オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

『胃がん』ってな〜んだ?

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【はじめに】

今回は『胃の腫瘍(主に胃腺癌)』について解説します。

人でもたまに聞く『胃癌』
なんと、人では腫瘍による死因の第6位なんだとか…
人間界では社会経済的要因、地理的要因、環境的要因、これらが胃癌のリスクを高めるのに関与しています。そして、かの有名なピロリ菌(Helicobater  pyroli)。

驚くべきことに犬や猫ではそんなに胃癌に関与しないんだとか…(汗)
では、犬・猫の胃癌とはどのようなものなのか、見ていきましょう。
 

【目次】

 【胃の腫瘍 ~統計学~】

『悪性腫瘍のうち、何パーセント?』

悪性腫瘍全体の1%以下と低い方の腫瘍です。
しかし、食道癌よりは多いです。←どんぐりの背比べ(笑)

 

『発症リスクをあげるもの』

「ニトロソアミン」

ニトロソアミンは発がん性物質で有名です。
ニトロソアミンの長期にわたる経口摂取が発がんリスクを挙げます。

ニトロソアミンが含まれている日用品
・タバコ
・加工食品(ハムやソーセージなど)
 

「好発犬種」

胃癌は好発犬種が偏っていることから遺伝性疾患の可能性も考えられています。

好発犬種
・ベルジアン・シェパード
・ノルウェイジアン・ルンデフンド
・ダッチ・シェパード

 

『好発年齢』

胃癌の平均発症年齢は8歳
平滑筋腫の平均発症年齢は15歳

 

『性別差』

雄犬で2.5倍多い
雄の方が多いのは胃のリンパ腫でも言えます。

 

『猫の胃癌では』

猫の胃癌は慢性胃炎やヘリコバクター属菌が関与していると考えられています。

ピロリ菌(イメージ図)

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The present study examined the association of Helicobacter heilmannii (Hhe) infection in pet cats with feline gastric mucosa associated lymphoid tissue (MALT) lymphoma. Tissues were collected via gastric biopsy or at necropsy from 47 pet cats with clinical signs of gastrointestinal disease, including vomiting and inappetance, and classified as gastritis (14/47), lymphoma (31/37), or normal (2/47). 引用文献:Gastric Helicobacter species as a cause of feline gastric lymphoma: a viable hypothesis.

【胃の腫瘍】

『悪性腫瘍の種類』

犬で見られる胃癌のほとんどは胃腺癌です。70~80%を胃腺癌が占めています。

残りの20%
・平滑筋肉腫
・GIST(ジスト)
・リンパ腫
・肥満細胞腫
・髄外性形質細胞腫
・線維肉腫

 

『GIST:GI Stromal Tumor』

GISTをもつ50%の犬でc-kit(CD117)の過剰発現が認められていて、c-kitの変異が腫瘍の発生に加担している可能性があります。
そして、GISTの1/3は診断時には転移が認められています。

 

『胃腺癌』

胃腺癌はスキルス胃癌と呼ばれることもあります。
スキルス胃癌は漿膜面(臓器の外側の面)で硬く白色に見えます。
びまん性に浸潤していき、一部では潰瘍ポリープの様に見られることもあります。

 

胃腺癌の転移

胃腺癌では転移が多く、剖検時にはリンパ節転移が70~80%見られます。
そして、リンパ節転移に続き、肺や肝臓へ転移が起こります。

 

『胃癌の腫瘍抗原:C2-O-SLEx』

C2-O-SLExは腫瘍抗原の1つです。
この腫瘍抗原は腫瘍の転移に関与している可能性があります。

 

SLExとは

活性化した血管内皮細胞に発言しているE-セレクチンのリガンドとして機能しています。腫瘍細胞にこれらのSLExが多数発現すると、血小板や血管内皮へ結合しやすくなるために転移しやすくなるのではないかと言われています。

 

論文の結果では

論文では56%の犬でC2-0-SLExが高発現していて、中でも大きな腫瘍や転移が見られるものでは多く発現していました。

Whereas normal gastric mucosal epithelial cells were negative for C2-O-sLe(x), 56% of the tumors examined were positive for C2-O-sLe(x). Importantly, the majority of more poorly differentiated tumor types had more numerous and larger intensely stained areas of C2-O-sLe(x) expression compared with moderate to well-differentiated tumor types.  引用文献:The novel carbohydrate tumor antigen C2-O-sLe x is upregulated in canine gastric carcinomas.

 

『胃にできる良性腫瘍』

・平滑筋腫
・肥厚性胃疾患
・過誤腫
・腺腫

 

『猫の胃癌』

猫では胃腺癌は稀です。

猫で胃の腫瘍といえば『リンパ腫』が一番多いということを知っておきましょう。

 

【症状】

一番多い症状としては『進行性の嘔吐』です。

血液が混じったチョコレート色の嘔吐が見られることもあります。嘔吐の他にも、食欲不振体重減少といったものが見られます。

 

【診断方法】

『血液検査』 

血液検査による検査では胃癌を見抜くことは難しいです。 

低血糖

平滑筋腫や平滑筋肉腫に関連した腫瘍随伴症候群の可能性があります。
 

小球性低色素性貧血
一般的によく見られます。
 

肝酵素の上昇
肝臓への転移や胆道の狭窄などがあれば、上がるかもしれません。
 

ガストリンの上昇
これは結構頻繁に見られます。

 

『X線検査(造影なし)』

胸部レントゲンでは転移が見つかるかもしれませんが、ほとんど見抜くことは難しいです。造影剤を使う必要があります。

 

『X線検査(造影あり)』

造影X線二重造影で胃の中にある腫瘤性病変を見つけることができます。
わかるのはそれだけではありません! 

他にわかること

・胃排出の遅延している
・運動性の低下している
・潰瘍の位置←造影剤が溜まるので

ただし、穿孔が疑われる場合は造影剤は避けましょう。 

『超音波検査』

超音波検査の診断精度は27%です。
超音波下によるFNAやコア生検を行うことができます。

 

狙うポイント(好発部位)

・腺癌:胃の小弯と幽門部付近
・平滑筋腫:噴門部 

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『内視鏡検査』

内視鏡を行うときは必ず、大きくなサンプルをいっぱい生検しましょう。
なぜなら胃の腫瘍では表層が壊死や炎症を起こしていることが多く、偽陰性の原因となってしまうからです。

 

『外科手術による生検』

これは病理組織学的検査を行うことで確定診断できます。
この際、GISTを疑う腫瘍であれば、必ずCD117の免疫組織化学検査を行いましょう。

 

【治療法】

『外科的切除』

リンパ腫を除いた、胃癌に関してはこれが最もよく行われる治療法です。
手術時に一番注意したいのは転移の有無です。
領域リンパ節や肝臓に転移はないか、画像診断時や開腹時にはしっかりと確かめておく必要があります。

外科手術で大切な栄養血管(図解)

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イラスト:In Evans H, de Lahunta A, editors: Miller's anatomy of the dog, ed 4, St Louis, 2013, Saunders, pp281-337.

「術式」

胃十二指腸吻合術(Billroth Ⅰ)あるいは胃空腸吻合術(Billroth Ⅱ)を行います。
これらは幽門付近を切除し、胃と十二指腸を再度くっつけるという大変な手術です。図の通り、胃や十二指腸周辺は胆管や膵管、そして血管が豊富に走っていて、それらの解剖学的知識をフル活用して初めて成功する手術です。
そして、術後の予後についても知っておく必要があります。

胃十二指腸吻合術(Billroth Ⅰ)の流れ

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イラスト:Satter DH, editeor:Textbook of small animal surgery, ed3, St Louis, 2003, Saunders/Elsevier.

「術後の予後」

ある研究では24匹の犬がこの手術を受けたところ、18匹が術後14日生きることができました。しかし、10匹は術後3ヶ月以内に亡くなってしまったみたいです。

Of the 24 dogs, 75% survived 14 days, but 10 (41%) died by 3 months.  引用文献:Evaluation of risk factors for morbidity and mortality after pylorectomy and gastroduodenostomy in dogs.
「手術による副作用」

術後の副作用としては低アルブミン血症(62.5%)、貧血(58.3%)があります。 

 

「手術が不適応な場合」

胃の完全切除や胆管切除を行わないといけないほど進行している胃癌の場合は緩和的な手術に留めておきます。
つまり、食塊が通過できる程度に腫瘍を除去してあげる、緩和療法です。

 

『放射線治療』

放射線にはあまり効きません。

しかし、切除が困難なリンパ腫などでは比較的有効という報告があります。

 

『化学療法』

腺癌では効かないのでやりません。

 

『平滑筋腫の場合』

平滑筋腫は噴門部に孤立性の腫瘍を形成します。

この腫瘍は悪性度は低いのですが、腫瘍が管腔を狭窄するので、症状が現れます。

正中切開や、胃切除、粘膜下切除などで容易に取り除くことができます。

 

c-kit阻害薬の有効性

平滑筋腫ではトセラニブイマチニブなどのc-kit阻害薬の有効性について考えられています。理論上は有効です。

 

 

『リンパ腫の場合』

リンパ腫の記事で詳しく説明します。

化学療法が効かない時に外科的切除が選択されるみたいです。

 

【予後】

『胃腺癌の予後』

胃腺癌の予後は不良です。
完治を狙った(緩和療法でない)手術を行なった症例でも
生存期間中央値:2ヶ月
3年生きた症例はごく稀であるという報告があります。

 

『平滑筋肉腫の予後』

術後2週間以内に急性の経過で亡くなった症例を除き、
生存期間中央値は1年でした。
他の報告によれば、平滑筋肉腫とGISTの生存期間中央値は8~12ヶ月とのことです。

 

『髄外性形質細胞腫の予後』

手術と化学療法で良好の経過を示します。

 

『肥満細胞腫の予後』

予後はあまり良くないです。
ほとんどが領域リンパ節への転移を認め、6ヶ月以上生存できる症例は10%以下とのことです。

 

【最後に】

今回は胃癌について説明しました。
犬では胃腺癌が多く、猫ではリンパ腫が多いです。
胃癌では特徴的な症状を示すことがなく、静かに進行していくので発見が遅れてしまいます。そういったことや腫瘍の悪性度が高いこともあり、予後の経過はあまり良くありません。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 402-405p

Spencer A. Johnston ; Karen M. Tobias : veterinary surgery small animal. 2nd ed., ELSEVIER, 2017, 1700-1716p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 208-210p

藤田淳, 西村亮平. ”-連載/腫瘍外科に必要な局所解剖学と手術手技-5回 胃癌”. VETERINARY ONCOLOGY. 2018, NO.18, 87-97p