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触るな危険!!皮膚の『肥満細胞腫』とは?

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肥満細胞腫のアイキャッチ画像

【はじめに】

今回は『肥満細胞腫』について説明します。肥満細胞腫は皮膚にできる腫瘍で最も多いと言われています。皮膚に関する病気で来院される飼い主さんは非常に多いです。なぜなら、1番目につきやすいからです。そして皮膚の腫瘍性疾患の中でも一番多いのが肥満細胞腫です。肥満細胞腫は外見が非常に特徴的です。

また、3段階あるいは2段階にグレード分けされており、なりやすい犬種もある程度わかっています。肥満細胞腫というものが一体どういうものなのか、そして腫瘍を見つけた時の注意点、検査方法、治療をお話ししていきたいと思います。

 

【目次】

 

 

【概要:肥満細胞腫の統計】

『犬の皮膚腫瘍で最も多い』

犬の皮膚腫瘍では最も多い腫瘍であり、皮膚腫瘍の16~21%が肥満細胞腫と言われています。また、猫でも基底細胞腫、線維肉腫についで2番目に多く、皮膚腫瘍の約20%が肥満細胞腫だと言われています。猫では皮膚というよりは脾臓などの内臓にも肥満細胞腫ができることが多いです。

犬猫の皮膚腫瘍の統計データは下記の引用文献などを参照 

引用文献の表①

Studies of the relative incidence of different skin tumours, based on histological examination, have been performed in the 602 United States (Brodey 1970) and the United Kingdom (Bostock 1977). The data shown in Table 1 was compiled over a 3-year period from 1000 surgically excised cutaneous tumours submitted to the Veterinary Research Institute of the Victorian Department of Agriculture by practitioners in the metropolitan area of Melbourne. 出典:SKIN NEOPLASIA IN DOGS

引用文献の表②

A total of 340 cases of cutaneous neoplasia were diagnosed in 340 of 3,564 cats that were examined by biopsy or necropsy during a 41-month period from January I , 1986 through May 31, 1989. Eighteen types of tumor occurred, but four types comprised 77% of the cases. These were basal cell tumor, 89 cases (26%, mean age 10.3); mast cell tumor, 72 cases (21%, mean age 8.6); squamous cell carcinoma, 52 cases (15%, mean age 11.6); and fibrosarcoma, 50 cases (15%, mean age 10.2). 引用文献:Cutaneous Neoplasia in 340 Cats

 

『なりやすい犬種』

肥満細胞腫になりやすい犬種はある程度決まっています。

短頭種
ボクサー、ボストンテリア、イングリッシュ・ブルドッグ、パグ

レトリバー種
ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバー

その他の犬種
コッカースパニエル、シュナウザー、ビーグル、シャーペイ

日本で多く飼育されている犬種として、パグやレトリバーで注意が必要でしょう。

幸いなことにパグなどの短頭腫では肥満細胞腫は低グレードのことが多いです。一方で、シャーペイは比較的悪性度の高い肥満細胞腫であることが多いです。

Increased risk for MCT development was found in spayed females (adjusted odds ratio [OR], 4.11), boxers (adjusted OR, 6.09), Labrador retrievers (adjusted OR, 3.95), pugs (adjusted OR, 3.17), golden retrievers (adjusted OR, 2.12), the mastiff and terrier phylogenetic cluster (adjusted OR, 3.19), and breeds classified as large (adjusted OR, 2.10) or giant (adjusted OR, 5.44). 引用文献:Cutaneous MCTs: associations with spay/neuter status, breed, body size, and phylogenetic cluster.

【病態】肥満細胞腫とはどんな腫瘍なのか?

肥満細胞腫は分子機構がある程度はっきり解明されており、受容体型チロシンキナーゼ(c-kit)が関与しているのではないかと言われています。

『c-kitとは(ここからはただの趣味で書いてます(笑))』

c-kitとは造血幹細胞やメラノサイト、肥満細胞など様々な細胞に発現している受容体であります。

『stem cell factor(ここも趣味なので、飛ばして(笑))』

c-kitのリガンド(受容体を鍵穴としたら、リガンドは鍵のようなもの)はstem cell factor(SCF)です。日本語では『幹細胞因子』と呼ばれています。

 

幹細胞因子の役割
・c-kitの二量体化
・c-kitを活性化し、リン酸化を促す
・増殖、分化、成熟を促す
であり、主にこれら3つの役割を担っています。

 

肥満細胞腫において、c-kitは細胞質に異常な偏在が認められており、これがc-kitの機能を制御不能にしています。

実際に中〜高グレードを示す肥満細胞腫の25~30%はc-kitの遺伝子異常が認められており、SCFを必要としないでKITの活性化が見られます。異常なc-kitをもつことで、先ほどのSCFがする役割を無視して増殖することが可能になるため、腫瘍化すると考えられます。異常なc-kitの出現は再発や転移、そして予後の悪化に直結します。

 

正常なKITの場合(図解)

正常なKITの場合(図解)

 

異常なKITの場合(図解)

異常なKITの場合(図解)

 

【症状】ぽこっとできるから見つけやすい

『どの辺にできやすいか』

さすが、皮膚で最も多い腫瘍なだけあって、統計がしっかり取られており科学の力には感銘を受けるばかりです。もちろん出来やすい場所もある程度わかっています。

 

できやすい場所
・50%→体幹(腹部と背部)と会陰部(股の付け根)
・40%→四肢(前脚と後脚)
・10%→頭と首

ただ、陰嚢、陰茎、会陰部、爪床にできる腫瘍は悪性度が高いので注意が必要です。

 

腫瘍ができやすい場所(図解) 

腫瘍ができやすい場所(図解)

 

『どんなものができるのか』

ほとんどは孤立性で1つの腫瘍がぽこっと出来ていることが多いです。多発性と呼ばれ、ポコポコとたくさん出来ているものは少ないです。多発性は11~14%しかないと言われています。

大きさは大体、直径1~4cm程度。また、見た目は『ドーム状で、表面は赤く、毛は生えていない』こういった腫瘍を見つけた場合に守って欲しいことは絶対に触らないこと!!ただし、見た目にはバリエーションが多く、必ずしもこういった見た目をしているわけではございません。

なぜかというと、肥満細胞腫は肥満細胞の塊であり、肥満細胞はアレルギーや寄生虫に感染した時に出てくる炎症細胞です。

つまり、
肥満細胞腫は炎症成分の塊であるということ。触ると、その炎症成分が大量に出てきて皮膚がただれてしまいます。絶対に触ってはいけません。ちなみに肥満細胞が潰れたことで、皮膚がただれてしまう症状のことを『ダリエ徴候』といいます。

肥満細胞腫の形態学的特徴(図解)

肥満細胞腫の形態学的特徴(図解)

 ダリエ徴候についてはこちらへ↓↓

www.otahuku8.jp

 

『見た目以外の症状とは』

基本的に腫瘍を見つけた時点で病院に連れて行くことがほとんどだと思うので、当事者である犬は元気にしているでしょう。しかし、先ほども述べたように肥満細胞腫は炎症成分の塊です。炎症成分であるヒスタミン、ロイコトリエン、ヘパリンが肥満細胞の外に漏れ出すと、様々な症状が出てきます。

 

具体的な症状
・元気が無くなる
・食欲不振
・吐く
・体重が減ってくる
・胃潰瘍

など。これらは全てヒスタミンが大量に放出されたことで起こる症状です。なので、絶対に触ってはいけないし、見つけたらすぐに病院に連れて行きましょう。

 

【診断:グレード分類?、ステージ分類?】

肥満細胞腫には悪性か良性かを示す組織学的グレード分類と病気がどれほど進行しているかを示すステージ分類をメインに行っていきます。 肥満細胞腫を診断すること自体はそこまで難しいものではないですが、今後の治療方針を立てるためには、これらグレード分類とステージ分類が重要になってきます。

 

『FNA:腫瘤に針刺して吸引』

FNAってどんな検査?
前述した肥満細胞腫の特徴的な外見とFNAによって、肥満細胞腫を診断します。FNAとは体表や体腔内の結節性腫瘤(豆のような塊)に対して、針を刺し、その結節がどういった細胞成分で出来ているのかを調べる検査です。

肥満細胞腫では有用
比較的簡便で、痛みを与えることも少ないため、臨床現場ではよく使われる検査方法です。このFNAの結果で、肥満細胞が大量に確認できれば肥満細胞腫であると診断できます。肥満細胞の確認は細胞質内にある顆粒を染色して、顕微鏡で観察することでできます。染色方法はライトギムザ染色、トルイジンブルー染色が勧められています。まあ、現場よく使われるロマノフスキー染色でも見えない事はないのですが…。

写真は病理像を示す(写真)

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FNAは弱点もある
ただ、注意点としてこのFNAという検査は非常に簡便であり、それゆえに今ひとつ正確度に劣るところがあります。そのため、次にやることは外科的な切除を行えるか判断し、行える場合はそれを病理検査に出して、より正確なグレード分類を行なわなければいけません。

 

『FNAより正確な病理組織検査とは?』

先ほどのFNAとは主に『細胞のみ』を見る検査法であり、病理組織検査とは『細胞とその細胞の配列』を見る検査法です。

つまり、
情報量がFNAと比べて、多く確定診断としての正確性が高いです。

しかし、
欠点としてはほぼほぼ外科手術をしているようなものなので、全身麻酔とそれなりの痛みを伴います。なので、セオリーとしては『腫瘍を疑う→FNAで検査→病理組織検査』となるでしょう。

 

『2つある⁈グレード分類とは?』

肥満細胞腫のグレード分類の仕方はたくさんあるのだが、有名な分類法は2つです。①Patnaik分類と②Kiupel分類がある。これら2つの特徴を話していきます。

「①Patnaik分類」

最も認知度が高く有名な分類法です。この分類法は病理組織検査の悪性度を元にグレードを3つに分けています。

・グレード1(高分化型):30症例中の切除後1500日生存率は83%
・グレード2(中間型):36症例中の切除後1500日生存率は44%
・グレード3(未分化型):17症例中の切除後1500日生存率は6%

このPtanaik分類は3つにグレードを分けていて細分化されることでより詳細なデータが得られることが特徴ですが、問題点もあります。3つあることで、どうしても心理的にグレード2にしたくなる。ある研究ではグレード2と分類されていた症例が実はほとんどがグレード1と同様の挙動を示すといった報告もあります。

こういったこともあり、臨床で重要なのは動物の体調をしっかりと管理し、モニタリングすることで、グレード分類を鵜呑みにするのは危険です。

「②Kiupel分類」

この分類法は最近新しく作られた分類方法で、最大の特徴は『低or高グレードの2グレード』で分類していることです。細胞の形態を重視し、単純化し、明確に数値化された高グレード基準を設けることで、Patnaik分類ようなバラツキを防ごうとしています。

 

みんなグレード2を選びがち
実際に肥満細胞腫の病理組織学的検査を行うと、(悪そうだけどグレード3と言い切れるほど悪くないかもな。だからグレード2かな。)なんて、診断を出してしまいそうになります。病理医は人間なので、そうなることも仕方ありません。こういった現象が世界中で起きたために、次のような分類法が新たにできました。僕の大学では肥満細胞腫の診断書を書くときは2つの分類法で書いています。

例)組織診断:肥満細胞腫(グレード2、高グレード)といった具合に。

 

 

『ステージ分類 グレード分類との違いとは』

グレード分類は『腫瘍の悪性度』を示すものであり、ステージ分類は『腫瘍の進行度』を示すものと考えてもらえたら良いでしょう。 ステージ分類はWHOによって明確に定義されています。

WHOのステージ分類(表)

WHOのステージ分類(表)

 

 【治療法:外科的切除のススメ】

肥満細胞腫の治療法はできた場所と悪性度、進行度で、治療法が異なります。

『外科的切除が可能な場合』

場所的に外科的切除が可能で、単発性の腫瘍である場合、外科的な切除を行います。「マージン」といって腫瘍と正常組織の境界がはっきり見えるように大きく切除する、だいたい腫瘍周囲の正常組織2cmが肥満細胞腫で勧められているマージン確保です。また、皮膚の下にある筋膜まで一緒に切除できれば、なお十分です。

 

『外科的切除が不可能な場合』

十分なマージンを確保できるほどの手術が不可能な場所に肥満細胞腫ができた場合、取れる範囲の腫瘍を外科的に切除し、その後放射線治療で管理していく方法があります。

 

『高グレードあるいは転移巣がある中グレードの場合』

上と同様に手術+放射線治療を続けるますが、遠隔転移のリスクは高いため、予後は悪いです。遠隔転移に対しては抗がん剤を行うのですが、あまり効きづらく、予後が悪いのが現状です。

 

『薬物療法』

肥満細胞腫は抗がん剤が効きにくいです。しかし、グレード3の肥満細胞腫や遠隔転移が認められる症例には薬物療法がしばしば用いられます。通常、薬物療法を行う際はExon8,9,11の変異がないかをc-kit遺伝子検査で調べてから行います。遺伝子変異がない場合は抗がん剤を使用し、変異がある場合は後から紹介する分子標的薬を使用します。

 

「抗がん剤(ビンブラスチン、ロムスチン)」

①ビンブラスチン+プレドニゾロン
古典的な抗がん剤プロトコルで、プレドニゾロンというステロイド薬を併用しているのがポイントです。

【副作用】
・好中球が減ってしまう好中球減少症
・肝臓で代謝され、胆汁とともに腸管を介し排泄されるので、肝臓機能に注意が必要

【ステロイド薬の役割】

肥満細胞腫の細胞質内に糖質コルチコイド受容体があり、糖質コルチコイドと結合すると増殖抑制やアポトーシスにつながります。また炎症や浮腫も抑えられます。

 

②ロムスチン+プレドニゾロン
①のビンブラスチン+プレドニゾロンが効かない時に使用するプロトコルです。

【副作用】 
・好中球減少症、血小板減少症
・肝臓への毒性

「分子標的薬 (イマチニブ、トセラニブ)」

分子標的薬自体の詳しい説明は割愛しますが、簡単に説明すると腫瘍増殖のネックになる分子の一部を狙って攻撃することで、腫瘍を潰す方法です。抗がん剤がビルごと吹っ飛ばす爆弾としたら、分子標的薬はビルにいる悪役幹部をスナイパーで撃ち抜くようなものです。つまり、副作用が少ないです。

 

①イマチニブ
一部の肥満細胞腫でKIT受容体をコードしているc-kit遺伝子、特にExon11の領域の変異が認められることで、KIT受容体は変異を起こしています。変異を起こしているKIT受容体は異常なリン酸化シグナルを出すことで、肥満細胞に増殖を命令しています。この異常なリン酸化をイマチニブが妨害することで、抗腫瘍効果を示しています。副作用も少ないですが、高価であるのがデメリットです。

 

②トセラニブ
トセラニブはイマチニブと異なりKIT以外に血管内皮細胞成長増殖因子受容(VEGFR)にも作用し、血管新生を阻害します。血管新生とは腫瘍が血管を作る作用のことです。腫瘍はものすごいスピードで増殖する代わりに、その分栄養をかなりの量必要になります。そうした時に自分の方に栄養をたくさん送るようにするために血管を作り始めます。この血管新生をブロックすることで腫瘍の栄養供給を絶たせ、成長を遅らせるのです。

 

 治療戦略のフローチャート(図解)

治療戦略のフローチャート(図解)

 

【最後に】

今回は皮膚の肥満細胞腫について説明しました。皮膚の肥満細胞腫は皮膚腫瘍で最も好発であり、たくさん研究が進んでいるため話せることが多くて嬉しいです。少しでも肥満細胞腫を理解し、症状、治療法について分かってもらえたらと思います。

 

【関連記事】

『ダリエ徴候について』

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『同じく体表にできやすい腫瘍:脂肪腫』

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