オタ福の語り部屋

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BUNとCre~血液検査を考える~

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【はじめに】

今回は『BUNとCre』についてです。
ペットを血液検査してもらったことがある飼い主さんには聞き馴染みの言葉かと思いまいます。
「この2つは腎臓の数値ですねー、腎臓が悪くなるとここが上がります」と説明を受けた方も多いはず。
では、「腎臓の数値とは何なのか?」「BUNとは?」「Creとは?」これって基礎的なことですが、勉強不足の獣医師では答えられません(笑)

病気をしっかりと把握するためにはこれらの数字の増減だけでなく、どういう物質が、どのような理由で、このような数値を示すのかを知るために今回はしっかり解説を進めていこうと思います。

 

【目次】

 

【BUNとは】

BUNとはBlood Urea Nitrogenの略称で、直訳すると血中尿素窒素となります。
あとでまとめるので、先に用語の整理を行います。

尿素とは
尿素とは尿中に含まれる窒素化合物のことをいい、mmol/Lで表現されます。

尿素のでき方
食事で摂取したタンパク質が分解されアンモニアになり、そのアンモニアが肝臓の尿素回路により尿素に変換されます。

BUNとは
BUNは血中の尿素窒素の量を測定しており、mg/dLで表現されます。BUNは血液に乗って腎臓へ運ばれます。

BUNの動き方
腎臓にある糸球体と呼ばれるフィルターで血液から濾過され原尿が作られますが、この時BUNは糸球体のフィルターの網目をスルスルとすり抜けることができるため、原尿側へ移動します。

BUNは原尿に乗って尿細管へ運ばれると再吸収を受け、幾分かは再び血液中へ戻ってきます。

この再吸収を受けるので、BUNはGFR(糸球体濾過率)の指標には乏しいとされているのです。 

まとめると…
・BUNは血液中に含まれる尿素の量ことをいう
・尿素とは物質名であり、肝臓の尿素回路により合成される
・BUNは糸球体を容易に通過できる
・BUNは再吸収を受けるので、GFRの指標にならない
・BUNの低下は尿素回路の低下すなわち肝機能の低下を示唆

尿素回路(図解)

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【Creとは】

Creとは
Creと表記されたこの項目はCreatinine(クレアチニン)と読みます。クレアチンには筋肉にあるフォスフォクレアチニンの代謝産物から産生されるものです。 

糸球体濾過率の指標になる
CreはBUN同様、糸球体のフィルターを容易に通過します。しかし、BUNと大きく異なる点がCreは尿細管で再吸収がほとんどされないということです。
糸球体通過が容易であるのに再吸収がされないということは
つまり、腎臓通過後でCreの血中濃度はほぼゼロに近いということです。採血は通常腎臓通過後の静脈血管から行われるので、血液検査で数値は0に近いです。

というわけで、このCreの数値が上昇しているということは腎臓での濾過機能が低下している指標になるのです。

ただし、例外もある
先ほどCreが糸球体濾過率(GFR)の指標になると言いましたが、例外もあります。その例外とは『もともとCreが低かった場合』です。糸球体濾過率が落ちようがCreが濾過前から低値であったのならば、血液検査結果が低くなるのも自明です。

Creが低い場合
Creがもともと低い場合とはどのようなものがあるのでしょうか?

Creとはもともと筋肉内にあるフォスフォクレアチンの代謝産物なので、筋肉量がCreの産生量に影響を与えます。つまり、もともとCreが少ない場合とは筋肉量が少ない場合ということなのです。

筋肉量が少ない場合
・飢餓状態:飢餓により筋肉量が低下
・小型犬:大型犬より筋肉が少ない
・幼若な犬:子供なので筋肉がまだない
以上の場合においてはCreが低いので、検査結果を注意深く考察する必要があります。

Creとは(図解)

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【用語の説明】

先にBUN、Creの解説を行いましたが、以下の用語の定義を説明しておくことも忘れてはいけません。

『尿素窒素血症』

尿素窒素血症とは血液中の含窒素物質濃度が上昇した状態をいいます。その含窒素物質とは主にBUNやCreを指します。

『尿毒症』

尿毒症とは尿毒素が体内で重度に蓄積した状態をいいます。一般的に尿毒症は尿素窒素血症の重篤化したものでもあります。
尿毒素は通常の健康個体であれば、尿中に含まれ、尿として排出されます。

 

【高窒素血症の原因~BUN・Creが上がる理由~】

『分類』

高窒素血症はまず"腎前性"、"腎性"、"腎後性"の3つに分けられます。
これら3つは全て、GFR(糸球体濾過率)の低下が原因で現れます。
高窒素血症はBUNとCreの上昇で確認されます。BUNとCreが上昇している時、GFRはすでに75%以上濾過能力を失っています。

 

『腎前性高窒素血症』

「腎前性高窒素血症が起こる原因」

腎前性高窒素血症は正常な腎臓であるものの循環血液量の低下が原因でGFRが低下してものです。
循環血液量の低下が原因なので、そこを是正してあげれば急速に回復します。

腎前性高窒素血症の主な原因
・血液量減少による脱水
・心因性:心拍出量の低下に続発する
・血管の障害:ショックなど

 

「BUN/Cre比の上昇」

腎前性の場合、BUN/Cre比は上昇します。20:1以上になれば、上昇していると考えてよいでしょう。

なぜ腎前性でBUNが上がるのか
なぜBUNが上昇してしまうのかというと、循環血液量が低下したことによる高窒素血症なので、循環血液量を維持するために尿細管での再吸収が増えます。その分、BUNも多く再吸収されるので、血液検査でBUNが上昇するということです。

 

「副腎皮質機能低下症(アジソン病)では」

腎前性高窒素血症で最も多いが副腎皮質機能低下症です。副腎皮質機能低下症になると、副腎で作られるアルドステロンと呼ばれる原尿を再吸収するのに必要なホルモンが分泌されなくなり、水分を多く含んだ尿を出すようになります。
多尿により、脱水が起こることで腎前性高窒素血症になってしまうのです。

副腎皮質機能低下症について詳しい解説はこちら↓↓

www.otahuku8.jp


『腎性高窒素血症』

 腎性ということはそのままで、腎機能の低下により窒素化合物の排出ができなくなったものを言います。

この原因は急性腎障害慢性腎不全の両方が含まれます。

腎性高窒素血症の場合、Cre(クレアチニン)を正しく評価しなければいけません。
もし、基準値に入った、入っていないという評価だけしかしていないのであれば、腎疾患を見落としてしまうかもしれません。

個人的にご質問をいただいた方には何回かお話したかもしれませんが、Creが上昇する前に腎障害というものは起こっているのです。

 

「急性腎障害(AKI)」

急性腎障害は幅が広く定義されていて、臨床症状が見られないものから重篤なものまで含有しています。

一般的な血液検査でBUNとCreが基準値を超えるまで、ほとんどの犬や猫では発見ができません。しかし、BUNとCreが上昇した時にはすでに75%以上のGFRを失っているのです。

IRISのAKIグレーディングでは
IRISと呼ばれるCKDやAKIのガイドラインを作っている団体が発表している内容では高窒素血症を伴わないCreの軽度の上昇からAKIとして診断していこう言っています。 

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引用文献:Grading of acute kidney injury(2016)

 

 「慢性腎臓病(CKD)」

慢性腎臓病を見つけるにはCreが用いられます。先ほどと同じくIRISが提案してるCKDのステージ分類は以下の表のようになります。

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『IRISによる犬と猫のCKD病期分類』
引用文献:IRIS Staging of CKD

Cre濃度が犬で<1.4、猫で<1.6でを超えたあたりから、CKDのステージ1に分類され始めます。

超音波検査は大事
Creが上昇していない場合であっても、腎臓の超音波検査で慢性腎臓病を疑う所見が認められた場合はCKDと診断すべきです。腎臓においては超音波検査の方が検出度が高いです。

CKDじゃないのにCreが上昇している場合
血液検査の結果、Creが上昇していてCKDが疑われている時、考えなければいけないのが、本当にCKDなのかということです。

Creが上がる原因をもう一度おさらいします。
Creが上がる原因
・脱水
・筋肉量が多い
・筋肉質な犬種である
などです。これらの可能性を除去していくことで、CKDの可能性が高くなってくるのです。

SDMAを使う
CKDの診断にはSDMAという画期的なバイオマーカーがあります。SDMAは筋肉量に影響を受けず、なおかつCre上昇よりも早期にCKDの検出をすることができるのです。
ある研究では犬では9ヶ月、猫では17ヶ月も早くにCKDを発見することができると言われています。

SDMA(対称性ジメチルアルギニン)について(図解)

SDMA(対称性ジメチルアルギニン)について(図解) 

慢性腎臓病(CKD)について詳しく知りたい方はこちらまで↓↓

www.otahuku8.jp

 

『腎後性高窒素血症』

ようやく3つ目にきました。
腎後性高窒素血症は腎盂、尿管、膀胱、尿道のどこかに通過障害ができた時に見られる高窒素血症です。

そして、腎後性の特徴としてこれらの通過障害が解消されれば、早急に高窒素血症が回復します。なので、回復が見られない場合は腎前性や腎性の可能性も視野に入れましょう。

 

【腎臓が関与しない場合】

『BUNの上昇』

消化管出血や高タンパクな食事をしたあとではBUNの上昇が見られることがあります。
そのほかには発熱時やテトラサイクリン系の抗生物質を服用している時が挙げられます。

BUNが上昇する場合
・消化管出血
・高蛋白質な食事
・発熱
・テトラサイクリン系抗生物質

 

『BUNの減少』

BUNが減少する場合で多いのは
・肝硬変
・門脈体循環シャント(PSS)

これらは尿素回路を回せるほどの肝細胞がいなくなり、アンモニアをBUNへ変化できなくなっている状態です。末期の肝疾患などでも見られます。

その他には
・アイリッシュ・ウルフハウンド:尿素回路に必要な酵素がもともと少ない
・多飲多尿を引き起こすような疾患
・長期間の低蛋白食
・蛋白質の吸収不全

 

『Creの減少』

Creが減少する理由としてはCreの産生元である筋肉量が減少することで生じます。同じ理由で幼若な動物ではCreが少ないです。←筋肉量がまだ少ないから

注意しなければいけないこと
重篤な動物などで見られることがしばしばあるのですが、筋肉量が重度に低下していて腎機能が悪化しているのにCreが基準値内に入ってしまう場合です。
この場合は必ずBUNもセット評価しましょう。
BUNは筋肉量の影響を受けないためBUNが上昇している場合は腎機能の低下があることも想像しておくべきです。 

過水和のときも注意

過水和とは点滴などを多く流し過ぎたなどで、血液量が通常よりも増えてしまった状態を言います。この場合も、BUN同様Creも減少して数値化されてしまいます。

 

【最後に】

今回はBUNとCreについて解説していきました。これを読んで頂いた方はもう勘付いておられると思いますが、血液検査は単なる数字の増減を見ているわけではないのです。何がどの程度上がっているのかを見たときに、臓器の状態が頭の中で浮かんでこなければいけません。

確かに飼い主さんにここまでのことは要求しませんが、この『オタ福の語り部屋』に何回も立ち寄って頂き、渡された血液検査結果の紙と見比べ、何が起きているのかを確認してもらえれば幸いです。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 250-252p,1825-1833p,1939-1959p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 298-307p,352-353p

大森啓太郎. ”血液化学検査-腎パネル編-. CLINIC NOTE. 2017, NO.143, 98-102p

 

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