【はじめに】
今回は『腎臓の生理学』について説明します。
今回は生理学といってちょっと病気とは話が違います。
生理学とは正常の働きを学ぶ学問です。
こんなもんはもう分かってるよって人は『慢性腎臓病』へ飛んで下さい。
ところで、
慢性腎臓病は高齢の猫でよく見かける疾患である。もちろん犬でも見られる病気です。
慢性腎臓病を理解する上で、一番大切なのは『腎臓』という臓器がどのよう役割を担っているかをまず知る必要があります。
今回のブログは次回の慢性腎臓病を話をするために最低限知っておいてほしい腎機能を書いています。
生理学は基礎的な学問であるため、イメージが浮かびにくいと思います。
今回は図を多めにして、説明しているのでなんとなく分かってもらえるのではないか思います。正常を理解した上で、慢性腎臓病の話へ移りましょう!!
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【目次】
【腎臓の生理学】 簡単に説明!腎臓の役割とは?
腎臓は多くの機能を持っています。全てを説明したいところですが、それをやるとかなりの分量になってしまうので、割愛させてもらいます。今回は慢性腎臓病を知る上で必要な機能に焦点を絞ってお話ししたいと思います。
『老廃物の排泄 腎臓ではBUN・Creを排泄する』
BUN、Creというものを知っていますか?
腎臓の疾患では必ずといって耳にする言葉です。
「BUNとは」
BUNについて簡単に説明します。
BUNとは和名は尿素窒素と言います。
動物の体内ではタンパク質を摂取すると、消化・吸収の過程でアンモニアという物質が産生されます。
アンモニアは血液中に溶けて肝臓へ運ばれます。
アンモニアは体内に多く存在すると毒性があるので、尿中へ排出するために肝臓が持つ『尿素回路』という回路で、尿素に変換されます。
尿素は通常、腎臓を通過し、尿中に含まれた状態で排泄される。
Creとは
Creとはクレアチニンといい、筋肉を動かす時にクレアチンリン酸から出る代謝産物です。
休息時、多くのATP(エネルギー源)が筋肉内に存在している時
クレアチン + ATP → クレアチンリン酸 + ADP
この時、クレアチンキナーゼ(CK)が酵素として働きます。
運動時、ATPが必要になった時
クレアチンリン酸 + ADP → クレアチニン + ATP
こうすることでATPの欠乏を防ぎます。
そしてクレアチニンは血中に取り込まれ、腎臓で尿中に排泄されます。
つまり、Creは筋肉に多く存在しています!!
というなので、筋肉量の多い犬種によっては正常でも高値を示す犬もいます。
正常でもCreが高い犬種
・グレイハウンド
・グレートピレニーズ
また、Cre(クレアチニン)の最大の特徴は腎臓での再吸収を受けないこと!!
です。
再吸収を受けないということは糸球体濾過能を比較的忠実に再現しており、良い指標となるのです。
Cre(クレアチニン)とは(図解)
Cre(クレアチニン)が上昇する時
『電解質の調節』
腎臓で重要な電解質とは水素イオン(H+)、重炭酸イオン(HCO3-)ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロロ(Cl)、カルシウム(Ca)、リン(P)のことを言います。これらは腎臓で緻密に調節されており、微量ながら非常に需要な役割を持っています。
ただ、具体的な変換の機序を説明すれば、生化学の理解が前提になるため割愛します。ここではあくまでも慢性腎不全に繋がる話を中心にしていきます。
「①H+(水素イオン)とHCO3-(重炭酸イオン)」
この2つは血液のpHを保つ役割をしている。これを血液の『酸-塩基平衡』といいます。
【役割】
・H+:増えると血液は酸性に傾く
・HCO3-:増えるとアルカリ性に傾く
といった具合です。
腎臓では血液中のH+とHCO3-の濃度をバランス保つために
尿と一緒に排泄したり、尿から血液にそれらを取り戻したりしています。
血液が酸性に傾き、それにより何か症状が出ている場合はアシドーシスといい、
逆にアルカリ性に傾き、何らかの症状が出ている場合をアルカローシスといいます。
腎臓では重炭酸イオン(HCO3-)の再吸収を行なっています。
H+とHCO3-の役割(図解)
「②Na・K・Cl」
これもH+とHCO3-の話と同様に血液中のこれらのバランスを保つために腎臓で調節を行なっています。
【役割】
・Na+:浸透圧の維持、水分量の調整に関与
・K+:神経伝達、筋肉や心臓の収縮に関与
・Cl-:Na+やHCO3-とのバランス、胃酸の分泌に関与
ミネラル成分としてのNaの再吸収は主に近位尿細管で行なっており、アンジオテンシンⅡによって再吸収が促進されます。
尿に含まれるKやClは血液中のNaと交換して血液に再吸収されることがほとんどです。ミネラルの移動はNaが中心となっています。
「③Ca(カルシウム)の再吸収とP(リン)の排泄」
腎臓ではカルシウムの再吸収とリンの排泄、ビタミンDの活性化(後述する)を行います。
【役割】
・Ca:神経伝達、筋肉収縮、骨や歯を作る、血液凝固に関与
・P:DNAを作る、リン酸化に関与
活性化したビタミンDは腸管や尿細管からのCaの吸収を促進するのに必要です。
腎臓では尿中に出て行ったCaを再吸収することで血中Ca濃度を保っています。
そしてもう1つがPの排泄です。なぜ、CaとPを同項で説明しているかというと、これら2つは血液中で互いにバランスを取り合っているためです。つまり、Caが増えれば、Pが減る。Caが減れば、Pが増える。
お互いに反作用的な動態をとり、
血中濃度が『 Ca × P= 70mg/dL 』になるように保っているのです。
『水分量の調節 アルドステロンとバソプレシン』
Naは浸透圧(水分を血管内に引っ張る力)を強める作用があるため、尿の水分量調節の大部分を担う集合管においても尿と血液を行き来します。
この時はアルドステロンというホルモンによって再吸収が促進されます。
そのほか、下垂体後葉から分泌されるバソプレッシンという抗利尿ホルモンによっても水が尿から再吸収されます。
『ホルモンの生成』
「レニンの分泌」
役割としてレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)というシステムの最初を担っています。
【RAASの役割】
・Naの再吸収を利用し、血液の水分量を増やす
・血管を収縮させる
・飲水中枢を刺激し、水を飲ませる
これらの作用により、血圧をあげるのが目的です。
遠位尿細管にある緻密斑と呼ばれる細胞群には尿細管(腎臓を出るまでの間、尿が流れている管)を流れている尿のNaCl濃度を感知し、輸入細動脈(腎臓の糸球体に流れている動脈)にある傍糸球体細胞とい細胞からレニンを分泌します。
RAASの役割(図解)
「エリスロポエチンの産生」
腎臓の間質にエリスロポエチン産生細胞が存在します。
エリスロポエチンは造血に大きく関与するホルモンです。
腎尿細管・間質細胞の酸素分圧の変化をキャッチし、赤血球を増やすべきかを検討し、必要に応じて骨髄内の前赤芽球系造血幹細胞に分化・増殖を促します。
エリスロポエチンの役割(図解)
「ビタミンD3の活性化」
ホルモンとは少々異なりますが、腎臓ではビタミンD3の活性化を行なっています。
活性化したビタミンD3の役割
・腎臓でのCaの再吸収を促進する
・腸管でのCaの吸収を促進する
・骨へのカルシウムの沈着を促進する(骨を丈夫にする)
・上皮小体ホルモン(PTH:パラソルモン)(血中のCa↑、P↓を行うホルモン)の産生・分泌の抑制を行う
PTH(パラソルモン)とは血中Ca濃度が低下すると、上皮小体から分泌されるホルモンです。パラソルモンは骨からCaを取ってきて、血液中のCa濃度を保とうとする作用があります。慢性腎臓病の末期症状で必要になるので、ぜひ覚えていて下さい。
これらはCaの血中濃度に大きく関与する大切な作用です。
活性化ビタミンD3の作用(図解)
【さいごに】
今回は腎臓の正常な働きを中心に説明しました。
病気を知る上で正常を知ることはとても大切なことです。
また、覚えていて欲しいのは腎臓の役割はこれだけではないということです。
あくまで、次回の『慢性腎臓病』の話をする上で知っていてほしいことをピックアップして書いたので、多少割愛していることも忘れないで下さい。
動物の体は非常に高尚で洗練されており、奥が深いと思います。
ちゃんと一つ一つの臓器、そして細胞に役割があって面白いですよね(笑)
生理学の理解は病気の理解に直結するため、また別の臓器でもこういった生理学のことを書いていけたらと思います。
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