オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

小麦が原因⁈ パグ脳炎とは?

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【はじめに】

今回は『パグ脳炎』について説明します。パグ脳炎はパグという名前がついていますが、パグだけの病気ではありません。正式な名前は『壊死性髄膜脳炎』と言います。この病気がパグで初めて観察されたため、このような名前がつきました。では早速説明していこうと思います。

 

【目次】

 

 

【パグ脳炎とは?】

パグ脳炎はパグを始め、シーズー、ペギニーズ、マルチーズ、チワワ、ポメラニアンなど、小型犬で好発する中枢神経系の疾患です。パグでは特に発生が多いため、パグ脳炎なんて言われたりします。

 

【原因とは?】

壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)の原因は完全には明らかになっていません。しかし、自己免疫が原因になっているということは分かっています。つまり、自分で作った免疫細胞や抗体によって、自分の体を攻撃してしまうということです。

 

「詳しい原因←読み飛ばしても大丈夫!」

パグ脳炎を筆頭にそのほかの特発性脳炎では、脳脊髄液(CSF)中にトランスグルタミナーゼ2(TG2)あるいはTG6に対して、IgG自己抗体が存在していることが分かっています。TG6は特に中枢神経系の神経細胞に多く存在しています。

 

人の病気で『グルテン失調症』という病気があります。グルテン失調症とは小麦に含まれるグルテンを構成するタンパク質であるグリアジンに対して抗体が産生される病気です。この抗体を抗グリアジン抗体と言います。この抗グリアジン抗体はTG2やTG3そして、TG6と交差反応を行い、TG6を攻撃します。

※交差反応:抗体が本来狙うべき抗原以外の抗原に結合してしまうこと

TG6を攻撃する抗グリアジン抗体は抗TG6抗体と呼ばれています。人の論文に基づくデータですが、抗TG6抗体の陽性率はグルテン失調症患者の73%です。つまり、グルテン失調症患者の73%が抗TG6抗体を有しているということです。

 

「まとめ←ここから読んで!」

この抗TG6抗体はアストロサイトと呼ばれる神経細胞を攻撃し、脳炎を引き起こすとされています。つまり、

小麦を食べる→体内でグリアジンが増加→抗グリアジン抗体の産生→交差反応により抗TG6抗体が産生→脳内のアストロサイトを攻撃→脳炎になるといった流れです。

パグ脳炎の原因(図解)

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【発症リスクを上げる因子】 

『飼い主さんの喫煙』

飼い主さんの喫煙が発症リスクを上げているかもしれません。脳には血液脳関門といわれる有害物質を脳に入れないための関門があります。これは血管の内皮細胞と先ほど出てきたアストロサイトによって作られています。喫煙はこの血液脳関門を破壊します。そのため、これも先ほど出てきた抗TG6抗体に脳が暴露されやすくなってしまいます。

 

『GFAPの存在』

GFAPとはグリア線維性酸性タンパクのことで、アストロサイトの細胞内に含まれているタンパク質です。アストロサイトが炎症を起こし、破壊されると、アストロサイト内にあったGFAPが脳脊髄液に流れ込んでしまいます。壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)では脳脊髄液中にGFAPが100%の確率で見られ、さらにGFAPが血液脳関門を通り抜け、末梢血にも流入します。GFAPが脳脊髄液中に存在すると必ず、抗GFAP抗体が作られ、免疫複合体となって脳実質に沈着します。これによりⅢ型アレルギーが誘発され、さらに脳炎を悪化させてしまうのです。一部のパグでは正常な状態でもこのGFAPがCSF中で確認されており、遺伝的素因もあることが示唆されています。

GFAPの存在(図解) 

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【パグ脳炎の症状とは】

『好発な犬』

1〜3歳の小ぶりな雌に多いと言われています。発症年齢は生後4ヶ月〜9歳齢と幅が広く、1〜3歳の間がピークです。

 

『症状』

初期症状:てんかん発作や運動失調、視覚障害

末期症状:意識レベル低下、旋回運動、斜頸、昏睡、摂食障害、遊泳運動

最終的には重積発作、誤嚥によって死んでしまいます。パグ脳炎は初期では大脳皮質の壊死・軟化が起こるため、中枢神経系の症状が出ます。これらの中枢神経系症状は急速に進行していきます。一部の症例では発見から1〜数日で亡くなるケースもあり、注意が必要です。

 

【パグ脳炎の診断方法】

確定診断を行うには死後の病理検査しかないですが、生前検査で行える仮診断としてMRIと脳脊髄液検査があります。

『MRI』

特徴的な所見として

初期

・大脳皮質でT2高信号領域

・ガドリニウム造影T1強調像で病変部が低信号・周辺部が高信号

末期

・T2高信号領域の拡大

・T1低信号領域の拡大と周辺部の高信号領域の消失

・大脳白質や小脳、脳幹、脊髄には病変が見られない 

これらの所見は大脳皮質の炎症や脳実質の脱落・萎縮による脳室の拡張などを表しています。ちなみにT1強調像やT2強調像といったものをまとめた図が下のようになります。

MRI強調像での組織の見え方(下表)

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 MRIのシグナルパターン(図解)

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『脳脊髄液検査(CSF)』

脳脊髄液は炎症やアストロサイトの破壊によって以下のような所見が見られます。

・白血球の増加

・タンパク量の増加

・抗GFAP抗体の上昇

です。

 

『病理組織学的検査』

これは死後の剖検で行う検査です。大脳皮質の広範囲の壊死や脱落が見られます。病理診断名は慢性進行性非化膿性脳炎と言います。

 

【治し方】

パグ脳炎の治し方と書きましたが、壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)は根治が不可能な病気です。早期に発見し、なるべく初期段階で治療を行うことで、症状に進行を抑えようとする治療戦略しかありません。 

『免疫抑制剤』

プレドニゾロン

パグ脳炎は自己免疫疾患による炎症が原因と言われているので、①免疫を抑制をかけること、②炎症を抑えること、これら二つの目的にステロイド薬を使います。

 

シタラビン

シタラビンは脂溶性が高く、脳や脊髄などの中枢神経移行性が高い抗がん剤です。これも免疫細胞を減らすために使用します。副作用として骨髄抑制があるので注意が必要です。

 

シクロスポリンA

これは免疫抑制剤で、カルシニューリン阻害剤の一つです。T細胞の活性化を抑えることで、免疫を抑制します。副作用は歯肉増生と多毛です。

 

 

レフルノミド

リウマチの治療で有名な薬です。免疫抑制を行います。副作用として間質性肺炎や肝障害があります。

 

『抗てんかん薬』

ブトルファノール

てんかんを抑える薬です。てんかんが頻発すると脳に二次的なダメージを与えてしまうため、これを抑えます。副作用として肝障害の可能性があるので、モニタリングが必要です。

 

ゾニサミド

最近主流になってきている抗てんかん薬です。副作用が少なく、肝障害を起こさないため汎用性が高いです。しかし、ブトルファノールよりやや高価です。

 

臭化カリウム

ブトルファノールやゾニサミドの補助として使われます。

 

【さいごに】

今回はパグ脳炎について説明しました。パグ脳炎は予後が悪く、初期症状を見抜けなかった場合、数日で死亡する可能性があります。一方で、初期症状を見つけ、しっかりとコントロールした場合、数年以上を生きることもできます。積極的な治療が功を奏するということでしょう。