今回は『口腔内腫瘍』について説明します。
口腔内にできる腫瘍は
・悪性黒色腫(Maligant melanoma)
・扁平上皮癌(squamous cell carcinoma:SCC)
・線維肉腫(Fibrosarcoma)
・エプーリス(Epulis)
のこの4つがダントツに多いです!!
これら4つを中心にお話を進めていきたいと思います。
【目次】
- 【口腔内腫瘍の統計】
- 【悪性メラノーマ(黒色腫)ってどんなやつ?】
- 【扁平上皮癌(SCC)ってどんなやつ?】
- 【線維肉腫ってどんなやつ?】
- 【エプーリスってどんなやつ?】
- 【口腔内腫瘍の症状】
- 【診断】
- 【治療:外科手術】
- 【治療:放射線治療】
- 【化学療法】
- 【予後について】
- 【予後:悪性メラノーマ】
- 【予後:口腔内扁平上皮癌(犬)】
- 【予後:口腔内扁平上皮癌(猫)】
- 【予後:線維肉腫】
- 【予後:歯原性線維腫】
- 【予後:棘細胞性エナメル上皮腫】
- 【予後:骨肉腫】←悪性腫瘍のなので一応ご紹介
- 【本記事の参考書籍】
【口腔内腫瘍の統計】
『全腫瘍での比較』
犬の口腔内腫瘍は全腫瘍の6~7%を占めます。これは4番目に多い腫瘍とされています。
猫でも割と高く、全腫瘍の3%を占めています。
『犬と猫の比較』
犬と猫では犬の方が2.6倍ほど口腔咽頭腫瘍を発症しやすいです。
『性別での比較(犬)』
雌犬と比較し、雄犬の方が2.4倍発症率が高いです。また、雄犬では悪性メラノーマや扁平上皮癌の素因があることもわかっています。
『好発犬種』
・コッカー・スパニエル
・ジャーマン・ショートヘアード・ポインター
・ワイマラナー
・ゴールデン・レトリバー
・プードル犬種
・チャウ・チャウ
・ボクサー
日本でよく飼育されている犬種を赤字で表示しています。
『発症しやすい腫瘍 』
発症しやすい腫瘍は犬と猫で異なります。
口腔内腫瘍ランキング(犬)
1位(30~40%):悪性黒色腫(Maligant melanoma)
2位(17~25%):扁平上皮癌(SCC)
3位(8~25%):線維肉腫(Fibrosarcoma)
その他の腫瘍
骨肉腫、軟骨肉腫、未分化肉腫、多葉性骨軟骨肉腫、骨内癌、横紋筋肉腫、血管肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫、可移植性性器腫瘍、などなど
口腔内腫瘍ランキング(猫)
1位(70~80%):扁平上皮癌(SCC)
2位(13~17%):線維肉腫(Fibrosarcoma)
3位(7%):線維腫性エプーリス(Fibromatous epulis)
猫の口腔内腫瘍の発生率
Table1より抜粋引用文献:Feline Oral Neoplasia: A Ten-Year Survey
【悪性メラノーマ(黒色腫)ってどんなやつ?】
『好発の〇〇』
悪性黒色腫は口腔内に好発する悪性の腫瘍です。
好発犬種
好発犬種は以下の通りです。
・コッカー・スパニエル
・プードル犬種
・アナトリアン・シープドッグ
・ゴードン・セッター
・チャウ・チャウ
・ゴールデン・レトリバー
性差
雄の方が発生率が高いと言われていますが、定かではありません。
好発年齢
発症する平均年齢は以下の通りです。平均発症年齢:11.4歳
猫では
猫では悪性黒色腫の発生は稀です。
『病理組織学的なお話』
悪性メラノーマの病理組織学的検査はメラニン顆粒を細胞質に含んでいる場合は比較的スムーズに診断がつきます。
しかし、悪性黒色腫の1/3ほどは『無色素性メラノーマ』と呼ばれるもので、メラニン顆粒を持ちません。
無色素性メラノーマは通常のHE染色では他の未分化肉腫や上皮系腫瘍とも区別できません。
そこで登場してくれる診断の救世主が
免疫組織化学検査によるMelan-Aの染色です。
Melan-Aは感度も良く、他の未分化な腫瘍との鑑別にも役立ちます。
悪性メラノーマの病理組織像(図解)
悪性メラノーマの拡大像(図解)
『悪性メラノーマの転移』
口腔内にできた悪性メラノーマはかなり高率で転移を起こします。
好発転移部位
・領域リンパ節(41~74%):下顎リンパ節、内咽頭後リンパ節
・肺(14~92%)
場所や大きさ、ステージにもよりますが、80%以上の確率で転移しています。
『悪性メラノーマをもっと知りたい方』
【扁平上皮癌(SCC)ってどんなやつ?】
扁平上皮癌は猫の口腔内腫瘍で1番多く、犬では2番目に多い口腔内腫瘍です。
『発症率をあげる因子(猫)』
・猫ではノミ避けの首輪→3.5倍以上
・缶フード(特にツナ缶)の摂取
・喫煙(副流煙)の影響→2倍
喫煙の影響を受けている猫とそうでない猫では扁平上皮癌病巣内のp53遺伝子の発現量が異なります。
そのため、喫煙関連SCCはp53遺伝子の変異が関与していることが示唆されています。
『扁平上皮癌の挙動』
扁平上皮癌は局所浸潤性が強く、骨浸潤も多々見られます。
特に猫ではその骨浸潤が重度です。
腫瘍によってPTHrP(パラソルモン関連蛋白)の発現が上昇することが分かっていて、このPTHrPはパラソルモンと同じような働きをします。パラソルモンは血液中のカルシウム濃度が低下した際に分泌されるホルモンで、腸管からのカルシウム吸収を促進したり、骨破壊を行なって、血中カルシウム濃度を上昇させます。
腫瘍はパラソルモンと類似した作用を示すPTHrPを分泌するので、骨を壊し、血中Ca濃度をあげるのです。
このPTHrPが骨の再吸収と腫瘍の骨浸潤に関与し、また腫瘍随伴症候群の高カルシウム血症へと導きます。
『転移率について』
猫の転移率
稀とは言われていますが、きちんと検討された文献が見つけられません。
犬の転移率
扁桃以外の扁平上皮癌ではおよそ20%で転移が見られました。口腔の吻側では転移率は低く、尾側の舌や扁桃でのSCCは転移率が高いようです。
【線維肉腫ってどんなやつ?】
線維肉腫は猫で2番目に多く、犬で3番目に多い口腔内腫瘍です。
『好発の〇〇』
・好発犬種:大型犬(ゴールデン・レトリバー)
・好発年齢:7.3~8.6歳
・性差:雄犬で多い
・好発部位:硬口蓋、上顎犬歯の歯周
線維肉腫の好発部位と肉眼像(図解)
『線維肉腫の注意点』
腫瘍の確定診断は病理組織学的検査によって行われます。病理組織学的検査では腫瘍を顕微鏡で見て、どれほど悪性度があるかを調べます。
この検査の結果、腫瘍が良性か悪性かを決めるのですが、線維肉腫の厄介なところは病理検査の結果と臨床兆候が一致しない点です。
病理検査で顕著な悪性所見が確認されていなくても、臨床的には浸潤性が高く、急速な成長スピードと骨浸潤が目立ちます。
『転移について』
線維肉腫は全体の30%以下で領域リンパ節への転移を認めます。
「多いというには少ない、少ないというには多い」
そんな数字です。
【エプーリスってどんなやつ?】
エプーリスは歯周靭帯から生じる良性の歯肉増殖
『用語での揉め事 』
犬で報告があるのは
①棘細胞腫性エプーリス
②線維腫性エプーリス
③骨形成性エプーリス
このようにエプーリスという言葉が用いられていますが、これはもう『使わないでいこうね』という方向に世界全体が動いています。
そして、現在代わりに勧められている呼び名は
・棘細胞腫性エプーリス→棘細胞性エナメル上皮腫
・線維腫性と骨形成性→末梢歯原性線維腫
「用語を統一しよう!」の流れ(図解)
『末梢歯原性線維腫』
・発症平均年齢:犬では8~9歳が多い
・性差:オスで素因有りとの報告もある
・特徴:成長速度は遅く、硬い腫瘤を形成。普通は上皮に包まれた状態で増殖していきます。
・好発部位:上顎第3前臼歯吻側
『棘細胞腫性エナメル上皮腫』
・発症平均年齢:7~10歳
・好発犬種:シェットランド・シープドッグ(シェルティー)とオールド・イングランド・シープドッグ
・特徴:上顎骨、下顎骨への強い局所浸潤性を示す。転移はしない
・好発部位:下顎吻側
【口腔内腫瘍の症状】
ほとんどの場合、飼い主さんが口腔内の腫瘤を見つけて来院します。ただ、見つけにくいところにできた場合は例外です。
見つけにくいところとは口腔奥の咽頭付近です。
ここに病変ができると症状が出るほど腫瘤が大きくなるまで、大抵の飼い主は気付くことができないでしょう。
口腔内腫瘤による症状
・流涎:ヨダレが垂れてくる
・眼球突出:腫瘤が眼球を内から押し出す
・顔面の腫脹:腫瘍の増大による
・鼻出血:上顎腫瘍で多い。鼻腔内まで浸潤している
・口臭:口腔内腫瘍ではよく見られる症状。歯周病との鑑別が必須
・口から血が出る:腫瘍が自壊したら血が出る
・痛みによる開口の忌避:痛い
・食欲不振:不振というか、痛いから食べれないだけ
・体重減少:食欲不振に次ぐ
・頚部の腫脹:リンパ節転移や扁桃の扁平上皮癌による
・弛緩歯:特に猫。歯根付近で腫瘍による骨融解が起きているかも
【診断】
口腔内腫瘍は腫瘍によって、挙動や治療法などが異なるため、どの腫瘍かを判断することはとても重要なことです。
そして、ステージ分類といって、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無を検査し、腫瘍の進行具合がどの程度であるかを調べることも大切です。
実際に行う手順に沿って説明していきます。
『触診』
口周りの触診をさせてくれる子は少ないです。
本来は触診して、固着の有無などを確認すべきですが、場所が場所なだけにできないでしょう。
頚部などのリンパ節腫脹も確認しますが、それは後述します。
『X線検査』
理想としては正確に撮影するためにも全身麻酔をかけたいところですが、その場の状況、犬の性格・容態、飼い主さんとの相談で決定してください。
撮影はラテラル(横から)とDVあるいはVD(上からあるいは下から)の撮影を行います。
チェックするポイントは骨融解の有無です。
口腔内腫瘍では骨融解が多く見られます。口腔は雑菌が多く歯周炎や膿瘍のようなに膿を含んだシコリもできやすいですが、こういった非腫瘍性病変は骨を溶かすほど強い増殖を示すことは稀です。
骨融解像は腫瘍の可能性を示唆する所見と言えるでしょう。骨融解像は骨表面が40%以上破壊されないと見えないと言われてます。そのため、X線で骨融解像が見えないからといって『骨融解像がない』ということにはならないのです。
ちなみに骨融解像はCTやMRIではもっと鮮明に見えるので、そういった設備がある場合は積極的な利用をお勧めします。
『リンパ節転移の確認』
触診
リンパ節転移を調べるには『触診』があります。これはリンパ節の腫脹や非対称性を確かめます。
ただ、これには注意が必要です。
『リンパ節の腫脹➡︎リンパ節転移』という考え方は捨ててください!
ある研究の報告によると、
40%の犬で正常サイズのリンパ節でリンパ節転移を認められました。49%の犬で腫脹したリンパ節でリンパ節転移はなかったです。
転移しやすいリンパ節
・下顎リンパ節:触知可能←必ずチェック
・耳下腺リンパ節:触知不可
・内側咽頭後リンパ節:触知不可
転移しやすいリンパ節(図解)
超音波検査
超音波検査によってリンパ節の腫大や不整を確認します。そして、大きさや固着に関係なく、口腔内腫瘍が見られた場合は全症例必ずリンパ節の超音波ガイド下FNAを行うべきでしょう。
『最終段階:生検の採取 』
口腔内腫瘍は自壊巣や炎症が腫瘍と随伴して発生するため、スタンプ標本やFNAではそういった非腫瘍病変しか見れないことがあります。
大きいサンプルを採るためにパンチ生検が必要になってきます。
大きいサンプルが採れる
↓
良性と悪性や腫瘍の種類を鑑別できる
↓
ある程度の予後と治療法が定まる
とても意味があることですね!
ただし注意点があります。
それは
生検時は播種を防ぐために口唇などに触れないようにすることです。
そして、小さな病変は完治を兼ねて丸ごと切除し、病理検査に回すのもありですが、大きな病巣の場合は必ず生検を行ってから治療を始めることをお勧めします。
腫瘍によって放射線治療が効くもの効かないものがあり、一番有効な治療法を見つけてから治療を開始する方が効率的に治療ができます。
確定診断:パンチ生検(図解)
【治療:外科手術】
『外科手術を行うこと』
外科手術は安く、即効性があり、効果的な治療です。
どのような手術を行うかは腫瘍の種類とその浸潤性に依存しています。歯原性線維腫を除くほとんどの口腔内腫瘍で骨を含んで切除を行います。
これも浸潤性の強弱によりますが、かなり浸潤性が強い腫瘍では下顎切除や上顎切除あるいは眼窩切除を行います。
『マージン確保について』
マージンとは腫瘍と正常組織の境界を意味し、マージン確保というのは腫瘍を全て取り切れたということを意味しています。
口腔内腫瘍ができている場合、少なくとも2cmは正常組織を含めて切除したいところです。特に扁平上皮癌などは再発率が高いので、より多めにマージンを確保したいのです。
特に扁平上皮癌や線維肉腫、悪性メラノーマなどではマージン確保を優先して顎骨ごと切除したりと思い切ったことをやります。
下手にマージンのギリギリを攻めても、取り残しがあれば再発のリスクは上がるし、再び手術が必要となるので、やるなら思いきることをお勧めします。
実際、飼い主さんたちは術後どう感じているのでしょうか?
ある文献の調査によると、顎骨切除を行った犬の飼い主さんたち85%以上は見た目も機能も満足のいくものであると回答しています。
『術後の不安』
顎骨を切除するわけですから、もちろん術後には様々な苦労があります。
・鼻出血
・流涎:よだれが出る
・下顎骨のぐらつき
・不正咬合
・摂食障害
普通は流動食をシリンジで与えたり、犬なりに工夫してご飯を食べるようになります。そのため、経腸チューブの設置は犬ではあまりやりません。しかし、猫では積極的にやられる場合が多いです。というのも猫で下顎切除を行った場合、術後2~3ヶ月はご飯を食べれるようにならないからです。
あと、ちょっと興味深い文献を見つけたので、紹介しておきます。
ゴムチューブトレーニング?
片側下顎切除を行った症例に対し、上顎の第四臼歯と残存している下顎の犬歯〜門歯にゴム製のチェーンをつけて、張力をかけることで、顎をうまく使えるようにトレーニングするものがあるみたいです。なんだかいろんなこと考える人がいますね。
写真は論文より抜粋
引用文献:Elastic Training for the Prevention of Mandibular Drift Following Mandibulectomy in Dogs: 18 Cases (2005–2008)
【治療:放射線治療】
放射線治療が行われる目的としては
・緩和目的の治療をしたい
・完治を目指して治療をしたい
・手術で切除し切れなかったところを放射線で追い込みたい
などがあって行われることが多いです。 ただ、放射線治療に有効な腫瘍と抵抗性を示す腫瘍の2パターンがあります。
有効とされている腫瘍
・悪性メラノーマ
・犬の扁平上皮癌
・棘細胞性エナメル上皮腫
放射線抵抗性を示す腫瘍
・犬の線維肉腫
・猫の扁平上皮癌
放射線治療単独よりも化学療法や手術と併用した方が予後がいいことがわかっています。抵抗性をもつ腫瘍では特にその傾向が強いです。
『口腔内メラノーマの放射線治療』
口腔内にできたメラノーマは放射線に対し、そこそこの反応を示します。放射線治療プロトコルは主に4つあり、それぞれどれが一番いいかは議論が交わされています。
放射線治療プロトコル
①8~10Gy照射を3回行う 合計線量:24~30Gy
②9Gy照射を4回行う 合計線量:36Gy
③6Gy照射を6回行う 合計線量:36Gy
④6Gy照射を8回行う 合計線量:48Gy
1回の照射線量は4~8Gyが勧められています。合計線量に関しては特に差はないと言われています。
『放射線の副作用』
急性反応
・脱毛
・湿性落屑:皮膚にある基底細胞が増殖できなくなり、皮膚が剥がれる
・口腔粘膜の炎症
・嚥下障害
・目の病変:眼瞼炎、結膜炎、角膜炎
急性反応は比較的よく見られる病変です。放射線治療の休止とともに症状が改善します。
遅発性反応
遅発性反応は稀で、全症例の5%以下でしか見られません。
・永久的な脱毛
・皮膚の線維化
・骨壊死
・口腔鼻腔瘻の形成
・乾性角結膜炎
・白内障
・口腔内乾燥
・網膜萎縮
この副作用は厄介で、不可逆的な病変とされています。つまり、一度なってしまえば元に戻らない副作用です。遅発性反応を示さないように放射線医は状態を見ながら線量を調節します。
【化学療法】
悪性メラノーマや扁桃の扁平上皮癌などは浸潤性と高い転移率を持つことから、化学療法が使用されることがあります。
猫の口腔内扁平上皮癌
この腫瘍はCOX-2の発現が多いと言われています。しかし、ピロキシカム単剤では効くことはないです。
ミトキサントロン+放射線療法は少数の症例で効果あり
犬の口腔内扁平上皮癌
ピロキシカム+シスプラチンorカルボプラチンで多少効きます
犬の口腔内メラノーマ
気持ちばかりの効果ではありますが、白金錯体(シスプラチンやカルボプラチン)、メルファランを使用します。
詳しくはこちらの【化学療法】を参考にしてみて下さい。
【予後について】
『再発率:腫瘍の種類別』
手術のみを行った症例500匹で調べたデータです。
再発率(下顎切除術の場合)
・悪性メラノーマ:0~40%
・扁平上皮癌:0~23%
・線維肉腫:31~60%
・骨肉腫:15~44%
・棘細胞性エナメル上皮腫:0~3%
再発率(上顎切除術の場合)
・悪性メラノーマ:21~48%
・扁平上皮癌:29~50%
・線維肉腫:33~57%
・骨肉腫:27~100%
・棘細胞性エナメル上皮腫:0~11%
以上の結果を踏まえて、手術を行って再発率が低いのが、棘細胞性エナメル上皮腫と扁平上皮癌です。一方で、悪性メラノーマや線維肉腫、骨肉腫などは非常に再発率が高いです。
『再発率・生存率:腫瘍の大きさ別』
どんな治療を行っても、だいたい再発率は30%ぐらいと言われています。再発率や生存率を考える上でいろいろとファクターはあるのですが、そのうちの『腫瘍の大きさ』についても説明してきます。
再発率について
・T1(<直径2cm):T2(直径2-4cm)=1:3(3倍)
・T1:T3(>直径4cm)=1:8(8倍)
3年生存率について
・T1:55%
・T2:32%
・T3:20%
『悪性度、腫瘍の位置、マージンによる死亡率』
悪性度で死亡率の比較をした
悪性腫瘍は良性腫瘍に比べ、10~21倍高いです。
腫瘍の位置で死亡率の比較をした
尾側の腫瘍は吻側の腫瘍と比べ、5倍高いです。
吻側(口先)の方が腫瘍の存在を見つけやすく、比較的早期の発見ができるためにこの差が生まれるのではないかと考えられています。
完全切除の有無で死亡率の比較をした
完全切除できなかったものはできたものと比べ、2~4倍高いです。
取り残しによる再発率も出ています。
・完全切除した場合の再発率:15~22%
・取り残した場合の再発率:62~65%
となっています。
【予後:悪性メラノーマ】
『手術』
局所治療として最も一般的に行われているのが手術です。
再発率
再発率は上顎切除、下顎切除でまちまちです。
・上顎切除の場合:48%
・下顎切除の場合:22%
下顎切除術:5パターン(図解)
上顎切除術:4パターン(図解)
生存期間
手術だけを行った場合の生存期間は150~318日という報告があり、1年生存率は35%以下です。
ステージ分類も生存期間に関与してきます。
T1であった場合は生存期間中央値は511日
T2以上であった場合あるいはリンパ節転移が見られた場合は生存期間中央値は164日となっています。
短いと思いますが、仮に無処置だった場合の生存期間中央値は65日です。
こう比較すれば、手術はとても意味のある治療だと言えます。
また、外科手術を含んだ悪性メラノーマの治療プランは手術を行わない場合に比べて、治療成績が良いこともわかっています。
『放射線治療』
悪性メラノーマは少分割照射療法で行う放射線治療によく反応します。
反応率
反応率は83~100%であり、そのうち70%ほどが完全寛解できています。
完全寛解を経験した15~26%の犬では再発するまでの期間は139日です。
生存期間
放射線治療を受けた犬の生存期間中央値は211~363日です。
1年生存率は36~48%、2年生存率は21%です。
予後に関わる因子
・腫瘍の場所:吻側と尾側
・腫瘍の大きさ:T1→19ヶ月、T2•3→7ヶ月以下
・骨融解の有無:X線撮影で確認できるか
・微視的な腫瘍細胞の有無(microscopic disease)
これらの因子が見られる数によって生存期間中央値を出した論文があります。
こんな風なデータの取り方をするなんて面白いですね(笑)
0個見られるとき→21ヶ月
1個見られるとき→11ヶ月
2個見られるとき→5ヶ月
3個見られるとき→3ヶ月
『腫瘍の場所:唇?舌?上顎?下顎?』
複合的な治療を行った場合の場所別の生存期間中央値は
・口唇:580日
・舌:551日
↓ここから明らかに悪くなる
・上顎:319日
・下顎:330日
口唇にできるメラノーマの方が、顎骨にできるメラノーマよりも分化度が高いため、生存率が良いとするデータもあります。
【予後:口腔内扁平上皮癌(犬)】
犬の口腔内扁平上皮癌の予後は良好です。
転移率は領域リンパ節で10%、肺転移が3~36%と低いですが、局所浸潤が強いため局所コントロールにおいては課題があります。
一方で、扁桃腺にできた扁平上皮癌は話が違います。
扁桃腺にできた扁平上皮癌は転移率が高く、領域リンパ節への転移率は73%です。
『手術』
手術の適応は扁桃腺以外にできた扁平上皮癌で行われます。
下顎切除術
・再発率:10%
・生存期間中央値:19~26ヶ月
・1年生存率:91%
上顎切除術
・再発率:29%
・生存期間中央値:10~19ヶ月
・1年生存率:57%
下顎の方が治療成績がいいです。
吻側の下顎にできた扁平上皮癌は切除しやすいので、完全に取り切れていることが多いのです。
『放射線治療』
放射線治療単体で行うよりも手術と組み合わせた併用治療の方が成績がいいと言われています。
腫瘍の大きさ別の成績
PFS=無増悪生存期間
これは癌の進行をが抑えられている期間を示しています。
PFS期間中央値
・T1:68ヶ月
・T2:28ヶ月
・T3:8ヶ月
『化学療法』
一般的に化学療法を行うのは全身転移が見られる場合です。
しかし、化学療法は扁平上皮癌ではあまり効きません。
ピロキシカム+シスプラチンは腎毒性が強いため、避けられがちです。
代わりとして、
ピロキシカム+カルボプラチンが使われることが多いです。
【予後:口腔内扁平上皮癌(猫)】
扁平上皮癌について犬猫別々に書く理由、それは犬と猫で予後が全然違うからです。
犬は良好であるのに対し、猫は予後不良です。
有効な治療法がないのです。
手術を行っても高い再発率があり、
放射線治療でも1年以上生きれることは稀です。
化学療法もほぼ無効。NSAIDsが有効であったという論文もありますが、そこまで効くわけでも無いようです。
【予後:線維肉腫】
線維肉腫の場合、転移率は
リンパ節転移は19~22%
肺転移は27%
と他の腫瘍と比べで、低値を示します。
線維肉腫は転移率よりも局所浸潤の強さが問題となっています。
線維肉腫では併用療法が有効的とされており、
・手術+放射線療法
・放射線療法+温熱療法
などが行われています。
『手術』
下顎切除術(手術のみの成績)
・局所再発率:59%
・生存期間中央値:11ヶ月
・1年生存率:50%
上顎切除術(手術のみの成績)
・局所再発率:40%
・生存期間中央値:12ヶ月
・1年生存率:50%
『放射線療法』
線維肉腫は放射線抵抗性の腫瘍です。
放射線療法だけを行うと生存期間中央値は7ヶ月と短くなります。
放射線療法の使い方は、外科的切除後のアジュバント療法です。
外科的切除+放射線療法
・局所再発率:32%
・生存期間中央値:18~26ヶ月
・1年生存率:76%
【予後:歯原性線維腫】
この腫瘍は良性で予後はかなり良好です。
転移の報告はなく、骨切除を行わない外科切除でも局所再発率は0~17%
放射線にもよく反応します。
【予後:棘細胞性エナメル上皮腫】
この腫瘍も予後は良好です。
治療戦略としては手術と放射線療法です。
骨切除を行った場合の再発率は5%以下です。
この腫瘍は骨浸潤性が強いため、局所コントロールが主な治療となります。
放射線治療では80%の犬で腫瘍の進行をコントロールできており、局所再発率は8~18%と低いです。
【予後:骨肉腫】←悪性腫瘍のなので一応ご紹介
骨肉腫のほとんどは四肢の骨にできます。
正中線上、すなわち頭部や椎骨、肋骨、骨盤などにできる骨肉腫は全体の25%ほどしかありません。
そしれ口腔内にできる骨肉腫は四肢以外の骨肉腫のうち
・下顎骨:27%
・上顎骨:16~22%
です。
四肢にできる骨肉腫よりも転移率は低く、予後の経過は良好とされています。
(四肢にできる骨肉腫の予後が悪すぎるので、それと比べて良いといっても、悪いのは悪い)
メスで素因があるみたいです。
下顎切除術
・局所再発率:15%
・転移率:35%
・生存期間中央値:14~18ヶ月
・1年生存率:35~71%
上顎切除術
・局所再発率:83~100%
・生存期間中央値:5~10ヶ月
・1年生存率:17~27%
顔面の骨肉腫は“完全切除ができたか”が予後に大きく関わります。
そのほかは下顎骨であること、体重が軽い犬であることなどです。
【本記事の参考書籍】
Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwen’s SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed., ELSEVIER, 2013, 321-334p, 381-398p,
日本獣医内科学アカデミー. 獣医内科学 第2版. 文英堂出版. 2014, 193-194p