【はじめに】
今回は『唾液腺がん』について解説します。
題名の通り、唾液腺にできる腫瘍は非常に発生率が少なく、解明されていることも少ないのが現状です。唾液腺とは4つあり、一番大きく腫瘍の発症率が高いのは下顎腺です。今回はそんな腫瘍について解剖のイラストを用いつつ説明していこうと思います。
【目次】
【唾液腺癌の基本情報】
発生率
原発性の唾液腺癌は犬猫では稀であり、腫瘍の0.17%程度であると言われています。
好発年齢
10~12歳
性差
犬→無し、猫→雄で2倍
好発品種
シャム猫
【病因】
『腫瘍の種類』
唾液腺にできる腫瘍のほとんどは唾液腺癌です。
そのほかに報告がある腫瘍としては骨肉腫、肥満細胞腫、皮脂腺癌、悪性線維性組織球腫などがあります。良性ですが、脂肪腫なども認められます。
『好発部位』
大唾液腺と小唾液腺にできます。
中でも一番多いのは下顎腺です。その次に耳下腺が有名です。
大唾液腺(4つ)
耳下腺、下顎腺、舌下腺、頬骨腺
唾液腺の解剖学的位置(図解)
イラスト出典:Evans HE, de Lahunta A: Miller’s anatomy of the dog, ed 4, St Louis, 2013, Saunders/Elsevier
『悪性度』
局所浸潤性:ものによるため、まちまち
領域リンパ節転移:犬→17%、猫→39%
遠隔転移:犬→8%、猫→16%
【症状は?】
唾液腺癌に特徴的な症状というものはないです。
唾液腺癌でみられる症状
・口臭
・嚥下障害
・眼球突出
・片側性や固着、痛みを伴う腫脹
→上部頚部:下顎腺、舌下腺
→耳の付け根:耳下腺
→上唇、上顎:頬骨腺
→口唇や舌の粘膜:副唾液腺
鑑別診断リスト
・口腔の粘膜炎
・膿瘍
・唾液腺感染
・唾液腺炎
・リンパ腫
・反応性あるいは転移したリンパ節腫脹
【診断】
『細胞診:FNA』
腫瘍性病変か否かを鑑別するのに有効的な検査方法です。領域リンパ節の評価を行なっておくべきでしょう。
『X線検査』
唾液腺周囲の骨が骨膜反応を示していることがあります。肺転移がないかを調べるためにも胸部の3方向撮影が必要になります。
『CT検査』
癌がどの程度、周辺組織へ浸潤しているかを評価するのに役立ちます。手術前にどこまで切除すれば良いか考えることができます。
『コア生検、楔状生検』
FNAと異なり、細胞ではなく組織を採取する生検なので、病理組織学的検査を行うことができます。
病理組織学的検査を行うと確定診断することができます。
必ず行いたい検査です。
【治療法】
『外科的切除』
できる限り大きく外科的切除を行うべきです。両方の唾液腺を切除することは治療成績の向上に繋がります。ただ、唾液腺周囲には瞬き(まばたき)に必要な筋肉や皮膚があります。大幅な切除を狙うあまり、術後に瞬きができなくなってしまうなんてこともあるので、それには十分な注意が必要です。
一番多いとされる耳下腺由来の唾液腺癌の切除ですが、耳下腺と舌下腺は顎二腹筋の下で繋がっているので、二つまとめて切除してしまうのが得策です。
下顎から見た唾液腺の解剖図
イラスト出典:Evans HE, de Lahunta A: Miller’s anatomy of the dog, ed 4, St Louis, 2013, Saunders/Elsevier
『放射線治療』
術後の補助療法として使われることがあります。治療成績も向上するというデータがあります。
『化学療法』
報告がほとんどありません。
転移病変であれば使用すると思いますが、唾液腺腫瘍の発生率が少ない+転移率は8~16%なので、データがないのも当然だと思います。
【予後】
よくわかっていません。
唾液腺癌の場合、病理検査による組織学的グレードというよりはステージ分類の方が影響します。
術後に補助療法として放射線治療を行うのがいいというデータはあります。猫では術後の補助療法の有無が混在しているデータで生存期間中央値は516~550日となっています。
【最後に:唾液腺癌のポイント】
今回は唾液腺癌についてお話ししました。ちょっと内容が薄っぺらかったかなと思います。
症例数が少なく、データが少ないので、あまり話せることが少ないのが正直なところです。
唾液腺癌のポイント
①顔面周囲の腫脹に注意
②確定診断はコア生検で行う
③治療は外科的切除が主となる