オタ福の語り部屋

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猫の致死的な感染症⁈『猫伝染性腹膜炎(FIP)』って何?①~概要・症状~

FIPのアイキャッチ画像

【はじめに】

今回は『猫伝染性腹膜炎(FIP)』について解説したいと思います。猫を飼っている皆さんはFIPという病気を知っていますか?FIPとはあるウイルスに感染することで、発症します。
ただし、そのウイルスに感染した子みんながみんなFIPを発症するわけではないのです。FIPを発症するにはウイルスの変異が必要であると言われています。
さて、今回はそんな猫の感染症、FIPに紹介していきたいと思います。

 

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【目次】

 

 【猫コロナウイルス感染症について】

『猫コロナウイルス感染症≠猫伝染性腹膜炎』

猫伝染性腹膜炎は猫コロナウイルスというものに感染することで起こります。
しかし、猫コロナウイルスに感染したからといって必ずしも猫伝染性腹膜炎になるとは限りません。まずは、猫コロナウイルス感染症について簡単に説明します。猫コロナウイルス(FCoV)は多頭飼育されている猫舎などで、見られる場合があります。

 

『伝播方法』

猫コロナウイルスの感染経路は糞口感染です。感染した猫の糞が付着したものを口にすることで感染が起こります。

糞口感染とは(図解)

糞口感染とは(図解)

 

『症状』

症状が出ない場合も多々あります。猫コロナウイルス感染症では軽度の下痢や嘔吐がたまに見られる程度で、重篤な症状を示しません。

 

【猫伝染性腹膜炎とは】

猫コロナウイルスに感染した猫のおよそ5%が猫伝染性腹膜炎を発症すると言われています。猫伝染性腹膜炎(FIP)は致死的かつ免疫介在性の疾患です。

FIPの原因は猫コロナウイルスの遺伝子変異です。この遺伝子変異が起こると、猫コロナウイルスはマクロファージに侵入し、FIPの病因を作ります。

 

In feline coronavirus (FCoV) pathogenesis, the ability to infect macrophages is an essential virulence factor. Whereas the low-virulence feline enteric coronavirus (FECV) isolates primarily replicate in the epithelial cells of the enteric tract, highly virulent feline infectious peritonitis virus (FIPV) isolates have acquired the ability to replicate efficiently in macrophages, which allows rapid dissemination of the virulent virus throughout the body. 引用文献:Acquisition of Macrophage Tropism during the Pathogenesis of Feline Infectious Peritonitis Is Determined by Mutations in the Feline Coronavirus Spike Protein

【FIPに重大な遺伝子変異とは】

猫コロナウイルスが猫伝染性腹膜炎を引き起こす原因とされている遺伝子はいくつかあります。

『疑われている遺伝子』

・S(spike)遺伝子
・7a遺伝子
・7b遺伝子
・3c遺伝子
これらの遺伝子が変異を起こすと、猫コロナウイルスは一気に病原性を増強させ、臓器を攻撃し始めます。

最近の研究では、S遺伝子に近接する2つの領域(ヌクレオチド23531と23537)での違いが融合ペプチド内のアミノ酸の変化を引き起こしていることが分かっています。猫伝染性腹膜炎を引き起こす症例の95%以上でS遺伝子の変異が関係しています。 

 

『S遺伝子をコードするS蛋白とは』

猫コロナウイルスのS遺伝子の変異がFIPへの発展に大きく関与していると先ほどお話ししましたが、S遺伝子が作るS蛋白とはどのような働きをしているのでしょうか?

S蛋白の役割
感受性細胞膜上への受容体への結合と細胞侵入を担っています。つまり、エンベロープと細胞膜の融合をし、細胞内へウイルスを送り込むのです。

S遺伝子の変異(図解)

S遺伝子の変異(図解)

作成:オタ福
 

『複合的な遺伝子変異が起きている』

病原性が増強するには単一の遺伝子が変異を起こしているわけではなく、複数の遺伝子(S遺伝子と3c遺伝子など)が変異を起こしています。

 

【FIP猫では何が起きているのか】

『ざっとした説明』

猫が遺伝子変異ウイルスに感染し、遺伝子変異ウイルスの撃退に失敗すると、マクロファージ内にウイルスが侵入し、致死的な免疫介在性反応が見られます。上の状態を猫伝染性腹膜炎(FIP)と定義します。

簡単に言えばなら…
マクロファージに感染

致死的な免疫介在性反応

FIP
 

『細胞、分子レベルでの説明』

マクロファージに感染が起こると、TNF-αとIL-1βを制御しているp38MAPK経路の活性化により前炎症サイトカイン(TNF-αやIL-1βなど)や好中球生存因子(TNF-α、GM-CSF、G-CSFなど)が過剰に産生されます。

これらの因子の過剰産生を受け、好中球が活性化します。活性化した好中球は組織を傷害し、臓器の肉芽腫性病変を作ります。

さらに、FIPを発症すると、NK細胞や制御性T細胞の重度な抑制が起こるため、ウイルスを倒すための免疫力がなくなってしまいます。

 In this study we show that infection by FIPV causes a rapid activation the p38 MAPK pathway in PFBM cells, and that this process directly regulates production of the pro-inflammatory cytokines TNF-alpha and IL-1 beta. 引用文献:Activation of p38 MAPK by feline infectious peritonitis virus regulates pro-inflammatory cytokine production in primary blood-derived feline mononuclear cells

 

【症状】

『FIPの症状による分類』

FIPの症状には滲出型と非滲出型があります。

一般的に
滲出型→胸水、腹水の貯留
非滲出型→肉芽腫性病変
を示します。

 

滲出型と非滲出型の比較(図解) 

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『FIPの症状~滲出型~』

滲出型では血管炎が起きています。 

血管炎とは
血管炎とは血管周囲に炎症が起こることです。血管炎が起こると、胸水や腹水、心嚢水の貯留に繋がります。 

血管炎について(図解)

f:id:otahukutan:20190108125515p:plain

 

具体的な症状
・呼吸困難:胸水貯留による
・40℃を超える高熱
・食欲不振
・体重減少
 

『FIPの症状~非滲出型~』

非滲出型では肉芽腫性病変が起きています。
 

肉芽腫性病変とは
肉芽腫とは病理学的な表現を用いると、マクロファージが集積し、線維芽細胞や結合組織の増殖が認められるものです。イメージとしては炎症が起きて、固くなった塊ぐらいでいいでしょう(笑)
 

肉芽腫性病変ができる場所
中枢神経系、眼、腸管(特に回盲腸開口部)、腹腔内
  

具体的な症状
変動のある不安定な発熱、体重減少、後肢運動麻痺や痙攣(中枢神経系に肉芽腫ができると起こる)
 

『その他の症状』

これらはあまり見られる症状ではありません。
縦隔嚢胞様腫瘍、皮膚の丘疹・結節、足皮膚炎、精巣炎
 

【最後に】

今回はFIPの概要と症状について説明しました。猫コロナウイルスがどのようなものなのか。どうやって感染が拡大していくのか。
そして、FIPになるとどのような症状が現れるのか。こういったことを中心にお話ししました。

 

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【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 984-991p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 212p, 401-402