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猫の致死的な感染症⁈『猫伝染性腹膜炎(FIP)』って何?③~治療法・予後・管理~

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FIP③のアイキャッチ画像

【はじめに】

ついにFIP最終編です。
これまで、FIPの概要や症状、検査方法について詳しく解説してきました。
詳しくはこちら↓

www.otahuku8.jp

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FIPは治せるのか、予防するためには何が必要なのか、そんな疑問にお答えします。
今回は治療法、予後、感染猫の管理法についてお話ししていこうと思います。

 

【目次】

 

 

【予後】

ほとんどのFIP感染猫は致死的な経過を辿ります。一方で、中には数ヶ月間生きるれる猫もいます。

FIP感染猫の予後は非常に悪いです。
43匹のFIP感染猫を調べた研究ではFIPと診断された後の生存期間が
・生存期間中央値:8日
・最も長生きした猫:200日
と完治した猫はおらず、診断後の最長生存期間は200日でした。 

Cats survived between 3 and 200 days (median, 9 days). The median survival time of cats belonging to the FeIFN-ω group was 9 days. Median survival time of the placebo group was 8 days. 引用文献:Effect of feline interferon-omega on the survival time and quality of life of cats with feline infectious peritonitis.

予後に関わる因子

・全身状態の悪化
・血小板数の減少
・リンパ球数の減少
・高ビリルビン血症
・大量の体腔貯留液
・痙攣←前脳の炎症性病変が関与

 

【FIP感染猫の管理方法】

FIP感染猫の管理方法ですが、同居猫がいる場合は同居猫との接触は避けた方が“無難”です。
なぜ、“ダメ”ではなく“無難”という言い方をしたかというと、FIP感染猫の排泄物などがそのまま健常猫に感染するとは考えにくいからです。

理由①
FIP猫の糞便中には猫コロナウイルスの排泄が見られないことが多いから

理由②
変異型猫コロナウイルスがそのまま体外へ流出することは非常に稀だから

理由③
FIP猫による変異型猫コロナウイルスは他の猫へ感染する能力に乏しく、感染が成立しにくいから 

【治療法】

『補助的な治療』

FIPは免疫介在性疾患であり、猫コロナウイルスへの過剰な免疫反応を抑えることが補助療法の狙いとなります。

「プレドニゾロン」

免疫抑制剤として有名なプレドニゾロンがよく使用されます。
しかし、プレドニゾロンのような糖質コルチコイドと呼ばれるステロイドはあまり効果が検証されていません。用量:2-4mg/kg PO SID

「デキサメタゾン」

デキサメタゾンも糖質コルチコイド製剤の1つで、免疫抑制や抗炎症作用を発揮します。腹水や胸水が見られた場合は、腹水・胸水抜去後にデキサメタゾンを体腔内に注射します。体腔貯留液が出なくなるまで、1mg/kg SID

「シクロフォスファミド」

糖質コルチコイド製剤と併用して時々使用されますが、その有効性については実証されていません。 

「抗菌薬」

免疫抑制剤を投与している症例では二次感染を防ぐために広域スペクタラムの抗菌薬を投与しておくことが推奨されています。

「トロンボキサン合成酵素阻害剤」

トロンボキサンとは血小板の凝集や血管の収縮を引き起こす物質です。
トロンボキサンの合成を阻害することで、血小板の凝集やサイトカインの分泌が抑えられます。
その結果、臨床症状が改善することに繋がります。 

「プロポテントフィリン」

プロポテントフィリンの実用性の真偽はわかっていませんが、炎症前駆サイトカインの産生を抑制するため、血管炎などのリスクを減らすことができるのではないかと言われています。
 

『抗ウイルス療法』

抗ウイルス療法は将来有望な研究分野として、研究されています。
現在はまだ、猫コロナウイルスに有効な治療薬というものは製品開発されていませんが、実験段階ではいくつが作られています。 

「ネルフィナビルとGNAの併用」

2つの薬について
ネルフィナビルはHIVなどに使用される蛋白分解酵素阻害剤です。
そして、
GNAGalanthus nivalis agglutininの略称で、スノードロップと呼ばれる草から抽出した成分で猫コロナウイルスのエンベロープに結合し、宿主細胞との結合を阻害します。
これら2つの併用は実験では有効ではないかと言われていますが、実用化についてはどうでしょうか?

実用性について
in vitro(試験管内)では有効性が証明されていますが、in vivo(生体内)では未だ有効性は不明です。
しかし、生体内での有効性には期待がされています。 

GNAの抗ウイルス作用(図解)

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イラスト作成:オタ福

「インターフェロン(INF)」

INFはFIP感染猫では頻繁に使用されます。
INF-αと免疫調整処理アクネ菌の併用投与でわずかながら3週間ほど平均生存期間が延長したという報告があります。

「ポリプレニル免疫刺激療法」

ポリプレニル免疫刺激療法はまだ、研究段階であるものの非滲出型FIPでの有効性が示唆されています。
この治療法はT細胞による細胞障害性の免疫反応を活性化させ、過剰なTh2反応を減少させることに基づいています。
仮説の域を脱しませんが、T細胞とB細胞による免疫反応の不均衡がFIPへの発展に繋がっているのではないかという考えもあります。

ただ、
闇雲に免疫系を刺激することは臨床症状の悪化や進行に寄与する恐れがあるため、やはり薬物療法はオススメされません。 

 

Some veterinarians prescribe immune modulators to treat cats with FIP with no documented controlled evidence of efficacy. It has been suggested that these agents may benefit infected animals by restoring compromised immune function, thereby allowing the patient to control viral burden and recover from clinical signs. However, a non-specific stimulation of the immune system may be contraindicated as clinical signs develop and progress as a result of an immune-mediated response to the mutated FCoV. 引用文献:Treatment of cats with feline infectious peritonitis

【予防法】

FIPの発症を抑えること、猫コロナウイルス感染症からのFIPへの発展を抑えることは非常に困難です。

一番確実な方法としては猫コロナウイルスに感染させないということです。

 

『室内多頭飼育のリスク』

猫コロナウイルスは便中に排出されます。

野良猫の場合
野良猫は排便をするとその糞を地面に埋めます。
野外に放出されたコロナウイルスは長期生存ができず、数時間で死んでしまいます。

 

室内飼いの猫の場合

室内飼いの猫の場合、設置されたトイレに排便します。
室内では直射日光(紫外線照射)もなく、快適な室温に調節されているので、猫コロナウイルスは約7週間ほど生存できます。←その前にトイレ掃除すると思いますが(笑)

 

対策としては

・室内猫の対策としては、密集した多頭飼育を避ける
・トイレを共有させない
・こまめにトイレ掃除する
などが簡単にできる対策です。

感染猫の管理方法(図解)
感染猫の管理方法(図解)
イラスト作成:オタ福

『ワクチンはあるの?危険性は?』

結論から言いますと、現在有効なワクチンはありません。
猫コロナウイルスやFIPのワクチンの開発研究は進められていますが、未だ成功していません。
その原因としては、ADE(抗体依存性感染増強現象)と呼ばれるものの関与がわかっています。
ADEはマクロファージの感染が増強することが原因で起こり、ワクチン接種後の猫で見られます。

 

「ワクチン接種、一番の問題」

そして、一番の問題がワクチン未接種の猫に比べ、ワクチン接種を行なった猫の方が、次に猫コロナウイルスに感染した際にFIPを発症するリスクが上昇するということです。

 

「ワクチンが使えない場合」

猫コロナウイルス暴露してしまった後にワクチンを接種した138匹の猫を用いた研究があります。
その研究結果では暴露後にワクチンを接種してもFIPへ発展する確率は変わらないという報告があります。

つまり、
一度猫コロナウイルスに感染してしまった猫やウイルスが蔓延している環境にいる猫ではワクチン接種の意味はなくなるということです。

 

「結論:ワクチン接種の有意性」

今のところ、猫コロナウイルスへの有効なワクチンはまだまだといった感じ。
ワクチンする場合は猫コロナウイルス暴露がないことが証明されている場合であり、接種後にADEが発症しないようにできるならという感じでしょうか。
有効なワクチンが早くできてほしいものです。

 

【最後に】

今回は猫コロナウイルス、猫伝染性腹膜炎(FIP)について解説しました。
猫コロナウイルス感染症はそこまで重篤化しませんが、ウイルスが変異し、猫伝染性腹膜炎(FIP)へと発展すると非常に致死率が上昇し、重篤な疾患の仲間入りを果たします。
そして、治療法や予防法も有効的なものはないため、できる限り暴露を避けるしかありません。
将来、有効的な治療法とワクチンが開発されればいいなと思います。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 984-991p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 212p, 401-402

 

【本記事の読者にオススメの記事】 

『FIPの概要・症状』についてはこちら↓
www.otahuku8.jp

『FIPの検査方法』についてはこちら↓

 

www.otahuku8.jp

 

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