今回は『肉芽腫性髄膜脳炎』について紹介します。
【目次】
【はじめに~肉芽腫性髄膜脳炎(GME)とは~】
肉芽腫性髄膜脳炎(Granulomatous Meningoencephalomyelitis:GME)はまだまだ謎が多い病気で、現時点では原因不明の特発性脳炎として解釈されています。
壊死性脳炎と同様に自己免疫疾患が原因では無いかと疑われています。
肉芽腫という訳で、脳内に結節ができる病気です。
【原因】
不明。
ですが、自己免疫疾患の1つと考えられており、
T細胞を介した遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)が原因ではないかと言われています。
特に、アストロサイトを狙った自己抗体が主犯格と言われていますが、GMEを引き起こす決定的な遺伝子の発見は未だできておらず、推測の域を脱しません。
遅延型過敏反応とは
1度目の抗原提示 ※抗原とは体が病原体や異物と認識したもの
↓
抗原提示細胞により処理し、抗原特異的記憶T細胞が増殖、待機
(つまり、インフルエンザのワクチンと同じ原理)
↓
2度目の抗原提示
↓
活性化したT細胞が一気に病変部へ流入、抗原への攻撃を開始
↓
アレルギー反応が現れる
具体的な疾患)
金属アレルギー、臓器移植の拒絶反応など
アストロサイトとは
脳や神経に存在する細胞で、脳の形を維持するための鉄骨みたいな役割をしている。支持細胞みたいなもの。
血液脳関門がある血管内皮に張り付いて、関門の強度を高める役割を担っているため、アストロサイトが攻撃を受けると、血液脳関門の破綻に直結する。
【臨床徴候】
動物種差
・犬で多い
・猫ではまれ
好発年齢
・若齢〜中年齢(中央値は5歳)
好発犬種
・トイ・プードル
・ヨークシャー・テリア
・ミニチュア・ダックス
・チワワ
【症状】
・発作:大脳皮質に病変があると起こる
・旋回運動:くるくる回り続ける
以下は前庭小脳機能不全による症状
・眼振:上下・左右・ぐるぐると目が激しく動く
・頭の向きを変えると眼振の向きも変わる
・斜頸:頭が片方に傾く
・運動失調:四肢の動作がバラバラ
【診断】
確定診断
死後の検死解剖によってわかります。
GMEに特徴的な剖検所見
『中枢神経系(脳・脊髄)にある血管周囲に単核球(リンパ球、マクロファージ、形質細胞)の囲管性細胞浸潤像の確認』
と
『肉芽腫性結節による占拠性病変(=塊の存在を確認するということ)』
で確定診断を行います。
しかし、生きている時に診断をしないと臨床的には全く意味ないです。
そのため、確定はできませんが、複数の検査系を用いてある程度予想します。
予測的な診断(症状、CSF、画像診断)
①臨床症状:発作、眼振、斜頸、運動失調
②CSF(脳脊髄液):単核球の浸潤、蛋白量の増加
③CT・MRI:孤在性or多発性病巣、T2強調像における境界不明瞭な高信号像
CSFとは
→『「脳腫瘍」【目次】CSFとは』を参照
【GMEの画像診断】 ←超大事!
GMEの病変(形状)
病変は大きく分けて3つあります。
①巣状型
②播種型
③眼型
特に巣状型と播種型が多いと言われています。
病変部が出来やすい場所
GMEができやすい場所は白質です。特に前脳、脳幹、小脳にできやすいです。
ただ、灰白質や髄膜にも発生しないことは無いです。
CT・MRIでの見え方
CT
浮腫の程度で境界不明瞭な低吸収像が見られます。
MRI
T1W:等〜低信号(黒く映る)
T2W:高信号(白く映る)
造影T1W: CT同様、浮腫の程度による
ただ、脳腫瘍との鑑別は意外と簡単で、
MRI上でモヤモヤと浮かび上がってくるものがGME
パキッと陰影が見えるのが脳腫瘍
と思ってもらえればいいです。
本当は写真を貼って説明したのですが、多分著作権や個人情報的なものに引っかかっちゃうので、使えません。
分かりづらくてごめんなさい。
MRI強調像での組織の見え方(図解)
【治療】
GMEは自己免疫疾患の1つと考えられており、免疫抑制がベーシックな治療法とされています。
中でも、グルココルチコイド製剤による免疫抑制がオーソドックスな治療法となっています。
プレドニゾロン(1~2mg/kg BID)を経口投与するのですが、これがオーソドックスな治療とされている割にあまり効きません。
最近では、プレドニゾロンの他に
3つの免疫抑制剤が治療選択の1つに加わっています。
新たな免疫抑制剤
・プロカルバジン:アルキル化剤系抗がん剤
・シトシンアラビノシド(シタラビン®️):代謝拮抗性抗がん剤
・シクロスポリン(シクロキャップ®️やアトピカ®️):カルシニューリン阻害剤
これらの免疫抑制剤のメリット
・非常に効果的
・プレドニゾロンの用量を減らし、ステロイドの副作用を抑える
①プロカルバジン
血液脳関門を通過できる抗がん剤で、DNAをメチル化することで、細胞を壊す薬です。
プロカルバジンは脳内に侵入すると、T細胞の破壊に寄与します。
プロカルバジン(25mg/m2 PO SID)とプレドニゾロンの併用による治療では、中央生存期間は14ヶ月と良好な結果を示しました。
副作用
・骨髄抑制:CBCのモニタリングを必ず行う
・出血性胃腸炎
②シトシンアラビノシド(シタラビン®️)
シトシンアラビノシドはシチジンと構造が類似しており、シトシンの代わりにDNA合成過程の中で入り込み、DNAの生合成を邪魔することで細胞破壊に寄与します。細胞周期S期で効果を発揮する薬です。血液脳関門も容易に通過します。
シトシンアラビノシドによる治療では、中央生存期間は18ヶ月となりました。
静脈投与(CRI)
400mg/m2の用量で24時間以上かけて、ゆっくり静脈注射するのが最も効果的です。
というのも、シトシンアラビノシドは細胞周期S期にのみ効く薬なので、長時間暴露させてあげる方が、薬の力を最大限に発揮できるのです。
皮下注射
50mg/m2 BIDは静脈注射(CRI)より効かないです。
これは先ほど説明した通り、抗がん剤の暴露時間が短いためです。
シチジンとは
シトシンがリボース環にβ-N1-グリコシド結合したもの
シトシンとは
DNAを構成する塩基の1つ。ピリミジン塩基。
③シクロスポリン(シクロキャップ®️)
シクロスポリンは脂溶性のペプチドですが、通常は血液脳関門を突破できません。しかし、血管内皮に張り付くという性質があるので、GME患者のように血液脳関門が破綻しかけている場合、侵入することができます。
シクロスポリンはカルシニューリン阻害剤といって、炎症サイトカインの分泌を行う活性型T細胞の遺伝子転写を阻害することで、T細胞の働きを押さえ込みます。
3~5mg/kg PO BIDで投与すると中央生存期間は2.5年と良好でした。
【最後に:まとめ】
肉芽腫性髄膜脳炎について説明致しました。
最後にまとめです。
どんな病気
・脳内に肉芽腫性結節ができる特発性の脳炎
原因
・自己免疫疾患で遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)の可能性大
・自己抗体がアストロサイトを狙っているという噂あり
臨床徴候
・動物差:犬で多い
・好発年齢:5歳前後
・好発犬種:ヨークシャーテリア、M・ダックス、チワワ、プードル
症状
・発作
・旋回運動
・前庭小脳機能不全による:眼振、斜頸、運動失調
診断
・病理:囲管性細胞浸潤像
・臨床症状:発作、眼振、斜頸、運動失調
・CSF(脳脊髄液):単核球の浸潤、蛋白量の増加
・CT/MRI:孤在性or多発性病巣、T2強調像における境界不明瞭な高信号像
治療
・免疫抑制剤:グルココルチコイド 、プロカルバジン、シトシンアラビノシド、シクロスポリン
予後
・安定すれば、約1~2年以上生存可能
【本記事の参考書籍】
Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 1403-1404p
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 397-398p
Erik Wisner ; Allison Zwingenberger 著, 長谷川 大輔 監訳 : 犬と猫のCT&MRIアトラス, 緑書房, 2016, 197-205p