【はじめに】
今回は犬の糖尿病について説明します。なぜ、わざわざ「犬の」とつけた方といと犬と猫ではなりやすい糖尿病の種類が異なるため、猫とは分けて書きました。糖尿病は最近ではよく聞く内分泌疾患であり、特に人の方では生活習慣病として知られているので、大体のことは知っている人が多いのではないかと思います。
今回はそういった既存の知識と犬特有の糖尿病についてお話しできたらいいなと思っています。最近はドックフードも改良されてきて、糖尿病の犬は減ってきているような感じがします。まぁこれは僕の直感的なものなので、統計的にどう推移しているかはわかりませんが(笑)
後ほどでもお話ししますが、犬の糖尿病は人でいうところのⅠ型糖尿病に近いです。
そのため、肥満がどうのこうのと言った話だけでは収まりません。冒頭でダラダラ話してても良くないので、早速内容の方へ行きましょう!
ちなみに、猫の糖尿病についてはこちらへ
【目次】
【え?1つじゃないの?糖尿病の分類】
糖尿病には大きく分けて1型と2型があります。これもご存知の方は多いと思いますが、実は犬や猫ではこういった世界的なコンセンサスは確立されていません。ただ、似たような病変として大まかに分類されているので、それを説明していきたいと思います。
『インスリン欠乏型の糖尿病←犬に多い』
中〜高齢の犬で多く、膵島のβ細胞と呼ばれるインスリンを出す細胞が空胞変性を示し、インスリンを分泌しなくなるタイプの糖尿病です。
β細胞が減ってしまう原因
・生まれながらにβ細胞を持っていないなどの先天性疾患がある時
・膵炎などでβ細胞を壊してしまう時←これは人の1型糖尿病の主な原因
・自己免疫疾患によってβ細胞が破壊される時
・いきなり起こる特発性である時
『インスリン抵抗性の糖尿病←猫に多い』
ステロイドホルモン(グルココルチコイド)、性ホルモン(プロジェステロン)、成長ホルモンなどの影響によって、インスリンが分泌されているにも関わらず、うまく機能できないことから発症するタイプの糖尿病です。
上記のホルモンの影響を受ける原因
・発情期や妊娠中である時←人でいう妊娠糖尿病に類似
・クッシング症候群や先端巨大症などの内分泌疾患がある時
・ステロイドホルモンを治療などで使用している時
犬ではインスリン欠乏型が多いので、今回はこちらの糖尿病を中心にお話ししていきたいと思います。猫の糖尿病ではインスリン抵抗性の糖尿病の話をしています。
【犬の糖尿病ってどんな症状?】
『①たくさん水を飲んで、よくトイレに行く(多飲多尿) 』
糖尿病の犬では高血糖の状態になっています。血液中にブドウ糖が大量に溶け込んでいると、細胞内と血液の濃度の差が大きくなるため、それを是正しようと体は働きます。
その結果、細胞内の水分が血管内に引っ張られるため、血管内の水分が多くなり、おしっこが出やすくなのです。
血管内に水分が引っ張られるのとおしっこの相乗効果により、強く喉が渇き、水分を摂ろうと水をよく飲むようになります。この症状を多飲多尿を言います。
『②よく食べるのに、体重が減っていく(多食と体重減少)』
糖尿病の時、インスリンが上手に機能できていません。インスリンの主な作用は血液中に溶けている栄養素(主にブドウ糖)を細胞内に取り込むことです。
細胞内にエネルギー源を取り込めなくなっているので、犬は倦怠感と空腹感が増し、よく食べるようになります。しかし、栄養として体に行き届かないため、体重は減ってしまうのです。
『③白内障』
糖尿病の犬ではほぼ100%の確率で白内障を発症しています。白内障になる原因としては眼房水中にグルコースが蓄積するとアルドース還元酵素によってソルビトールが水晶体に蓄積します。
ソルビトールは細胞膜透過性に乏しく、代謝が遅いため、水晶体内の浸透圧が上昇し、水晶体が膨化することで白内障になってしまうのです。
『④なると重篤!糖尿病性ケトアシドーシス』
犬猫ともになる糖尿病の併発疾患で、この病気の特徴的な症状としては元気がなくなり、吐いたり、脱水症状が出ています。原因はインスリンが出なくなり、体は飢餓状態に陥るとどうにか栄養を作ろうとして、脂肪酸からβ酸化によりアセチルCoAを産生し、TCA回路を回し始めます。その過程で作られるケトン体が体に蓄積し、ケトアシドーシスを引き起こすのです。この病気はとても緊急性が高いため、すぐに病院に連れて行かなくてはいけません。
『まとめ② 糖尿病の症状』
①多飲多尿
②多食なのに体重減少
③白内障
④糖尿病性ケトアシドーシスは緊急疾患!元気や嘔吐を要チェック
【糖尿病だと確定する3つのポイント】
『①典型的な臨床症状』
上記したのような臨床症状が出ている場合、糖尿病を疑わなければいけません。
『②食べてないときでも高血糖』
糖尿病患者特有で、インスリンの分泌不全あるいは作用不全のために空腹時でも血糖が下がりません。
血糖のマーカーは複数種あります
・血糖:今現在の血糖値を測定する
・尿糖:数時間の血糖値を測定する
・糖化蛋白:数週間の血糖値を測定する
・1.5-アンヒドログルシトール:数日を測定する
『③おしっこに糖が混じっている』
糖尿病の文字通り、尿糖が確認されます。尿糖があるときは尿比重というものが高くなったり(1.025以上)、細菌に感染しやすくなったりします。 糖尿病患者の血液や尿には健康な犬に比べて多くの糖分が流れています。これは言うならば、身体に甘いジュースが流れているようなものです。当然、細菌に感染しやすくなります。
『まとめ③』
①典型的な臨床症状がある
②空腹時でも高血糖
③尿糖が陽性を示す
【糖尿病って治るの?どうやって?】
糖尿病の治療は主に4つの方法で治療を行います。
『①食事療法』
食事療法は糖尿病治療の基礎となる部分であり、全ての糖尿病患者が行うべきです。食物繊維が多く含まれたドッグフードをあげるといいでしょう。なぜなら、食物繊維は小腸での吸収をゆっくりにし、急な血糖の上昇を避けることができるからです。ただし、すでに体重が減ってきている糖尿病患者には食物繊維中心の食事は与えない方がいいです。すでに飢餓状態になるつつあるので注意して処方食を考えるべきです。
『②運動療法』
目的としては体重を減らすことと肥満によるインスリン耐性を改善することです。運動を行うと骨格筋のインスリン感受性が保たれ、血糖値が下がりやすくなります。しかし、過度な運動は低血糖を引き起こす可能性があるので、気をつけましょう!
『③インスリン療法』
糖尿病ではこの治療が中心になってきます。インスリンを投与し、血糖値を100~200mg/dLの間でキープしようという治療法です。この治療法のネックになってくるのがインスリンの投与量です。治療開始初期では入院してもらい、低血糖を起こさないけど、血糖値を下げるところを目指して、インスリン投与量を決定する。そのあとは在宅療法となる。
このインスリンの量を決定するのが難しい(笑)多すぎると低血糖になり、少なすぎると高血糖なっちゃう。しかも、その子その子によっておおよその基準用量から微調整が必要なのも難儀な話です。
ソモギー効果
ソモギー効果とはインスリンを打ちすぎ低血糖になるのを防ぐために、身体が血糖値を維持しよう糖新生を行う生理的反応のことです。これになるとインスリンの量を減らさなければいけません。ここのソモギー効果によって高血糖が維持されいるだけなのに、測定値だけ見ていると「あれ?血糖値高くね?もっとインスリン打たなきゃ」なんてことしないように(笑)
『④補助的な治療法』
雌犬の不妊手術があります。発情後期〜発情休止期に黄体から分泌されるプロジェステロンはインスリン抵抗性を持つので、犬は高血糖になってしまいます。これを事前に防ぐために不妊手術を行う場合もあります。
『まとめ④ 』
①食事療法:食物繊維中心の食事を心がける
②運動療法:運動は肥満犬のインスリン感受性を高める
③インスリン療法:インスリンを投与し、100~200mg/dLを目指す
④補助的な治療法:不妊治療でプロジェステロンの分泌を抑える
【さいごに】
今回は犬の糖尿病についてお話ししました。糖尿病は人間で有名に病気なので、ある程度知っていることもあったかもしれませんが、犬は犬の病態や治療法があります。あと、人は食べたいものがあれば冷蔵庫を開けて、お湯を沸かして、何かを作ることができません。しかし、犬に関しては必ず飼い主があげたものしか食べることはできないです。糖尿病は食べ物が原因となることも多いので、飼い主の方はわんちゃんのためにも正しい食事をあげてほしいと思います。