オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

犬の鼻腔内腫瘍

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【はじめに】

今回は『犬の鼻腔内腫瘍』について説明します。なぜ、タイトルを”犬”と限定したかというと、猫でできやすい鼻腔内腫瘍はリンパ腫であり、犬とは異なる腫瘍が好発であるため、分けて話していこうと思いました。鼻腔内腫瘍とは鼻の中にできる腫瘍であり、犬でできやすい腫瘍は主に4つあります。腺癌、扁平上皮癌、軟骨肉腫、線維肉腫が挙げられます。今回は各々の腫瘍別に話をするのではなく、鼻腔内腫瘍ということで包括的な話ができればいいなと考えています。鼻腔内腫瘍は局所浸潤性が強く、死因は転移によるものではなく、原発巣が原因となっている場合がほとんどです。

では、『犬の鼻腔内腫瘍』について話していきましょう!

ちなみに『猫の鼻腔内腫瘍』についてはこちらを参照にして下さい! 

www.otahuku8.jp

 

【目次】

 

 

【概要】

鼻腔内腫瘍で多いのは前述の通り、『腺癌』『扁平上皮癌』『軟骨肉腫』『線維肉腫』です。これらの腫瘍は鼻腔内において、局所浸潤性が強いのが特徴であります。転移も時折みられ、中でも局所リンパ節や肺への転移が多いです。鼻腔内腫瘍の腺癌の約60%で核に癌抑制遺伝子であるp53の蓄積が認められ、それはp53腫瘍抑制蛋白の変異によるものと確認されている。

 

【原因:鼻腔内腫瘍の主な原因って?】

正直なところ、これという明確な原因は分かっていないです。しかし、原因の1つと言われているものが、喫煙や排気ガス、灯油ヒーターによって生じる化学物質です。タバコはあんまり関係ないみたいですが(笑)特に解剖学的構造からその化学物質に暴露されやすい長頭種に多いと言われています。

 

Use of indoor coal or kerosene heaters represented the strongest risk factors, with significant adjusted odds ratios of 4.2 and 2.2 respectively. Environmental tobacco smoke exposure was not a risk factor and was suggestive of a nonsignificant, mildly protective effect at the lower exposure levels. Increasing nasal length was a significant risk factor, and there was effect modification between nasal length and coal or kerosene combustion.  出典:Environmental causes for sinonasal cancers in pet dogs, and their usefulness as sentinels of indoor cancer risk.

 

【症状:鼻腔内腫瘍を疑う症状はこれだ!】

『初期症状』

初期症状としては『くしゃみ』『いびき』『鼻水』などから始まります。鼻の中にできものができてくるので、気道が狭くなり『いびき』が出るのです。

 

『中期症状』

次に『鼻血』が出ます。鼻腔内腫瘍は局所浸潤性が強いため、鼻の正常な部分を破壊しつつ増殖します。そのため、鼻血が出てくるのです。高齢の動物で、片方の鼻から鼻血が見られ、膿汁性の鼻水が見られた場合は鼻腔内腫瘍を強く疑うべきです。さらに病状が進んでくると鼻や目の周りの骨を破壊して増殖してくるため、『外貌の変化』が見られます。腫瘍が篩骨甲介と呼ばれる部位まで浸潤してくると嗅覚がなくなってしまい、食欲が低下してきます。

※篩骨甲介とは…頭蓋骨と鼻を分けている部位で、嗅細胞が存在し、嗅覚を担う部位

 

『末期症状』

最終的には篩骨甲介を突き破り、脳まで浸潤してきます。こうなると、『てんかん発作』や『運動失調』、『痙攣』などの神経症状が見られるようになってきます。しかし、ほとんどの飼い主は鼻血が出た時点で、慌てて連れて来られるため、脳まで浸潤している状態まで放置されていることは稀ですが。

 

『その他の症状』

またまたしかしなのだが、ごく稀に鼻腔後部で腫瘍を作っている犬ではくしゃみや鼻血無しに神経症状が現れることがあります。

 

【診断:どうやって腫瘍の存在を確認するのか】

『まずは症状から当たりをつける』

 前述した症状から、このような症状を見せる子たちに対しては“鼻”か“脳”に異常があるなと考えるのがセオリーです。そして、腫瘍以外の可能性も考慮することを忘れてはいけません。症状からまず僕たちは鼻腔内腫瘍、真菌性鼻炎、細菌性鼻炎、その他の脳疾患を疑います。これらの中から、1つ1つ除去して行くのです。

 

『画像診断から病変を見つける』

鼻腔内腫瘍は鼻の中や頭蓋骨の中にできる腫瘍であるため、肉眼で見ることはほぼ不可能です。そこで使われるのが『レントゲン』や『CT』です。CT検査は全身麻酔をかけて、行うため、麻酔のリスクを考慮しなければいけません。基本的に頭部のCTやレントゲン像は左右対称が原則となっており、それを崩すような陰影がみられた場合、それが病変が隠れていると考えます。レントゲンやCTでみられる映像としては篩骨や鼻腔周囲の骨破壊、軟部組織陰影が挙げられます。ただし、画像診断によってみられる病変の像はそれ自体が腫瘍であること確定する所見にはなりません。腫瘍を確定するためには『鼻腔内の生検』を行わなければなりません。

鼻腔内の生検は特殊でたくさん話すことがあるため、項目を分けて書こうと思います。

 

『みんな大好き血液検査』

鼻腔内腫瘍に関して、血液検査を行う意義はあまりないです。おそらく、炎症マーカーであるCRPの上昇や、腫瘍随伴症候群と言われている腫瘍随伴性赤血球増加症、高カルシウム血症などが診断される程度でしょう。

 

『中枢神経疾患でお決まりの脳脊髄液』

中枢神経疾患ではやっておきたい検査に脳脊髄液の検査があります。これによって、腫瘍性病変なのか炎症性病変なのかが、鑑別しやすくなるのです。これも全身麻酔下で行うので、注意が必要です。 

 

【生検:鼻腔内の生検。これが確定診断になる!】

『はじめに生検とは?』

生検とは腫瘍の一部を摘み取ったり、針を刺したりして、顕微鏡で観察する検査方法のことです。この検査方法では腫瘍そのものを見るため、腫瘍であることを確定する方法にもなります。注意点として、鼻の生検は出血が多く出ることで有名なため、必ず『血液凝固検査』という出血時に止血する力がその子にあるかを確認する検査をしておく必要があります。方法は大きく分けて2つあります。

 

『生検のやり方』

「①鼻咽頭からの生検」

すなわち、口から内視鏡を入れて、喉元から鼻へアプローチする方法です。病変部近くまで、内視鏡を持ってきたら鉗子で摘み取ります。あるいはサイトブラシというブラシで、擦り取ります。 多くの文献ではサイトブラシによる生検は腫瘍の表層しか取れないことが多く、誤診の原因となるためオススメされていません。

 

「②外鼻孔からの生検」

これは鼻の穴から直接ストローを挿入し、吸引してくる方法です。診断的中率は97%と高く、非常に有用性の高い検査方法です。脳の損傷を避けるために、どこまで挿すかを予め決めておくことが必要です。

 

『生検の評価方法』

腫瘍と炎症の鑑別ができるのですが、具体的な鑑別方法は鼻腔内腫瘍の話から逸脱し、めっちゃ長くなるので、割愛させてもらいます。つまり、生検を行うことによって鼻腔内腫瘍と先ほど述べた鼻炎を鑑別できるのです。

 

【治療法:鼻の中にある腫瘍ってどうやって治すねん】

治療法に関してはQOL向上を目的とした延命治療で行くか、根治を目的としたガチンコ療法で行くかで大きく治療方針が変わってきます。

 

『①QOL向上を目的とした延命治療』

鼻腔内腫瘍では鼻が詰まったり、鼻血が出たりと犬のQOLを下げる要因が多く存在します。根本治療を行わず、これらの要因を取り除いてあげるのもとてもいいチョイスだと僕は思います。

 

『②根治を目的としたガチンコ療法』

根治を目指すためには腫瘍を完全に取り除かなければいけません。ただし、できている場所が場所なだけに外科的に取り除くのは難しいです。外科的に行ったとしても、鼻が大きく欠損しとても可哀相な外貌となるため、僕はいやです。また、骨浸潤がおきている場合は根治が非常に難しくなることも頭に入れておかなければならないです。早期治療を開始し、局所浸潤を抑えることが根治療法のネックとなります。

主な根治療法の方法としては『放射線治療』と『抗がん剤』です。鼻腔内腫瘍については放射線治療が一般的になっています。ただし、放射線治療はみなさんご存知の通り、放射線による障害が起きます。抗がん剤においても同様に副作用が有名です。これらの副作用は動物の体にとって非常に重大な負担となることを覚悟していてほしいです。そして、根治する保証がないことも必ず留意して頂き、治療に臨んでほしいです。

 

【さいごに】

今回は鼻腔内腫瘍の原因、症状、診断方法、治療法について説明しました。僕自身、腫瘍学にとても興味があり、少々細かいところまで書いてしまいました(笑)ただ、これらの知識については知っていて損になることはないはずです。自分の知識を高めることで、治療の意義を理解でき、担当医の力量を判断することもできるようになります。僕自身、『もう獣医に治療方針を任せっぱなしの時代は終わった』と思っています。飼い主側もしっかりと知識を持って、愛犬とともに病気と闘っていってほしいと思います。