オタ福の語り部屋

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「低タンパク血症、高タンパク血症」~血液検査を考える~

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『血漿蛋白』のアイキャッチ画像

【はじめに】

今回は『血漿蛋白』について書いています。この「~血液検査を考える~」シリーズでは他のブログでは見られないような内容になっていると思います。みなさん、ペットの血液検査の結果を頂きますよね。

その結果ってどうしてますか?おそらく、「これが低い」、「これは高い」って基準値ばかり追いかけていますよね。実は血液検査ってもっと奥が深いんです。血液検査は単なる数字の増減を見るのではなく、その結果から『今、身体で何が起こっているのか』を考えなければなりません。飼い主さんにも一緒に考えてもられるような情報がこの「~血液検査を考える~」シリーズなのです。

さて今回は、血液検査項目でよく見られるTPとAlb、Globは一体何なのか?そういった疑問を紐解けるような内容になっています。早速行ってみましょう!

  

【目次】

 

 

【TP(トータルプロテイン)とは?】

血液検査の結果が返ってきた時に『TP』という項目があります。TPとはtotal protein すなわち“総タンパク”を意味しています。血液中にあるタンパク質はアルブミンとグロブリンの2種類が主に占めています。その他にも、フィブリノーゲンという血液凝固因子などがあります。血液検査ではアルブミンとグロブリンを分けて考えなければいません。

 

『TPの基準値』

TPの正常値は年齢によって異なります。これは加齢に伴い、免疫刺激の蓄積によりGlob分画の増加が見られるためです。

TPの基準値

・6ヶ月未満の動物:5.0~7.0g/dL

・成熟動物:6.0~7.5g/dL

・8歳以上の動物:6.5~8.0g/dL

 

『Alb(アルブミン)とは?』

アルブミンは肝臓で合成される蛋白です。

役割

・血漿膠質浸透圧の維持:血液中の水分を維持している

・血液中物質の運搬

 

減少する原因

①産生の低下:肝不全、小腸疾患による蛋白の吸収不全

②液体貯留による隔離:腹水、胸水、血管炎など

③輸液による希釈:輸液して血液の水分量が増加し、希釈される

アルブミンの役割(図解)

アルブミンの役割(図解)

 

『Glob(グロブリン)とは?』

グロブリンは1種類だけではなく、電気泳動をかけることでα1、α2、β1、β2、γの5種類に分けられます。これを“グロブリン分画”と言います。

 

「α分画」

α分画の多くは肝臓で合成され、糖蛋白が多く含まれています。α1、α2は急性期蛋白が多く含まれ、炎症に伴って増加します。動物種差があり、炎症期に犬の場合ではα2を中心に増加します。

 

「β分画」

β分画の主要な糖蛋白としてトランスフェリン(Tf)があります。トランスフェリンは鉄の運搬が主な役割ですが、急性期蛋白の1つで、急性炎症に伴って上昇します。

 

「γ分画」

γ分画のグロブリンは免疫グロブリンとも呼ばれています。IgA、IgG、IgM、IgEの4種類が主に含まれています。これらの免疫グロブリンは形質細胞という細胞から分泌されるので、形質細胞腫などではγ-グロブリンが増加します。

免疫グロブリンの簡単な説明

・IgA:粘膜周辺に存在し、粘膜面での感染防御に関与する抗体

・IgG:初乳中に含まれる抗体。液性免疫応答の中心となる抗体

・IgM:抗原刺激後、最も早く分泌される抗体

・IgE:肥満細胞に結合して、アレルギー反応を起こす抗体

 

グロブリンの分画(図解)

グロブリンの分画(図解)

【急性期の炎症で上がるもの、下がるもの】

先ほどの項ではTPにはアルブミンとグロブリンがあり、さらにグロブリンには5種類の分画があって、炎症によって増加するという話をしました。この項では急性期の炎症で上昇するものと減少するものを説明していきます。

 

『急性期炎症で上昇するもの』

急性期炎症ではグロブリンをはじめ、C反応性蛋白(CRP)、血清アミロイドA(SAA)、ハプトグロビン、その他多くのものが上昇します。

何が上昇するかは動物種差が大きく、

・CRP→犬

・SAA→猫

で上昇します。

 

『急性期炎症で減少するもの』

代表的なものにアルブミンがあります。アルブミンの低下は体のどこかで炎症が起きている可能性を示唆しているため、他の血液検査項目もチェックして、確認していきましょう。炎症時に出るサイトカイン(IL-6、IL-1)が急性期炎症蛋白の産生を減少させるように肝細胞へ働きかけています。 

The acute phase response is a nonspecific inflammatory reaction of the host that occurs shortly after any tissue injury. The response includes changes in the concentration of plasma proteins called acute phase proteins (APPs), some of which decrease in concentration (negative APPs), such as albumin or transferrin, and others of which increase in concentration (positive APPs), such as C-reactive protein, serum amyloid A, haptoglobin, alpha-1-acid glycoprotein, and ceruloplasmin. 引用文献:Acute phase proteins in dogs and cats: current knowledge and future perspectives

 

【低蛋白血症について】

低蛋白血症は膠質浸透圧の維持ができなくなるほど低下すると重態です。

血漿蛋白の減少には

①アルブミンが低下する場合

②グロブリンが低下する場合

③両方が低下する場合

の3パターンがあります。一般的にA/G比といって、アルブミン/グロブリンの比を見る評価方法があります。

 

『両方が低下する場合(A/G比は正常)』

これは血漿の全成分が失われていることを意味しています。

 

考えられる原因

・出血:血液が丸ごと出て行く

・血管炎:血管外へ血液が漏れ出てる

・胸膜炎:胸腔内へ出血している

・腹膜炎:腹腔内へ出血している

・蛋白漏出性腸症

・IBD(炎症性腸疾患):腸の炎症で蛋白が漏出している

 

『アルブミンが低下する場合(低A/G比)』

考えなければならないのはアルブミンの産生量の低下と漏出の亢進です。 

考えられる原因

・炎症

・肝機能の低下

・飢餓

・腎臓からの漏出

 

「肝機能の低下」

門脈体循環シャントや肝硬変などが起こると、アルブミンの産生量は低下します。ただ、これらの疾患は肝機能の低下を引き起こすので、アルブミンだけではなく、尿素やコレステロール、グルコースなどの血清濃度も低下します。

 

肝機能の低下を確認するには

・胆汁酸試験

・画像診断

・肝臓の生検

などが必要になります。

 

「腎臓からの漏出」

腎臓からのアルブミン漏出は糸球体疾患が原因にあります。アルブミンはグロブリンと比較し、分子量が小さいです。そのため、腎臓のフィルターの役割をしている糸球体に何か病変が起き、フィルターの網目が広がった場合には漏出しやすくなるのです。

 

『グロブリンが低下する場合(高A/G比)』

グロブリンが低下しているときはアルブミンも低下していることがほとんどであり、グロブリンだけが低下する場合は少ないです。

 

考えられる原因

・遺伝性の免疫不全症候群

・犬ぞりレース用の犬で見られる

 

軽度の低グロブリン血症なら…

・猫の甲状腺機能亢進症

・蛋白の代謝亢進

など

 

グレイハウンドでは注意

グレイハウンドは健康な状態であってもα-グロブリンとβ-グロブリンが低値を示します。

 

【高タンパク血症】

高タンパク血症には“相対的な上昇”と“絶対的な上昇”の2つがあります。まずは相対的な上昇について

『相対的な上昇』

相対的な上昇、つまりそれは『脱水』を意味しています。脱水により血液中の水分が少なくなると、自然と血漿蛋白濃度は上昇します。これが起こっているときはA/G比は正常であることが多いです。そして、赤血球増加症と腎前性尿毒症も起こっているでしょう。これらも脱水を示唆する所見です。

高タンパク血症~相対的な上昇~(図解)

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『絶対的な上昇』

絶対的な上昇とはつまりアルブミンやグロブリンの産生が亢進していることが考えられます。 

アルブミンの産生が亢進する場合

グロブリンの上昇がなく、アルブミンの上昇が見られる場合はほとんどないです。もしそういう所見が見られた場合は

・検査手技のエラーがなかったか

・稀ですが、肝細胞がんによるアルブミン産生の亢進がないか

を確認するべきでしょう。

 

グロブリンの産生が亢進する場合

絶対的な血中タンパク質の上昇で考えられるのはほとんどがこっちの場合です。

高グロブリン血症の場合に考えられる原因

・抗原刺激

・B細胞性リンパ腫

・形質細胞腫

 

【高グロブリン血症】

高グロブリン血症が見られた場合、電気泳動によってどのサブタイプ(α1、α2、β1、β2、γ)が増加しているかを確認するのが次のステップになります。

 

『ポリクローナルな上昇』

ポリクローナルとは複数のサブタイプが上昇している場合のことをいい、その場合は感染症や免疫介在性疾患に起因する抗原刺激が示唆されます。

 

『モノクローナルな上昇』

こういったモノクローナルな上昇パターンはある特定の免疫グロブリンが上昇したことによって見られます。つまり、クローン増殖をしているということなので

・B細胞性リンパ腫

・形質細胞腫

・白血病

・多発性骨髄腫

・ワルデンストレームマクログロブリン血症(Waldenstrom's macrogloblinemia:WM)

などが鑑別疾患に挙げられます。ちなみに、WMは骨髄浸潤とIgM型M蛋白血症を伴うリンパ形質細胞リンパ腫(LPL)として定義されています。

 

『誤解しやすい所見』

今まで話していた高グロブリン血症の診断方法はオーソドックスなパターンの症例です。ここで話すのは若干イレギュラーな症例です。

「注意点①」

通常はポリクローナルな上昇パターンを示すはずの感染症や免疫介在性疾患ですが、類似した抗体が産生されることで、機械が区別できずにモノクローナル様に上昇して見えることがあります。これは『オリゴクローナルガンモパシー(少クローナルな上昇)』と言います。膿皮症や形質細胞性腸炎などで見られることが多いです。

 

「注意点②」

腫瘍性病変であっても必ずしも、『モノクローナルな上昇=腫瘍性病変』と短絡的な解釈をしてはいけません。多発性骨髄腫の診断基準では以下の条件を2つ以上満たさなければなりません。

 

多発性骨髄腫の診断基準

・モノクローナルガンモパシー:モノクローナルな上昇

・骨髄での形質細胞の過剰増殖

・骨吸収性病変(パンチアウト像):骨の虫食い像が見える

・ベンスジョーンズ蛋白尿:免疫グロブリンの軽鎖が尿中に出る

 

「注意点③」

抗原刺激などによって、必ずしも高タンパク血症が見られるわけではありません。それは特に軽度の場合や病変初期の場合では十分ありえます。TPだけに頼ることなく総合的な検査によって、正確な診断ができることを認識しておかなければなりません。

 

【最後に】

後半では高グロブリン血症の注意すべき点について記述しました。約99%の獣医は典型例の場合はおおよそ疾患の予想がつくはずです。こうだと思って治療しているのに全然治ってくれない…。

そういった、ちょっとイレギュラーなパターンが来た時に一度立ち止まって考えられるような内容になっていればいいかなと思います。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 243-245p

石田卓夫. 伴侶動物の臨床病理学 第2版. 緑書房. 2014, 126-132p