オタ福の語り部屋

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大型犬は発症率が高い、『犬の骨肉腫』とは?

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【はじめに】

今回は『骨肉腫』について説明していきます。『肉腫』とは英語では『sarcoma』といい、病理学的な表現で『“悪性”の非上皮性腫瘍』を表しています。『骨肉腫』は『骨』+『肉腫』でできた言葉で、骨の悪性腫瘍という意味です。後でもお話ししますが、骨肉腫は大型犬で多いです。アメリカやヨーロッパのような大型犬の飼育数が多い国ではたくさんのデータが上がっています。一方で、小型犬が多い日本では骨肉腫はあまり馴染みのない病気かもしれませんね。

今回は海外でたくさん得られた情報を元に、骨肉腫の統計や症状、検査法、治療法について話して行きたいと思います。

 

【目次】

 

 

【統計】骨肉腫は報告数が多い

骨肉腫は骨格系に発生する悪性腫瘍として85%とも言われています。それゆえに骨肉腫の統計はたくさん取られています。アメリカの文献で報告されている骨肉腫の危険因子を挙げていきます。

『①犬の大きさ』

骨肉腫になった犬、1,462匹の体重別で統計をとったところ

・40kg以上の犬が29%

・15kg以下の犬が5%

でした。この結果から、小〜中型犬は比較的発生頻度は少ないと考えます。

体重別:骨肉腫の発症率(図解)

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『②年齢(できやすい年齢)』

「四肢にできる骨肉腫」

中年齢〜高齢に多く見られます。また、そのピークは7歳齢です。ただ、発生が確認されている年齢は幅が広く、早くて6ヶ月齢です。

「四肢以外にできる骨肉腫」

四肢以外にできる骨肉腫のピークは4〜6歳齢です。

 

『③好発品種(できやすい品種)』

・セント・バーナード

・グレート・デン

・アイリッシュ・セッター

・ドーベルマン

・ロットワイラー

・ジャーマン・シェパード

・ゴールデン・レトリバー

です。基本的に大型犬であることは間違いないでしょう。

 

『④好発部位(できやすい場所)』

「四肢にできた骨肉腫では」

四肢の発生が75%です。特に骨幹端にできやすいのが骨肉腫の特徴です。

 

前脚は肘関節から離れた部分に多いです。すなわち、上腕骨近位(肩関節付近の上腕骨)や橈骨遠位(手首付近の前腕)などです。後脚は膝関節から近い部位に多いです。すなわち、大腿骨遠位(膝よりの太もも)や脛骨近位(膝よりのスネ)などです。

 

骨肉腫ができやすい場所(図解) 

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「四肢以外にできた骨肉腫では」

四肢以外にできた骨肉腫の犬、116匹の統計では

・下顎骨:27%

・上顎骨:22%

・脊椎:15%

・頭蓋骨:14%

・肋骨:10%

・鼻腔・副鼻腔:9%

・骨盤:6%

でした。印象としては顎骨と鼻腔、頭蓋骨で72%を占めているので、四肢以外では頭部に多いかなと思います。

 

四肢以外の発生率(図解)

四肢以外の発生率(図解)

 

Axial skeletal osteosarcomas were evaluated retrospectively in 116 dogs. Thirty‐one tumors occurred in the mandible, 26 in the maxilla, 17 in the spine, 14 in the cranium, 12 in the ribs, 10 in the nasal cavity and paranasal sinuses, and 6 in the pelvis.  引用文献:Canine Axial Skeletal Osteosarcoma A Retrospective Study of 116 Cases (1986 to 1989)

 

 

「体重別でできやすい場所」

四肢以外にできる確率

・40kg以上の犬では5%(←骨肉腫自体ができる確率は29%)

・15kg以下の犬では59%(←骨肉腫自体ができる確率は5%)

です。つまり、大型犬では“四肢”にできやすく小〜中型犬は“四肢以外”にできやすいと言えるでしょう。

 

【原因】なぜ骨が腫瘍化するのか

骨が腫瘍化する原因はたくさんあります。一個ずつ簡単に説明して行きましょう。

『①骨の微小骨折』

・成長期

・骨折時

 成長期や骨折時治療中には骨端軟骨がバキバキと割れながら、活発に新しい細胞を作っていくため骨に小さな傷ができます。この傷を治そうとする時、細胞の分裂は活発になる。この分裂多くなればなるほど、DNAの突然変異の出現率が上昇し、腫瘍化するリスクが上がってしまうのです。

 

『②放射線』

稀ですが、報告はあります。大体3〜4%程度。プルトニウムやラジウムなどの放射性物質の被曝で椎体にわずかの確率ですがが、骨肉腫ができやすくなります。

 

『③腫瘍抑制遺伝子の異常』

腫瘍抑制遺伝子とは腫瘍化するきっかけ(細胞分裂の異常)をいち早く見つけ、そういった原因を取り除くことに関わっている遺伝子のことです。骨肉腫に関連のある腫瘍抑制遺伝子としてRb遺伝子とp53遺伝子があります。骨肉腫では、これら二つの腫瘍抑制遺伝子の突然変異や欠如が多く見られています。特にp53の突然変異はMRD1遺伝子の存在が関与されています。MRD1遺伝子とはP糖蛋白を作る遺伝子です。P糖蛋白は抗がん剤などを細胞の外に追い出す機能を担っているため、抗がん剤が効きにくく、予後が悪いです。

 

『④その他←リスク因子はたくさんある』

・erbB-2/HER-2:これらを作る癌原遺伝子が大量に見られる

・MMPs:蛋白分解基質で転移に関与している

・関与が疑わしい因子:COX-2、VEGF、Ki-67などなど

 

【症状】これが見られたら注意!!

『跛行』

跛行とは片足を引きずるようにして歩くことです。動物だと足を片方だけあげたり、歩くときにうなったりとかこれは腫瘍が骨を破壊して浸潤増殖し、骨膜を押し上げているためです。骨膜は骨の周りを囲むように存在していて、神経が多く分布しています。そのため、腫瘍によって骨膜が圧迫を受けると強烈な痛みが起こります。

痛みがでるメカニズム(図解) 

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『足の腫れ』

大型犬で脚の骨幹の腫れと痛みを示した場合は必ず、骨肉腫を疑うべきです。腫れを見つけるには『触る』のが一番です。特に左右の太さを意識して、触るのがいいでしょう。硬さは中度〜軟性であります。骨だからといって硬いわけではないです。骨肉腫の場合、骨が増殖しているのはもちろんであるのですが、それ以外に血の流れが悪くなることで、むくんでいることが多いです。よって、イメージしているよりちょっと軟らかいという認識を持つべきです。

 

『病的骨折(全体の3%未満?)』

病的骨折とは骨肉腫が増大したために、骨が破壊され、折れてしまうというものです。これはかなりの痛みを伴います。この状態になるまで、動物を放置する場合はほとんどないと願いたいですが…。普通に毎日可愛がって世話していれば、こうなることはないでしょう。

 

【診断】

『X線検査』

X線検査で見るものは破壊:腫瘍が正常な骨を破壊している。増殖:腫瘍化した骨組織の増殖している。この二つが起こっているかをX線で見ます。ただ、これらの病変を早期の段階で見つけるのは難しいです。骨破壊病変ではCaが50%以上減少しなければ見れません。骨増殖病変ではCaが30〜50%以上増加が見られません。

 

骨肉腫に特徴的なX線像として

①サンバースト

軟部組織(筋肉)にまで骨増殖が浸潤し、皮質骨に垂直に放射状の骨増殖が見られます。

②コッドマン三角

腫瘍が骨の最外周である皮質に到達すると、皮質を押し上げるように増殖し、その皮質表面には骨が密に増殖しているため、見られるX線所見です。ただし、コッドマン三角は骨肉腫だけに特徴的な所見ではないので、しっかりと他疾患との鑑別していきましょう。

特徴的なX線検査所見(図解)

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『鑑別診断』

鑑別診断とは骨肉腫以外に疑われる疾患を網羅し、それら除去していくことです。今までの話から、

骨肉腫を疑うべき臨床徴候

・犬種:大型犬

・体重:40kg以上

・症状:跛行、四肢の腫れ

・X線:サンバースト、コッドマン三角

が骨肉腫でよくある所見だという話をしてきました。しかし、これらの所見は骨肉腫に限ったものではないです。(なんか日本語がややこしいけど…笑)

 

骨肉腫以外でも、これらの臨床徴候は見られることがあります。

これらの所見で疑われる疾患を挙げていきます

・他の原発性骨腫瘍:軟骨肉腫、線維肉腫、血管肉腫

・転移性骨腫瘍

・多発性骨髄腫:X線で“パンチアウト”像が特徴的

・骨のリンパ腫

・真菌性骨髄炎:全身性の真菌症による骨病変

があります。特に真菌性骨髄炎はX線所見が骨肉腫と酷似しているため、注意深い鑑別が必要になります。

 

『組織検査(バイオプシー)』

組織検査では全身麻酔下で骨に針をさし、骨髄腔内の病変の一部を採取してくる。そして、その病変組織を病理検査で診断する方法です。

 

「前提条件」

これはバイオプシー全てにおいて言えることではあるが、血液凝固能すなわち、止血できる能力があることが前提条件になります。血液凝固能が低下している状態で、バイオプシーを行うと血が止まらないし、採取した組織に血が混じるしで、大変なことになってしまいます。

 

「注意点」

ここは簡単に説明します。

・骨吸収像が見られる部位から穿刺し、骨髄腔内の病変を採取する

・骨吸収像は2方向のX線写真あるいはCTで見つける

・骨髄腔内病変は角度を変えて、複数(2〜3箇所)採取しておく

・腫瘍の播種、出血、細菌感染を起こさないように十分注意する

以上の点に気をつけながら行うと良いでしょう。

 

ちなみになぜ、骨周囲に増殖している腫瘍ではなく、骨髄腔内を採取してくるべきなのかですが、骨に何か病変ができ、骨膜が刺激されると骨膜は反応性の骨形成を行います。これを骨膜反応という言います。骨膜反応が起き、骨形成が起こっている場所は病理組織学的には非腫瘍性病変であり、診断をつけることができなくなるのです。よって、骨髄腔内にある腫瘍組織を狙って採取しなければならないのです。

 

「診断率」

・腫瘍性病変か否かの鑑別→91.9%

・何の腫瘍なのか、腫瘍の分類→82.3%

※ジャムシィディ骨髄生検針を用いた場合のデータ

※生検の診断率は病理医の熟練度に依存する

 

【治療法:苦渋の決断になる】

『断脚が第一選択』

骨肉腫は悪性の腫瘍であり、血液に乗って、遠隔転移することがほとんどです。腫瘍を体に残さないという意味でも、断脚は必要なことです。とはいえ、簡単に「はい、お願いします」となることはないでしょう。自分の大切なペットの脚を切っていいですよという人はまずいないです。もちろん最終決定は飼い主さんの要望が最優先されるのですが、断脚をする意味についてここでは説明していきたいと思います。

「断脚をしなかった場合の経過」

 骨肉腫がどんどん骨を蝕み、大きくなっていく

腫れがひどくなると、血の巡りが悪くなり、循環障害が起こる

脚はむくみ、どんどん重たくなる

重いものをぶら下げている

骨が食べられ痛みが出る

QOLがかなり低下する

 といった経過を辿ります。飼い主にとって脚を切るのは大変辛いですが、動物にとっては重たくて痛いものがついているよりは楽なのでしょうか、3本脚でも元気に走り回ります。断脚手術を受けた動物の飼い主さんのほとんどが術後の経過に満足しているという報告もあります。やはり、動物のQOLが著しく上昇するためでしょう。

ただし、微小転移が確認される場合は緩和療法の一種と見なされ、骨肉腫の根本的な治療となるのは難しいです。

 

『患肢温存術(切らないという選択)』

基本的には断脚がメインなので、 データが少ないです。よっぽど、飼い主さんが断脚を拒絶した場合にのみ行われます。

患肢温存療法を行うの前提条件として

・骨の病変が骨の長さの50%未満である

・軟部組織(筋肉など)の巻き込みが360度ではない

・硬く明瞭な病変である(浮腫がない)

などがあります。

また、この療法は行える場所も限られています。患肢温存療法が行える場所は一般的に橈骨・尺骨から遠位の骨肉腫、すなわち前腕から先にできた骨肉腫が対象です。それ以外の場所では機能障害が著しく、QOLを下げる要因となるため推奨されません。

 

『四肢以外の骨肉腫』

・顎骨

顎骨の切除を行います。術後の飼い主の満足度は85%と良好。44%の犬で採食困難が見られたとの報告があります。

 

・骨盤

片側骨盤切除を行う。完全切除は困難です。

 

・椎骨(背骨)

切除は非常に困難。神経の圧迫を防ぐために減圧術を行い、その後放射線治療を行いますが、放射線治療は身近な治療法ではないです。

 

『術後化学療法(有効性が証明されている!!)』

化学療法とは主に抗がん剤のことです。骨肉腫は『断脚+化学療法』の効果が証明されています。次のグラフを見て下さい。

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これは『Journal of veterinary internal medicine』という海外のジャーナルに掲載された論文の図です。

【グラフの説明】

・このグラフはKaplan-Meierグラフというもの

・点線が断脚のみの群(19匹)

・実線が断脚+術後抗がん剤投与の群(19匹)

・横軸が生存期間

・縦軸が19匹中何匹生き残っているかの生存率を示す

グラフを見ての通り、実線で記されている断脚+抗がん剤投与群の方が明らかに生存期間は伸びています。

 

引用文献のFig1Results of statistical analysis indicated that the dogs treated with chemotherapy and amputation lived significantly longer (P = 0.04) than the dogs treated with amputation alone (Fig, 1). 引用文献:Canine osteosarcoma. Treatment by amputation versus amputation and adjuvant chemotherapy using doxorubicin and cisplatin.

 

では、抗がん剤の細かい話に移りましょう。

骨肉腫で有効とされている薬物療法は

・シスプラチン(白金錯体系抗がん剤)

・カルボプラチン(白金錯体系抗がん剤)

・ドキソルビシン(アントラサイクリン系抗がん剤)

・トセラニブ(分子標的薬:c-kit、VEGFなどが標的)

・ピロキシカム(COX-2選択的阻害剤)

などがあります。一般的な抗がん剤療法では異なる系統の抗がん剤を複合して投与するのが効果的と言われています。しかし、骨肉腫では、シスプラチンだけの単剤療法とシスプラチン+ドキソルビシンの多剤併用療法で、単剤と多剤で治療効果にあまり差はないと言われています。

 

【予後】そこにあるのはシビアな現実

骨肉腫は悪性の腫瘍です。断脚した、していないに関係なく、手術前に90%が肺に転移していると言われています。ただ、猫の場合は肺転移は少ないです。そして、勘のいい人はもう気づいたかもしれないですが、先ほど載せた論文のグラフを見て下さい。抗がん剤投与に関係なく50%以上は1年程度で亡くなってしまっています。そうである、骨肉腫の生存率は断脚のみでは約4〜6ヶ月。肺転移が見られた場合は2.5〜4ヶ月なのです。

 

肺転移の見つけ方

3方向からのX線撮影:大きさが直径6〜8mmになるまで見つけられない

CT・MRI・PET/CT:より小さい結節でも見つけられ、有効性がある

 

【さいごに】

今回は骨肉腫について説明しました。四肢の腫れや歩き方の異常など、普段可愛がって世話をしていれば気づくことができます。今回の記事では骨肉腫になりやすい条件、臨床徴候についてもまとめています。ぜひ、早期発見ができるように参考にしてもらえたらと思います。