避けられる傾向があります。
というのも、仮に膵臓全摘出を行なったとしても、重度のQOLの低下の割に薄い治療効果しか得られないためです。
「胃十二指腸吻合術」
腫瘍によって腸管が狭窄している場合、緩和的な胃十二指腸吻合術が行われることがありますが、それが寿命を伸ばすというわけではないです。
「放射線治療」
ほとんどの場合、効果がないので行われません。
「化学療法」
頭蓋骨内に転移が見られた場合のみ行われることがあります。
【予後】
膵外分泌腫瘍の予後はとても悪いです。
それは
『膵臓という生体にとって不可欠な臓器であるため、全摘出してもQOLが大幅に低下するということ』
そして、
『特異的な症状が見られず、診断時には大半が転移している一方で、抗がん剤に抵抗性があるため、全身的な治療法がないということ』
以上のことから、どうしても予後は悪くなります。
膵外分泌腫瘍と診断されてから、1年以上生存できた症例の報告はありません。
【最後に】
今回は『膵外分泌腫瘍』について説明しました。膵臓の腫瘍は外分泌腫瘍の他に内分泌腫瘍があります。内分泌とはよく糖尿病の話で耳にするインスリンやグルカゴンのことです。
膵臓は内分泌、外分泌両方が生体内でとても重要な役割を担っています。
この腫瘍は治療成績の低さとQOLの低下を考えれば、実際の現場では外科的手術が行われることは少ないです。
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