イラスト引用:Spencer A. Johnston ; Karen M. Tobias : veterinary surgery small animal. 2nd ed., ELSEVIER, 2017, 1398p, Figure 75.1
【はじめに】
今回は『表在性膿皮症』について説明します。
膿皮症には“表在性”と“深在性”の2つがあります。
表在性膿皮症とは皮膚表面に常在している細菌(主にブドウ球菌)が表皮や毛包などに侵入して発症する感染症です。
【目次】
- 【はじめに】
- 【原因】
- 【原因となる病原菌】
- 【発症しやすい年齢、時期、犬種】
- 【症状】
- 【診断】
- 【治療】
- 【最後に】
- 【本記事の参考書籍】
- 【他の皮膚疾患に関する記事はこちら】
- 【病気の個別相談は『オタ福の質問箱』まで】
【原因】
表在性膿皮症は皮膚常在菌による感染です。
ということは皮膚バリアの崩壊が起こっているということです。
表在性膿皮症の原因を探るには皮膚バリアを崩壊させる原因を考える必要があります。
皮膚バリアを崩壊させる原因は山ほどあります。
とりあえず、ざっと原因を挙げてから重要なものだけ簡単に説明したいと思います。
表在性膿皮症の原因(図解)
皮膚バリアを崩壊させる原因
・分泌腺の異常:多汗や脂漏症
・毛包構造の異常:カラーダイリューション脱毛症、黒色被毛毛包形成異常症
・毛包感染症:ニキビダニ、皮膚糸状菌症
・アレルギー性皮膚炎:犬アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ノミアレルギー性皮膚炎
・栄養不良、内分泌失調
・医原性:ステロイド剤の使用、抗がん剤
・外傷、熱傷、咬傷
・環境:梅雨時期などの高温多湿
結構見られるのが、犬アトピー性皮膚炎になった犬が膿皮症を続発するパターンです。
犬アトピー性皮膚炎になった犬の皮膚では
・皮膚の保水力の低下
・掻爬による表皮の剥離
・ステロイド薬の使用
など、表皮の免疫力を低下させる原因が盛りだくさんです。
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【原因となる病原菌】
表在性膿皮症で多く見られる原因菌はStaphylococcus.pseudintermediusというブドウ球菌の一種です。
この原因菌は皮膚や毛包に常在しています。
病原因子として
・コアグラーゼ:血液凝固作用をもつ
・プロテインA:抗体のFc領域に結合し、抗体の力を奪う
・表皮剥脱毒素(ET):表皮細胞をつなぐ接着分子を攻撃する
・エンテロトキシン:細菌が産生する毒素で様々な病変を引き起こす
病原菌が産生する病原因子(図解)
その他の病原体
S.schleiferiやS.aureusなどがあります。
また猫では掻くよりも舐めること(グルーミング)の方が多いので、口腔内に存在するPasteullaやレンサ球菌も原因になることがあります。
【発症しやすい年齢、時期、犬種】
『好発年齢:何歳から発生しやすいの?』
どの年齢でもなりえますが、
若齢ではアトピー発症犬、分泌腺の異常、遺伝的要因で起こりやすく、
高齢ではステロイド剤や抗がん剤治療中の犬で注意が必要です。
『時期:ジメジメした季節は注意』
梅雨や秋雨の時期に注意が必要です。高温多湿になる程、発症率は上がります。
『好発犬種:短頭種や毛が長い犬種は注意』
・ブルドッグ系(フレブルやイングリッシュ・ブル)
・ヨークシャー・テリア
・M・シュナウザー
・シーズー
・パグ
・アメリカン・コッカー・スパニエル
・M・ダックス
・M・ピンシャー
・チワワ
・マルチーズ
・ゴールデン・レトリバー
など、たくさんですね笑
印象としては毛が長い犬種や短頭種などで多いかなと思いました。
しかし、基本的に犬アトピー性皮膚炎が原因でなることがほとんどなので、やはり犬アトピー性皮膚炎発症犬では注意が必要です。
【症状】
表在性膿皮症の特徴的な症状として、
痒みと体幹部にできる発疹が挙げられます。
発疹には大きく分けて4つの外見上の違いがあります。
それぞれについて簡単に説明していきます。
『①表皮小環』
表皮小環とは径1cm程度の円形脱毛とその周囲に白〜黄色のフケが付いたものです。
<表皮小環のでき方>
ニキビのように白い膿が皮下に溜まる
→膿は潰れてカサブタになる
→カサブタがめくれて円形の脱毛のその周囲にフケが残る
こういった流れで、表皮小環はできます。
『②毛穴に一致した膿瘍』
膿瘍とは膿が毛穴に詰まっているもので、まさにニキビのようなものが見えます。
このように見える原因としては毛包内に細菌感染が起こり、その部分が化膿して、膿となっているためです。
『③円形の脱毛』
これは②に続発して起こるものですが、毛包に感染が起こるため、その部分の毛が抜けてしまいます。
細菌感染巣はある程度まとまった毛穴で感染するため、円形の脱毛として見えてしますのです。
『④毛穴に一致しない膿』
皮下で感染が起きていて、膿が皮下にある場合、毛穴に一致しない膿疱が見えます。
【診断】
表在性膿皮症は皮膚常在菌による感染症であるため、やるべきことは細菌感染の証明です。
細菌の感染を証明するために必要なことは細胞診です。
細胞診とは、発疹を示している場所に綿棒を擦り付け、顕微鏡で何が含まれているかを調べる検査です。
『これが見られたら細菌感染を疑う』
膿皮症はブドウ球菌が原因であることが多いです。
そのため、細胞診で見られる像はぶどう房状の球菌と好中球の浸潤です。
・ぶどう房状の球菌:ブドウ球菌がいることを示す像
・好中球の浸潤:細菌を倒すために動員される免疫細胞。化膿を示す像。
ポイントとしては球菌が見えることです。
球菌が見えないけど、好中球の浸潤があるという場合はそのほかの皮膚病が疑われるため、皮膚の生検(皮膚を径5~10mmでくり抜く検査で局所麻酔下で行う)を行う必要があります。
『細菌の正体を知る』
これは細菌感染を治療していく上で、どんな病気でも重要なことですが、感染症を起こしている細菌は何者なのかを知っておくことは大事です。
なぜなら、細菌を知らなければ、倒すべき相手の弱点や性質を知り得ません。つまり、致命的な攻撃を効率的に行うことができず、病気が長引く原因に繋がるからです。
正体を知るにはPCR法が必須です。
検査したい細菌だけが持つ特定のDNAを増幅し、そのDNAを見つける検査です。これは外注検査になるため、ちょっと時間がかかります。しかし、必要な検査です。これを怠れば慢性化に繋がります。
『細菌の弱点を知る』
薬物感受性試験というものがあります。
これはPCR法により細菌を特定した後に行う検査で、どんな抗生物質が有効かを調べる検査です。これもまた日数がかかってしまうのですが、とても重要な検査です。
「痒がっていて、可哀想だから早く治療してよ!」と思われる飼い主さんは多いですが、この検査を行わないまま抗菌薬の投与を開始すると、薬が効かないあるいは耐性菌ができるなど、後から悪いことしか起こりません。
有効な抗生物質を調べないまま、「とりあえずこの抗菌薬(セファレキシン)、ダメなら他の抗菌薬で試す」というやり方を繰り返す獣医は危険です。
無作為な抗菌薬の投与は耐性菌を増やしてしまうという認識をしてください。
『膿皮症は続発疾患!原因を見抜く』
今まで、膿皮症について説明してきて理解して頂けると思いますが、膿皮症の原因は何らかの皮膚トラブルにより皮膚バリアが崩壊したことで常在菌によって引き起こされる感染症です。
つまり、皮膚トラブルの発見が膿皮症の根治に繋がるのです。
皮膚トラブルの原因となる病気に関しては
【原因】で網羅しているので、もう一度振り返って見てください。
【治療】
『最初は外用抗菌療法』
表在性膿皮症は細菌感染が表面に限局して存在しています。表在性膿皮症の治療では外用抗菌療法を中心に治療を進めていきます。
なぜなら後述しますが、全身投与できる経口抗菌薬あるいは静脈投与抗菌薬は高い効果を発揮する反面で、耐性菌の発生が問題になります。
こういったわけで表在性膿皮症の治療戦略としては第一選択に外用抗菌療法を選ぶべきです。
具体的な外用抗菌剤について話します。
外用抗菌剤とはイメージとしては殺菌・抗菌作用が添加されたシャンプーやローションクリームのことです。
外用薬で使われる薬品名
・クロルヘキシジン:グラム陽性菌に有効、グラム陰性菌はやや抵抗性あり
・ピロクトンオラミン:カビ、酵母などの真菌に有効、細菌にも有効
・オラネキシジン:クロルヘキシジンと同様の効果、粘膜への使用は不可
・ムロピシン:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に有効
上から3つの薬品は耐性菌ができにくく、長期間使用することができます。
しかし、ムロピシンだけは反復使用で耐性菌が発生する恐れがあるので注意が必要です。
『皮膚バリアの回復』
もともと表在性膿皮症の感染細菌は皮膚の常在菌です。これは皮膚表面が荒れたりして、皮膚バリアが崩壊したことで感染が起きています。
病気を治すためには、この皮膚バリアを回復させることが不可欠です。
先ほどの外用抗菌療法でシャンプーを行なった後、保湿クリームなどを塗って皮膚の荒れを抑えてあげる必要があります。
『発症原因の治療』
ここでいう発症原因とは皮膚バリアを崩壊させた原因ということです。
↓↓原因で紹介した病気です(上述のコピペ)
皮膚バリアを崩壊させる原因
・分泌腺の異常:多汗や脂漏症
・毛包構造の異常:カラーダイリューション脱毛症、黒色被毛毛包形成異常症
・毛包感染症:ニキビダニ、皮膚糸状菌症
・アレルギー性皮膚炎:犬アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ノミアレルギー性皮膚炎
・栄養不良、内分泌失調
・医原性:ステロイド剤の使用、抗がん剤
・外傷、熱傷、咬傷
・環境:梅雨時期などの高温多湿
これらの病気を特定し、それに特化した治療を行うことで根本治癒を目指します。
『避けたい全身抗菌薬投与』
内服や静脈注射による抗菌薬の投与は非常に有効性がある反面、耐性菌ができてしまう恐れがあります。
特に表在性膿皮症の場合、細菌感染が常在菌であるため常在菌に耐性ができると最悪です。
耐性菌の発生を防ぐには
・薬剤感受性試験を必ず行う
・外用抗菌療法との併用して行う
・症状が収まってからも、1〜2週間は投与する
・痒くてもステロイドは使用しない
これらのことを守って耐性菌が生まれないように注意しましょう。
【最後に】
今回は表在性膿皮症について説明しました。
この病気は何らかの病気によって皮膚バリアが崩壊したり、免疫力が低下した時に起こる細菌感染症です。
隠れている根源を見つけ、治療を行うことが膿皮症の根本治癒へと繋がります。
【本記事の参考書籍】
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 536p
【他の皮膚疾患に関する記事はこちら】
【病気の個別相談は『オタ福の質問箱』まで】
かかりつけ医がいる飼い主さん限定で個別に相談を受け付けています。
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学生の身分であるため診療行為は行えませんが、主治医の診断や処方された薬の補足説明や助言、オタ福の見解などご説明いたします。
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