【はじめに】
今回は前回の「犬の糖尿病」に引き続いて『猫の糖尿病』について話していこうと思います。「え?犬の糖尿病と何が違うの?」そう思われた方はぜひ、前回の『犬の糖尿病』の記事を読んで見てください。猫は”小さな犬”そう表現されていた時代はとうの昔に過ぎています。今回は猫の糖尿病に特化した話ができればなと思います。
【目次】
【猫の糖尿病って何が違うの?】
『猫の糖尿病』
猫の糖尿病はインスリン抵抗性の糖尿病で、人でいう2型糖尿病に近いです。
『インスリン抵抗性の糖尿病になるメカニズム』
肥満やステロイドホルモンによってインスリンがうまく働けなくなる→体は血糖値を下げるためにもっとインスリンを出そうと頑張る→インスリンが出る時、実はアミリンというペプチドホルモンも一緒に出ている。このアミリンがたくさん出ると膵島に※アミロイド沈着が起こる。→アミロイド沈着により、インスリンが出る膵島のβ細胞が破壊されるため糖尿病になる。
※アミロイドとは類デンプンとも呼ばれる異常蛋白の1つで、主に細胞外に沈着することで、細胞を傷つけてしまいます。これがアミロイド沈着です。
『まとめ①』
・猫の糖尿病はインスリン抵抗性糖尿病
・最終的にはβ細胞が壊されてしまうためにインスリンが出なくなる
【糖尿病になる主な原因】
『肥満』
肥満によってインスリンがうまく働けなくなっています。今までは肥満が原因になることが多かったのですが、キャットフードが充実してきたことにより最近は減っている気がします。
『膵炎』
今は膵炎という、膵臓の消化液が自分の膵臓自身を消化してしまうことで起きる病気によって起こりやすくなっています。なぜ膵炎で糖尿病になるかというと、膵炎では消化液によって膵島のβ細胞を破壊してしまうからです。最近はこの膵炎が原因になっていることが多いというのが僕の感覚です。
急性膵炎についてはこちらを参照下さい。
『炭水化物』
そのほかに食べるものが原因となっています。猫は肉食動物であるため、タンパク質をアミノ酸に変えて、アミノ酸をブドウ糖に変える代謝経路が活発であるのに対し、炭水化物を利用するのが苦手なのです。そのため、炭水化物を与えると、血糖値が上がりやすくなってしまうのです。残飯など人間が食べているものを主体にあげてしまうとこういった糖尿病にもなりやすくなってしまうのです。
『遺伝的要因+ストレス』
遺伝的に高血糖を起こしやすい猫がなんらかのストレスなどで、急に血糖値が上がると起きてしまう。
『糖尿病の原因について感じること』
ペットフードの充実と飼い主さんの意識の向上により、猫の糖尿病はかなり減ってきているという印象があります。なので、先ほど膵炎の方が増えてきていると書きましたが、膵炎が増えたのではなく、他の病気になるリスクが減ってきたために相対的に増えたといった表現の方が正しいでしょう。
『まとめ② 糖尿病の主な原因4つ』
①肥満:インスリンが働きにくくなっている
②膵炎:β細胞が破壊されてしまう
③炭水化物:もともと猫は炭水化物を利用する機構が備わってない
④遺伝:ストレスが引き金になる
【猫でよく見られる症状】
主な症状としては犬と重複しています。猫に特徴的に見られる、症状を書いていきます。
『①多飲多尿、多食、体重減少』
犬と同様のメカニズムで起こっているので、『犬の糖尿病【症状】』の項を参考にしてみて下さい。
『②膵炎を基礎疾患に持つ時』
先ほども述べましたが、猫の糖尿病は膵炎により、膵島のβ細胞が破壊されることで起きることが多いです。膵炎を原因とした糖尿病では元気や食欲にムラがあり、嘔吐や軟便などの症状が見られます。
『③猫で多い合併症「末梢神経障害」』
猫で有名な症状の1つで、末梢神経障害があります。末梢神経障害とは手や足などの身体の末端部の神経が障害され、麻痺してしまっている状態のことです。猫では踵を持ち上げることができず、ベターッと足をつけてしまいます。この状態になれば、ジャンプもできず、運動性は低下します。糖尿病が治ると、この症状も改善されるため、何としても糖尿病を治したいものです。
『④糖尿病を放置すると起こる「非ケトン性高浸透圧性昏睡」』
犬ではなりにくいのですが、猫では多い糖尿病の合併症の1つです。慢性の腎不全になった猫で発症しやすいです。簡単にいうならば、『急激な血糖値の上昇+脱水+腎前性腎不全→血漿浸透圧の上昇』1つずつワードを説明していきたいと思います。
「急激な血糖値の上昇」はインスリンが枯渇することで起ります。
「脱水」はたくさんおしっこをすることで起こります。
「腎前性腎不全」とは血液量が減ってしまい、腎臓に血が回らなくなることで起こる腎不全のこと。そして、脱水の延長で、血液量が減っているため起こります。
「血漿浸透圧の上昇」は多飲多尿の説明でも書いていますが、いうならば血管が水を引っ張る力が上がるのです。すると細胞から水分がなくなり、血管内に集まっていきます。細胞は脱水状態になります。脱水に一番弱い臓器は脳です。脳が脱水し、昏睡状態になります。熱中症で意識不明になるのと同じ原理です。非ケトン性高浸透圧性昏睡とはこういう合併症なのです。非常に怖いです。
『まとめ③』
①よく飲み、よく食べ、よくおしっこを出す。体重は減っていく
②膵炎による糖尿病なら、嘔吐や軟便などの消化器症状を呈する。
③猫の糖尿病では踵をつけて、歩いているたら要注意!
④腎不全を併発すると、脳が障害を受け、昏睡状態になる。
【糖尿病の治し方って?】
『食事療法』
猫は肉食動物でタンパク質をよく摂らなければいけません。その反面、炭水化物を利用するのが苦手なので、低炭水化物食を摂らなければいけません。詳しく述べると、猫はグルコキナーゼやヘキソキナーゼの活性が低いのです。これらの酵素はグルコースとATPを反応させ、グルコース6-リン酸を作り、糖を代謝する時に使われる酵素です。猫はこれらの活性が低いため、炭水化物食を抑え、タンパク質中心の食事にしないといけません。
『経口血糖降下剤』
インスリンを出しやすくする薬です。犬では効かないのですが、猫ではしばしば効くことがあります。インスリンを出しやすくするための薬なので、前提としてインスリン分泌能が生きていることが条件となります。膵臓からのインスリン分泌を刺激し、他の臓器でインスリンを利用する能力をあげます。
ただし、問題点もあります。インスリンをよく分泌させると、その分先ほど説明した、アミロイド沈着のスピードもあげてしまいます。なので、やはりインスリン治療がメインとなってきます。
『インスリン治療』
膵臓からインスリンが出る時、同時にアミリンが出ます。アミリンは膵島のβ細胞に沈着し、β細胞を壊してしまう。その結果、インスリンが出なくなってしまうという悪循環があります。この悪循環を早期に打破するために、早めのインスリン治療が必要なのです。外部からインスリンを注入することで、膵臓のインスリン分泌の負担を減らしてあげることが目的です。そして、じっくりと膵島の回復を待つ。
この治療法では糖尿病患者の約2割の猫が最終的にインスリン投与を必要としなくなります。目標はインスリンによって血糖値を100~300mg/dLに維持することです。
インスリン早期投与の印象
「インスリンを投与します」と聞くと(末期の糖尿病なんじゃないのか…)と不安に思われる飼い主さんもいらっしゃります。安心して下さい。決してそんなことはなく、むしろ早期に投与し膵臓の負担を軽くしてあげることで、膵臓の回復が期待できます。
『まとめ④』
・食事療法:高タンパク、低炭水化物食を心がける
・経口血糖降下剤:インスリン分泌能ありきの治療
・インスリン治療:早期治療がネックになる
【飼い主さんにできること】
猫の糖尿病は人の2型糖尿病に近いです。可愛くてつつお菓子のあげ過ぎで太っているのなら、まずダイエットを心がけましょう。最近では肥満猫は少なくなり、膵炎による糖尿病が相対的に増えてきているます。猫ちゃんが吐いたり、下痢をしたりしていないか、気分を悪そうにしていないか、日頃の体調管理に気をつけてほしいと思います。そんな猫ちゃん達のために膵炎に関する記事があるので、こちらも参照にしてみて下さい。
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