オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

『もう怖くない!犬猫の『抗がん剤治療』とは?』

スポンサーリンク

f:id:otahukutan:20180905215357p:plain

【はじめに】

今回は抗がん剤治療について話していこうと思います。『抗がん剤治療』と聞くとどうしても「なんとなくだけど怖い」って印象があると思います。なぜ”怖い”という印象を受けるのだろう?それは”知らない”からです。人は先祖代々、自分たちの知らないものに恐怖を抱いてきました。

さて、抗がん剤はどうでしょう?地震や幽霊、UFOなどと違い、人間が作り出した化学物質です。ちゃんと知れば、目の前で苦しむわんちゃんに正しい治療戦略を提供できるはずです。 

今回、『抗がん剤治療』に関する記事を書いているのは、抗がん剤を恐れないでほしいからです。人と動物では抗がん剤の使い方が異なります。人の場合は根治を目指した用量の多い抗がん剤治療を行う一方で、動物の抗がん剤治療はガンの進行を抑え、症状の緩和を中心とした治療を行います。人の抗がん剤治療とは一味違う『動物の抗がん剤治療』について見ていきましょう!

ちなみに、

『抗がん剤の副作用』についてはこちら↓↓

www.otahuku8.jp

【目次】 

 

 

【抗がん剤とは?】 

『抗がん剤ってどうやってできたの?』

”人を治すため”の抗がん剤が誕生した歴史は皮肉にも”人を殺すため”に作られたものでした。人類が初めて使った抗がん剤は『ナイトロジェンマスタード』というものです。これは『マスタードガス』という第一次世界大戦後に作られた化学兵器を元に作られています。ナイトロジェンマスタードはマスタードガスの硫黄原子を窒素に置き換えたもので、その細胞毒性を癌細胞に応用して使用しました。

 

『抗がん剤の原理(作用機序)』

抗がん剤は細胞毒性を持ちます。抗がん剤の持つ細胞毒性とは細胞内にある核を攻撃し、細胞の殺したり、分裂を妨害する作用がある。活発に分裂している細胞ほど、この細胞毒性の作用は受けやすい。なぜなら、ちょっと詳しく説明すると細胞分裂時の細胞はDNAの複製が活発に行われている。この状態の細胞に抗がん剤を曝露すると、複製を邪魔するので、細胞が死んでしまう。このようにした抗がん剤は効力を示している。

 

『まとめ①』

・抗がん剤は元々化学兵器に使われていた

・抗がん剤は細胞毒性によって癌細胞を倒す

 

【なぜ抗がん剤治療じゃなきゃダメなの?】

『抗がん剤は全身に効く! 』

抗がん剤治療はほとんどの場合、血流に乗って全身へと運ばれます。つまり、全身に抗がん剤を行き渡らせることができるということです。これは大きなメリットだと考えて下さい。というのも、外科的切除の場合、非常に局所的な攻撃でしかありません。もし、癌が転移していたなら手術だけじゃどうしようもないです。あるいはリンパ腫や白血病などの『血液の癌』の場合、全身に血液は流れているので、局所的な手術じゃ十分な治療成績を得られません。だから、抗がん剤治療が必要なのです。

 

『手術を助ける、アジュバンド療法?、ネオアジュバンド療法?』

アジュバンド療法とは手術を行い、外科的に切除した後、抗がん剤で追い打ちする方法です。ある程度ごっそり切除してから、取り残した癌細胞を抗がん剤で倒そう!といったコンセプトです。それに対し、ネオアジュバンド療法とは抗がん剤を使用し、抗がん剤ではもう倒しきれないっという状態まで持っていき、残った小さくなった癌を手術で取り除くといった方法です。最近の研究ではネオアジュバンド療法の方が予後が良いという論文も出ています。

 

『麻酔がいらない』

麻酔はあえて死に近づける処置であるとよく表現されます。一時的に意識を奪い、痛みから解放させて手術を行います。ですが、癌患者はもうすでに麻酔に耐えられるほどの体力が残っていない場合が多いです。こんな時、麻酔をかけずにできる癌治療が抗がん剤なのです。

 

『まとめ②』

・抗がん剤は全身治療として用いられる

・アジュバンド療法:手術→抗がん剤治療

・ネオアジュバンド療法:抗がん剤治療→手術

・抗がん剤治療は麻酔をかけずにできる治療 

 

【その瞬間が勝負!経過観察ではダメな理由】 

『早期治療じゃないと抗がん剤が効かなくなる 』

次に図を見て下さい。

f:id:otahukutan:20180905205203p:plain

これはゴンペルツ成長曲線という有名なグラフで横軸が時間経過で縦軸が腫瘍の細胞数を示しています。ここで言いたいのは「細胞数が少ない、つまり腫瘍が小さい時ほど細胞分裂は活発で、腫瘍が大きなると分裂は低下する」ということです。先ほど述べたように、抗がん剤は細胞分裂が盛んな癌ほどよく効くので 、腫瘍が小さい早いうちから抗がん剤治療を始める必要があります。

図の引用:下記参照

Fig. 1. Typical Gompertz sigmoidal growth curve. N0 is the initial number of cells, N1 is the maximal number of cells (carrying capacity), and Ni is the population size at the inflection point achieved at time ti. 引用文献:Combining Gompertzian growth and cell population dynamics

 

『腫瘍の大きさと予後は関連している』

腫瘍が大きくなればなるほど、手術は困難になり、転移のリスクも上がります。また、気管を圧迫し息苦しくなったりと動物のQOLを下げてしまいます。そのため、早期の抗がん剤治療は必要なのです。

 

『まとめ③』

・抗がん剤は腫瘍が小さい時ほど、早く効く

・腫瘍は大きくなるほど、QOLが下がり治療が難しくなってしまう 

 

【何種類も抗がん剤を使う本当の理由】 

『薬物耐性の抗がん剤を早めに倒す』

何種類もの抗がん剤を使用する治療法を多剤併用化学療法と言います。1つの抗がん剤だけを使用していくと、遺伝子変異によりその抗がん剤には効かない癌細胞が作られてきます。異なる種類の抗がん剤で治療していくことで、薬物耐性癌細胞の発生率を減らすことができます。この考えは『goldie-coldman仮説』という有名な理論がとして知られています。

 

『多剤併用療法がより強い薬剤強度を持つわけではない』

例を用いて説明します。ドキソルビシンという抗がん剤とシスプラチンという抗がん剤があります。

単剤で使用した場合

ドキソルビシンは1週間で15の量打つと効果が出る。シスプラチンは1週間で23.3の量打つと効果が出る。

この2つを併用した場合

(ドキソルビシンは1週間で5)+(シスプラチンは1週間で16.7)の量打つと効果が出る。ドキソルビシンは単剤使用に比べ、5/15で0.33倍の量になり、シスプラチンは16.7/23.3で0.72倍の量になりますが、この2つを足したものは0.33+0.72=1.05で結局、単剤使用とあまり変わりません。

 

『まとめ④』

・多剤併用療法で薬物耐性癌細胞を減らす

・単剤療法と併用療法で薬物強度は変わらない

・強度が変わらないなら、多剤併用療法の方がお得!

 

【さいごに】

抗がん剤治療をしなければならない理由を中心にお話ししました。飼い主が疑問に思う点、心配になる点をピックアップして話したつもりです。本当は抗がん剤の副作用についても書こうと思ったのですが、正しい知識とエビデンスを提供するためにはかなりの量になっちゃうので、また別の回にお話ししたいとと思います。抗がん剤は人間が作った化学物質なので、正しく理解し、利用できるはずだと僕は信じています。なので、皆さんもわんちゃんに向き合って、正しい知識を持ってともに癌と戦ってあげて下さい。

 

【抗がん剤に関してのおすすめ記事】

『抗がん剤の副作用』についてはこちら↓↓

www.otahuku8.jp

 

この他にも僕が書かせて頂いて『抗がん剤』に関する記事はこちら↓↓

良ければ参考にしてみて下さい!

www.withdog.site

 

【病気の個別相談は『オタ福の質問箱』まで】

かかりつけ医がいる飼い主さん限定で個別に相談を受け付けています。

「うちの子、似たような病気かも…」など

オタ福は学生の身分であるため診療行為は行えませんが、主治医の診断や処方された薬の補足説明や助言、オタ福の見解などご説明いたします。
是非ともご利用下さい!!

forms.gle