オタ福の語り部屋

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『犬の鼻腔内腫瘍』②どうすれば腫瘍か確認できる?~診断方法・ステージ分類~

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【はじめに】

今回は鼻腔内腫瘍の診断方法について解説しています。診断方法は複数あります。「この病気は○○です」とはっきり言いきる確定診断を行うためには病理組織学的検査が必要です。

そして、次の注目ポイントとしてはCTを用いたADAMS分類。これはWHO分類よりも予後をより正確に把握できるという研究結果があります。具体的なお話は「続きを読む」をクリック!

『犬の鼻腔内腫瘍①~概要と症状~』はこちら↓

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『犬の鼻腔内腫瘍③~放射線治療とその他の治療法~』についてはこちら↓

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【目次】

 

【診断】

『確定診断:どうやったら腫瘍だとわかるの?』

前回、症状の項で話した『鼻血』や『鼻水』が出るといった症状だけでは腫瘍ということはできませんし、腫瘍として治療を開始することもできません。
検査を行わずして、『「腫瘍だ」と言い切る』『抗がん剤や放射線治療、手術を行う』ということはできません。つまり、検査は腫瘍の診断・治療に必要不可欠なのです。

腫瘍性疾患だとはっきり言い切れる確定診断を出すためには『鼻の生検』が必要になります。
鼻の生検では病理組織学的診断を行い、腫瘍性疾患か非腫瘍性疾患かの鑑別を行います。

鼻生検の注意点
鼻生検を行う前は必ず、血液凝固能を有しているかの血液凝固検査が必要です。なぜなら、鼻生検では多くの出血を伴う可能性があるからです。出血が伴うような生検で血液凝固能がなければ、大量出血が起きてしまいます。

 

『高度な画像診断でステージ分類を行う』

「CT、MRIでわかること」

高度な画像診断というのは一般的にCT、MRIのことを言います。これらの画像診断技術は体の横断面を見ることができるので、レントゲン検査よりも病変部の情報量が多いです。

たとえば、
「どこまで腫瘍が拡大しているのか?」
リンパ節に転移している?、肺にも転移している?など、転移巣を見つけやすいです。

「篩骨を破壊しているか?」
これはレントゲンでもわかるのですが、CTやMRI検査の方がより正確にわかります。 

このように、転移巣や浸潤度を正確に把握することでステージ分類を行うことができます。

 

「MRIでわかる癌と肉腫の区別」

ちょっと面白い文献を見つけたので、ご紹介します。MRIの結果で癌(上皮系腫瘍)と肉腫(間葉系腫瘍)を見分けることができるというのです。病理診断を行えば、わかっちゃうことなので、臨床的に意味あるかな?と思いつつもつい読んじゃいました(笑)

MRIでの特徴
・癌の場合:T1強調→等信号、T2強調→高信号
・肉腫の場合:T1強調→高信号、T2強調→低信号

Statistical analysis using the chi‐squared test to assess significant differences (P<0·05) in tumour signal intensity showed that mass lesions that were isointense on T1W images and hyperintense on T2W were statistically more likely to be carcinomas (P<0·001). While mass lesions that were mildly hyperintense on T1W and isointense or hypointense on T2W were statistically more likely to be sarcomas (P<0·001). 引用文献:Retrospective review of 50 canine nasal tumours evaluated by low‐field magnetic resonance imaging
「CTとMRI、どっちがいいの?」

CTとMRIどっちがいいのかは一概に言えません。なぜかというと、それらは一長一短で各々の得意な分野が違うからです。

CTの場合、『骨の描出が得意』です。どこまで骨融解が進んでい流のか調べています。

MRIの場合、軟部組織すなわち脳の描出が得意』です。脳のどの部分がどの程度圧迫されているのか正確に把握できます。

 

「CT、MRIを行うメリットとは」

これらの高度な画像診断技術を行うことのメリットとはどのようなものなのでしょうか?CT、MRIは全身麻酔が必要です。しかし、そんなデメリットを差し置いてでも有用な情報が得られます。それは先ほどもお話ししましたが、どれだけ腫瘍が浸潤しているか正確に知れるということです。
これを知ることができれば、放射線治療を行う際にもどこに照射すべきかしっかり把握できるのです。

 

「CT・MRIで“この像”は腫瘍を疑え!!」

骨破壊の有無
CT、MRIで腫瘍ではないかと疑うポイントは『骨破壊の有無』です。
篩骨、篩板、頬骨の骨破壊は無いかを確認しましょう。

不自然な増殖像
眼窩周りに不自然な組織の増殖が見られたり、上顎に骨増殖が見られるなど、本来無いはずものが不自然に増殖している場合は腫瘍の可能性を疑いましょう。
しかし、増殖像に関しては特発性鼻炎や真菌性鼻炎でも見られ得るので、過信は禁物です。

『レントゲン検査も侮れない』

レントゲンは平面で見るという特性から、どうしてもCTやMRIのような立体的に画像化できる機械と比較すると腫瘍の検出度が劣ってしまいます。

しかし、犬で症状が見られる程度にまで腫瘍が大きくなっている場合に限ってはCT・MRIに匹敵するような検出度を誇っています。

「鼻腔内腫瘍の特徴的なレントゲン像」

また、鼻腔内腫瘍においては特徴的なレントゲン像というものがあります。
鼻腔内腫瘍の特徴的なレントゲン像
・軟部組織の不透明性
・鼻甲介の不透明性
・鼻腔周囲の骨浸潤
・前頭洞内に液体か軟部組織の陰影が見える

Neoplasia was associated with soft tissue opacities and loss of turbinate detail that affected the entire ipsilateral nasal cavity, signs of invasion of the bones surrounding the nasal cavity, and soft tissue/fluid opacities within the ipsilateral frontal sinus.  引用文献:Distinguishing rhinitis and nasal neoplasia by radiography.
「レントゲンの撮り方」

レントゲンの撮り方について説明します。頭部はたくさんの骨があるので、腫瘍を撮影するにはちょっとしたコツが必要になるのです。

レントゲンの撮り方
・ラテラル像(側面のこと)
・DV像(背側→腹側への照射)
・前頭洞
・開口した状態での斜角撮影←腹側鼻腔と篩板撮影するため

 

【確定診断】

『鼻腔生検で大切なこと』

先述しましたが、鼻腔内腫瘍だと確定診断を下すには病理学的検査が必要になります。そして病理学的検査を行うために必要なサンプルを採取するために行うのが『鼻腔生検』です。

鼻生検において、適切にサンプルを採取するために基本は全身麻酔下で行われます。鼻腔内腫瘍の場合、ほとんどが出血や炎症、壊死が起こっているので、正確に腫瘍部位を採取することが求められます。

採取方法はいくつかあります。
鼻生検の方法
①鼻咽頭からの生検
②外鼻孔からの生検

 

「①鼻咽頭からの生検」

内視鏡を用いて鼻咽頭からアプローチする方法です。

この方法では
内視鏡鉗子を用いて摘まみ取ってくる方法(診断的中率:79%)

ブラシを用いて、こすり取ってくる方法(診断的中率:56%)
があります。 

侵襲度自体はブラシの方が低いですが、どうせ全身麻酔をかけてまで採ってくるのであれば内視鏡生検の方がいい気がします。

鼻咽頭からの生検(図解)

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「②外鼻孔からの生検」

シリンジと留置針の外套あるいはストローを接続し、外鼻孔からアプローチする方法です。

この方法の最大の特徴としては診断的中率が97%と非常に高いことです。穿刺前に必ず『どこまでストローを入れるか』を確認しておく必要があります。そうしないと脳を損傷してしまう可能性があります。

外鼻孔からの生検(図解) 

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『病理組織検査』オタ福が完全解説!

病理出身のオタ福だからこそ、お話しできる項目にやって参りました。
では早速、組織写真とともにお話ししていきます。

鼻腺癌の病理組織画像
犬の鼻腔内腫瘍で多い『鼻腺癌』

薄い結合組織で区画され、胞巣状に増殖していくのが腺細胞由来の腫瘍細胞の特徴です。この腫瘍が見られたら、鼻腺癌の可能性が高いでしょう。

鼻腺癌の病理画像と所見
鼻腺癌の病理画像と所見

しかし、似たような増殖をするのが『カルチノイド』

これは神経内分泌細胞由来の腫瘍のことを言い、この腫瘍の胞巣状に類似した増殖形式をとります。写真には載せていませんが本写真の鼻腔内腫瘍は免疫染色でChromogranin Aを行い、腫瘍細胞は陰性でした。よって、カルチノイドは除外しました。

病理画像(強拡大)と免疫染色

病理画像(強拡大)と免疫染色

その他(オタ福が見た症例)
僕が鼻腔内腫瘍で鼻腺癌以外に見たことがあるのは『未分化肉腫』です。

これ、結構レアキャラです(笑)
写真貼っておきます。詳しくは画像を参照してください。

未分化肉腫の病理画像

未分化肉腫の病理画像

未分化肉腫の免疫染色結果
未分化肉腫の免疫染色結果

【ステージ分類】

鼻腔内腫瘍のステージ分類の方法は何種類かあるのですが、主に『局所浸潤』『骨破壊』を基準として行われます。 

『ステージ分類を行う目的』

そもそもステージ分類ってなぜ行うべきか分かりますか?

ステージ分類の主な目的
・腫瘍がどこまで進行しているか把握すること
・予後(生存期間)をある程度予想すること
この2つが主な目的となっています。

腫瘍の進行具合によって治療法は選択されます。そのため、現在腫瘍がどのくらいの大きさでどこに転移していて、どのような挙動を示しているか把握することは大切なことなのです。

 

『WHOのステージ分類』

ステージ分類と言えば、WHOのステージ分類が有名です。TNM分類ですね。しかし、鼻腔内腫瘍に限ってはWHOのステージ分類は予後の相関が乏しいという報告があります。

先述した通り、予後の把握はステージ分類を行う上で大切な目的なので、そこに相関関係が乏しいということは、WHOのステージ分類を行うメリットがあまりないということになります。あとで他のステージ分類方法と詳しく比較します。

 

『modified ADAMS分類』

この分類方法はCT結果を元にステージ分類を行う方法です。CT結果からステージ分類を行うmodified ADMAS分類は鼻腔内腫瘍において、WHO分類よりもより予後との相関関係があるという報告があります。

 

『WHO分類vsADAMS分類、どっちがいい?』

下の引用文献を元にお話しします。 WHO分類ではステージ1,2,3で生存期間に有意差は見られませんでした(p=0.087)。一方で、CTによる分類ではステージ3と4で生存期間に有意差が見られました(p=0.016)。以上のことから、CTによる分類を行うADAMS分類の方が、より正確に予後を把握できるのではないでしょうか?

WHO分類による生存期間(引用文献:fig2より)
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CTによるステージ分類による生存期間(引用文献:fig3より)
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According to WHO staging, the dogs in stage II tended to survive longer (median survival time of 17.3 months) than those in stage III (median 11 months; p=0.087). When the dogs with adenocarcinoma were classified according to CT staging, survival time was not significantly different between CT stage I and CT stage II dogs and between CT stage II and CT stage III dogs. However, a significant difference in median survival time was observed between the CT stage III (15.1 months) and CT stage IV (6.6 months) dogs (p=0.016). 引用文献:Prognosis of canine patients with nasal tumors according to modified clinical stages based on computed tomography: a retrospective study.

 

【最後に】

今回は前回の概要や症状に引き続き『診断方法』と『ステージ分類』について説明してみました。鼻腔内のトラブルは全てが全て腫瘍によるものとは限りません。腫瘍だとはっきり言い切るためには確定診断が必須です。そして、腫瘍がどの程度進行しているのかを把握し、その進行度にあった治療戦術を立てるためにもCTによるステージ分類が重要になってきます。

 

 【関連記事】

『犬の鼻腔内腫瘍①~概要と症状~』

こちら↓

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『犬の鼻腔内腫瘍③~放射線治療とその他の治療法~』

こちら↓

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【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 435-451p

Erik Wisner ; Allison Zwingenberger 著, 長谷川 大輔 監訳 : 犬と猫のCT&MRIアトラス, 緑書房, 2016, 19-26p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 126-127p

末松正弘. ”上部気道(鼻腔,鼻咽頭,喉頭)腫瘍の生検”. VETERINARY ONCOLOGY. 2018, NO.18, 58-64p