オタ福の語り部屋

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発見時には一大事⁈『血管肉腫』って何?① ~概要・統計~

血管肉腫①のアイキャッチ画像

今回は『血管肉腫』シリーズ、概要と統計編です。血管肉腫とはどのようなものなのか、好発部位、悪性良性どっちなのかなど、血管肉腫をざっくりと捉えるための内容になっています。

 

【目次】

 

 

【血管肉腫とはどんなものなのか?】

『概要』

血管肉腫は血管内皮由来の腫瘍です。犬での発生が多く、猫では稀です。血管肉腫は皮膚腫瘍の2.3~3.6%を占め、脾臓の悪性腫瘍では45~51%を占めています。脾臓の悪性腫瘍では血管肉腫がかなり多いといった印象があります。

 

『好発傾向にあるもの』

好発年齢:中年齢〜高年齢

好発犬種:ゴールデン・レトリバー、ジャーマン・シェパード、ラブラドール・レトリバー

好発性別:雄犬で若干の好発傾向を示す

 

『病因』

はっきりとは解明されていません。人の例を見てみましょう。人の血管肉腫は『カポジ肉腫』と呼ばれています。

カポジ肉腫の原因となる物質

・酸化トリウム

・ヒ素

・塩化ビニル

・アンドロジェン

・放射線←乳癌患者の乳房温存放射線治療の遅発性後遺症

・ヒトヘルペスウイルス8(HHV-8)←カポジ肉腫に関与

 

犬で疑われている原因

・出生前あるいは生後の電離放射線への暴露

・皮膚型血管肉腫では紫外線の関与も示唆される

 

『血管肉腫が持つ分子』

血管肉腫の病因で重要とされる血管新生に関する分子経路が上手く制御できていないと考えられています。

 

血管肉腫腫瘍細胞が過剰にもつ分子

・血管内皮成長因子(VEGF)

・塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)

・ アンジオポエチン1、2(Ang-1,Ang-2)

これらは全て血管新生に関わる重要な因子であり、血管肉腫の腫瘍細胞に多く含有されています。また、重要なことに血管肉腫にはこれらの因子に対する受容体も多く存在しています。

 

血管肉腫が増殖するメカニズム

血管肉腫の腫瘍細胞は血管を作るのに必要な因子と受容体を持つ

自分で因子を分泌し、自分を刺激させる

どんどん血管作り、増える

を繰り返して無秩序に増殖していきます。

 

血管肉腫が増殖するメカニズム(図解)

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イラスト作成:オタ福
 

『血管肉腫に関する遺伝子』

人やマウスの場合

人やマウスの血管肉腫ではp53やRas、Tsc2といった癌抑制遺伝子が変異を起こしていることがわかっています。

※癌抑制遺伝子とは

腫瘍化に関わる細胞増殖などを制御している遺伝子で、これらの遺伝子に変異が生じるとガン化が促進される。

 

犬の場合

犬の血管肉腫ではp53やRasなどの発現は稀である一方で、PTENの不活性化が50%以上でみられています。そのほかにも、アポトーシスを制御している蛋白質であるpRB、cyclin D1、BCL2、サバイビンが過剰に発現していることがわかっています。

 

【血管肉腫のあるある】 

『好発部位(犬)』

最も多いのは『脾臓』です。

その他の好発部位:右心耳(心臓)、皮膚、皮下組織、肝臓 

たまにみられる部位:肺、腎臓、口腔、筋肉、骨、膀胱、左心室、子宮、舌、指、後腹膜など

 

『好発部位(猫)』

好発部位:皮下組織、脾臓、肝臓、腸管など

その他で報告がある部位:心臓、胸腔、眼瞼、鼻腔など

 

『“2/3ルール”とは』

脾臓の腫大や腫瘤が確認された場合、血管肉腫であることが多いです。しかし、全てが全て血管肉腫ではなく、そこには2/3ルールというものがあります。

 

2/3ルール ~その①~

脾臓の腫瘤を発見した時、その2/3が悪性の腫瘍である

 

2/3ルール ~その②~

悪性腫瘍の2/3が血管肉腫である

 

2/3ルール ~その③~

腹腔内出血を示した脾臓腫瘤を持つ犬の2/3が血管肉腫である

 

 

2/3ルール(図解)

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作成:オタ福

Splenomegaly was caused by a variety of disease: benign neoplasia (n = 1), primary malignant neoplasia (n = 59), metastases from nonsplenic primaries (n = 6), and nonneoplasitic processes (n = 34)(Table 1). 引用文献:Splenomegaly in Dogs Predictors of Neoplasia and Survival After Splenectomy

 

二次診療バイアス?

2/3ルールが当てはまるのは二次診療の場合が多く、 一次診療の現場では脾臓の腫瘤の2/3が血管肉腫であるということは少ないみたいです。二次診療はどうしても重篤な症例が集まってくるので、論文として上がるのは二次診療のバイアスがあるのかもしれませんね。

 

『肉眼所見:血管肉腫の見た目』 

どんな風に見える?

孤立性、多発性、びまん性

 

何色?

桃白色、暗赤色、紫色

 

割面は?

血液を多く含む、壊死している部分あり

 

周囲とは?

・正常組織との境界不明瞭

・被包なし

・近隣組織と固着あり

 

特徴

もろく、破裂のリスクあり、出血しやすい

 

『組織所見:病理組織像を見てみて』

未熟な血管内皮細胞で、バラツキのある血管を作っています。

 

免疫組織化学染色

・ウォンウィルブランド因子(vwf)

・CD31

・PECAM

・クローディン5

・CD117(KIT)

これらは血管内皮由来の腫瘍のマーカーです。

 

【血管肉腫の挙動】

血管肉腫は皮膚や皮下に限局された血管肉腫を除き、とても浸潤性の強い悪性腫瘍だと考えられています。

『血管肉腫の転移』

転移は血行性あるいは腫瘍破裂に伴う腹膜播種で起こります。

 

転移の好発部位

・肝臓

・大網

・腸間膜

・肺

・右心耳

 

報告がある転移部位

腎臓、筋肉、腹膜、リンパ節、副腎、脳、横隔膜

 

【猫の血管肉腫】

猫の血管肉腫は犬のそれと比べ、あまり悪性度は高くないと言われています。体表の血管肉腫である皮膚や皮下にできた血管肉腫は転移が少なく、局所コントロールが中心の治療となります。内臓の血管肉腫は犬同様転移が多く、肝臓や大網、横隔膜、膵臓、肺などで見られます。

 

【最後に】続編はこちら〜!

『発見時には一大事⁈『血管肉腫』って何?② ~症状・検査法~』↓↓

www.otahuku8.jp

 

治療法、予後はこちら↓↓

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【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 2091-2100p

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 679-684p