オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

『てんかん』について

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今回は『てんかん』について説明します。

 

【目次】

 

 

【てんかんとは】

てんかんとは脳内で神経が異常な過剰興奮を起こし、

その結果てんかん発作を繰り返すことを言います。

 

「ん?、“てんかん”と“てんかん発作”の違いはなに?」

 

これは医学用語の定義として使い分けがされていて、

『てんかん→疾患名』

『てんかん発作→症状』

てんかんはてんかん発作が繰り返されることを言います。

なんです。ややこしいですね(笑)

使い分けが必要なのは医療従事者だけなので、どうでもいいです(笑)

 

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【てんかんの分類】

てんかんには大きく分けて2つの分類があります。

1つが真性てんかん(特発性てんかん)

もう1つが症候性てんかん(二次性てんかん)

それぞれがどういったものなのか説明してこうと思います。

 

『真性てんかんとは』

真性てんかんの定義は『脳に器質的な変化がない』ということです。

つまり、MRI上で異常が見られないということです。

 

真性てんかんの特徴

・初回発作が見られるのは1~5歳と若齢犬で多い

・猫の平均発症年齢:3.8歳

・初回発作と2回目発作の間隔が4週間未満だと可能性大

・脳のMRIは正常

・発作後の回復は早い

・1回の発作は数分で治まる事が多い

・発作が起きていない時は全く正常

・犬の場合、オス犬の方がメス犬よりも1.4倍発生率が高い

 

『症候性てんかんとは』

症候性てんかんの定義は『頭蓋内に器質的な変化が認められる』ということです。

つまり、MRI上で何らかの異変が見られるということです。

 

症候性てんかんの特徴

・若齢でも高齢でも発症する:(5歳未満で見られる発作の1/3はこっち)

・MRIで何らかの異常が見られる

・発作後の回復は早い

・1回の発作は数分で治まる事が多い

・発作がない時も何らかの神経学的異常を伴う:基礎疾患があるため

 

『真性と症候性の鑑別ポイント』

・年齢:若齢あるいは高齢か

・MRI像における異常所見の有無

・神経学的異常を伴うか否か

 

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【真性てんかんの原因】

真性てんかんは純血種と雑種で発生率が顕著に差が見られ、遺伝子疾患を強く疑われています。

『わかっている原因遺伝子について』

EPM2b

・疾患名:ラフォラ病

・欠乏する蛋白:α-グルコシダーゼ

・保有する品種:ダックスフント、ビーグル、バセットハウンド、プードル

・症状:ミオクローヌスてんかん発作、沈うつ

 

神経セロイドリポフスチン症に関連する変異遺伝子

PPT1遺伝子

・疾患名:Santavuori-Haltia 病 (CLN1)

・欠乏する蛋白:パルミトイル蛋白チオエステラーゼ1(PPT1)

・保有する品種:ミニチュア・ダックスフント

・症状:進行性ミオクローヌスてんかん、小脳性運動失調、意識混濁

 

TPP1遺伝子

・疾患名:Jansky-Bielschowsky 病 (CLN2)

・欠乏する蛋白 :トリペプチジル-ペプチダーゼ1(TPP1)

・保有する品種:ロングヘアー・ダックスフント

・症状:進行性ミオクローヌスてんかん、小脳性運動失調、意識混濁

 

CNL5遺伝子

・疾患名:遅発性乳児型神経セロイドリポフスチン症(CLN5)

・欠乏する蛋白:Soluble lysosomal protein CLN5

・保有する品種:ボーダーコリー、ゴールデン・レトリバー

・症状:進行性ミオクローヌスてんかん、小脳性運動失調、意識混濁

 

CNL8遺伝子

・疾患名:遅発性乳児型神経セロイドリポフスチン症(CLN8)

・欠乏する蛋白:膜貫通型蛋白CLN8

・保有する品種:イングリッシュ・セッター

・症状:進行性ミオクローヌスてんかん、小脳性運動失調、意識混濁

 

ATP13A2

・疾患名:不明←分かりませんでした

・欠乏する蛋白:P型APTアーゼ

・保有する品種:チベタン・テリア

・症状:進行性ミオクローヌスてんかん、小脳性運動失調、意識混濁

 

 

そのほかにも何個かあるのですが、この辺でやめておきます(笑)

猫でも、かなりの確率で遺伝子が関与しているというところまでは分かっていますが、その原因遺伝子は特定できていません。その遺伝子が変異を起こすと海馬が壊死してしまうようです。

長々と書きましたが、

必要なことは『原因遺伝子を保有する品種』を知り、てんかんの恐れがあると認識することです。

 

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【症候性てんかんの原因】

症候性てんかんは原因疾患があっててんかん発作が起こる病気なので、原因疾患を見つけることが大切になります。

症候性てんかんを起こす原因疾患

・脳腫瘍

・肉芽腫性髄膜脳炎(GME)

・壊死性髄膜脳炎(パク脳炎)

・壊死性白質脳炎(ヨークシャー・テリア脳炎)

・水頭症

 

僕のブログでは脳腫瘍や肉芽腫性髄膜脳炎(GME)、壊死性脳炎(壊死性髄膜脳炎や壊死性白質脳炎)などを書いているので、それを参考にしてもらえばと思います。

水頭症はまだ書いてないので、今度書いときます(笑)

 

脳腫瘍

otahukutan.hatenablog.jp

 

 

肉芽腫性髄膜脳炎(GME)

otahukutan.hatenablog.jp

 

壊死性脳炎(壊死性髄膜脳炎、壊死性白質脳炎)

otahukutan.hatenablog.jp

 

【部分発作と全般発作】 

『部分発作とは』

大脳皮質の神経細胞が局所的に過剰興奮した状態を言います。

そして、どの部分の神経細胞が過剰興奮するかで、臨床症状を示す部位が決定します。

部分発作から発展し、過剰興奮が脳全体に広がることを『部分発作の二次性全般化』と言います。

 

『全般発作とは』

脳全体に一気に過剰興奮が起こる状態を言います。

 

全般発作でみられる発作の種類

・強直間代発作骨格筋の強直(脚をビーンと伸ばすような)と律動性筋収縮(脚をブルブル・バタバタ)がみられ、意識の喪失を伴う発作

 

・欠神発作:一時的に意識の消失する発作

 

・ミオクローヌス発作:一部の筋肉が瞬間的な不随意性の収縮をする発作(筋肉がピクピクする)

 

・点頭発作:意識はあるが、お辞儀したように首を屈曲させる発作

 

・脱力発作:全身の力が抜け、倒れこむ発作(ナルコレプシー患者で見られるようなもの)

 

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【てんかんの診断】

『まずは問診!!』

てんかん発作が主訴の動物のほとんどは院内で発作を起こすことは稀です。

直接確認することができないため、飼い主さんからお話を聞くことが大切です。

 

飼い主さんにお話ししてほしいこと

・発作の状況:意識はあるか?発作時の様子は?

・継続時間:どのくらい続いていたか?

・発作前後の状況:ふらつきや麻痺があるか、発作後の回復状況は?

・発作がない時の普段の様子は?

 

これらをお話しして頂くと診断の助けになります。

動画を撮影してもらえるとより助かります。

 

『神経疾患以外を除去』

・血液検査(CBC、生化学)

・X線撮影

・ホルター心電図:一定時間の心電図をモニターするもの

などを行い、神経疾患以外のてんかんを除去していきます。

起こるとしたら、循環不全やホルモン異常による低Ca血症などが主な原因です。

 

『神経学的検査』

真性てんかんと症候性てんかんの鑑別を行うために神経学的検査を行います。

症候性てんかんである場合は発作が起きていない時でも、何らかの異常が見られることがあります。

具体的な神経学的検査についてはいつか記事として上げれたらいいなと思います。

ちょっと書くには量が多すぎるので割愛させて頂きます。

ただ、てんかん発作が現れる場合、前脳に異常が見られることが多いです。

 

前脳に異常が見られた時の一般的な症状

・てんかん発作:特に脳表層の病変で起こる

・異常な動作や姿勢を伴う正常歩行:旋回、頭部の押し付け

・脳の病変部と反対側の姿勢反応の異常

・性格の変化

・視覚障害

・視床下部がやられると→尿崩症、自律神経の異常、体温調節異常、食欲異常

 

『MRI検査』

特発性てんかん

病変部でT2強調、FLAIR、造影T1強調で高信号を示します。

発作のコントロールを行なって10~16週間ほど経過すると

これらの信号は血管性浮腫か細胞性浮腫かどちらが強く発生するかで、変化します。

これらの他には慢性的なてんかん発作の影響による海馬の萎縮が見られます。

こういった発作に関連するMRIの異常所見が見られた場合はさらにもう16週間発作コントロールを行うべきだと、IVEFTは言っています。

 

症候性てんかん

脳内で器質的な変化を伴っていることが症候性てんかんの定義なので、原因疾患がMRI像で見えます。

見えない場合はもう一度、真性てんかんの可能性を疑いましょう。

 

『CSF(脳脊髄液)検査』

てんかん発作の結果、タンパク濃度の上昇を伴った軽度の細胞増加症が見られます。

発作後のインターバルが長ければ長いほど、白血球の細胞浸潤は軽度になります。

CSFに異常所見が見られた際、一番注意しなければならないのが、感染性脳炎の可能性があるということです。

まずは、発作インターバル後のCSF検査を行なって、感染性脳炎の可能性を除去しておきましょう。

 

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【IVETFによる真性てんかんの診断】

IVEFT(:The International Veterinary Epilepsy Task Force)と呼ばれる団体が、真性てんかんの診断法を3ステップに分けて説明しているので、それを引用しようかなと思います。

ちなみにIVETFは和名が『国際獣医てんかん特別委員会?』という感じの名前で、

『いかにも、てんかん!』

という感じがしますね(笑)

権威ある海外の専門書でもこちらの診断的アプローチを参考にしているので、信憑性があるのでしょう。

 

Tier Ⅰ:ステップ1

・24時間以上あけて、2回以上の非誘発性てんかん発作を起こしている

・年齢が6ヶ月齢〜6歳齢の間

・神経学的検査で著変なし

・血液検査、尿検査で著変なし

 

Tier Ⅱ:ステップ2

・空腹時および食後の胆汁酸に著変なし

・脳MRIで著変なし

・CSF(脳脊髄液)で著変なし

 

Tier Ⅲ:ステップ3

・発作間欠期のEEG(脳電図?脳波?)の異常を同定する。

EEGとはelectroencephalogramの略。多分、脳電図とかでいいと思う(笑)

 

『IVETFからのおすすめ』

低血糖や毒物による中毒でよく見られる反応性てんかんを除去した後、以下の4つに当てはまる場合はMRI検査とCSF検査をすることをおすすめしています。

 

①てんかん発作を発症した年齢が6ヶ月齢未満、6歳齢以上

②発作間欠時に頭蓋内局所において、神経学的異常を示唆する所見がある

③てんかん発作重積あるいは郡発発作がある

④以前に特発性てんかんを診断され、単剤抗てんかん薬(AED)最大耐性容量でも抵抗性を示す

 

引用:IVETF(The International Veterinary Epilepsy Task Force)

 

【治療法】

 てんかんの治療法としてはてんかん発作の頻度、程度、期間を減らすのが主な目的となります。

減らすが目的です。

完全な発作の除去というのは現実的に難しいところがあります。

そのために一番使われているのが抗てんかん薬AED:antiepileptic drugs)です。

 

獣医師は抗てんかん薬(AED)を使用するとき以下のことを考えています。

・いつAEDを開始するか

・どのAEDと用量が最も適切か

・AEDのモニタリングを行い、用量の調節を行うべきか

・いつAEDの追加あるは減薬を行うべきか

・飼い主さんの負担や心配事は大きくないか

こんなことを考えながら抗てんかん薬の投与とモニタリングを行なっています。

 

『抗てんかんを開始まで』

抗てんかん薬を始める前に

抗てんかん薬はてんかん発作を起こす正体を明らかにしてから始めます。

というのも、症候性てんかんのように明らかに脳に病変があって、てんかん発作が起こっているのに、原因を調べずに薬で症状を抑えこむのは論外な治療法です。

 

というか、そんなの治療じゃないですね(笑)

てんかんはなるべく早く抑えるべきですが、原因を見極める方が先です。 

 

そして、ペットの状態や飼い主さんのライフスタイルに合う薬を選択してくれる獣医がいいでしょう。

 

 

抗てんかん薬を始めるタイミング

なるべく早期に行うべきです。

特に犬の頻繁に起こるてんかん発作や純血種での重篤な発作では早期のてんかんコントロールが成功することが分かっています。

 

以下の症状どれか1つでも見られた場合、抗てんかん薬の使用が推奨されています。

①脳の器質的な変化(脳腫瘍や脳損傷)が判明している

②急性の反復性発作がおきている

③発作間欠期が6ヶ月未満

④発作から回復するまでの期間が延長、重篤、不規則

⑤3回以上の発作期間を通じ、てんかん発作の回数が増えたり、時間が延長あるいは重篤化している。

 

 

『抗てんかん薬を開始する』

抗てんかん薬は原則として、単剤療法で行われます。

これは複剤療法を行なった場合に比べ、薬同士の相互作用(悪い意味で)を避けることができ、結果的に飼い主さんの満足度も上がるためです。

初回投与の抗てんかん薬は用量として一番少ない量を投与し、その後の状態を診て、用量を決定していきます。

 

ちなみに 

抗てんかん薬が体内でやっていることは

GABA受容体Clチャネルの開口を延長させたり、NaあるいはCaチャネルの阻害によって、神経伝達の活性化を抑制しています。

 

【抗てんかん薬について】

抗てんかん薬は人のてんかんで使用されているものを使いますが、犬と人では少々都合が異なります。

抗てんかん薬についてはたくさんの種類があるのですが、一般的に使われているものを中心に紹介していきたいと思います。

 

『フェノバルビタール』

バルビツール酸誘導体の抗てんかん薬で、抗てんかん作用は強力です。

獣医療では長い間使われている薬なので、歴史があり、投与法などが確立されています。

真性てんかんをもつ犬で6ヶ月間てんかん無発症率85%を示しています。

おまけに薬価が安いです。

ただ、いいことだけでもありません。

フェノバルビタールで注意するべきことは肝障害があります。

肝酵素などをしっかりとモニターしながら、投与して行く必要があります。

 

『イメピトイン:imepitoin』

イメピトインはフェノバルビタールと類似した作用機序をもって、抗てんかん作用を示します。

2013年にヨーロッパで認可された新しい薬です。

この薬はフェノバルビタールのように肝障害などが軽度で、副作用が少ないです。

また、肝臓代謝からの腸管排泄なので、腎機能が低下している症例でも使用が可能なのがメリットです。

それらに加え、てんかん発作への有効性は劣らないため、非常に画期的な新薬と言えます。

しかし、新薬なので高価であり、長期の継続投与が必要である抗てんかん薬の治療としては欠点になるでしょう。

 

『レベチラセタム』

詳細な機序は不明ですが、アメリカでは1999年にヨーロッパでは2000年に認可され、日本では2015年に認可された薬です。

この薬がとりわけ効くというわけではないのですが、

この薬には大きな特徴が2つあります。

①短時間作用型

30分〜1時間で効果を示すので、発作がおきた時にすぐに使用できるのがメリットです。

②頓服薬

上述の2つはともに注射薬であるのに対し、レベチラセタムは頓服薬なので、発作時にサッと飲ませるといった使用が可能です。

 

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【薬でも抑えきれないてんかんの対処法】

 こういったタイプのてんかんのことを薬物抵抗性てんかんと言います。

薬物抵抗性てんかんは適切な治療を行なっているのにも関わらず、効果が薄かったり、副作用が強く出たりします。

犬ではちらほら見られるてんかんですが、猫では稀と言われています。

 

『なぜこんなことが起こるのか』

なぜこのような抵抗性をもつてんかんが現れるのかについてですが、それには3つの因子が関与していると言われています。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

原因には色々言われており、

すでに大脳皮質に奇形があったり、既往歴に脳損傷などがあった場合は薬物に抵抗を示すことがあります。

他にも、薬を患部まで届けるトランスポーターが壊れている場合標的細胞で薬効を示さない場合などが挙げられます。

 

『対処法』

対処法としては違う機序で作用する抗てんかん薬を追加する必要があります。

つまり、単剤療法から2、3種類の薬を混ぜた多剤併用療法に切り替えるということです。

 

ただ、これも簡単にさぁ変えますよと変えれるわけではなく、

・薬物同士の相互作用を最小化

・新たに加える薬物の細胞毒性に耐えれるかを検討

など、

多剤併用療法を行う上でのリスクというものをしっかりと考えなければなりません。

 

【予後】

てんかんの治療目的としては発作を無くすことであり、治療はそれを目指して行います。

 

『治療成功の定義』

発作が無くなったというための定義としては

・治療前と比べ、治療を行なってから発作間欠期が3倍以上伸びたこと

とし、

 

発作が“部分的”に治療できたとする定義

・群発発作や重積てんかんが無くなった

・発作の頻度が50%以上減少した

とされています。

この部分回復に到達する犬は2/3ほどいます。

ただ、年齢や性別、脳損傷の有無などの諸々の因子は関与しますが。

 

【最後に:てんかんと生きていく】

今回は『てんかん』について説明しました。

てんかんは正直に言うと完治が難しいです。

完治とは薬も必要なく、発作も全く起こらないという意味での完治です。

 一生、てんかん発作とあるいは投薬と付き合っていくことになると思います。

ただ、発作を抑えることで動物のQOLが上がるのは間違いないです。

QOLを維持してあげれるなら、抗てんかん薬という治療も1つの選択肢だと思います。