【はじめに】
冒頭の画像にも示していますが、脳腫瘍はできる場所によって現れる症状が異なります。
・歩き方がおかしい
・発作が出ている
・なんだか、ぼっとしているような…
こういった症状が見られた場合、脳腫瘍の可能性も考えられます。脳腫瘍を正確に診断するためにはMRIによる画像診断が必要です。神経症状が見られる場合はMRIのある病院を探して連れていくのが良いでしょう。では早速、脳腫瘍についてお話ししていこうと思います。
【目次】
- 【はじめに】
- 【脳腫瘍の発生とリスク因子】
- 【続発性脳腫瘍について】
- 【脳腫瘍の傾向】
- 【病理学】
- 【症状】
- 【診断①:画像診断】
- 【診断②:CSF(脳脊髄液)】
- 【治療:外科手術】
- 【治療:放射線療法】
- 【治療:化学療法】
- 【治療:近未来的治療法】
- 【予後】網羅的に紹介
- 【最後に:まとめ】
【脳腫瘍の発生とリスク因子】
脳腫瘍は犬や猫では割と頻繁に見られる腫瘍です。犬の方が発生率は高く、脳腫瘍の種類も犬の方が多いです。
『犬で報告のある脳腫瘍』
・髄膜腫←最も多い。
・グリオーマ(グリア細胞腫)←2番目に多い
・脈絡叢腫瘍
・中枢神経性リンパ腫
・原始神経外胚葉性腫瘍
・神経芽腫
・上衣腫
・血管過誤腫
『猫で報告のある脳腫瘍』
・髄膜腫←ほぼこれ。50%以上
・グリオーマ←まぁまぁ多い
・上衣腫
・嗅神経芽腫
・脈絡叢腫瘍
『脳腫瘍は孤立性?多発性?』
一般的に犬や猫でできる脳腫瘍は孤立性に発生する。多発性にできる腫瘍で多いのは脈絡叢腫瘍です。この腫瘍で多発性腫瘍が多いのは、脈絡叢とは脳脊髄液を産生している場所であり、脳脊髄液は脳室を通って脳全体に流れているため、播種が起きやすいからだと考えられています。
【続発性脳腫瘍について】
脳が原発と考えにくい腫瘍は続発性脳腫瘍とされます。続発性脳腫瘍とは体のどこかにできた腫瘍が脳に転移したり、局所から浸潤してくることで発生することが多いです。
脳に転移しやすい腫瘍
・乳腺腫瘍
・肺腺癌
・前立腺癌
・血管肉腫
・悪性メラノーマ
・リンパ腫
脳に浸潤しやすい腫瘍
・鼻腔内や前頭洞由来の腫瘍:腺癌や扁平上皮癌
・頭蓋骨由来の腫瘍:骨肉腫、軟骨肉腫、多葉性骨軟骨肉腫
・下垂体腫瘍
・神経鞘腫:第ⅴ脳神経
続発性脳腫瘍の発生率ランキング(犬)
Postmortem examination was performed in 177 of 177 dogs. Secondary intracranial neoplasms diagnosed on postmortem included HSA (n=51), pituitary tumors (n = 44), LSA (n=21), metastatic carcinomas (n=20), nasal tumors (n=11), HS (n=8), and malignant melanomas (n=6). Other tumors were represented less frequently (Table 3). 引用文献:Secondary Intracranial Neoplasia in the Dog: 177 Cases (1986–2003)
続発性脳腫瘍の発生率ランキング(猫)
The most common secondary brain tumors were lymphoma (n = 23, 14.4%) and pituitary tumors (n = 14, 8.8%). 引用文献:Feline Intracranial Neoplasia: Retrospective Review of 160 Cases (1985–2001)
【脳腫瘍の傾向】
好発年齢
犬:9歳
猫:10歳
※髄膜腫に限っては他の腫瘍より高齢で起こりがち
好発品種
ゴールデン・レトリバーやボクサーは原発性脳腫瘍ができやすいです。
長頭種:髄膜腫ができやすい
短頭種:グリオーマができやすい
できやすい脳の場所
間脳や小脳ではグリオーマができやすい
【病理学】
脳腫瘍の場合、悪性腫瘍と良性腫瘍の定義が他の臓器の腫瘍とは若干異なります。
頭蓋骨内にできた腫瘍は増殖速度が遅く、切除が容易なものであっても悪性の腫瘍とされます。というのも、頭蓋骨内に腫瘍ができると脳を圧迫し、神経症状を示すことがあるため、悪性という枠に入ります。
髄膜腫
髄膜腫のほとんどは良性です。
犬の髄膜腫腫瘍細胞は人や猫のそれと比べ、細胞異型性や有糸分裂像は多いですが、悪性とまでは診断しなくてもいいでしょう。
組織学的グレード分類
WHOが作っている髄膜腫の組織学的グレード分類があります。
髄膜腫は髄膜上皮細胞から発生するのですが、その腫瘍細胞の悪性度によってグレードⅠ〜Ⅲで分類します。
グレードごとの症例の割合
グレードⅠ:56%
グレードⅡ:43%
グレードⅢ:1%
先ほども書きましたが、やはり研究結果でも同様に良性腫瘍が多かったです。
髄膜腫の亜分類
犬の髄膜腫は多くのサブタイプがあります。
・髄膜皮性髄膜腫
・移行性髄膜腫
・線維性髄膜腫
・砂粒腫性髄膜腫
・血管腫性髄膜腫
・微小嚢胞性髄膜腫
・乳頭状髄膜腫
・顆粒細胞性髄膜腫:実は由来不明
・未分化髄膜腫
など、多いです。
一方、猫の髄膜腫の種類は少なく、ほとんどは髄膜皮性髄膜腫か砂粒性髄膜腫です。
グリオーマ
グリオーマの分類
・星状膠細胞腫:脳実質にできる腫瘍では最も頻度が高い
・希突起膠細胞腫:中心部が粘液性。脳室の上皮層を破壊することがある
・神経膠芽細胞腫
・未分化型膠細胞腫
によってできます。
グリオーマは浸潤性が強く、既存の治療法に抵抗性を示すため、一般的に悪性と考えられています。
上衣腫
脳室の上皮細胞由来の腫瘍細胞です。脳や脊髄の脳室系内に発生します。
脳室腔を満たすように増殖し、最終的には閉塞性水頭症を引き起こします。
脈絡叢腫瘍
主に2つの腫瘍ができやすいです。
・脈絡叢乳頭腫(Choroid Plexus Papillomas:CPP):良性(グレードⅠ)
形態学的には良性でCPPの45%で浮腫が見られます。
・脈絡叢癌(Choroid Plexus Carcinomas:CPC):悪性(グレードⅢ)
脳に浸潤したり、脳室内や髄腔内播種を引き起こし、悪性の挙動を示します。
CPCの70%で浮腫が見られます。
脈絡叢腫瘍は第四脳室の一部や側脳室(←CPCに限る)にできやすいです。
また、脳室閉塞に伴う非交通性水頭症(※)や腫瘍細胞によるCSF産生過剰に伴う交通性水頭症(※)を続発します。
非交通性水頭症とは
脳脊髄液(CSF)の脳内から脳外への連絡がうまくいかない時の水頭症。
脳腫瘍による圧迫や炎症による癒着でCSFの循環経路が閉塞されている場合に見られます。
交通性水頭症とは
CSFの脳内から脳外への連結はうまくいっている時の水頭症。
脈絡叢の機能的腫瘍によってCSFが過剰に産生されている場合に見られます。
脳腫瘍発見時の注意点
脳腫瘍は興味深いことに、原発性の脳腫瘍であっても他の部位に全く関係ない腫瘍ができることがあります。
大規模な研究でわかったことは
脳腫瘍を有する犬の23%で関係のない腫瘍が胸腔内や腹腔内にできているということです。
この数字は決して無視できる数字ではなく、脳腫瘍が認められた場合は必ず全身のスクリーニング検査を行うことが推奨されています。
表中の合計数字が38匹と合致しませんが、これは複数の腫瘍を重複して持っている犬がいたためだと考えられます。
引用文献:下記参照
The presence or absence of other unrelated neoplasia was reported in 170/172 dogs. Other neoplasia unrelated to the primary intracranial tumor occurred in 38/170 dogs (23%). These results are presented in Table 6. 引用文献:Canine Intracranial Primary Neoplasia: 173 Cases (1986–2003)
【症状】
犬の脳腫瘍で一番多い症状
脳腫瘍では神経症状が見られます。
特に5歳を過ぎた好発犬種(ゴールデン・レトリバー、ボクサー)は注意が必要です。
症状自体は腫瘍ができた場所と腫瘍による浮腫や出血がどうかで決まりますが、
一番多いのは発作です。
発作は脳腫瘍をもつ犬のおよそ半分で見られます。
またある研究で腫瘍別に発作がでた犬の割合を出したデータがあります。
発作が出る犬の割合
・グリオーマ:26.7%
・リンパ腫:26.3%
・髄膜腫:15%
猫の脳腫瘍で一番多い症状
猫では神経症状だとわかるような特徴的な症状がなく、性格の変化や行動の変化が主に症状として見られます。
大脳・間脳の腫瘍による症状
大脳や間脳に腫瘍ができると脳の機能障害に伴う症状が出やすいです。
例)
・発作:大脳皮質に病変が出るを起こる
・行動の変化:老化と間違われがち
・旋回運動:グルグル回る
・顔面の押し付け
・視覚障害:視神経が障害を受けている
・半側空間無視:大脳半球が障害を受け、半側に麻痺が出ること
脳幹(中脳〜延髄)の腫瘍による症状
例)
・意識障害
・脳神経の機能障害
・歩様や固有位置感覚の障害
小脳の腫瘍による症状
例)
・運動失調:四肢同士の統合が取れない
・測尺異常:歩幅を調節できなくなっている
・無意識的な震え
・前庭異常:規則性のない眼振
・眼瞼反射がない
初期症状として多いのは行動の変化でこれは加齢によるものと考えられがちです。
しかし、何気ない行動の変化には実は脳の機能障害が関係しており、腫瘍がゆっくりながら進行していることもあります。
病変部位で出る症状は異なる(図解)
作成:オタ福
【診断①:画像診断】
画像診断
脳腫瘍の診断にはCTやMRIを用います。MRIの方がより診断には有効です。
特徴的な所見によって、髄膜腫とグリオーマは画像上で見分けることができます。
髄膜腫のMRI像の特徴
・95%の症例で浮腫が併発:T2強調像やFLAIRで髄膜腫との境界はっきり映る
・増殖形態:脳の辺縁から中心部に向かって増殖
・明確な境界をもつ
・実質を押しのけるように増殖
・ガドリニウム造影で高信号を示す
・ガドリニウム造影で均一に造影
・“硬膜のしっぽ”サイン:腫瘍に隣接した髄膜の増強と肥厚化
(・腫瘍内に嚢胞性の空隙:嚢胞性髄膜腫の場合)
ガドリニウム造影について
脳には血液脳関門と言われる脳内へ血中に含まれる異物を通過させないための関門があります。造影剤はこの関門を通過することができないので、通常では造影剤は映りません。しかし、炎症による脳関門の破壊や脳腫瘍の血管新生によって造影剤は脳内に侵入します。
そのため、炎症が起こっている場所や脳腫瘍がある場所では造影剤に反応し、MRIで高信号を呈します。
“硬膜のしっぽ”サインとは
髄膜腫のMRIで特徴的に見られる所見で、硬膜に沿ってヒョロッと伸びて増殖している髄膜腫がメインの腫瘍からしっぽが付いているように見えます。
グリオーマのMRI像の特徴
・脳内(脳実質)から発生する
・脳内から脳外へ向かって増殖する
・境界が不明瞭
・実質を浸潤性に増殖
・ガドリニウム造影で低信号像を示す
・ガドリニウム造影で不均一に造影
上衣腫のMRI像の特徴
・T1、T2、FLAIRで高信号
・閉塞性の水頭症を伴うことがある
・造影では不均一に造影される
脈絡叢腫瘍のMRI像の特徴
・脳室内にできる
・ガドリニウム造影で均一に造影
画像診断のまとめと最新技術
まとめ
画像診断について説明しましたが、これらはあくまでMRIでできる診断です。どの腫瘍かを当てる正確さは70%程度と言われています。
最新技術
脳腫瘍の最新技術として『定位脳腫瘍生検術』というものがあります。
CTやMRIと手術鏡を連動させて、ナビゲーションを用いながら脳深部にある腫瘍の生検を行うというものです。海外の一部の施設では行われているそうです。
MRI強調像での組織の見え方(図解)
作成:オタ福
【診断②:CSF(脳脊髄液)】
CSFとは
CSFとは脳脊髄液のことで、脈絡叢から作られます。この液体は脳室や脊髄周囲を1周6時間かけてゆっくりと循環しています。
よく神経疾患を疑う時はCSFを採取し、炎症細胞がないかなどをチェックします。
脳腫瘍におけるCSFの役割
では、脳腫瘍におけるCSFの役割とはどのようなものなのでしょうか?
脳腫瘍の時、CSFでは好中球や蛋白量が増加しますが、時と場合によってまちまちであり、特異的な所見を得られることがありません。
CTやMRIで明らかな腫瘍性病変が確認できた場合は積極的に行う必要はないでしょう。
CSF採取のデメリット
腫瘍によって頭蓋内圧が上昇している患者に対し、非特異的な所見が得られがちなCSFを採取することはリスクが大きいと思います。
CSF採取のメリット
ただ、腫瘍の情報をたくさん得られるのも事実です。
特に脈絡叢腫瘍のCPP(脈絡叢乳頭腫)とCPC(脈絡叢癌)の鑑別には有用性は高いです。
CPCはCPPに比べ、蛋白濃度が高いです(>100mg/dL)。
この二つの腫瘍は由来細胞は同じでも、挙動が全く異なるため鑑別することに意義はあります。
やってはいけない事(ヤブ医者がやる事)
CSF採取において絶対にやってはいけないことがあります。
脳腫瘍を強く疑う患者に対して、CSFを採取するためだけに麻酔をかけることです。
もともと検査というのは治療戦略を立てるために行うものです。
CSFだけでは今後の治療方針が定まらず、麻酔のリスクに対するコストパフォーマンスが非常に低いです。
何の意味もない検査はお金、時間、リスクの無駄です。
【治療:外科手術】
脳腫瘍における外科手術の目的としては
・腫瘍を除去する
・頭蓋内圧を下げる
・確定診断ための生検
が挙げられます。
猫の髄膜腫
猫の髄膜腫は大脳周囲に凸状に増殖し、比較的アプローチしやすい位置にできます。
猫の髄膜腫は“ぺりっと剥がす”ようなイメージで簡単に切除できます。
髄膜腫の外科的切除は確定診断されてから最初に行われる治療法とも言えます。
犬の髄膜腫
犬の髄膜腫も猫と同様大脳周囲で発生することが多いですが、小脳や脳幹でも発生することが多々あります。
小脳にできた髄膜腫は比較的アプローチしやすいですが、脳幹へのアプローチは非常に困難です。
また、犬の髄膜腫はサブタイプが多く、1/3近くの髄膜腫が浸潤性です。
犬の髄膜腫の場合、術後の放射線治療ができない場合は切除するべきではありません。術後のアジュバンド療法は必須と考えておきましょう。
グリオーマ
手術はあんまりしません。
というのも、グリオーマは浸潤性に増殖することが多く、術野から正常組織と腫瘍組織を見極めることが難しいからです。
脈絡叢腫瘍や上衣腫
脳実質内部に位置するため、手術はしません。
続発性脳腫瘍
神経由来ではない腫瘍で浸潤性が強いため、あまり手術はしません。
ただ、多葉性骨軟骨肉腫(Multilobular Osteochondrosarcoma:MLO)は外科的切除で良好な結果を示しています。
それ以外の腫瘍ではまず取りませんし、取れません。
外科的切除(図解)
作成:オタ福
【治療:放射線療法】
脳腫瘍へのアプローチ
脳腫瘍では 原発性、続発性に関わらず放射線治療が1つの治療戦略として挙げられます。
最近、放射線治療は少分割照射プロトコルが流行っている一方で、脳腫瘍では通常分割照射プロトコルの傾向にあります。
通常照射プロトコル
低線量の放射線を頻回(15~20回)照射するプロトコル
何回も通院するため、医療費がかかる。(45~50万円←北海道大学動物医療センター参照)。
少量しか照射しないため、副作用が出にくい。
脳腫瘍ではこっちを使いがち、
少分割照射プロトコル
高線量の放射線を数回(4~6回)照射するプロトコル
数回で済むため、医療費が安い(15~20万円←北海道大学動物医療センター参照)。
最近はこっちの方が効果的で負担が少ないとされ、主流になってきている。しかし、高線量照射による副作用も懸念されている。
脳に放射線を当てるときの留意点
・一回の照射量
・合計照射量
・照射する脳の体積
を考えることはとても大切です。
少分割照射プロトコルを行うと、脳では遅発性の副作用が出ることがあり、そのまま死んでしまう可能性があります。
放射線治療関連の研究結果を見ていきたいと思います。
研究結果①
・放射線治療のみ→生存期間:250~699日
研究結果②
・放射線治療のみ→生存期間:7ヶ月(210日)
・放射線治療+外科手術→生存期間:16.5ヶ月(495日)
定位放射線照射(Stereotatic Radiation Therapy:SRT)
結構日本でも浸透しつつある放射線療法の1つです。
多方向から高線量の放射線を照射する方法で、腫瘍にだけ放射線が重複するため、正常組織を傷つけることが少ない方法です。
リニアックという特殊な機械と放射線を漏出させないための重厚な部屋が必要であるため、獣医領域で行なっているのは大学病院などのごくわずかな施設のみです。
そして、先ほど脳腫瘍は少量を頻回照射する放射線治療を行うと言いましたが、定位放射線照射に限っては高線量の照射を行います。
【治療:化学療法】
脳腫瘍に多いて、抗がん剤はほとんど使われていません。
強いて使われる抗がん剤といえば、
・ロムスチン(CCNU)
・カルムスチン
・ヒドロキシカルバミド
中枢神経移行性抗がん剤
脳や脊髄などの中枢神経に抗がん剤を効かせるためには、まず血液脳関門を突破しなければなりません。そして、血液脳関門を突破するためには脂溶性が高い抗がん剤でないといけません。
ただ、あまり効かないので使われていません。
【治療:近未来的治療法】
その他の治療法というか近未来の治療法です。
・温熱療法:実験的にはあんまり効かない
・ヨウ素125線源のインプラント:直接腫瘍に放射線照射を行う方法
・DNAワクチン:アデノウイルスに抗腫瘍作用のある何かを運ばせる方法
・VEGF阻害剤:腫瘍が栄養を取るために必要な血管新生因子であるVEGFを阻害する
【予後】網羅的に紹介
予後に関連する因子
・孤在性か多発性か
・圧排性か浸潤性か
・神経組織の障害の程度
・場所:前頭部にできたもの→2104日生存、後頭部にできたもの→702日生存
髄膜腫について
髄膜腫は犬の頭蓋内腫瘍でもっとも多く見られる腫瘍です。
ただ、
・腫瘍のグレード
・組織学的亜分類
・MRI所見
これらはほとんど予後の推測に関係ないです。
WHOが発表している髄膜腫の分類では
・benign(良性)→56%
・atypical(中間)→43%
・malignant(悪性)→1%
中間型と悪性の44%の髄膜腫が強い浸潤性を持っていると言われています。
Histological classification of the canine tumors in this study, using criteria of the human WHO international histological classification,12, 13 identified an incidence of 56% benign, 43% atypical, and 1% malignant meningiomas. 引用文献:Magnetic Resonance Imaging and Histological Classification of Intracranial Meningiomas in 112 Dogs
術後生存期間を調べた研究があります。
髄膜腫の種類別生存期間
・未分化髄膜腫:0日
・線維性髄膜腫:10日
・砂粒腫性髄膜腫:323日
・髄膜皮性髄膜腫:523日
・移行性髄膜腫:1254日
Analysis of survival times according to histologic tumor subtypes indicated that the order from most brief to longest was as follows: anaplastic, 0 days; fibroblastic, 10 days; psammomatous, > 313 days; meningothelial, > 523 days; and transitional, 1,254 days. 引用文献:Evaluation of intracranial meningioma resection with a surgical aspirator in dogs: 17 cases (1996–2004)
転移による脳腫瘍
転移しやすい脳腫瘍は血管肉腫や上皮系腫瘍、乳腺腫瘍であり、これらの予後は悪いです。
脳へ転移した腫瘍は一般的に多発性病変として現れることが多いです。
猫の予後
髄膜腫
・髄膜腫の生存期間:2年
・手術した猫:685日生存
・手術しなかった猫:18日で死亡
・術後の再発率:20.6%
・再発までの期間:285日
リンパ腫の脳転移
・多発性病変を示す
・副腎皮質ホルモンで緩和療法
・生存期間:21日
オリゴデンドログリオーマ
・予後は非常に悪い
・生存期間:診断から1~5日
【最後に:まとめ】
今回は脳腫瘍について解説しました。
好発する脳腫瘍
・髄膜腫
・グリオーマ
症状
・腫瘍ができる場所によって異なる:大脳、中脳、延髄、小脳
・発作:脳腫瘍の犬の約25%で見られる
・行動の変化:加齢のせいにされがち
・運動失調:体の連動性が失われる
診断
・CTよりMRIが良い
・髄膜腫:境界明瞭、圧排性に増殖、高信号、しっぽサイン
・グリオーマ:境界不明瞭、浸潤性に増殖、低信号
治療法
・外科的切除:場所によって難易度が異なる
・放射線治療:リニアックを用いた定位放射線照射がアツい
・化学療法:ロムスチンを使うが、ほぼ効かない
・最新療法:DNAワクチン、ヨウ素線源インプラント、VEGF阻害剤
予後
・孤在性か多発性か
・圧排性か浸潤性か
・神経組織の障害の程度
・場所:前頭部→2104日生存、後頭部→702日生存