オタ福の語り部屋

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犬のアトピー、犬アトピー性皮膚炎とは?

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【はじめに】

今回は『犬のアトピー性皮膚炎』について説明します。犬アトピー性皮膚炎はとてもよく見られる疾患です。教科書通り、アトピー性皮膚炎と診断するためには2~3ヶ月あるいはそれ以上の期間がかかります。実際の現場では、痒がる犬を見ているのは辛いので、感染症などの除去診断を行いつつ、治療を進めていくのがセオリーです。今回はそんな犬アトピー性皮膚炎について説明していきます。

 

【目次】

 

 

【病因:アトピーってどんな病気】

皮膚とは非常に優れた器官?臓器?です。というのも、皮膚の役割は簡単に網羅すると

皮膚の役割

・知覚

・水分の保持

・微生物からのバリア

・免疫調節

・体温調節

・体の物理的保護

などなど、たくさんあります。アトピー性皮膚炎になっている犬ではこの皮膚のバリア機能が破綻してしまっていることがほとんどです。皮膚のバリア機能が破綻すると、表皮の免疫を担うランゲルハンス細胞への抗原曝露の回数が増え、過剰な免疫反応を表皮で起こします。ランゲルハンス細胞はリンパ節で抗原提示を行い、Th2細胞を活性化させます。TH2細胞はIL-5を分泌し、好酸球の分化・成熟を誘導します。また、活性化したTh2細胞はIL-4やIL-13を分泌し、B細胞へ働きかけ、IgEを作る形質細胞への分化を誘導します。作られたIgEは結合組織などに存在する肥満細胞に結合し、脱顆粒を誘導します。

 

脱顆粒によって出てきた炎症性メディエーターは

・痒みの増強:ヒスタミンが痒み神経であるc線維に結合し、脳へ痒みを伝達する

・ケモカイン(IL-4、IL-13、IL-31)の放出:表皮へのリンパ球・好酸球の遊走

・血管拡張:ヒスタミンやプロスタグランジンが関与

・浮腫:ヒスタミンやプロスタグランジンが関与

・気管支収縮:ヒスタミン1が関与

などを引き起こします。皮膚バリアの破綻→抗原曝露→痒みの増強→さらに皮膚バリアの破綻→さらに抗原曝露。これらの繰り返しのより、アトピー性皮膚炎は慢性化していきます。

 

【臨床徴候】

『好発年齢』

好発年齢は1歳未満〜3歳と言われています。(約70%)

 

『好発な犬種とは?』

・ウェスティ

・柴犬

・シーズー

・秋田犬

・ラブラドール・レトリバー

などです。遺伝的素因が関与していると言われています。

 

【原因】

アトピー性皮膚炎は季節性アレルゲンと非季節性アレルゲンの2つがあります。

『①季節アレルゲン』

花粉や草や木などです。日本スギが有名です。春から秋にかけて症状が悪化し、冬に落ち着くといった場合は季節性アレルゲンの可能性を疑うべきでしょう。

 

『②非季節性アレルゲン』

節足動物では

・ヤケヒョウヒダニ

・コナヒョウヒダニ

の死骸や糞がアレルゲンになります。この二つはハウスダイトマイトと呼ばれています。

カビでは

・アスペルギルス:環境中にどこにでも存在

・アルテリナリア:植物に多く存在

 

食物では牛肉、豚肉、卵白、牛乳など多くのものがアレルゲンになりえます。

 

【アトピーの好発部位】

場所は結構大事です。なぜなら、食物アレルギーなどの食べ物を摂取して起こるアレルギーと大まかなの鑑別ができるためです。

アトピーができやすい場所

・顔面:眼周囲や口周り、顎など

・耳:外耳道、耳介

・頸部、腋窩、鼠径部、腹部

・四肢、手根部

など、背側にできることもありますが、一般的には背部には病変は見られないのが特徴と考えて良いでしょう。 

 アトピーができやすい場所(図解)

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【症状】

まずは痒みが出てきます。痒みにより、こすりつけたり、舐めたり、掻いたりします。同時に赤みが増し、紅斑を呈します。その他、毛が抜けたり、皮膚の苔癬化、丘疹が見られます。 アトピー性皮膚炎では炎症性細胞浸潤に伴い、強い掻痒感と浮腫が見られるため、表皮バリアが破綻しています。表皮バリアが崩壊すると表皮にいる常在菌による併発疾患が増加します。

『アトピーで多い併発疾患』

・脂漏症

脂漏症はマラセチアによる感染で起きます。普段は皮膚の脂腺から分泌された脂を食べて生活している表皮常在菌の一つです。このマラセチア属菌はプロテアーゼやリパーゼ、ホスホリパーゼなどのタンパク分解酵素を産生することで、表皮のタンパク質や脂質を分解し、炎症を引き起こします。フケの増加や毛のベタつきが顕著に見られます。

 

・慢性持続性膿皮症

膿皮症はStaphylococcus psedointermediusが産生する毒素によって起こる病気です。これも表皮の湿潤環境や正常細菌叢の変化など、いかにもアトピーに続発しそうな環境の変化が原因で起こります。丘疹や膿疱、表皮小環などの症状を示します。

 

そのほかの併発疾患は結膜炎や慢性再発性外耳炎などマラセチアやブドウ球菌による続発性の皮膚疾患が、約50%を占めます。

 

【検査法】

アトピー性皮膚炎はセオリー通りの検査を行うと2ヶ月以上かかります。ですが、ほとんどの臨床現場では、見切り発車のように検査を行いつつ治療を始めていくでしょう。

 

『教科書通りの診断ストラテジーとしては』

犬アトピー性皮膚炎を疑う病歴と症状が見られた場合まず、感染症の除去が必要です。感染症とは先ほど説明した、膿皮症、マラセチア皮膚炎に加え、寄生虫などの感染です。また、感染症とアトピー性皮膚炎が併発している場合でも、感染症を優先して治療していくため、どっちにしろ大切な鑑別です。次、感染症を除去できたら、食物アレルギーがないかをチェックします。除去食を用いて、食物アレルギーの除去を行います。なんと、ここまでで3ヶ月近くかかっています(笑)まだ、痒みが続くそんな場合にようやくアトピー性皮膚炎を疑うことができます。ほとんどの場合、現場では細菌感染の治療と除去食を同時に進めていきます。

 

『Favrot 2010の定義』

これは犬のアトピー性皮膚炎の臨床診断項目をピックアップし、該当するもの数で、アトピー性皮膚炎かどうかを診断していくというものです。

 

Favrot 2010の定義

・3歳以下で発症←アトピーは若齢発症

・生活のほとんどを室内で過ごす←ダニの可能性

・グルココルチコイドによって、軽減する痒みがある←ステロイドが効く

・慢性または再発性の酵母感染がある←マラセチアの可能性

・前肢に皮膚病変がある←アトピーに特徴的な病変部位

・耳介に皮膚病変がある←アトピーに特徴的な病変部位

・耳辺縁に皮膚病変がない←アトピーに特徴的な病変部位

・背部−腰部に皮膚病変がない←アトピーに特徴的な病変部位

 

上記の項目で5つ該当する場合

→感度(アトピー患者がこの症状を示す可能性):85%

→特異度(この症状を示す患者がアトピーである可能性):79%

 

上記の項目で6つ該当した場合

→感度:58%

→特異度:89%

 

6つ該当した場合、感度が低下しまうので、アトピー患者を見落としてしまう可能性があるのは注意していただきたいです。次にアトピー性皮膚炎の原因物質を示す検査に移ります。

 

『皮内反応検査』

最近はあまり行われない試験になりますが、直接、動物に考えられるアレルゲンを投与します。コントロールとして一つはヒスタミンを投与します。一時的に浮腫が起きれば、陽性反応を示したと考えていいでしょう。

 

『血清抗原特異的IgE検査』

最近はこっちが主流です。特徴を説明していきます。

血清抗原特異的IgE検査の特徴

①血清で診断が可能である

皮内反応検査が直接動物に接種するのに対し、この検査系は血清での検査が可能です。皮内反応検査のように動物に直接アレルゲンを投与すると、やはり動物への侵襲度も高くなります。血清でできるというのは非常に魅力的なメリットです。

 

②IgEだけを狙ってみる

抗原(アレルゲン)に対し、反応する免疫グロブリンはIgEだけでなくIgGも反応します。犬アトピー性皮膚炎の診断ではIgEの関与が認められるかどうかが診断の大きなポイントになるので、検査としてはIgEがみたいです。よって抗IgE抗体をさらにくっつけることで、IgEのみを検出できるようにしています。

 

③皮内反応検査と一致

皮内反応検査と検査結果が一致するため、ますます動物の体を用いた侵襲度の高い検査を選択する必要がなくなってきます。

 

④ステロイドの影響を受けにくい

IgEは形質細胞というBリンパ球が活性化したものが産生します。形質細胞は骨髄に移動し、常にIgEを作り続けるため、ステロイドの影響を受けにくいです。

アトピー性皮膚炎を発症している犬ではこの検査を受ける患者は痒い、アトピーの可能性大、でも原因物質は何か分かってないといった状況の患者です。そのため、ほとんどの患者でステロイドが処方されていることがほとんどです。その一方で検査のためにステロイドの処方を中断するのは非常に難しいです。この検査ではステロイド投薬中の患者でも精度を保ったまま検査できるという点でメリットがあります。

 

【治療法】

『アレルゲンの回避を行う』

IgE検査で分かったアレルゲンを取り除きます。ダニやノミ、花粉、草、食物など。そして、破綻している皮膚バリアの再生を目指します。抗菌薬入りの保湿クリームやシャンプーで表皮を清潔に保ち、細菌感染の治療も行なっていきます。特に膿皮症とマラセチ皮膚炎はアトピーの50%近くで発症が認められているため、積極的に行なっていくべきです。

原因物質を取り除こう(図解)

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『対症療法(痒みのコントロール)』

細菌感染を対処していきつつ、痒みを抑える治療を行います。

①抗ヒスタミン薬

H1ブロッカーのジフェンヒドラミン(レスタミン®️)やヒドロキシジン(アタラックス®️)、フェキソフェナジン(アレグラ®️)などがあります。しかし、デメリットがたくさんある。一つに、抗ヒスタミン薬はヒスタミン(肥満細胞の脱顆粒によって出る炎症性メディエーター)が作用することを妨害する薬であり、予防としてはやや有効ではありますが、すでに発症しているアトピー性皮膚炎には効きにくいです。

 

②ステロイド薬

ステロイド薬(プレドニゾロン)はアトピー性皮膚炎では『即効、安価、効果的』の三拍子が揃っています。また、抗原提示、リンパ球の遊走、炎症反応、浮腫が抑えられるため、非常に効果的でメリットは多いです。一方で、デメリットがあることも忘れてはいけません。ステロイド薬のデメリットは『医原性クッシング症候群』の可能性です。外因性のステロイドに暴露された動物は副腎皮質ホルモンを自分で作ることをやめてしまいます。そして、ステロイド薬を切った際に大きなリバウンドが生じて発症します。

 

 

『免疫調節療法』

①シクロスポリン(アトピカ®️)

免疫抑制剤(シクロスポリン)を使用してT細胞の活性化を抑えようとする方法です。シクロスポリン(アトピカ®️)はカルシニューリン阻害剤と呼ばれています。一般的にステロイド薬で効果を示さない患者に適応します。

カルシニューリンとは細胞内シグナル伝達を行う物質で、T細胞の受容体が活性化の指令を受けた時にカルシニューリンは活性化し、NF-AT(活性化T細胞核内因子)を核内に移動させ、IL-2の発現を誘導します。IL-2はヘルパーT細胞を活性化させ、細胞障害性T細胞やNK細胞の活性化を手助けします。このカルシニューリンを阻害することで、T細胞は活性化することができなくなり、抗原提示を正常に行えなくなります。そうすることで細胞性免疫と液性免両方のカスケードをブロックし、アトピーの原因となる肥満細胞や好酸球の活性化を抑制します。

 

②INF-γ(インタードッグ®️)

アトピー性皮膚炎はTh2サイトカイン優位の免疫病態が関連しています。INF-γはTh2をTH1に変換することで、IgEの産生を抑え、IgGの産生を優位にします。そうすることで、アトピー性皮膚炎を抑えようとします。

 

『減感作療法』

血清抗原特異的IgE検査で分かった原因物質を少量ずつ体内に投与していき、免疫寛容状態を作ろうとする治療法です。犬での有効率は50〜80%です、

 

『分子標的薬』

最近、主流になってきている分子標的薬のオクラシチニブです。オクラシチニブ(アポキル®️)は別名:JAK阻害剤と言われています。JAKとは細胞質内チロシンキナーゼと呼ばれるリン酸化をしシグナル伝達に関与している物質で、細胞質内に存在します。オクラシチニブはJAK1を阻害することでIL-4やIL-13、IL-31のシグナル伝達を遮断します。IL-4やIL-13は炎症に関与しているサイトカインで、IL-31は痒みに関与しているサイトカインであり、これらをピンポイントで遮断するため、オクラシチニブは効果はステロイド薬並みにありますが、副作用がほとんどないです。

 

【さいごに】

アトピー性皮膚炎は根治することは難しい病気です。しかし、正しく病態を理解し、アレルゲンの除去や投薬によって症状をコントロールしていくことで、動物たちのQOLは著しく向上します。