【はじめに】
今回は『壊死性脳炎』について説明します。
無菌性の脳炎には肉芽腫性髄膜脳炎や壊死性脳炎が二大脳炎であり、その他に好酸球性髄膜脳炎やグレイハウンドでみられる非化膿性髄膜脳炎などがあります。
それぞれ名前は似ていますが、臨床的な特徴や治療法が若干異なるため、その違いを中心にお話しできればなと思います。
壊死性髄膜脳炎→パグ脳炎
壊死性白質脳炎→ヨークシャーテリア脳炎
なんて呼ばれていますが、この2つはパグやヨークシャーテリアで好発するものの、これらの犬種以外でも発症する可能性は十分あるので、注意が必要です。
以前に壊死性脳炎の1つである『パグ脳炎(壊死性髄膜脳炎)』について説明した記事があるので、そちらも参考にして頂けたらと思います!
『パグ脳炎』↓
【目次】
【壊死性脳炎(NE)】
壊死性脳炎(NE)は壊死性髄膜脳炎(Necrotizing Meningoencephalitis:NME)と壊死性白質脳炎(Necrotizing Leukoencephalitis:NLE)の2つに細分化されます。
NME、NLEともに、GMEと同様に自己免疫疾患が関与しているのではないかと言われていますが、詳しくはわかっていません。
原因不明の多発性非化膿性壊死が脳で起こる病気です。
【病態:どのような病気か】
壊死性髄膜脳炎(NME)
通称:パグ脳炎、パグ・マルチーズ脳炎
場所:大脳
MRI像:白質・灰白質問わず病変が拡がる。脳実質の脱落・萎縮→脳室拡張
その他の好発犬種:チワワ、シーズー、ペギニーズ、パピヨン、ヨークシャーテリア
壊死性白質脳炎(NLE)
通称:ヨークシャー・テリア脳炎
場所:脳幹と大脳
MRI像:小さな病変が白質で見られる。髄膜や大脳皮質には拡がりにくい。
その他の好発犬種:フレンチ・ブルドッグ
【原因】
NME、NLEともに原因不明。
遺伝性の可能性もあり原因遺伝子を特定しようとしましたが、失敗しました。
ただ、NMEについてはある程度わかっています。
パグ脳炎の原因
グリアジン抗体がTG6と交差反応を行います。
その過程で作られた抗TG6抗体が脳の神経細胞にあるTG6を攻撃し、
非化膿性壊死性病変を形成するのではないかと言われています。
詳しくはこちらを参考にしてみて下さい↓
【臨床徴候:好発年齢、症状】
基本的には壊死性病変による脳の破壊が原因で症状を呈します。
壊死性髄膜脳炎(NME)の症状
発症年齢:6ヶ月齢〜7歳齢と幅広い
症状
以下の症状は前頭葉の障害によるもの
・発作
・旋回運動
・意識レベルの低下
・視覚障害
・頭の押し付け
・頸部の痛み
壊死性白質脳炎(NLE)の症状
発症年齢:1~10歳齢
症状
・前頭葉の障害による症状(NMEの症状参照)や頸部の痛み
・脳幹障害による中枢性前庭疾患
以下が中枢性前庭疾患による症状
・眼振:上下・左右・ぐるぐると目が激しく動く
・頭の向きを変えると眼振の向きも変わる
・斜頸:頭が片方に傾く
・運動失調:四肢の動作がバラバラ
【診断方法】
確定診断するには
確定診断を行うためには、死後の検死解剖と脳の病理組織学的検査が必要です。
生前に仮診断するには
①疑わしい臨床徴候:症状、犬種、神経学的検査
②血液検査
③CSF(脳脊髄液)検査
④MRIによる画像診断
①疑わしい臨床徴候
大事なのは①で予想すること!
全ての病気で共通の当たり前のことですが…笑
②血液検査
正常であることが多いです。その他の疾患を除去するためにやっておきましょう。
③CSF(脳脊髄液)検査
・単核球の細胞浸潤:リンパ球と単球がメイン
・蛋白量の増加
④MRIによる画像診断
壊死性髄膜脳炎の場合
T1強調画像
・病変は等信号あるいは低信号で表示される
・造影画像では50~70%の犬で病変は造影される
・髄膜の造影は約50%でみられる
T2強調画像・FLAIR
・病変は高信号で表示される
・不連続かつ不均一に造影される
壊死性白質脳炎の場合
T1強調画像
・病変は低信号で表示される
T2強調画像
・病変は高信号で表示される
・造影画像では不均一、ときおり辺縁が増強
MRIの『信号』と『見え方』について
MRI強調像での組織の見え方
【治療法】
壊死性脳炎を疑う場合、自己免疫疾患なので免疫抑制の意味を込めてグルココルチコイドの投与を行います。
そして、もし発作などが起きているならば、抗てんかんを投与します。
抗てんかん薬で使われる薬剤
・フェノバルビタール:歴史が長い、安い、肝障害がある
・ゾニサミド:新薬で最近主流、高価、副作用は軽度
・レベチラセタム:比較的新しい、短時間で効果出る、頓服薬
グルココルチコイド 以外の免疫抑制剤
また、免疫抑制剤としてミコフェノール酸モフェチルが有効ではないかという意見もあります。
ミコフェノール酸モフェチルとは
免疫抑制剤として使用されます。
プリン塩基の新規合成に関与する酵素活性を阻害することで、T細胞やB細胞の増殖を選択的に抑制します。
グルココルチコイド 、アザチオプリン、シクロスポリンなどの免疫抑制剤が効かない時の“第二の手段”として使用します。
適応症例)
自己免疫疾患:IMHA(免疫介在性溶血性貧血)、天疱瘡
副作用)
嘔吐や下痢、骨髄抑制
【予後】
予後は悪いです。
ほとんどの犬が6ヶ月以内に神経障害が出て、亡くなります。
【最後に:まとめ】
壊死性脳炎について説明致しました。
早見表のごとく、簡単にまとめ直しましたので、復習に使ってください。
壊死性脳炎
・壊死性髄膜脳炎(NME)と壊死性白質脳炎(NLE)の2つに分けられる
原因
・よく分かっていないけど、自己免疫反応が関与?
・NMEでは抗TG6抗体による神経細胞の傷害があるかも
NMEの症状
・前頭葉障害による:発作、旋回運動、意識レベルの低下、視覚障害、頭の押し付け
・頸部の痛み
NLEの症状
・前頭葉障害による症状
・頸部の痛み
・中枢性前庭疾患:眼振(上下・左右・ぐるぐる)、斜頸、運動失調
診断
・疑わしい症状
・CSF:単核球(リンパ球・単球)の細胞浸潤、蛋白量の増加
・MRI:T1→等信号〜低信号、T2→高信号
治療法
・免疫抑制剤:グルココルチコイド 。ダメならミコフェノール酸モチフェル
・抗てんかん薬:発作や痙攣があるなら使う。ゾニサミドが良い
予後
・良くない、6ヶ月以内で亡くなるケースが多い
【本記事の参考書籍】
Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 1404-1405p
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 398-399p
Erik Wisner ; Allison Zwingenberger 著, 長谷川 大輔 監訳 : 犬と猫のCT&MRIアトラス, 緑書房, 2016, 197-205p