オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

犬の血尿、それ『移行上皮癌』のサインかも⁉︎

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【はじめに】

移行上皮癌について話したいと思います。犬の膀胱腫瘍で最もよく見られるのが、『移行上皮癌』です。膀胱腫瘍と聞くとやっぱり思い浮かべるのは『血尿』ではないでしょうか?血尿が見られるということは膀胱や尿道が何らかの傷害を受け傷ついているわけですから。実際、僕も血尿の子を見ると考えるのが『膀胱炎』や『膀胱腫瘍』です。

そこで膀胱造影や超音波検査などをして、(腫瘍かな…?)と疑われる陰影が見られると、一気に膀胱炎ではなく腫瘍の方を考えます。

今回は移行上皮癌という腫瘍に焦点を当てて紹介しますが、実際に膀胱腫瘍では移行上皮癌が多いです。僕の研究室(病理学教室)でも病理生検と膀胱腫瘍が送られてくると「移行上皮癌だろうな」と思いながら、顕微鏡を覗き込みます。顕微鏡で精査を行うとやはり、移行上皮癌だったということがほとんどです。 

前置きが長くなりました、早速『移行上皮癌』とはどのようなものなのかについて解説していこうと思います。

膀胱腫瘍に関してはこちらへ↓

www.otahuku8.jp

【目次】

 

【概要】

簡単に移行上皮癌の説明します。
移行上皮癌は通常、高齢の犬(9~11歳齢)に発生します。
小型犬の雌犬に多いです。
詳しい品種としてはスコッチテリアです。
この子を飼っている人たちは今から言うこと十分注意して下さい。 

【原因】

原因は不明とされています。が、ある論文によるとノミやダニ対策のための殺虫剤が移行上皮癌になるリスクを上げていると言われています。図にしてリスク因子をまとめてみました!

移行上皮癌のリスク因子(図解)

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【症状】

最も一般的な症状は血尿、排尿困難、頻尿です。膀胱の移行上皮癌で最も多くできやすいとされている部位は膀胱三角というところです。

膀胱三角(図解)

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膀胱三角は両腎から出てくる尿管の開口部と尿道口の3点で区画された領域です。
ここに腫瘍ができるとどのような症状が出てくるかというと、まず膀胱の粘膜構造が破綻し、出血します。これが血尿の原因となるのです。そのあと、腫瘍はだんだん大きくなりやがて尿管や尿道を塞いでしまいます。これにより、おしっこを出すことが難しくなるので、排尿困難として症状が現れます。

この時のワンちゃんはおしっこを出したいの出せないでいる状態なので、相当苦しいと思います。頻尿もこの病態に付随したものと考えられます。

 

排尿困難からの頻尿の流れ

おしっこが出せない

おしっこしたい

何回もトイレに行く

でも出ない

の繰り返しなので、なんどもおしっこするポーズをとり、頻尿を示します。だが実際の病態としては頻尿はおしっこを蓄えることができない症状のことをいうので、正確には語弊がありますが…。

つまり、まとめると
・血尿が見られる
・トイレの時間が長い、あるいはしぶりが見られる
・何回もトイレに行くが尿は出ていない

 

これらの症状が見られると、移行上皮癌の可能性もあるし、
新生物による尿路閉塞が原因で尿が出ない場合、『水腎症』という不可逆的かつ重篤な腎疾患や『肝性脳症』といった神経症状が出てくる可能性があるので、早急に獣医に見せに行くべきでしょう。

 

【治療】

この腫瘍は外科的切除が推奨されています。可愛い我が子のお腹を切るのは可哀想ですが、「何日もおしっこ我慢させられている状態」に比べれば 、早く苦しみから解放してあげるのが飼い主の使命だと僕は思います。ですがここで問題なのが、膀胱三角に腫瘍ができた場合、先ほども述べたようにここには重要な器官が多く集合しているため、なかなか「はい、切りまーす!」というわけにはいきません。 正直言えば、完全な切除は非常に困難です。とりあえず、尿路を閉塞している腫瘍をとるという減量手術がメインとなるでしょう。そのあとに、化学療法や放射線治療を行うことが多いです。

 

【予後】

移行上皮癌は悪性度が高く、転移の心配もあります。転移の可能性は10~20%で、転移しやすい場所はリンパ節(腸骨下LNとか)や肺、皮膚です。悲しいことですが、腫瘍というものは本当にタチが悪いです。僕は癌のことを「人類最大の敵」だと思っています。あらゆる治療法でも抵抗性を示したり完全に死滅させることができないのです。それほど治すのが難しいです。

 

【化学療法(抗がん剤)について】

化学療法についてちょっとだけ話させて下さい。

移行上皮癌では主に三パターンの抗がん剤があります。1つずつ解説して行きます!

『①ミトキサントロンorドキソルビシン+NSAIDs』

詳しい話は割愛しますが、ミトキサントロンはアントラサイクリン系の抗がん剤で肝臓で代謝されます。そのため、腎臓に負担をかけないのがメリットです。僕自身、実際病院で見ている限り、移行上皮癌を発症している犬では腎臓もかなり疲弊していることが多く、大変大きなメリットとなります。2003年の報告で治療反応性:35%、PFS:194日、MST:291日とまずまずです。

 

『②シスプラチンorカルボプラチン+NSAIDs』

シスプラチンは白金錯体と呼ばれる系統の抗がん剤です。ただ、前に読んだ論文ではシスプラチンは腎毒性が強く、NSAIDs(ピロキシカム)との併用はより増悪になるので禁忌と書いてありました。このプロトコルはあくまで教科書的なので、あまり使わない方が良いのかもしれません。ちなみにその論文ではカルボプラチンは移行上皮癌に効果が少ないので、あまり使えないと書いてありました。

 

『③ビンブラスチン+NSAIDs』

ビンブラスチンはニチニチソウと呼ばれる植物から抽出されたアルカロイドなので、個人的には抗がん剤の中でもかなり特殊なイメージがあります。だから、よく他の抗がん剤で効かなくなった腫瘍に対してビンブラスチンを打つこともあります。いわゆる「レスキュー療法」ってやつです。

 

移行上皮癌に対する抗がん剤3パターン

①ミトキサントロンorドキソルビシン+NSAIDs

②シスプラチンorカルボプラチン+NSAIDs

③ビンブラスチン+NSAIDs

 

【さいごに】

わんちゃんは話すことができないです。「おしっこ出にくいねん」「最近な、血尿出るねん」なんて話してくれればどんなに楽なことか...。だからこそ、しっかり日頃から見てあげてほしいです。そして、異変に気づけばすぐに獣医師に見せてほしいです。そうすることが早期発見につながり、1つ多くの命が救われることになりますから。

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