オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

『前立腺癌』 去勢してリスクが上がる⁈

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【はじめに】

今回は『前立腺癌』について説明します。前立腺は聞いたことありますか?オスの膀胱直下にある器官ですね。この前立腺が腫瘍化する病気を『前立腺癌』と言います。前立腺癌は人間では男性ホルモンが関与していると言われていますが、なんと動物では去勢オスで発生率が上がることがわかっています。避妊や去勢などの手術は一般的に病気のリスクが下がることが多いのですが、この『前立腺癌』は違うみたいです。そんな前立腺癌について、今回は詳しくお話ししていこうと思います。

 

【目次】

 

 

【前立腺腫瘍の統計】

『発生率』

前立腺腫瘍の発生率は稀です。大規模な研究では発症した腫瘍全体の0.2~0.6%しか前立腺腫瘍は見られませんでした。ただ、ペットとして飼われる動物の中では犬は前立腺腫瘍を発生しやすい動物として有名です。そのため、人の前立腺腫瘍の比較モデルとして実験で使われることもしばしばあります。

 

『去勢との関係性』

前立腺癌は前立腺関連疾患の7~16%を占めており、去勢雄で多いです。一方で、細菌性前立腺炎や前立腺嚢胞などの腫瘍以外の病気は未去勢雄の方が発生は多いです。

 

『HGPIN(高グレード前立腺上皮内腫瘍)との関係』

HGPINは前立腺にできる良性非侵襲性非定型上皮細胞です。人の病気の話になってしまうのですが、PINとは前立腺の腺房上皮が内腔側へ増生する新生物といった方がいいのかな?まぁ、とにかく、人の場合、高グレードPINの存在は前立腺癌の前兆を示しているとされています。←押し切った(笑)が、犬の場合はそういった証拠は今のところ確認できていません。

 

『前立腺癌の由来』

前立腺癌はアンドロジェン(男性ホルモン)非依存性です。これは前立腺癌を作っている細胞がアンドロジェン非依存性悪性幹細胞が関与しているためと言われています。

The normal prostate and early-stage prostate cancers depend on androgens for growth and survival, and androgen ablation therapy causes them to regress. Cancers that are not cured by surgery eventually become androgen independent, rendering anti-androgen therapy ineffective.  引用文献:The development of androgen-independent prostate cancer

この話の引用はNature誌の『The development of androgen-independent prostate cancer』からの抜粋なんですが、フルテキスト見るのにお金かかるのでabstractしか読めませんでした(笑)あと、前立腺癌は前立腺の腺房から発生するというよりは尿道上皮から発生することが多いとされています。

『腺癌以外の前立腺腫瘍』

・移行上皮癌(前立腺管由来)

・複合癌

・扁平上皮癌

・線維肉腫

・横紋筋肉腫

・骨肉腫

・リンパ腫

・血管肉腫

前立腺腫瘍では良性腫瘍はほとんど見られません。

 

【リスク因子】

『去勢雄と未去勢雄』

先ほども少し話をしましたが、去勢雄と未去勢雄では去勢雄の方が前立腺癌になるリスクが高い(2.3~4.3倍)です。なぜリスクが上がるのでしょうか?これには多くの逸話?可能性?が示唆されています。

逸話その①

前立腺癌は高齢ほどリスクが上がるが、去勢雄の方が長生きであることが多いため。

 

逸話その②

未去勢雄ではアンドロジェンが優位であり、アンドロジェンは前立腺組織を保護する役割を持っている。一方で、去勢雄ではエストロジェンが比較的多く、エストロジェンは腫瘍化を手伝っている可能性があるため。

 

逸話②:ホルモンが前立腺癌に関与?(図解) 

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イラスト作成:オタ福

どちらもまだはっきりと分かっておらず、あくまで逸話レベルでしか話せません。また、去勢の時期も関係あるのではないかとも言われています。つまり、若齢で去勢をした犬と高齢で去勢をした犬でも違いがあるのではないかということです。 

 

『高リスク犬種 』

横の倍率は『オッズ比』で、その犬種とその犬種以外の犬でなりやすい確率を示した数字です。

・ノルウェジアン・エルクハウンド(3.28倍)

・スコッチ・テリア(3.22倍)

・エアデール・テリア(2.46倍)

・ドーベルマン・ピンシャー(1.97倍)

・シェットランド・シープドッグ(1.89倍)

・ジャーマン・シェパード・ポインター(1.89倍)

・ビーグル(1.49倍)

・ミックス犬、雑種:(1.35倍)

特にシェットランド・シープドッグとスコッチ・テリアは移行上皮癌の好発犬種でもあるので注意が必要です。

 

『低リスク犬種』

・ミニチュア・プードル(0.40倍)

・アメリカン・コッカー・スパニエル(0.25倍)

・ダックスフンド(0.54倍)

がいます。

 

下記は高リスク犬種と低リスク犬種を網羅した論文の表です。『匹数』を見ていただければ分かると思いますが、すごい数でやっているのですごいなと思います。←語彙力(笑)

table Ⅱf:id:otahukutan:20181116194859p:plain引用文献:A population study of neutering status as a risk factor for canine prostate cancer

 

【前立腺腫瘍の転移】

犬の前立腺癌は診断時には約80%で転移が認められます。

転移しやすい場所は

・肺

・リンパ節

・骨(22~42%):腰椎や骨盤で好発

 若い子の方が転移率は高いというデータもあります。(去勢との関係は評価してないが) 

前立腺癌は診断時に80%が転移しているので、基本的に悪性腫瘍とされていますが、初期段階で悪性の挙動を示すかはまだ分かっていません。

 

【そもそもなぜ前立腺腫瘍ができるのか】

『PINの可能性』

先ほどもお話ししましたが、人ではHGPIN(高グレード前立腺上皮内腫瘍)が前立腺癌の前身であると言われています。犬ではHGPINとの関連性は明確ではありません。PINが見られた未去勢雄5匹の犬を用いた実験では以下の結果が得られました。

・p63の高発現

・PCNAの高指数

・アンドロジェン受容体の変異

が見られたとのことです。

 

組織写真がこちらです↓

PIN(右)の方が明らかに黒いのが多いですね!

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引用文献:下記参照、写真を抜粋

 

【用語説明】

p63

基底細胞のマーカーで、前立腺の発達には必須の核蛋白。前立腺幹細胞に含まれている可能性が高いです。

PCNA

増殖細胞核抗原といって、細胞の分裂に関与しているタンパク質です。これが多いほど、分裂が盛んと言えます。

アンドロジェン受容体(AR)

アンドロジェン(男性ホルモン)をキャッチするための受容体です。アンドロジェンは前立腺の発達に寄与しています。通常は核膜にあります。ですが、この実験での写真では細胞質にも黒く発色が見られ、PINではARの変異があるのかもしれません。

 

https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S0021997509000929-gr2.jpg

Fig. 2. (A) p63 immunolabelling of normal acini is discontinuous with only occasional positive cells. (B) Numerous p63-positive cells are evident in this focus of PIN. (C) Few PCNA-positive cells are present in normal prostatic acini. (D) PIN showing several PCNA-positive cells. (D) AR expression in normal prostatic acinus. There is strong nuclear labelling of luminal lining cells. (E) AR expression in PIN. There is variable intensity of labelling. IHC. Bar, 10 μm. 引用文献:Immunohistochemical Characterization of Canine Prostatic Intraepithelial Neoplasia

 

 

『アンドロジェンの可能性』

人の前立腺癌ではアンドロジェンに依存しますが、犬の場合は関係ないです。正常な前立腺ではアンドロジェン受容体を前立腺上皮細胞が90~95%を占めますが、去勢雄や前立腺癌の犬では受容体が減少しています。アンドロジェンが何かをして、癌化しているなら、受容体の発現が減らないのではないかと思います。やはり、アンドロジェン以外の何かが原因と考えるが妥当でしょう。

 

【増殖や転移を助けているヤツは誰だ?】

前立腺癌は診断時には80%の確率で転移を認めており、その悪性の挙動はどこが原因なのかを考えていきたいと思います。

 

『COX-2が原因?』

COXとはシクロオキシゲナーゼと呼ばれるアラキドン酸カスケード(炎症を引き起こす経路のこと)で使われる酵素です。そのCOXが前立腺癌が示す悪性挙動の原因である可能性があります。その根拠を何個か見てみましょう。

根拠①

前立腺癌の犬の75%でCOX-2の発現があることが分かっています。ちなみに正常の前立腺にはCOX-2の発現はありません。

 

根拠②

COX-2とその下流にあるプロスタグランジンE2(PGE2)が前立腺癌で役立っている可能性があり、COX阻害剤であるピロキシカムやカルプロフェンを投与すると生存率が伸びました。

 

根拠③

人の話ですが、骨吸収にはIL-11というサイトカインが関与しており、IL-11はCOX-2やPGE2の発現を誘導することで骨吸収で活躍する破骨細胞の発現と活性化を起こしています。

 

COX-2が怪しいのでは?(図解)

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『骨転移を引き起こす容疑者たちをご紹介』

骨転移の原因である容疑者を紹介します。あくまで容疑がかけられているだけなので、まだ完全には解明されてませんが…笑

 

PTHrP:パラソルモン関連蛋白

病的な骨吸収を行います。PTHrPは他の腫瘍でも見られるのですが、前立腺でも同様に見られます。一般的にTGF-βは破骨細胞が骨吸収を行う時に出す酸によって、活性化するので、骨吸収を促すPTHrPはTGF-βの放出に関与しているのではないかと言われています。

 

TGF-β:transforming growth factor-β

TGF-βに反応して、前立腺癌がPTHrPを作ります。この2つの因子が正のフィードバックを行うことで、骨転移をしやすい環境にしているのではないかと言われています。

 

エンドセリン

元々骨転移には骨芽細胞が関与することが分かっています。この骨芽細胞はエンドセリン依存経路を通して活性化されるので、エンドセリンの関与が疑われています。骨芽細胞の活性化はRANKLの発現と破骨細胞の活性化に繋がります。

 

まとめ←こんがらがったのでまとめます

腫瘍細胞がPTHrPを産生

PTHrPに刺激を受け骨芽細胞にRANKLが発現

骨芽細胞のRANKLに前破骨細胞が結合し、破骨細胞に分化

活性化した破骨細胞は酸を出して骨破壊・骨吸収を行う

骨吸収時に出る酸がTGF-βの産生・活性化させる

TGF-βは腫瘍細胞でさらにPTHrPを作らせる

 

この繰り返しで骨の破壊が進んでいき、癌細胞が増殖する空間を作ります。

 

前立腺癌で骨転移が多い理由(図解)

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【症状】

前立腺癌による症状はまちまちです。ですが、検査などで見られる症状を紹介します。

前立腺癌でよくみる症状

・血尿

・排尿困難

・排尿時の痛み(有痛性排尿困難)

・排便障害

・しぶり:便がなかなか出ないため

・細菌尿:カテーテルの出し入れや排尿困難による

・便の形状の変化:細い、平ら←前立腺に直腸が圧迫されている

 

『進行してきたらどうなるの?』

尿路閉塞の末路

腫瘍が尿道方面に浸潤増殖し、尿道を完全に閉塞してしまうと→水尿管症や水腎症、腎障害を引き起こします。

 

局所浸潤の末路

腰椎や神経根に浸潤増殖すると→腰の痛み、跛行、便秘

 

全身状態の悪化

元気消沈、運動不耐、呼吸促迫、呼吸困難、食欲不振、体重減少

 

骨転移が起こると

骨の痛み、骨破壊、腫瘤の触知←触知できるまで行ってたらかなりヤバい

 

【診断】

『身体検査(直腸検査)』

前立腺癌を疑う時、直腸検査は必ず行われなければなりません。

 

直腸検査で見るべきポイント

・大きさ

・硬さ

・左右不対称

・いびつな形

・痛みを伴う

ただ注意点としては、去勢している犬の場合、大きさが普通でも、左右対称でも、痛みを伴わなくても異常である可能性があります。

 

『血液検査』

これと言って特徴的な所見はないのですが、

前立腺癌であった場合

・貧血

・白血球増多症

・高カルシウム血症

・骨ALP(アルカリフォスファターゼ)活性の上昇

などが見られることがあります。

 

『尿検査』

・膿尿

・細菌尿

・異形な移行上皮細胞の検出

などです。あんまり診断に繋がる所見は得られません。『おしっこが出ない』+『排尿のために尿カテを入れる』で細菌感染が起きやすいのでしょう。

 

『X線検査』

三方向胸部X線検査

『え、なんで胸部なん?』これは転移の確認です。前立腺癌は約80%が診断時に遠隔転移を認めています。そして、前立腺癌は肺、胸骨リンパ節、肋骨・肩甲骨への転移が多く報告されているので、胸部は三方向からしっかりと確認する必要があります。

 

腹部X線検査

腹部のレントゲンでわかることは

・前立腺の肥大

・椎骨、大腿骨、骨盤の骨膜反応

・腰下あるいは後腹膜リンパ節の腫大

 

前立腺の石灰化

前立腺の石灰化の有無は去勢雄と未去勢雄とで重要度が全然違うので、注意しなければなりません。未去勢雄の場合、石灰化が見られてもそれが前立腺癌である可能性はそう高くないです。前立腺炎や過形成、前立腺嚢胞でも見られることがあります。

一方で、去勢雄の場合、前立腺に石灰化が見られるとかなりの確率で前立腺癌である場合が高いです。そのためにもさらなる検査が必要になります。

ちなみにですが、去勢雄では下記の引用文献では腫瘍時は100%の確率で石灰化が見られるというデータも出ています。

Regarding neoplasia, mineralization in neutered dogs had a positive predictive value (PPV) of 100%, a negative predictive value (NPV) of 50%, and a sensitivity and specificity of 84% and 100%, respectively. Mineralization in intact dogs had a PPV of 22%, an NPV of 96%, and a sensitivity and specificity of 67% and 77%, respectively.  引用文献:Relationship between prostatomegaly, prostatic mineralization, and cytologic diagnosis.

 

『尿路造影』

行うのは逆行性尿路造影です。尿道から膀胱へ造影剤を流し込み、レントゲン検査を行うというものです。前立腺癌であった場合、前立腺尿道移行部に不整な造影がされたり、前立腺腫瘤への造影剤の流入が見られたりします。ただこれは特異度はそれほど高くないので、炎症や感染症との鑑別はできません。

 

『腹部エコー』

前立腺や尿道、膀胱、領域リンパ節や腹腔内臓器の評価ができます。

 

『細胞診』

細胞診とは文字通り『細胞を診る検査』で、腫瘍細胞を何らかの方法で採取して顕微鏡で観察します。前立腺癌を診断するのに一番確実な診断方法です。問題はその採取方法にあります。

 

前立腺癌の採取方法

・カテーテル尿細胞診:尿カテを入れて、前立腺を突き、細胞をとる

・前立腺マッサージ:詳細はこちら↓↓

www.idexx.eu

出典:www.idexx.eu

・前立腺洗浄:詳細は前立腺マッサージの出典元に記載

・超音波ガイド下のFNA←禁忌:腹膜播種の恐れ

・経皮、経腸、手術時の生検

 

これらの中で絶対にやってはいけない採取法は超音波ガイド下のFNAと経皮生検です。出血や尿道の損傷、そして何より腹膜への播種を原因になるからです。

 

ステージング(ステージ分類)

前立腺癌のステージ分類はあまり予後との相関?がない(全部悪いということ)ため、基本的には行いません。

 

【予後】

治療法の話をする前に予後について先にお話しさせて下さい。前立腺癌はその局所浸潤性と遠隔転移の強さから、一般的に予後は不良と考えられています。アメリカのある研究では治療しなかった場合のMST(生存期間中央値)は30日以下という報告があります。治療は効果が薄く、緩和的な治療法しかありません。それらを踏まえて、次の【治療】の項へ読み進んでください。

 

【治療】

『前立腺切除』

尿道の確保と臨床症状の軽減を目的とした緩和的な治療法ですが、早期の前立腺癌(転移がなく、被覆されている段階)の場合には推奨されています。とはいえ、術後の再発率は高く、はっきりとしたメリットも実証されていませんが。

 

そして興味深いのが、前立腺全摘出と前立腺部分摘出では部分摘出の方が予後が良いというデータがあることです。

※部分摘出とは全部取らずに一部だけ残しておく手術方法ですのことです。

 

The advantage of subtotal prostatectomy over drainage was that resolution of prostatic and urinary tract infection was uncomplicated. Hospitalization after subtotal prostatectomy was shorter than after drainage, and no recurrence of infection occurred during the 1 year follow-up period. 引用文献:A population study of neutering status as a risk factor for canine prostate cancer

 

『経尿道的前立腺切除術(TUR)』

TURとは尿道から内視鏡とループ状の電気メスをつけたものを挿入し、尿道の上皮と一緒に前立腺を切除する手術です。この術式では尿路障害の緩和はされましたが、一方で尿路感染症や、播種、尿道穿孔が生じ、症例全てで生存期間は短かったとの報告があります。症例によって合う合わないがあるので、その動物の状況を加味して実践することが大切です。

 

『膀胱瘻(ろう)造設術』

前立腺腫瘍では尿道を塞ぎ、排尿困難を引き起こすことが多いです。排尿困難を解消するために膀胱瘻チューブを設置する方法があります。この方法は膀胱から体外へ尿を排出するためのチューブを設置するというものです。この方法にはメリット・デメリットがあるのでそれを紹介します。

 

メリット

・排尿ができるようになる

 

デメリット

・尿淋滴(尿がポタポタこぼれる状態のこと)

・有痛性排尿

・尿路チューブによる感染症

・管理が煩雑

などなどデメリットが多いです。

 

『緩和的なステント設置術』

これも排尿を維持しようとする方法で、ステントを尿道に設置し、尿道を確保します。ステント手術が行える条件は閉鎖部分が前後1センチであるということです。そして、閉鎖部分では健常時の尿道直径より10%太くすることが勧められています。この方法はあくまで排尿させてあげられるようにするための緩和的治療であるので、あまり生存期間がとりわけ良いというわけではありません。

 

『放射線療法(RT)』

放射線治療は局所的な治療に対しては有効とされています。逆にいうと転移している前立腺癌では全身療法に切り替えるべきです。ただ、臨床症状を抑える目的として、尿道確保するために前立腺へ照射したり、骨破壊による痛みを抑えるために骨転移巣へ照射したりという方法はアリでしょう。

 

10匹の前立腺癌の犬を用いた放射線療法の実験データ

この研究では9匹の犬が以下の方法でデータを取られました。

方法:20~30Gyで前立腺へ照射を行う

結果は生存期間中央値:114日

 

Total radiation doses delivered to the prostate gland of 9 dogs and the affected regional lymph nodes of 3 dogs, using orthovoltage x-rays, ranged from 20 to 30 Gy. Carcinoma of the prostate gland of one dog was intraoperatively irradiated to 15 Gy and was then given a boost of 40 Gy, using cobalt-60 teletherapy. Survival time ranged from 41 to 750 days after intraoperative radiotherapy. Median and mean survival times for all dogs were 114 and 196 days, respectively.  引用文献:Intraoperative radiotherapy of carcinoma of the prostate gland in ten dogs.

 

『化学療法』

『全身療法といえばこれだ!』というようなゴールドスタンダードとされている治療法は未だはっきりしていません。ですが、それに近い治療法として広く使われているのが、ピロキシカムあるいはカルプロフェンもしくはその併用療法です。この2つはNSAIDsといい、消炎剤の類に置かれています。これらを使用した群と未治療群で生存率を比較すると6.9ヶ月:0.7ヶ月というデータがあります。この差は大きいと思います。

 

【人の前立腺癌と比較してみて】

前立腺癌の発症は犬の腫瘍としてみると発生率は少ないですが、身近にいる動物種間で比較すると犬の前立腺癌の発症率は高いので、よく人の前立腺癌と比較モデルにされています。ただ、犬と人では少しばかり異なる点があります。

 

『アンドロジェン依存性』

人はアンドロジェンの影響が証明されていますが、犬ではむしろ逆で、去勢などのによるアンドロジェンの枯渇が前立腺癌の進行を後押ししていると言われています。

 

『PSA(前立腺特異抗原)』

PSAとはセリンプロテアーゼの一種で、前立腺から分泌される蛋白分解酵素です。人の前立腺癌患者では血清PSAが高値を示しているのに対し、犬では関係がありません。

 

『PIN(前立腺上皮内腫瘍)』

人でのPINの存在は前立腺癌への進行を示唆する所見ですが、犬ではまだ不明瞭です。しかし、その局所浸潤性と転移率の高さから似たような挙動を示すと考えられています。

 

【猫の前立腺癌】

猫の前立腺癌はかなり稀な病気で、その分データも乏しいです。

好発:高齢の去勢猫

症状:便秘や排便障害、テネスムス、尿路障害など

診断:直腸検査、腹部エコー

転移:好発(膵臓、肺、リンパ節)

治療:前立腺切除術+術後ドキソルビシン

予後:不良、診断から3ヶ月以内で亡くなることも多い

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwen’s SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 561-566p,

日本獣医内科学アカデミー. 獣医内科学 第2版. 文英堂出版. 2014, 326-327p