【はじめに】
ついに完結、『IMHAの治療法、予後、猫のIMHA』についてです。IMHAは自分の免疫で自分の赤血球を壊してしまい、溶血→貧血という流れを作る病気なので、治療法としてはそれの免疫を抑えてしまえばいいのです。
考え方はシンプルですが、実際のコントロールは難しい。そんな病気です。
では具体的な話を進めていきましょう。
『IMHA①の概要・臨床徴候』はこちら↓
『IMHA②の診断方法』はこちら↓
【目次】
【治療法】
『治療戦略』
IMHAの治療戦略としては赤血球を狙わせないようにすることなので、免疫抑制剤を用いて、免疫グロブリンの産生を抑えることが主な目的となります。
貧血が重度の症例の場合は輸血を行うべきです。
続発性IMHAの場合は原因疾患を見つけなければなりません。
『プレドニゾロン』
IMHAの場合、免疫抑制剤として糖質コルチコイドのプレドニゾロンを使います。
プレドニゾロン単剤療法と比較し多剤併用療法で優位性が認められないため、プレドニゾロン単剤療法を使うことが多いです。
プレドニゾロン単剤療法のプロトコル
①2mg/kg/day P.O
この間、毎日Htのモニタリングを行います。Htが安定してきたら、その日から3日間は同じDose(用量)で続けます。
↓
②1.5mg/kg/day 7日間
↓
③1mg/kg/day 10日間
↓
④0.5mg/kg/day 14日間
↓
⑤0.25mg/kg BID(2日に1回) 21日間
プレドニゾロン単剤療法のプロトコル(図解)
各Dose投与期間でまだ改善傾向にある場合
→さらに同Doseのまま2日に1回にして7回投薬を続けます。
治ったする基準
→Htが>36%を維持できるようになれば、治ったと判断し、薬を断ち切ることができます。
症状を治っているが、Htが<36%のまま
→各プロトコルの期間を倍に延長して、続けます。
『血栓の予防』
IMHAでは凝固能が亢進しているので、血栓塞栓症のリスクが高まっています。
どうやら溶血が凝固能亢進に関与しているみたいです。
ヘパリン、アスピリン、クロピドグレルなどの抗凝固剤の投与も検討する必要があります。
【予後】
IMHAの1年生存率は65~75%です。
そして、最も死亡率が高いの診断時から2週間です。その死亡原因は血栓塞栓症、腎障害、肝障害などによるものです。
診断時から2週間での生存率は78.5%であり、180日後の生存率は72.6%との報告があります。この生存率や下のグラフを見ても、最初の2週間でかなりガクッと生存率が下がっているのが分かります。
溶血のコントロールがうまくいった子は2~3週間ほどで状態が安定し、長生きするでしょう。
一方で、うまくいかなかった子は輸血などで対処します。
The estimated survival rate for the 1st 14 days of the study was 78.5% (95% confidence interval [CI]: 71.9–85.6%). At this time, 30 deaths because of IMHA had occurred and 23 dogs were censored because they were lost for follow‐up. The estimated half‐year survival for the whole group was 72.6% (95% CI: 64.9–81.3%) 引用文献:Idiopathic Immune‐Mediated Hemolytic Anemia: Treatment Outcome and Prognostic Factors in 149 Dogs
IMHAの再発率
5年以内で少なくとも12%程度と言われています。
血小板減少症を併発している場合
IMHAは時折、血小板減少症を伴うことがあります。
それは血小板に抗体が付着したことによる免疫介在性疾患が原因なのか、IMHAの溶血に関連する凝固能亢進によるDICや血栓塞栓症が原因なのかは分かりません。
非再生性IMHA
骨髄がダメージを受けてしまうと造血能が低下し、非再生性IMHAになることがあります。
骨髄のダメージは溶血や血栓塞栓症が引き起こす酸欠よるものが多いです。
非再生性IMHAはPRCA(赤芽球癆(ろう))と治療法が全く異なるため、鑑別されなくてはいけません。
【猫のIMHA】
『特徴』
猫のIMHAは犬のIMHAの特徴と当てはまる点が多くありますが、異なる点もあります。IMHAで見られる平均Ht値は12%で、犬の場合はこの数字はかなりの貧血なのですが、猫では低酸素血症や炎症反応、凝固亢進などが起こることは稀です。
『診断方法』
診断方法も犬同様
・クームス試験(direct agglutination test:DAT)
・赤血球浸透圧抵抗試験(OFT)
を行います。
犬と異なる点は猫の赤血球はセントラルペーラー(真ん中の窪み)が浅いため、球状赤血球と正常赤血球の判別がつきにくく、診断的価値がないということです。
『猫の続発性IMHA』
感染症
マイコプラズマ、ヘモフィリス、コロナウイルス、レトロウイルス
腫瘍
造血性腫瘍
自己免疫疾患
全身性免疫介在性疾患
鑑別すべきもの
赤芽球癆(PRCA)
『治療法』
輸血と犬のところで紹介した2ヶ月間のプレドニゾロンの治療プロトコルを行います。
『予後』
プレドニゾロンの治療プロトコルを行なった猫の
・180日生存率:75%
・死亡率:24%
・再発率:30%
【最後に】
今回はIMHAすなわち免疫介在性溶血性貧血について説明しました。
IMHAは自分の赤血球を自分で破壊してしまうことで発症する貧血のことを言います。
検査では赤血球に抗体がついていないかを調べ、感染症や腫瘍、PRCAなどの除去を行います。
治療方針としては自分の赤血球を攻撃させないためにプレドニゾロンで免疫抑制をかけていきます。そして場合によっては輸血が必要なこともあります。
予後は安定すれば長期間の生存は可能です。
『IMHA①の概要・臨床徴候』はこちら↓
『IMHA②の診断方法』はこちら↓
【本記事の参考書籍】
Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 834-837p
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 510-514p
石田卓夫 著: 伴侶動物の臨床病理学 第2版. 緑書房. 2014, 73-75p