オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

自分の血液を自分で壊す⁈『IMHA(免疫介在性溶血性貧血)』の怖さとは?②~診断方法~

スポンサーリンク

IMHA②のアイキャッチ画像

【はじめに】

今回は『IMHAの診断方法』について説明します。語り部屋で説明する『IMHAの診断方法』では教科書的な説明になっているので、若干実際の臨床現場との齟齬(そご)があるかもしれません。血液検査や特殊な検査の結果を用いて、複合的に診断していきます。

『IMHA①の概要・臨床徴候』はこちら↓

www.otahuku8.jp

『IMHA③の治療法』はこちら↓

www.otahuku8.jp

【目次】

 

 

【診断】

『診断の大まかな流れ』

再生性貧血を確認し、失血性貧血を除外する

溶血所見を確認:血色素尿、球状赤血球

③感染症などの溶血を除外:バベシア、ヘモプラズマ、ハインツ小体

クームス試験、その他の試験で陽性

⑤IMHAを確定

続発性IMHAを除外する:感染症、腫瘍、薬物、ワクチン

確定診断とする

『血液検査:CBC』

「赤血球系」

IMHAの犬は重度の貧血(Ht:<12~14%)を呈しています。
ただこれは重度の貧血を示している子で見られる所見です。
ほとんどの犬は慢性経過を辿るため 、Hctが20%以下(猫では<15%)程度であり、ここまで低い状態であることは少ないです。

 

診断時など急性の溶血を呈している場合には、はっきりとして再生像が見られることは少なく、網状赤血球は0.9~2.7%程度です。
通常、赤血球の再生像(網状赤血球の増加)が見られるようになるには骨髄反応を待つ必要があるので、溶血後3~5日はかかります。

 

血液塗抹で見られる再生像

・網状赤血球の増加

・大小不同の赤血球

・大球性低色素性貧血

・正色素性貧血←血管内溶血が顕著の場合

 

球状赤血球の出現

球状赤血球とはセントラルペーラーを認めない小型円形の赤血球です。

マクロファージなどに細胞膜を一部貪食されたことで、扁平な形態を保てなくなった赤血球であることを示しており、溶血性貧血の診断基準の1つとなります。

球状赤血球とは(図解)

球状赤血球とは

「白血球系」

白血球数は増加します。
これは好中球増加症と単球増加症によるものです。
白血球は左方変位し、幼若な杆状好中球が多見されます。
その他、IMHA患者の約50%は単球増加症が見られます。
好中球や単球(マクロファージ)が増えている理由としては、低酸素血症による組織障害が起因しているとされています。

 

「血小板」

血小板は増加している場合と減少している場合の2パターンがあります。

増加している場合
貧血に反応し、エリスロポエチンの産生が増加

血小板の産生も亢進される

 

減少している場合
エバンス症候群やDICなどの凝固不全を疑います。
血液凝固線溶系検査も必要です。

 

血小板数
・IMHA患者の70%→<200,000/mcL
・IMHA患者の40%→<100,000/mcL
・IMHA患者の25%→<50,000/mcL

 

『凝固検査』

DICが起きている時の所見
・血小板の減少
・PTの延長:IMHA患者の50%で見られる
・APTTの延長:IMHA患者の50-60%で見られる
・フィブリノーゲンの減少:急性期反応では増加していることもある(30~90%)
・D-dimerの増加
・フィブリン分解産物(FDP)の増加
・アンチトロンビン(AT)の減少 

各因子の説明

・血小板
一次止血に関与。血管の損傷部位を塞ぐ。
 

・PT(プロトロンビン時間)
外因性経路と共通経路を評価。第Ⅰ,Ⅱ,Ⅴ,Ⅶ,Ⅹ因子を評価。
 

・APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
内因性経路と共通経路を評価。第Ⅶ因子を除く全ての凝固因子を評価。
 

・フィブリノーゲン
出血時にフィブリンへ変換され、血小板に絡みつく
 

・D-dimer(D-ダイマー)
FDPの一部でより特異度が高い
 

・FDP(フィブリン分解産物)
FDPはフィブリンがプラスミンによって分解された時に出てくる物質。
FDPの増加は線維素溶解が進んでいることを示す。
 

・AT(アンチトロンビン)
ATはトロンビンの働くを抑制するもの。
トロンビンは血液の凝固に関わる。
ATが減少するとトロンビンが働き、血栓ができやすくなる

 

血栓弾性描写法(TEG)
IMHA患者のTEGは入院中の凝固能亢進を見つけることができます。

 

 

『クームス試験(直接抗グロブリン試験:DAT)』

どんな試験?

赤血球表面に免疫グロブリンや補体が結合していることを証明する試験。

続発性IMHAと原発性IMHAを鑑別することはできません。

つまり、

『赤血球が異物として認識されて、免疫細胞から指名手配されてますよ!』ということ証明する試験です。

 

検査方法

検査したい赤血球を数回洗います。

赤血球にくっついていつ非特異的な抗体や血漿蛋白はDAT試薬の結合を邪魔するため、洗い落とすします。

洗った赤血球をDAT試薬と一緒にインキュベートします。

凝集が見られた場合、クームス試験(+)と判断します。

 

複数の異なる温度で検査

抗赤血球抗体は4℃、37℃、22℃で異なる反応を示すことがあるので、この3つの温度で、検査をしていきます。
通常は体温に近い37℃を見ますが。

 

使われる抗体

クームス試験で使われる抗体は抗IgM抗体や抗IgG抗体、抗補体抗体です。
もし、赤血球膜にIgMやIgG、補体が結合している(=指名手配されている)場合に凝集が見られます。
抗IgM抗体で凝集が見られた場合、IMHAの可能性が高いと考えられています。

 

クームス試験の感度

クームス試験の感度は50~89%です。
院内クームス試験を正しい手順で行うことで、感度はあげることができます。
クームス試験が完璧な感度を持っていないことは仕方ないことです。
他の検査と併用して、診断精度を高めていくことが大切でしょう。

 

クームス試験とは(図解)

クームス試験とは

『クームスだけに頼らない‼︎その他の検査法』

血液塗抹で球状赤血球をみる

球状赤血球は貪食細胞によって赤血球膜の一部をかじられたものです。
球状赤血球の特異度は67~94%ぐらいと割と高めです。
ただ球状赤血球は赤血球の遺伝性疾患などでも見られることがあるので、総合的な解釈が必要となります。

特異度と感度(図解)

特異度と感度

 

自己凝集試験

試薬を入れていないのに凝集することがあります。
それは赤血球を洗浄する過程で見られることがありますが、赤血球抗体によるものではなく、他のタンパク質が反応して凝集していることがほとんどです。
偽陽性には注意しましょう。

 

赤血球浸透圧抵抗試験(OFT)

OFTは溶血がどの程度起きているかを調べる試験です。
IMHAの診断と直結するような試験ではないですが…(笑)
というのも、球状赤血球や溶血の割合を粗方調べる検査なので、これが分かったからといって免疫介在性によるものか判断できないからです。
生理食塩水(0.9%)をコントロールとし、0.1~0.85%の食塩水と赤血球をインキュベートして、溶血の程度を調べます。
ニュージーランドやベルギーではIMHAの診断としてルーチンで行われているみたいです。

 

『骨髄検査』

骨髄に原因疾患が無いか調べる検査です。
全身麻酔が必要となるので、最終的に行われる検査になります。
通常IMHAは造血能があるので、赤芽球系細胞の正〜過形成が塗抹で見られます。
逆に造血の様子が見られなかった場合はNRIMA(非再生性免疫介在性貧血)などを疑わなければなりません。

 

【続発性IMHAの鑑別】

続発性IMHAを鑑別することはとても重要です。
なぜなら、原因を突き止めその治療をしない限り、治らないからです。
鑑別には綿密な精査と問診が必要になります。

 

続発性IMHAの原因
・感染性疾患:バベシア、ヘモプラズマ
・腫瘍性疾患
・薬物の摂取
・ワクチン歴

 

薬物誘発性IMHA

①ハプテン型
血球に薬剤が強く付着→抗原になる
例)ペニシリン、テトラサイクリン、シスプラチン

 

②免疫複合体型
薬剤が血漿蛋白と結合→抗原になる
例)アセトアミノフェン、キニン、ストレプトマイシン、クロラムブシル

 

③自己免疫型
薬物投与→自己抗体の産生を誘導
例)メチルドーパ、L-ドーパ、プロカインアミド

 

【最後に】

今回はIMHAの診断方法について解説してみました。IMHAの診断には血液検査、血液塗抹標本上での球状赤血球の確認クームス試験などを行うことで判断します。 そして一番大切なのが、続発性の除去です。続発性には原因となる疾患が隠れています。その原因を除去しない限り、続発性IMHAが治ることはないです。そういう意味で、特発性IMIHAか続発性IMHAかを見極めることが大切になるのです。

『IMHA①の概要・臨床徴候』はこちら↓

www.otahuku8.jp

『IMHA③の治療法』はこちら↓

www.otahuku8.jp

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 834-837p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 510-514p

石田卓夫 著: 伴侶動物の臨床病理学 第2. 緑書房. 2014, 73-75p