【はじめに】
今回は『短頭種気道症候群』について説明します。短頭種を飼われたことがありますか?一度飼うと、ぺちゃ鼻とクリクリお目目の可愛さであなたの心は鷲掴みされること間違い無いです。
え?、短頭種って何ですって?短頭種とはパグやフレブル、キャバリアなどの鼻が短い犬のことを言います。短頭種って何となく陽キャラ?というか、ラテン系っぽい陽気な子達が多く、僕もいつも元気をもらっています(笑)
しかし、その可愛さを有した反面、短頭種は上部呼吸器(鼻、喉頭、気道)が生まれながらにして呼吸しづらく、それにより様々な症状を示すことがあります。今回はそんな短頭種の構造上の特徴を明らかにしていこうと思います。
【目次】
【うちの子は?短頭種の犬種って?】
短頭種とは字の如く”頭(鼻)が短い”犬種です。では、短頭種とは具体的にどの犬種を指すのでしょうか?実は、短頭種は明確に定義されていません。
『一般的に短頭種と言われる犬種とは』
ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、ペキニーズ、パグ、キャバリア、シー・ズー、マルチーズなど
『短頭種の構造』
短頭種の構造的な特徴として
①鼻の穴が小さい
②気管が細い
③軟口蓋が通常の犬よりも長い
④喉頭の強度が弱くペコペコとへこむ
などがあります。この4つの特徴を次に述べていこうと思います。
『まとめ① 短頭種って?』
・短頭種とはパグ、ボストン・テリア、キャバリアなどのことをいう
・短頭種の構造は主に4つの特徴を挙げられる
【短頭種に特徴的な構造って?】
『 ①外鼻孔狭窄』
「概要」
外鼻孔とは”鼻の穴”であり、それが狭窄つまり”狭くなる”ということです。
短頭種の特徴的構造の中で唯一外から見てわかる病変です。通常、鼻の穴はコンマ型になっていますが、外鼻孔狭窄を引き起こしている犬の鼻の穴は直角型になっています。
下に図で示しているので、ぜひ自分のペットの鼻の形を見てみてください。直角型になっている場合は外鼻孔狭窄が起きているかもしれません。
外鼻孔狭窄の見分け方(図解)
「原因」
こうなる原因として、厳密に明らかにはされていませんが長年の品種改良が影響していると考えられています。
「症状」
外鼻孔狭窄が起こると、鼻をつままれているような状態になっているため、息がしづらくなります。症状として、一生懸命呼吸して見えるような『努力性呼吸』が見られるようになります。犬は人間と違い、口呼吸というものが原則としてできません。
お察しの通り、鼻が詰まるというのは犬にとって非常に苦しいものになるのです。努力性呼吸が継続すると、十分に呼吸ができないことによる『呼吸困難』が起こります。呼吸困難が継続されると、胸腔内の圧が極端に低くなります。これにより、場合によっては肺に水が溜まる『肺水腫』になることもあります。肺水腫とは肺胞内に水がたまり、空気の交換ができなくなってしまう病気で命に関わる疾患です 。イメージとしては溺れているような状態だと思って頂ければ非常にわかりやすいかと思います。苦しいですよね?
「外鼻孔狭窄かを確かめる方法」
・鼻の穴が直角になっているかをみる
・鼻の前にティッシュを置いて、呼吸ができているかをチェックする
以上の2つでおおよその確認ができます。
「治療法」
重篤度にもよりますが、一般的には外科的な矯正がオススメされます。術式については執刀する獣医師によって異なるため、詳しくは記述しませんが簡単に述べると、鼻の穴を切開して拡げてあげる手術である。聞く限りでは痛そうですが、外貌の変化も目立つことなく、綺麗に仕上がる印象です。そして何より、息がしやすくなるので、陽キャラ短頭種の子達はより一層元気に走り回ること間違いなしです!
『②気管低形成』
「概要」
気管低形成とは気管が先天的に十分に形成できず、細くなっている状態のことをいいます。下の図で示した感じになります。空気の通り道である気管が細いので、十分呼吸をすることができなくなっています。
気管低形成とは(図解)
「原因」
先天的な形成不全であり、これも品種改良によるものと考えられます。
「症状」
気管が細いということはつまり、空気の通り道が少なく、イメージとしてはストローで呼吸しているようなものです。体に必要な量の空気を吸おうと思えば、それだけ呼吸するための筋肉を動かさなければならなくなります。呼吸筋が疲弊してくると、『吸気困難』に陥るのです。よくはしゃぎ回ったあと、「ハァハァハァ」と息切れしていませんか?あれは頑張って呼吸筋を動かして、肺へ空気を送り込んでいるのです。
「治療法」
治療法としては姑息的なものしかなく、早期の閉塞解除治療を行います。『低形成』というものは生まれつきのものなので、後から気管を拡げてやるなんて事はできません。あまり有効的な治療法が無いのが現状です。
『③軟口蓋過長』
「軟口蓋とは?」
通常、軟口蓋と鼻腔領域と口腔領域を分けているもので、息を吸うときは軟口蓋が下がって口腔を塞ぎます。ご飯を飲み込む時は軟口蓋が上がって鼻道を塞ぎます。
「概要・原因」
短頭種は軟口蓋が長いために吸気時に下がると、そのまま気道側へ吸い込まれ、気道を塞いでしまうのです。これにより、息がしづらくなり、『呼吸困難』を呈する疾患です。吸い込まれた軟口蓋は刺激され、腫れたり、炎症を引き起こします。
「症状」
・息を吸うときにゴロゴロと音が聞こえる
・いびきをする
・呼吸をしづらそうにしており、呼吸が速い
これらの症状が見られた場合、本疾患を疑うべきです。
「治療法」
本疾患は軟口蓋が長いことが原因で起こっている疾患であるため、治療としては軟口蓋を短く切除する外科的治療が勧められます。ただし、治療を行ってもいびきなどが治る可能性は50%程度と言われています。短頭種の呼吸器疾患は軟口蓋過長以外に複数の疾患が絡んでいることが大きく、この手術だけで完治させるのは難しいのです。
『④喉頭虚脱』
「喉頭とは?」
喉頭とは気管の入り口に存在し、軟骨(喉頭蓋軟骨、甲状軟骨、披裂軟骨、輪状軟骨)によって形が保持されています。ここでは誤嚥防止や発声の役割を果たしています。
「概要・原因」
前述した①〜③の疾患により、持続的な気道の陰圧がかかり、喉頭が形を保持できなくなり、潰れてしまう疾患です。
病態の重篤度によってステージ分類がされています。
ステージⅠ:喉頭小嚢の外転する
ステージⅡ:披裂軟骨の楔状突起が内転し、喉頭口腹側を塞ぐ
ステージⅢ:披裂軟骨小角突起の硬度が低下し、内側へ落ち込む
「症状」
息を吸うときに『ヒューヒュー』と高い音がします。喉頭が狭くなっているため、笛のように音が聞こえるのではないかと考えられます。
「治療法」
喉頭の構造物が強度を失うことで、喉頭を塞いでいるので、塞いでいる箇所を外科的に切除し、気道を確保してあげる方法です。
【お家で診断できる短頭種気道症候群のスコア表】
短頭種気道症候群のスコア表というものがあります。
以下の項目に該当するかをお家でも確認できるので、ぜひ活用してみて下さい。
スコア0:呼吸に関しての症状が出ていない
スコア1:軽いいびきや息を頑張って吸っている様子がたまに見られる
スコア2:いびきをして、少し呼吸が速い。また、息を吸いづらそうにする
スコア3:いびきがひどく、呼吸もかなり速い。常に息を吸いづらそうにする
スコア4:舌が青紫色になっている。息していない
【さいごに】
今回は短頭種の気道症候群について説明してみました。短頭種はあの可愛い鼻を手に入れたと同時に、快適な呼吸がしにくい仕様になっています。でも、みんながみんな短頭種気道症候群になっているわけでもありません。個人的には手術で改善できるものが多いため、そこまで重篤な疾患ではないような印象があります。ただ、手術には麻酔が不可欠なため、100%安全というものは存在しませんが。その点だけを留意して頂き、獣医師の診断を聞いてもらえたらと思います。