オタ福の語り部屋

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フラつきに注意‼︎『動物の前庭疾患』とは

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【はじめに】

今回は『前庭疾患』について説明していきます。
前庭疾患は『斜頸』や『眼振』などが見られた時に疑われる疾患です。
前庭疾患には末梢性と中枢性の2つに分けられます。 

 

【目次】

 

【そもそも前庭とは何か?】

『前庭の役割』

重力の向きを感知しており、頭や体の姿勢やバランスを維持しています。

 

『末梢前庭』

末梢前庭は側頭骨錐体部と言われる場所にあり、膜迷路前庭蝸牛神経(内耳神経=第Ⅷ脳神経)で構成されています。
膜迷路は三半規管、卵形嚢、球形嚢の3つによって作られていて、中には内リンパ液という液体で満たされています。
三半規管にはこの内リンパ液の揺れを感知する有毛細胞という毛が生えた細胞があります。この有毛細胞は前庭神経に直接繋がっています。

耳の解剖(図解)

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「三半規管」

三半規管は頭の回転など角加速度を認識しています。

体の傾きを感知するメカニズム
体が加速度変化を受ける

内リンパ液が揺れる

有毛細胞が揺らぐ

体が傾いたという信号が脊髄、脳幹、小脳、視床

中枢神経が体の傾きを認識し、姿勢を維持する
このような流れ、傾きを認知しています。

 

「卵形嚢と球形嚢」

この2つは重力などの直線的加速度を認識しています。
さらに言うならば、
卵形嚢は垂直方向の加速度
球形嚢は水平方向の加速度
を認識しています。

これら2つの器官には耳石(炭酸カルシウムの結晶)と呼ばれる小さな石が何個か入っていて、その石が有毛細胞の毛を傾けることで、神経伝達しています。 
 

『中枢前庭』

中枢前庭は第四脳室の腹側にある脳橋、延髄、室頂核、片葉小節葉に近接する4対の前庭神経核からなります。

 4対の前庭神経核の名称
①前庭神経下核(Roller核)
②前庭神経内側核(Schwalbe核)
③前庭神経上核(Bechterew核)
④前庭神経外側核(Deiters核)

第Ⅷ脳神経において、いくつかの軸索は後小脳脚を経由し小脳へ直接入っていきますが、前庭神経核へ接合する軸索もあります。 

前庭神経核へ行った第Ⅷ脳神経
前庭神経核へ接合した軸索のほとんどは前庭脊髄管を経由し、脊髄へ入ります。
脊髄に入るとその傾き応じて、目を動かす筋肉の神経(外転神経、動眼神経)を刺激し、傾きと反対方向へ眼球を動かします。

嘔吐中枢へ行った第Ⅷ脳神経
わずか一部の第Ⅷ脳神経は延髄の網様体と呼ばれる部位へ向かいます。この部位が刺激されると乗り物酔いなどの症状が出ます。

大脳皮質へ行った第Ⅷ脳神経
残りの第Ⅷ脳神経は視床核を介して、大脳皮質へと向かい、傾きを認識します。視床が障害されると前庭疾患が起こることもあります。

ちなみに前庭小脳では
小脳では神経伝達の抑制的な機能を果たしており、過度な伸展状態を制御しています。
前庭小脳で異常が見られると過度な筋肉の伸展が起こります。

 

【症状】

前庭が障害を受けると四肢や背筋を伸ばす筋肉(伸展筋)の制御ができなくなります。
そのほかにもバランス感覚が消失し、斜頸ふらつきなどとして症状が出てきます。
1つ1つ考えられる症状について見ていきましょう。

 

『捻転斜頸』

捻転斜頸は片方の前庭に異常が見られた際に見られる、最も一般的な症状です。
頭を正常に保つことができず、首をかしげたようにしています。 

注意点
捻転斜頸で気をつけなければならないのは大脳疾患によって起こることもあるので、その鑑別が大切です。
両側性の前庭疾患では捻転斜頸が見られないこともあります。
小脳に病巣がある場合は、病巣の反対方向に首を傾げます。

捻転斜頸(図解)

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絵心が無くてちょっと不気味な顔つきになってしまいました(笑)

 

『前庭性運動失調』

前庭性運動失調は「wide-based stance」という足を広げて、バランスを取りやすくするように立っている様子から発見されます。
この場合、障害ある側のバランスが消失しています。

そのほかの様子として
・ふらつき
・体が傾き、こける
・旋回運動(ぐるぐる回る)
などが見られます。

 

「旋回運動」

旋回運動は前脳(大脳)による病気でも見られるため、鑑別が必要になります。
旋回運動の様子で鑑別はできます。 

"前庭"疾患に特徴的な旋回運動
不規則(ふらふらしている)
・直径が小さな円を描く 

"前脳"疾患に特徴的な旋回運動
規則的で綺麗な円
・直径が大きな円を描く

旋回運動の歩き方(図解)

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「固有位置感覚の消失」

固有位置感覚とは簡単にいうと「自分の足がちゃんと地面についているか分かっている」という感覚です。健常犬では無意識に行われているものです。

四肢への上位運動ニューロン経路が巻き込まれた場合、固有位置感覚の消失が見られます。この症状は中枢性前庭疾患を示唆しています。

 

「両側に前庭疾患がある場合」

この場合、バランスが全く取れないので先ほどの「wide-based stance」は見られません。
その代わりに、
転けないように姿勢を低くし、屈みます。

 

『眼振』

 眼振とはリズムを刻み、不随意(無意識)に目が動く症状を言います。

眼振の様子(イメージ)

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「眼振の分類」

眼振の様子で分類
どちらの方向にも一定の速度で目が動く『振り子様眼振』

緩徐相と急速相を繰り返して目が動く『律動性眼振』
があります。

振り子様眼振は前庭疾患によるものではないとされています。
シャム猫やヒマラヤン、バーマンで主に認められています。
そして、
律動性眼振には目が動く方向によってさらに分類されます。

律動性眼振の亜分類
・水平性眼振
・垂直性眼振
・回旋性眼振 

 

「生理的眼振」

回転後眼振視運動性眼振などがあります。
前庭疾患がある患者ではこれらの生理的眼振は消失します。

回転後眼振
回転後眼振は運動会などでやる『ぐるぐるバット』で見られる様な眼振です。 

視運動性眼振
視運動性眼振は電車に乗って窓から景色を追っている時に見られる様な眼振です。

 

「病的眼振」

病的眼振は前庭疾患の時に頻繁に見られます。 

病的眼振には末梢前庭障害によるものと中枢前庭障害によるものがあります。
これらの鑑別方法についてはたくさんの話あり、真偽が不確定なものが多かったので、割愛させて頂きます。
鑑別方法の1つ紹介すると、1分間の眼振の数が多いものが末梢前庭障害による眼振だと言われています。

具体的には、
1分間あたり66回以上
特異度:95%
感度:85%
※不確定なので、このデータに関してより知りたい方は引用文献も参照お願います。

 

注意点

ただ、書籍では以上の通り、末梢前庭疾患の方が多いと言われていますが、引用文献を確認すると中枢前庭疾患の方が有意に高いと書かれています。わかりませんでした(笑)
この項についてはあまり信用しないでください(笑)

 

『斜視』

頭を伸ばした時に、患部側に目が寄ります。
しかし、外眼筋に麻痺はないので、眼球自体は自由に動かすことができます。
斜視は中枢前庭疾患、末梢前庭疾患の両方で見られます。

 

『内耳神経以外の神経麻痺』

「顔面神経麻痺」

脳幹では内耳神経の近くに顔面神経(第Ⅶ脳神経)が走行していて、顔面神経が障害されると顔面麻痺が出ます。
これは中枢前庭疾患、末梢前庭疾患の両方で見られます。

 

「ホルネル症候群」

内耳神経の近くには交感神経もあります。
内耳神経障害の延長で交感神経も障害を受けると、ホルネル症候群が見られます。
ホルネル症候群とは上位の交感神経麻痺により現れる諸症状のことを言います。
ホルネル症候群を示す場合、末梢前庭疾患が疑われます。 

ホルネル症候群の主症状
・縮瞳:瞳孔が縮こまる
・瞬膜突出:瞬膜の露出
・眼球陥凹:眼球が落ちくぼむ
・眼瞼下垂:まぶたが垂れる

 

「第Ⅶ脳神経以外の脳神経障害」

この場合は中枢前庭疾患であることを示しています。

 

『吐き気や嘔吐』

前庭疾患ではよく見られる症状です。
前庭疾患では乗り物酔いのような感覚に陥るために見られます。
そのほかには脳幹での前庭神経核と嘔吐中枢との間で問題が起こっている時にも見られます。

 

『性格の変化』

性格の変化のほとんどはバランス感覚が消失したことによる不安混乱から来るものです。
ただ、前庭神経核の近くには注意力を司る上行性網様体賦活系があるので、注意力の低下(沈鬱状態)などの場合、こういった中枢系が侵されていないかを鑑別する必要があります。

 

『paradoxical syndrome:奇異性症候群?』

正しい日本語が見つからなかったので英語名になってしまいました(笑)
この症状は小脳での抑制系が破綻した時に見られる症状です。
患部側の抑制が外れてしまうので、頭や首、四肢の筋肉が突っ張る様に動くため、患部とは逆方向へ体が向きます。

 

小脳の異常を見つける方法
・固有位置感覚の消失
・運動麻痺
・測定過大
・脳神経障害

 

【診断方法】

『末梢前庭疾患の診断方法』 

 末梢前庭疾患では鎮静や全身麻酔下での耳鏡検査が行われます。

そのほかには
・鼓室胞のレントゲン検査
・CTやMRI
・細胞診や細菌培養のための鼓膜切開
などがあります。

 

『中枢前庭疾患の診断方法』

頭蓋骨に囲まれている脳などの周辺軟部組織を見るにはMRIが有効です。

そのほかには
・CSF(脳脊髄液)検査
・CT
・眼底検査←脈絡網膜炎や網膜の出血の検査
・BAER(聴性脳幹反応)←脳幹の聴覚支配領域の検査

 

【治療法】

治療の狙いとしては嘔吐や乗り物酔いなどの症状を減らしてあげるということがメインになります。

嘔吐を繰り返していると脱水している可能性もあるので、制吐薬輸液を行います。

 

メクリジン
制吐薬でめまいを抑える効果があります。
その他にもヒスタミン抑制、中枢神経系抑制作用、抗コリン作用薬でもあります。

 

マロピタント(セレニア®️)
ニューロキニン1阻害剤です。
機序としてはサブスタンPの活性を抑え、嘔吐中枢への最終経路をシャットアウトすることで制吐作用を示します。
ただ、マロピタントはめまいを抑える作用を持たないため、前庭疾患における効果は意外と低いです。
やはり、メクリジンを使う方がいいみたいです。

 

【最後に(まとめ)】←ややこしくなった人はここだけ読んで!

ざっくりとまとめてみたいと思います。

まとめ
・前庭疾患とは2つに分けられるということ
・末梢前庭疾患と中枢性前庭疾患
・前庭が障害を受けるとバランスが取れなくなる
・治療法は酔い止め(吐き止め)が基本となる

この四点がこの前庭疾患で知っておくべき基本となります。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 1421-1428p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 416p