オタ福の語り部屋

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発見時には一大事⁈『血管肉腫』って何?② ~症状・検査法~

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今回は血管肉腫の症状と検査方法について説明します。血管肉腫の症状は突発的に見られることが多いです。

その瞬間とは脾臓が破裂し、お腹の中に血が溜まった時に見られます。そうなる前に早めに異変に気づいてあげることが重要になってきます。

【目次】

 

 【はじめに】

『血管肉腫の概要と統計』についてはこちらへ↓

www.otahuku8.jp

 

【臨床徴候】

症状は曖昧なものがほとんどで、症状はないけど腹部が腫脹していることもあります。
ただ、一番危険なのは腹腔内原発の血管肉腫が破裂した時です。
この場合、大量出血によって、失血性ショックや低血圧ショックを引き起こし命を落とすことがあります。

 

『一番多い症状』

半日から1日半ぐらいで収まる急な体調不良があります。
これは破裂した血管肉腫が腹腔内出血を起こしたあと、しばらくすると赤血球の再吸収が起こるため、状態がある程度回復するのだと考えられています。

 

具体的に体調不良とは

・元気消失
・食欲不振
・体重減少
・腹部の膨張

 

『心臓の血管肉腫で見られる症状』

心タンポナーデが見られるため、心タンポナーデに関連した症状が見られます。

そのほかにも運動不耐性、呼吸困難、腹水の貯留など、右心障害に関連した症状が現れます。心タンポナーデとは心臓と心外膜(心臓を覆う膜)との間に液体が貯まってしまい、心臓の拍動を邪魔してしまう疾患です。心不全になるので危険な病気です。 

 

『身体検査』

内臓の血管肉腫

・CRT(毛細血管再充満時間)の延長:脱水やショック、低体温の可能性を示唆
・弱い拍動を伴う頻脈
・腹部の流体波を触知
・腹部腫瘤の触知

心臓の血管肉腫
腹水、心音の消失

猫の血管肉腫
元気消失、嘔吐、食欲不振、呼吸困難、腹部の膨張、蒼白、胸水・腹水の貯留、腹部腫瘤の触知など

 

【診断:術前にできること】

血管肉腫のステージ分類や診断についてお話ししていきます。血管肉腫で行われる検査は以下のものがあります。血液検査、生化学検査、凝固試験、胸腹部X線検査、腹腔穿刺、心エコー

 

『血液検査』

貧血
血管肉腫では貧血がよく見られます
貧血では血液塗抹標本上で有棘赤血球分裂赤血球が見られます。手術時に重度の貧血が見られる場合は輸血の検討も必要です。

 

好中球増加症
たまに見られます。血管肉腫には炎症や壊死が多いので、それが原因?

 

血小板減少症
軽度〜重度の血小板減少症が75~97%の症例で見られます。

 

『血液検査:生化学』

特異的な所見は見られません。敷いてあるなら、低アルブミン血症、低グロブリン血症、肝酵素の軽度上昇など

 

『血液凝固試験』

血管肉腫を診断する上で血液凝固試験はとても役立ちます。
血管肉腫患者の凝固試験結果

・PT延長(12.5%)
・APTT延長(46%)
・血小板減少症(75~97%)
・フィブリン分解産物の増加(46~93%)
・低フィブリノーゲン血症(8~46%)
・DICの指標を示す(47~50%)
でした。

 

各因子の説明 
PT(プロトロンビン時間)

外因性経路と共通経路を評価。第Ⅰ,Ⅱ,Ⅴ,Ⅶ,Ⅹ因子を評価。

 

APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
内因性経路と共通経路を評価。第Ⅶ因子を除く全ての凝固因子を評価。

 

血小板
一次止血に関与。血管の損傷部位を塞ぐ。

 

D-dimer(D-ダイマー)
FDPの一部でより特異度が高い

 

FDP(フィブリン分解産物)
FDPはフィブリンがプラスミンによって分解された時に出てくる物質。FDPの増加は線維素溶解が進んでいることを示す。

 

フィブリノーゲン
出血時にフィブリンへ変換され、血小板に絡みつく

 

『腫瘍の血管新生』

血管肉腫はたくさんの腫瘍血管を新生しています。しかし、作られている血管はどれも不整で不揃いなものばかりです。
・中途半端な血管内皮細胞
・乱流を引き起こす動静脈シャント
・血管内皮下のコラーゲンの露出
・血小板凝集
など、未熟なものがほとんどで、正常な血管は作られていません。

 

血管肉腫の血管新生(図解)

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撮影:オタ福

『画像診断:胸部』

外科手術を行い、確定診断を出すまでに転移が無いかを検査しておく必要があります。

胸部レントゲン

感度は78%で、肺転移が見られた場合、予後は不良となります。

胸部三方向からの撮影は見落としを減らすためにも必ず行われるべきです。そのほかにも心臓原発の血管肉腫の場合、心嚢水貯留による心陰影の拡大が見られます。
通称"globoid cardiac sillhouette"

 

『画像診断:腹部』

腹部レントゲン

腹腔内の腫瘤を見るのに適しています。

 

腹部超音波検査

血管肉腫は腹水を貯留させることが多く、レントゲン検査では見づらい場合があります。一方で超音波検査の場合、その点に関しては問題なく、腫瘍や転移巣を見つけるのに非常に役立ちます。

血管肉腫の超音波像としては
・異なるエコー源性を示す
・低エコーの空洞状病変〜高エコー像までムラがある
 などがあります。

 

『心電図』

心電図に現れる所見は心嚢水によるものが多いです。
特徴的な心電図所見:QRS波の低下、電気的交互脈

 

『心エコー』

心エコーでは心嚢水の貯留を確認することができます。

そして、心臓の血管肉腫の好発部位である右心耳の腫瘤も65~90%の確率で確認することができます。

 

massエフェクト

画像診断上で腫瘤(mass)があることを示す所見として『massエフェクト』というものがあります。右心耳にできた血餅はmassエフェクトとして心エコーで見ることができます。

massエフェクトが無い場合、血管肉腫を除外することができます。
しかし、massエフェクトが見られた場合、それが血管肉腫だけの特徴的病変では無いため、直ぐに血管肉腫と決めつけることはできません。

 

予後に関わる因子:massエフェクトの有無、腫瘍破裂の有無、腹水の有無 

 

【ステージ分類】

腫瘍のステージ分類はTNM分類と呼ばれるものを使用します。

『T:原発腫瘍の大きさ』 

T0:腫瘍がない
T1:腫瘍が5cm以下
T2:腫瘍が5cm以上or皮下組織に浸潤
T3:腫瘍が周辺組織に浸潤or筋層への浸潤

 

『N:領域リンパ節』

N0:領域リンパ節への転移が見られない
N1:領域リンパ節への転移が見られる
N2:遠隔リンパ節への転移が見られる

 

『M:遠隔転移』

M0:遠隔転移が見られない
M1:遠隔転移がある

 

『TNM分類によるステージング』

ステージⅠ:T0 or T1,N0,N0
ステージⅡ:T1 or T2,N0 or N1,M0
ステージⅢ:T2 or T3, N0,N1 or N2,M1

 

【確定診断するには】

『正しい生検が必須!!』

確定診断をするには手術で摘出した腫瘍の病理組織学的検査を行わなければなりません。仮に術前に生検として腫瘍の一部を取ってくる場合は様々な注意点があります。

 

①大きさ

十分な大きさが必要です。小さなサンプルの場合、血餅だけであったり、非特異的な組織しか取れていないなんてこともあるので、診断精度をあげるためにも十分な大きさのサンプルが必要になります。

 

②皮膚、皮下血管肉腫の生検

通常は簡単に取れますが、注意しなければならない状況があります。
それは腹腔内まで腫瘍が連続している場合です。この状況で、穿刺または生検を行うと出血が止まらず、そのまま腹膜などに播種する可能性があります。

 

③可能なら全摘出が基本

手術で生検する場合はなるべく脾臓の全摘出を行いましょう。

 

『血管肉腫の病理組織学診断』

血管肉腫は血管新生と腫瘍中心部での壊死がたくさん見られます。血管肉腫の破裂の原因はこの壊死によるものだと考えられています。

 

血管肉腫の病理組織像(図解) 

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撮影:オタ福

 

壊死病変

腫瘍の中心部は壊死していることが多いです。壊死するとピンク色にベターっとしているのが見え、無構造状の病変になります。

好中球は分葉核といって、馬の蹄のような形をしているのが特徴です。壊死の時、細胞を食べにきます。

 

血管肉腫の壊死病変(図解)

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撮影:オタ福



血管新生

先ほどから何回か話に出ていますが、血管肉腫は血管新生といって血管をたくさん作ります。

ただ、正常の血管のように綺麗な血管を作ることができず、結果的に網目状の不整な血管をたくさん作ります。

 

血管肉腫の血管新生(図解)

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撮影:オタ福 

 

【術前診断の将来性・可能性】

これらはあくまで将来使われるかもしれない研究テーマの1つなので、まだ実用化できるレベルには到達していません。

心嚢水のpH
心嚢水のpHが腫瘍性病変の存在に相関するというデータがありますが、診断的価値は低いようです。

 

トロポニン1濃度
トロポニン1は心筋の損傷を示す指標ですが、血管肉腫と特発性の心嚢水貯留との間で有意差が見られるみたいです。

 

VEGFの血清濃度と尿中bFGF濃度
血管内皮成長因子(VEGF)や塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の濃度は血管肉腫患者と健常犬で差が見られるとされています。
しかし、寛解状態や臨床ステージ、結果に相関がないみたいです。

 

腫瘍マーカー

これも将来性のある分野です。今候補として上がっているのが以下のものです。
・血清α1アシドグリコプロテイン(α1AG):血液中の糖蛋白
・XXⅦコラーゲンα1
・チミジンキナーゼ活性:DNA代謝異常を示す悪性腫瘍では血液中で増加する。細胞の分裂増殖の指標となる。

 

【最後に】

血管肉腫の概要と統計はこちら↓ 

www.otahuku8.jp

 

治療法、予後についてはこちら↓

www.otahuku8.jp

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 2091-2100p

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 679-684p